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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
122/130

第122話


 アルマダが息を吐く。


「いや、驚きましたよ。近衛の鎧、もっと軽いと思ってたんですが、見た目よりも全然重いです」


「そうですか? そんなに厚い物では」


「いやいや、鋼が詰みまくってるんでしょう。鍛冶族の方ががんがんに叩いているんでしょうね」


「ああ、なるほど」


 アルマダがちらりとイザベルの手の雲切丸を見る。


「刀の方は大丈夫でしたか」


「大丈夫だと思いますよ。後でラディさんに見てもらいます。虎を斬った時より、手応えは良かったですが」


 マサヒデが、ふうー! と勢い良く息を吐き、がっくりと肩を落とす。


「金切りを連続でやると、疲れますね! 急にがくっときました」


 ふ、とアルマダが笑う。


「マサヒデさんは、心法が出来てないんですよ」


「返す言葉もありませんね」


 イザベルはそれを聞きながら、


(マサヒデ様達は今のを不足と言うのか!?)


 と、誇らしい気持ちの中に、恐れのような気持ちが混じり合って、小さく喉が鳴ってしまった。


 アルマダが先頭に、出入り口まで歩いて行くと、ぱん! と会場が明るくなった。

 カーテンのこちら側も、急に明るくなった。

 アルマダが振り返って、


「少し待ちましょうか」


 と、言った後、何かを察して、すっと横に動くと、ばさん! とカーテンが開いて、何かが飛び込んできて、ぐいっと止まった。

 ぶん! と顔をこちらに向けたのは、リディアーヌ。


「んーマサヒデ兄上ッ!」


「リディアさん」


 ぐん! と立ち上がり、ずんずんとマサヒデに迫る。


「どおーやって斬ったんですかッ! 刀で! 鎧!」


「どうやってって、普通に」


 トミヤス流の技術、金切の法を使ったとは秘密。

 トミヤス流はカゲミツが色々な流派の技術を盗み、アブソルート流と混ぜて作った、謂わば雑種。分派とも言える。

 だが、これはカゲミツが工夫に工夫を重ねて作った技術のうちのひとつ。

 いかにリディアーヌと言えど、簡単に明かすわけにはいかない。


「普通!? 普通にですか!? 普通に斬れるんですか!?」


「そりゃあ、それなりに鍛錬は必要ですが。ただ振って当たれば斬れるってものじゃありませんよ」


「私でも出来ますか! 鎧を真正面から貫けますか!」


「リディアさんはこんな練習しなくて良いです」


「何故ですか!」


 ふ、とマサヒデは呆れ笑い。


「あなたの差料、忘れたんですか? 何でも斬れますよ」


「・・・」


 アルマダが興味深そうに、


「マサヒデさん。リディアーヌ様の差料って何なんです?」


「リディアさんは、細剣レイピアを使います。しかも魔剣。さて何でしょう」


 む、とアルマダが少し考え、


「魔王家所蔵と言えば、ヴェント、ですか? 風の魔術の?」


 マサヒデが苦笑して、


「正解です。どうです? 私達みたいな稽古、必要だと思います?」


 アルマダが、参った! と天井を仰いで、ぺしん! と額に手を置く。


「いいえ! 全く必要ありませんね。勇者祭の相手におられなくて良かったですよ。私達全員が刺し身にされていましたね。何人死んだ事やら」


「しかも、魔術も使うんです」


「リディアーヌ様、参りました。私達には絶対に勝てません」


「ええっ!? そんな、ハワード様まで!?」


 マサヒデは真面目な顔で、指を立てる。


「リディアさん。得物の差も腕のうちです。稽古なら分かりますが、いざ立ち会おうって時に、相手に、あ、これは、と感じたら、もっとしょぼい武器に変えてくれって頼むんですか。相手が魔剣は卑怯だって言ってきたら、普通の剣に変えますか」


「む」


「魔剣を使おうが称号武器を使おうが、弓鉄砲を使おうが、全然卑怯ではないです。仇討ちとかの勝負で、使用禁止されてるなら別ですが」


「むむむ・・・」


「ヴェントを使いこなす為に学ぶだけで良いのです。身体を武器に合わせる。これが大事なんですよ。武器は使う、使われるではなく、お互いが対等になる。そうなった時、自然とあのくらい出来るようになります」


 魔剣に身体を合わせて対等に、など、そうそう出来る事ではない。

 だが、綺麗に振れるようになる事かな? 大体、そういうイメージをしてくれる。

 リディアーヌにはそれで十分。既に得物が破格なのだから。

 く、く、く、とリディアーヌが固く頭を下げる。


「マサヒデ兄上、お教え、ありがとうございました」


 すう、とリディアーヌが頭を上げた所で、アルマダがマサヒデに頷く。


「マサヒデさん、そろそろ」


 さ、とアルマダがカーテンを開けると、どっと拍手が上がり、マサヒデ達を迎えた。



----------



(ややっ!?)


 舞台の上からでは暗くて分からなかったが、明るくなってみれば大変。

 すぐそこに放映機材がある。

 今の試斬が放映されていたのか!?


「アルマダさん、あれ」


 マサヒデが放映機材の方を見ると、アルマダが頷く。


「ええ。あんな出来では、帰ったら、カゲミツ様からお叱りですよ」


「参ったな・・・」


 その会話をイザベルが聞いている。


(あれでお叱り!?)


 冷や汗を流しながら、後ろからついていく。

 テーブルに戻って、席を座ると、魔王様が満面の笑顔(兜で見えないが)で迎えてくれた。


「やるではないか。ただの刀で、近衛自慢の鎧をあれだけ斬るか」


 マサヒデの方は顔をしかめて、


「いや・・・ちょっと、あれでは・・・」


 放映機材に気不味い顔を向ける。


「今のが父上に見られていたら、帰ったらお叱りをうけそうです」


 これにはマツもユカリも驚いた。

 後ろでカオルもイザベルも驚いている。


「あれで不足か。ああ、胴を斬らなんだからか?」


「いえ。最後、失敗しました」


「失敗? 斬れたではないか」


「まあ、斬れはしましたが、ちょっと綺麗に出来なかったので・・・参りました。ああ、これは叩きのめされそうです」


 マサヒデが頭を抱える。


「試斬も練習しておけば良かった・・・」


 マツ、ユカリが顔を見合わせる。

 後ろでは、カオルとイザベルが顔を見合わせている。

 はて? と魔王が首を傾げる。


「我は中々と見えたが、何にせよ、向上心のある事は良い事だ」


「そ、そおですよお、マサヒデ様。ね? お母様」


「その通りですとも」


 ふう、とマサヒデが息をつく。


「ありがとうございます」


 魔王が後ろを振り向き、介添人のアルマダを見る。


「我は武術をやっておらぬで、意見を聞きたい。斬れたので我はそれで良いと見る。ハワードにはどう見る」


 アルマダは首を振る。


「恐れながら、正直に申し上げます。あれでは合格ラインぎりぎり。トミヤス道場の高弟の名が泣きます」


「そうなのか?」


「はい」


 がくりとマサヒデが肩を落とす。


「ふむ。ま、余興であるし、皆も喜んでくれた。此度は良いとせぬか。真面目に武術をやっておる者は、ここにはほとんどおらぬ」


「魔王様。ここにはおらぬかもしれませんが、放映されてしまいました。カゲミツ様のみならず、世界の武術家は見ております。マサヒデさんも、幾つかの道場で教えを受けております。あれはどうかと見られましょう」


「む! それはまずいか! 面目が立たぬな!」


「余興でという事で、適当に力を抜いてしまった、というような事に致しませんと、少々」


「うむ」


「インタビューなどございました際は、マサヒデさんは、思わず力を抜いてしまったとか、緊張してしまったとか。そのように言っておりました、といった感じにお答え願えませんでしょうか」


「そうするか」


 アルマダが頭を下げる。


「そのような心持ちで立ったという事が既に恥ですが、本気であれか、と言われるよりはまだましかと」


「うむ」


 この2人の目指す所は何処なのだろう。

 武術に果てはないとは、まさにこの事か、とマツは思いつつ、グラスを取った。

 隣では、マサヒデが肩を落として、箸を取っている。


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