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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第121話


 ゲッツ大将は、アランと一緒にマサヒデの前から下がって行った。


 アランは途中で足を止め、


「ゲッツ大将」


「は」


「ふふ。分かっている。トミヤス流なぞ興味もない・・・事は、ないであろうが、今回は別の所に興味がある。だな」


「む」


 ぎくっとしたゲッツに、ふ、とアランが笑う。


「娘のパウラ。聞いたぞ。おっと、リチャード大将が漏らしたのではないぞ。ま、私もそれなりに耳はあるという事だ。若造と舐めてもらっては困る」


「む、ううむ・・・」


 アランがにやにやして、


「ふふふ。ハワード様を指導員か何かで足止めして、などと考えていたな。どうだ」


「さて、何の話で」


「言わずとも分かっている。だがな、今回は諦めろ」


「・・・」


「今回は、だ。ところで、噂の家出娘だが、海外に家出させるのも悪くはないと思わんか」


「む」


「ははは! 私にはまだ子がおらぬから、その寂しい気持ちは分かる、などとは言えぬがな! それはハワード様の親もそうであろうとは思わぬか」


「む、む」


 アランが顔を引き締める。


「真面目な話、先の話がまとまってしまうと、ハワード家は国内の魔族反対派の保守派や教会を、一斉に敵に回す。ハワード家はそこに安心材料がなければ、決して首を縦には振らん」


「・・・」


「ハワード様、私兵をクビにはしましたが、やむなき事情の事。表立っては言えませぬが、私には見捨てる事が出来ぬのです。どうか此奴らを拾ってもらえませぬか。娘のボディーガードが必要ですが、そちらにいる間、滞在させてもらえませぬか。どうかな。このような感じで、なんとか送り込めぬか。秘密裏に送り込めれば、尚」


「・・・」


「アルマダ=ハワードは三男坊であるから、こちらへと考えておろうが、ハワードの実家の事を少し考えてもらえんか。程々の数でな。勘ぐられぬ数で見繕ってはくれぬか。正規軍からではすぐ問題になる。ここは私兵が良いのだ。それも、とびきりのな。ではどこからとなると・・・な。候補は少ない。ゲッツ大将かリチャード大将」


「お任せ下さい」


「感謝する。この事、用意は出来ると、ハワード家に盛り込んでおく。ハワード様を迎えるのは、事が終わってからでも遅くはあるまい。しかし、現在の日輪国の排斥派は、暗殺が得意だそうだからな。兄上に尋ねてみよう。一戦交えた事もあるそうだ」


「む、そうだったのですか?」


「ああ。日輪国では大ニュースであったそうだが、こちらにはそう大きくは届いていないか。さて、ゲッツ大将、もうしばらくここで呑まぬか。最前列でトミヤス流を見よう。魂消るぞ」



----------



 かちゃ、と小さな金属音がして、マサヒデが後ろを向いた。

 カオルもイザベルも気付いたようで、後ろを向いている。

 魔王もちらりと後ろを見る。


「用意が出来たかな」


「あ、そろそろですか」


「うむ。まあ、余興だ。余興。気楽にな。余裕があればサービスでもしてくれ。またリディアと立ち会っても良し。近衛の誰かをいじめても良し」


「驚いてくれれば良いのですね」


「そうだな」


 ん、とマサヒデが少し考え、


「まあ、頑張ってみますが、驚いてくれますかどうか」


 くす、とマツが笑う。


「マサヒデ様、驚かない事はないと思いますよ。絶対に大丈夫です」


「そうですか?」


「だって、雲切丸を見せるだけで、皆さん驚いてくれますもの。何もしなくても済みます」


「ははは! それでは演舞にならぬぞ!」


 魔王が笑った。



----------



 少しして、魔王の近くに執事が来て、こそこそと何か耳打ち。

 うむ、と魔王が頷くと、執事が早足で下がって行く。


「マサヒデ君。後ろのカーテンの向こうに行ってくれ。準備が整った。こちらの準備が整ったら、カーテンが開くからな。10分か、15分くらいかな」


「分かりました」


 マサヒデが立ち上がり、きりっとした顔のイザベルを見て頷く。

 その手には、青く黒く輝く、日輪国国宝・酒天切コウアンの兄弟刀、雲切丸。

 アルマダを見れば、こちらは笑みを浮かべている。


「行きましょう」


「はっ!」


「決めて下さいよ」



----------



 アルマダが前に出て歩いて行き、す、とカーテンを開ける。

 カーテンの向こうも十分に明るく、壇上に並ぶ3つの金の鎧が見えた。

 魔王様直属の近衛兵が着る、黄金色の鎧。


 とん、とん、と静かに壇上に上がって、こんこん、と鎧を指で叩く。

 ひょいと兜を持ち上げる。


「ん、良かった。ちゃんと木だ」


「ほおう」


 アルマダは察したようで、にやっと笑って腕を組む。


「大丈夫ですか? これはかなり硬そうですよ」


「大丈夫ですよ。私はこの雲切丸を信用してます」


「世の中には、刀ほど信用出来ない武器はない、なんて言う方もいますが」


「それはきちんと扱えない人に言っているだけですよ。そう思って振ると、自然に刀に合わせて身体が動くようになるから、なんです」


「ほほう。面白い解釈ですが、確かにそう思って振れば、どうしても刀に身体を合わせるようにはなりますね」


「私はそう思います。で、私はそこそこ使える方なので、信用しても良いんです」


「言いますね」


「言いますとも。ここまで来て、何だか自信がついてきました」


 こんこん、こんこん。

 上から下まで、鎧を叩いていく。


「ああ、ううん、ここは駄目か・・・」

「良く出来てるなあ・・・」

「ここなら大丈夫かなあ・・・」


 ぶつぶつ言いながら、鎧を調べていく。


「良しと。まあ、大体の目安は出来ました。左から順番に行きますか」


 マサヒデが立ち上がった時には、カーテンの向こうから、ざわざわと大きな声が聞こえていた。



----------



 ぱ、と会場が真っ暗になった。

 ぱ、とカーテンに光が当たった。


「皆の者!」


 魔王の声が響き、しん、と一瞬で大広間が静まる。


「マサヒデ君が演舞を見せてくれるそうだ! 演舞と言っても、試斬に近いものである! だが! ただの試斬ではないぞ!」


 ほとんどの客の頭には、試斬と聞き、ああ、あの茣蓙ござを丸めたようなあれか、と、頭に浮かんだ。が・・・


 さー、とカーテンが開く。

 並んでいるのは、黄金色の金属鎧であった。

 隅に、マサヒデ、アルマダ、太刀持ちのイザベルの3人が、正座している。


 さわさわさわ、と静かな声が大広間中に広まった。


「見ての通りよ! これは近衛の鎧であるが、マサヒデ君は斬れると言う! さあ、その自慢の腕、見せてもらおうか! 得物は少し物が良いだけの刀! 魔剣や魔術のかかった得物ではない、ただの鋼であるぞ!」


 す、とマサヒデが立ち上がり、暗い会場に向かって一礼。

 イザベルがすっと雲切丸の柄を差し出すと、マサヒデがすらりと抜く。


 すたすたと鎧の隣に歩き、ごん! ごん! と2度、兜を叩いた。

 明らかな金属音。

 本物であると、誰もが分かった。

 あれを斬るのか、と思った瞬間、きん! と音がした。


「・・・」


 マサヒデは手に持った刀を軽く見てから、ごん、ともう一度兜を叩いた。

 手には良い手応えが残っている。


 無願想流と、トミヤス流の金切りを合わせた振り方は、ずっと練習してきた。

 一剣流宗家ヤダに、今のままでは鎧相手にはすぐ負けると指摘され、素振りをしながら、何度も何度も重ねた。


「おおっ」


 声が上がった。

 ごとん。

 兜が落ちて、ごろりと転がる。からん、と兜を支えていた棒が鳴る。


(ふう!)


 首当てを横に斬って兜を落としたのだが、心中では胸を撫で下ろしていた。

 斬れるは斬れるが、落とさずに上手く残して斬れるかは少し不安だったのだ。


(今のはよくやったよ、俺)


 自画自賛しながら、隣の鎧。

 アルマダが鎧の後ろに歩いて来て、鎧の腕を前に出す。

 よいしょ、とマサヒデが位置を調節。

 鎧の手に雲切丸を握らせ、丁度、剣を構えている形、という所を見せる。


 すいっと雲切丸を取って振り被る。

 これは土壇斬りのように、金切の法だけで斬る。


 きん!


 篭手が落ちてくる前に、身が沈んだ所で、脇構え。

 回転しながら立ち上がった、ように見えた。


 がたん、とマサヒデの足元に左右の篭手が落ちる。

 うん、今のは中々。


 しゃがんで、鎧の右足を握る。

 挙げたマサヒデの手には、斬れた鎧の脛当て。

 ことん、と前に置き、左足の脛当ても挙げる。


「おおーっ!」


 凄い声と拍手。

 後ろで、アルマダがゆっくりと鎧を寝かせていく。

 がらがらと崩れないように、うんうん言いながら、鎧を寝かせる。


「ふう」


 最初に兜を落とした鎧の影で、アルマダが額に懐紙を当てている。

 そして、最後の鎧の前。


 どう派手に斬ろうかな?

 試斬ならあれが格好良いかな。


「んっ」


 決めた。

 瞬間に、雲切丸が閃いた。


 袈裟。斬り上げ。袈裟。

 無願想流で綺麗に流れるように入った。

 きききん、という3連続の音は、ほとんど重なって聞こえた。


(む)


 兜が3つに斬れて、かん、かん、と音を立てて落ちた。


 刃筋は完璧に立った手応えだったが、結果はいまいち。

 最初の袈裟で斬った所が、斬り上げの時に、残らずに横に飛んでしまった。

 最後に袈裟で斬った所も、すとーん! と落ちてしまった。

 上に残して、最後に3つ揃って落ちたら、格好良い感じだったのだが。


「ふうっ」


 暗い会場の前列に、魔王様とマツと、家族が並んでいるのが見えた。

 ぐ、と頭を下げると、割れんばかりの拍手が上がった。


(居合の試斬の時は巻藁に礼するよな)


 すたすた。


(俺も鎧に礼しといた方が良かったかな)


 すたすたとイザベルの所に歩いて行き、雲切丸を納めながら、そんな事を思う。

 すう、とゆっくりと納めると、す、とイザベルが雲切丸を立てる。

 はて、このまま下りて良いものか?


 一応、もう一度。

 暗い会場に向かって頭を下げると、さー、とカーテンが閉まった。


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