第125話
そして厩舎前。
集まったのは、マサヒデ、アルマダ、カオル、シズク、イザベル、リディアーヌ。
そして、マツ。
アランも剣術をかじっていると聞いたので、声を掛けてはみたが、
「いやいや! 兄上、今は忙しくてとても!」
書類の山を机の上に置き、頭を下げられてしまった。
とても誘える感じではなかったので、忙しい所を申し訳ない、と出て来た。
一応、皆、目立たない格好はしてきた。
マツを乗せる馬も、お忍び用の地味な馬車。
シズクも目立つので、この馬車に乗る。
だが・・・
「ご主人様。我らが目立たぬは無理です」
カオルが首を振る。
「ですよね」
マサヒデが渋い顔。
マサヒデの馬。
艶々とした青鹿毛の、威風堂々という文字をそのままに表す黒嵐。
カオルの馬。
これまた堂々たる白馬、白百合。
流石に黒影は大きすぎる、と白百合を選んだのだが、でかい事には変わりない。
アルマダの馬。
1000に1も産まれぬという、珍しい尾花栃栗毛のファルコン。
マサヒデ達と同じ場所で捕まえてきたのだ。これもでかい。
イザベルの馬。
朝日を浴びて、ぎらぎら光る黄金馬、シトリナ。
でかくはないが、月毛で金属のような光沢。文字通りの黄金の馬。
そしてリディアーヌの馬・・・
「はいはい。よーしよしよし」
なんと魔獣の馬!
全身が細かい金属? 石? のようなもので覆われている。
それがきらきらと光り、イザベルの馬にも負けていない。しかもでかい。
あれは毛なのか? それとも皮膚なのか? 天然の鎧である。
魔獣化すると、個体で細かく変化は違ったりするのだが、大体は同じ。
小さな角が生えたり、トゲのような物が生えていたり、牙が生えていたり。
中には少し骨格が変わるような物もいる。
時には、鱗のような物が一部出来たりする事もある。
だが、こんな変化は見たこともない。
足を動かすたび、かりり、かりり、と小さな音がする。
ラメラーアーマーのような感じになっているようだが、間違いなく馬鎧ではない。
どのくらい丈夫なのだろうか?
見た感じ、鉄砲なら通りそうだが、実際はどうだろうか・・・
「ううん、初めての馬が多くて、少し興奮気味です。よしよし、おやつをあげちゃいますからね」
ぐあ! と開いた口には、確かに牙が見えた。
マサヒデが小さく首を振り、カオルも首を振る。
「・・・目立ちますよねえ」
かと言って、歩きでは時間が掛かるので、馬でないと。
「そうです。そもそも、ご主人様が歩くだけでも目立ちます。もはや面は世界中に知られております。馬を変えても無駄です」
「変装します?」
神輿を逃れた時のように、顔を変装すれば。
が、カオルは首を振る。
「いえ、あれも本来は秘された術。緊急事態ゆえに使いましたが、此度は」
「むう」
「仕方ございませぬ。ここは堂々と参りましょう。少し離れた所に馬を止めて・・・何とか」
「私達、囲まれませんか」
「ジョアルの時のように、歩くもままならぬように、わらわら囲まれる事はございますまい。ですが、遠巻きには」
「・・・」
「イナダ殿にはご迷惑をお掛けしますが・・・」
そこに、衛兵が歩いて来て、イザベルに耳打ち。
うむ、うむ、とイザベルが頷き、
「マサヒデ様、大丈夫です」
「む」
「教官殿は今、外に出て飲み屋におります。セーフハウスにはおられぬので、このまま参りましょう」
はあ、とマサヒデが胸を撫で下ろす。
「おお! そうでしたか! 良かったあ・・・」
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「うおお! マサヒデ様だあー!」
「後ろ後ろ! 姫様もおられんでー!」
「えらいこっちゃー!」
「お忍びだ! お忍びの降臨だー!」
「どえらい馬やでー!」
「・・・」
全然忍べていない。
マサヒデが恥ずかしそうに菅笠を深く被る。
先頭をイザベルが。
その後ろを並び、マサヒデとアルマダ。
馬車を挟み、カオルとリディアーヌ。
本来、リディアーヌが前に出るべきだが「後ろはお任せを!」とカオルと共に並んでいる。
「ご苦労っ! 道を開けよーっ!」
イザベルの声が響く。
「へへえーっ!」
と、民が道を開けていく。
当然ながら、畏れ多く、という感じもある。
だが、何かノリとか、パフォーマンスのような感じがあり、皆もそれを楽しんでいる感じで、するすると進んでは行ける。
マサヒデがアルマダに馬を寄せ、
「たまりませんね」
「マサヒデさん、もう仕方ありませんよ。あなた、勇者で剣豪で魔王様の息子という看板が出来てしまったんです。少しは手を振り返してあげなさい」
「はい・・・」
す、とマサヒデの馬が離れていく。
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後ろでも、リディアーヌがカオルに馬を寄せている。
「サダマキさん」
「は!」
「お聞きしたいのですが」
魔獣の馬が寄ってくると少し恐ろしいが、取り敢えず白百合は落ち着いている。
このサイズの魔獣は結構な脅威だが、落ち着いているとは、流石は白百合。
「は。何なりと」
「どうして、兄上をご主人様と呼ぶのです」
「ああ。私、内弟子になる前から、ご主人様に仕えておりました。家臣で、内弟子といった感じです」
「あ、そうだったのですか! では、トミヤス家の?」
「いえ。ご主人様個人に仕えております」
「流石兄上! では、イザベル様の前から?」
「はい」
「古株という事ですか」
「ん・・・まあ、そうなりましょうか? 一番の古株は、トモヤ様ですが」
「あの将棋の!」
「はい」
と、そこに。
「リディアーヌ姫様ー!」
声が上がって、リディアーヌがそちらに手を振る。
「俺に手え振ってくれたぞおー!」
「俺だ!」
「ちゃうわ! 俺や!」
「あんたら目え悪いんか! 私や!」
ふう、とカオルがため息をつく。
ここも賑やかな街だ。
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そうして1刻ほど。
もうすぐ昼飯時、という時間で、イザベルが馬を止めた。
ここはいわゆる飲み屋街であろうか。
色々な酒場が並んでいるが、酒場の雰囲気は日輪国と違って面白い。
赤提灯は下っておらず、落ち着いた雰囲気の店が多い。
そして、イザベルが手を挙げた。
マサヒデ達も馬を止める。
小さな飲み屋。
『屯営酒場』という看板が出ている。
大きな看板ではなく、ドア横に掛かっているだけだ。
「へえ・・・」
店は小さいが、小綺麗なドア。
如何にも高い! というあからさまな店ではないが、上品と言うのだろうか。
このドア1枚で、ただの安酒場でないことははっきり分かる。
馬上から、中を覗く。
中が暗くて分からないが、カウンターに3人並んでいるのは見える。
テーブルがひとつ見える。本当に狭い。
明らかに一見さんお断り、と言った風である。
イザベルがシトリナを隣の店の繋ぎ場に繋ぐ。
この店の大きさで、この人数の馬は全部は置けない。
マサヒデも下りて、隣の店の繋ぎ場に引いていく。
「中におられるのが、教官殿です」
「分かりました」
アルマダも下りて繋ぐ。
カオルも下りて繋ぐ。
リディアーヌも下りて繋ごうとしたが・・・
「あれ。これ・・・」
カオルが綱をさっと繋いで顔を上げる。
リディアーヌが繋ぎ場の棒を撫でている。
「どうかなさいましたか?」
「大丈夫でしょうか。折れてしまいそうですけど」
「・・・」
魔獣化した馬を繋いでおけるか? と心配しているのか。
アルマダが苦笑して、
「リディアーヌ様、大丈夫です。普通の馬でも、本気で暴れたら、壊れるか綱が切れるかしてしまいます。軽く抵抗があれば、馬は離れませんから」
「あ、そうでしたか。世間知らずで」
「いえいえ」
「庭でしか、乗らないものですから」
「・・・」
何と勿体ない!
・・・と、言うべきか。安全の為、もう外には出すな、と言うべきか・・・




