第123話
マサヒデとマツは、パーティーが終る前に退場となった。
パーティションで区切られた通路を歩いて行く。
天井から、ぱらぱらと花びらが落ちてきて、文字通りの花道である。
ちょっとこの花びらを踏みながらは・・・
と、気が引けながらも、背筋を伸ばして、長い花道を歩いて行く。
ばたん、とドアが閉じ、拍手がくぐもった音になった後、マサヒデが振り向いて、
「ふう!」
と息をつき、肩を落とした。
「ああ、疲れた」
「うふふ」「ふふ」
マツとアルマダが楽しそうに笑う。
「やっぱりパーティーは苦手ですよ」
と、こつこつ、と誰かが歩いて来る音が聞こえ、マサヒデは慌てて背筋を正した。
アランと、先程のゲッツ大将。
「ふふ。兄上、お疲れ様でございました」
「マサヒデ様、お疲れ様でございました。パーティーは苦手でしたか」
流石は狼族、よく聞こえている。
「ああ・・・ええと、はい。正直に言いますが、大嫌いです。私は肩が凝ってしまいます」
「はっはっは!」
ゲッツが大声で笑い、アランも苦笑を浮かべている。
「マサヒデ様、お疲れの所、申し訳もございませんが、どうしてもお聞きしたい事があるのです」
「む、何でしょう」
「いや、実は、マサヒデ様が日輪国のウキョウにて、あの鼻持ちならぬ排斥派の大物と大立ち回りをしたと聞いておりましてな! 先程、是非にもこの話をと思っていたのですが」
「ああ」
ふ、とアランが苦笑して、ゲッツの背中を、ぽん、と叩く。
「いや、邪魔をして済まなかったな」
「いえいえ! アラン様、あれは話の流れで仕方もございません」
「兄上、ここでは客が出てきますから、場所を移しまして、どうでしょう」
ん、とマサヒデが軽く頷く。
「はい」
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場所を移し、廊下を歩いて、月明りのテラス。
マサヒデが月を見上げて話し出す。
「排斥派。米衆も過激でしたがね。外道でしたよ。日輪国で、初めて会ったのは3人組。船の貨物室に入り込んで来ました。船員さんにも剣を向け、見た者は皆殺しにせんとしました」
「なんと」
「ええ。非道です。ですが、大物というのは、ナカタさん・・・シンノスケ、ナカタという、剣客の事でしょう。この方は違った。あの日も、こんな月でしたか。綺麗な月でした」
「どのような暗殺者でした」
「暗殺者・・・ですが、あの日は、本物の武士と言うか・・・こちらで言うと、本物の騎士になりましたね・・・」
何か感じる所があるのか、マサヒデの口は重い。
カオルが引き取って、
「シンノスケ=ナカタは、日輪国サキョウで人斬りを行っておりました、排斥派の味方をしておりました暗殺者です」
「待て。味方と言ったか? 排斥派の者ではない?」
「はい。教会の信者ではないのです。彼の者は、これが正義と思う所に剣を振りました。そこを、排斥派が上手く焚き付けた。そのような男です」
「ふむ。つまり、利用されておったと」
「はい。活動を始めたのは、10年・・・と、少し前になりましょうか。最初の仕事は、当時ウキョウの実権を握っておりました、タジマ侯爵の暗殺。悪政を敷いておりましたが、小賢しく陛下の目を逃れており、ウキョウ中から恨まれておりました。ナカタはそれを聞き、我がと立ち上がったのです」
手段こそ責められようが、その行動は義によって。
何故、そのような男が・・・
「なんと、そうであったのか!?」
「はい。首を取り、広場に市長の首を晒しました。余程恨まれていたのでしょう。広場は相撲の興行かと思われん程の人が集まり、大喝采。民は両手を挙げて大喜び。そこに排斥派がつけこんだのです。貴方こそ民の救世主。人を救う為に我らといざ、と、巧妙にその正義心を焚き付け、仲間にと」
「ううむ・・・そうであったのか・・・」
「ナカタは暗殺に才があり、元は貧乏百姓の出ながら、頭も非常に切れました。暗殺対象を焦らずにじっくりと調べ、行動を隅々まで把握。暗殺者、というと単独で忍のような働きが真っ先に浮かびましょうが、ナカタは違います。人も使い、完全に暗殺対象の動きを封じ、必ず仕留められる時まで、決して動かず、慎重に準備を整える。しかし、仲間任せではなく、自身も現時流という流派の恐ろしい使い手。軍で言えば、常に先頭に立って兵の指揮を執る名将です。ただの猛将ではなく、非常に頭が切れて、即応性もあり、判断力も抜群。まさにプロフェッショナルです」
「むう、恐ろしいな」
「して、この男がウキョウに来た、という情報を掴みました。この男が動く時は、相手を必ず仕留められると確信した時。つまり、マサヒデ様が死ぬ時です。しかし、動く前であれば・・・マサヒデ様は、一縷の望みに賭け、彼の者に文を送ったのです。果し状です」
「決闘か!」
「はい。ナカタはそれを受けました。田舎の百姓の似非侍が、この決闘で本物の武士となれるから、と・・・頭を下げ、感謝して、決闘を請けたのです」
「ううむ・・・」
「そして、決闘の場にて、ナカタはマサヒデ様に改めて感謝する、と頭を下げ、勝負が始まりました。四半刻の睨み合いの後、一瞬のすれ違い。マサヒデ様の右腕は真っ二つに斬り落とされ、ナカタは首の脈を斬られ、決着。恐ろしい腕でありました」
「ううむ」
マサヒデは月から目を戻し、ゲッツ大将の方を向き、
「あの人は、自分の剣が武士の風上にも置けぬと分かっていながら、剣を振っていたのです。自分は悪党だ。だが、世が綺麗になるならと、汚れ役も引き受けようと。そういう方でした」
きりきりとゲッツが歯を鳴らす。
「む・・・ううむ、そうであったのか! それ程の者を・・・く! 排斥派め! 小賢しい!」
「ゲッツ大将」
「うぬう、何でしょう」
マサヒデはもう一度月を見上げ、ゲッツに顔を向けて頷いた。
「そちらに指導に行けるか分かりませんから、ナカタさんが使った現時流の稽古法を教えましょう。騎馬には向かないですが、歩兵がこれを学ぶと、恐ろしい兵となる。実に単純ですが、実に厳しい訓練です。軍の訓練の参考になりましたら」
「なんと! お願い致します!」
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マサヒデは廊下に立っていた近衛兵に頼み、6尺程の棒と木刀を持ってこさせた。
近衛兵が、棒を差し出し、
「マサヒデ様、これで宜しいでしょうか」
「十分です。2尺くらい、突き刺してもらえますか。まっすぐに」
「は」
どす! と近衛兵が棒を突き刺す。
マサヒデは棒を指差して、
「実際は、もっと太いです。4寸くらいですかね。人族でそのくらいですから、魔族の皆さんなら、普通に生えてる木をそのまま使うと良いと思います」
アランとゲッツが顔を見合わせる。
「兄上、これを斬るのですか?」
「いえ。叩くのです」
マサヒデが近衛兵の手から木刀を取り、指差して、
「実際は木刀ではなく、重い木の棒です。ただ、真剣と同じくらいの重さの棒を用意するんですね。それで重さに慣れると」
「む、なるほど」
マサヒデが棒から離れて、袈裟の構えから、真っ直ぐに高く上に伸ばす。
蜻蛉の構え。
「ええーいやあー!」
裂帛の声と共に、マサヒデが飛び込み、がががん! と右から左からと棒を叩く。
「うおっ!?」「・・・」
アランが驚きの声を上げ、ゲッツも目を丸くしてマサヒデを見る。
がんがんがん!
「ああ、もう駄目だ!」
マサヒデが木刀を落として、ひらひらと手を振る。
「ふう! ゲッツ大将、これが現時流の稽古です」
は? とゲッツが口を開ける。
「これだけですか?」
「そうです。これだけです。これを、朝に3000回、夕方に8000回」
「なんと!? 万を越えて!?」
これは流石に屈強な魔族でも疲れる。
マサヒデが腕を組み、少し考えて、
「精神力も必要になってきますよね。単純に見えて、難しいです。そうですね・・・叩いている木が1本倒れたら、初段くらいで良いかと思いますが。そこそこ使える人になると、叩いていると煙が出ます。擦れたら熱が出ますから」
擦れたら熱が出るというのは分かるが・・・そこそこ?
「・・・」
「で、歩兵がこれを学ぶと強くなるという理由です」
「む、お聞かせ下さい」
マサヒデが頷き、アルマダとカオルを手で招く。
む、と2人が頷き、マサヒデの横にぴったり立って、手を上に挙げる。
「分かりますかね。密集した歩兵が、こんな振り方で一斉に飛びかかってきたら」
は! とアランとゲッツが、目を見開く。
「なるほど!」「むうっ!」
「ですから、真っ直ぐ上から振り下ろすのです。横に振ると邪魔ですから」
ふ、とマサヒデが鼻で笑って、
「先程の私の試斬なんて、全然ですよ。こんな剣を使えるようになったら、頭から縦に真っ二つなんですから。如何でしょうか」
「う、ううむ・・・畏れ入りました。組み込んでみたいと思います」
「あとは、そうですね。ううむ、時間がありませんから、あれですけど。ブランクマインド流なんか、軍の訓練に即使えると思います。日輪国の軍の方にも人気です」
ゲッツが深く頭を下げた。
「ブランクマインド流ですな。その名、しかと覚えました。マサヒデ様、お疲れの所、ありがとうございました」
「兄上、ありがとうございました」
アランも頭を下げた。




