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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
118/128

第118話


 マサヒデが廊下で待っていると、手前のドアが開いた。

 出て来たのは、紋付袴のアルマダ。


「あれっ!」


 いつもスーツのアルマダに、マサヒデは声を上げてしまった。


「うん? どうかしましたか?」


「スーツではないんですか?」


 ふ、とアルマダが苦笑して、


「あのですね。私がマサヒデさんの介添人なんです。普通、揃えるでしょう」


「かいぞえ、にん? て何です?」


「知らないんですか?」


「いや、知りません」


 アルマダは、ふう、と溜め息をついて、


「まあ、まあ・・・簡単に言うと、世話役みたいなものです。今回は、あなたが知らない人が挨拶に来たら、何処の誰とか教えたりする感じが主になりますか」


「はあ・・・」


 アルマダはイザベルに笑顔を向けた後、マサヒデの隣に立つ。


「もう日も沈みました。この後は、特に格式張った事をするとかはないです。あなたの演舞だけ。何とかの儀式とか、ケーキがどうのとか、神前で誓うとか。そういうのは色々と省略されました。強いて言えば、魔王様の開会、閉会の挨拶だけ」


「そうだったんですか?」


 ひらっとアルマダが手を振る。


「そんな事をしてたら、何日経っても終わりませんからね。皆さん、政治家や軍人の貴族ばかりです。承知していますよ。付き合っていたら、その間、政が滞ってしまいます」


「ああ、それはそうですね」


「マサヒデさんも肩が凝るでしょう? ま、助かったと思いなさい。後日、内輪だけで何か儀式など執り行うかもしれませんが」


「ううむ」


 マサヒデが唸ると、ふ、とアルマダが鼻で笑う。


「何か格式張った事でもしたかったんですか?」


「まさか! そういうのをすっ飛ばしてくれるとは、と思って」


「魔王様に感謝なさい」


「ええ」


 アルマダがイザベルが立てて持つ雲切丸を見る。


「演舞はあれで」


「はい」


「緊張して手元が狂った、なんてやめて下さいよ。クレール様の絶叫が響きます」


「大丈夫ですよ。動かない的なんですから」


「動かない的って、射的ではないんですよ」


「そういうつもりで言ったんじゃありません。大丈夫です。いけますよ。多分ですけど」


「多分ですか」


「そりゃあそうです。何せ、的は近衛兵の鎧なんですから」


「ふふふ」


 マサヒデがちらりと雲切丸を見る。


「これならいけます。他のだと少し不安がありますけど」


「不安はありませんか」


 マサヒデが肩を竦め、


「お偉いさんばかりで緊張しないかって所が不安です」


「ははは! 抜けば緊張なんて消えますよ!」



----------



 それから少し待っていると、ドアが開いて、マツが出て来た。

 続いて出て来たのは、パンツスーツのカオル。


「あら?」


 見慣れないスーツ姿のカオルにも驚いたが、マツのドレス。

 ぎらぎら光る銀のドレス。

 これはお七夜の時に着ていたドレス? 荷物は少なかったが、持って来たのか?


「んん?」


 マサヒデが目を細めていると、マツがヒールを鳴らして歩いて来る。

 アルマダは笑顔で、


「お綺麗ですよ」


 と迎えたが、マサヒデは怪訝な顔。

 マツが首をかしげ、


「どうかなさいました?」


 マサヒデはマツ(のドレス)を指差して、


「それ、お七夜の時のやつですか?」


 む! とマツが顔をしかめ、


「違いますよ! もう! ほら、ここの刺繍が・・・」


 つらつらつらつら・・・

 マツがドレスの説明を始めた。

 マツの後ろで、カオルが肩をすくめる。


「で! スカートのここ! ここなんか全然違うではありませんか!」


「はあ」


 いかん、これは長くなりそうだ。

 会場ではお偉いさん方と、誰よりも魔王様が待っている。


「それと」

「あ、ちょっと待って下さい。マツさんの介添人は、カオルさん?」


「は」


「むむ。そうですよ。カオルさんなら、乱れが出てもぱぱっと直してくれますし」


 確かに、その辺りは、ドレスは特に大変そうである。

 カオルはうってつけだ。


「クレールさん達は?」


「もう中に居ますよ。もう少し待ちましょう。まだ会場の方が整っていないそうです。すぐ終わりますから」


「ふうむ・・・中に入ったら、どうするんです」


「先程みたいに、通路が作られてますから。そこを歩いて、お父様の前。おめでとう。テーブルに座って、乾杯。おしまい。あとは食べて呑んで」


 食べて呑んで・・・呑んで!?


「はっ!」


 マサヒデが驚いた顔でカオルを見ると、カオルは分かっていたようで、小さな紙包みと竹筒を懐から出した。酔い止め薬である。


「どうぞ」


「うわ、助かった!」


 しゅっと包みを開けて、粉を口に入れ、水でごくん。


「ふう・・・危なかった。へろへろになって演舞になってたら、まずかった」


 くすっとマツが笑った所で、ロビーと廊下を隔てるドアが開き、メイドが入って来た。


「会場の方は整いました。宜しき所で」


 マサヒデ達が頷いたが、アルマダが軽く手を挙げ、


「あ、少し。イザベル様、こちらに。簡単な打ち合わせが」


「は」


 アルマダとイザベルが離れて行く。


「済みませんが、私、ロブの方に呼ばれるかもしれません。その際はマサヒデさんの世話を頼みます」


 ロブとは、イザベルの親戚の家、ロブ=ファッテンベルク家の事である。


「ハワード様がですか?」


 この2人、どうも・・・? という話が、パウラの家、ロブ=ファッテンベルクの方には伝わっている。偽装だが。


「ええ。色々ありまして。話すと長いですが、イザベル様も呼ばれて、もし私とパウラ様の様子はどうだった、と聞かれたら、仲良くしていました、と答えて下さい」


「パウラお姉ちゃんと?」


「それで丸く済みますから。どのように、とか尋ねられたら、リチャード様に呼ばれていて、あまり詳しく見てはいませんが、とか言って誤魔化して」


「は・・・あ、ああ! もしや、アラン王子と」


 そう。元々、アランとイザベルの相談から始まった手だ。

 ワキーナと白露の戦争に、エッセン・ロブのファッテンベルク両家から兵を。

 その為の布石である。(※第82話)


「そうです。とにかく、私とパウラ様は、仲良くしていました、で良いのです」


 策は成ったのだ。イザベルの顔がほころぶ。


「承知致しました」


「それか、今日は太刀持ちなので、マサヒデさんから離れられません、お話はまた後日、でも結構です」


「はい」


「では行きましょう。ふふ。そんな顔ではいけませんよ。引き締めて下さい」


「む、むむ」


 ニヤつく顔を押さえるイザベルと、爽やかな笑顔のアルマダは、すぐに戻って来た。


「マサヒデさん、マツ様、お待たせしました。さ、行きましょう」


 マサヒデがイザベルの顔を覗き込む。


「大丈夫なんですか?」


「あ、は! 抜かりございませぬ! お任せ下さいませ!」


 皆が歩いて行くと、メイドがドアを開けた。

 ロビーはしんとしており、警備の近衛兵が立っているだけ。

 そして、静かなロビーの向こうから、多くの人の声がさわさわと聞こえてくる。


「ふっ」


 小さく息を吐いて、ロビーを横切って行く。

 少しづつ、人の声が大きく聞こえてくる。

 これから、婚礼のパーティーが始まるのだ。



----------



 メイドに案内されて、大きな扉の前に立つ。

 もう、この扉の向こうには、大量の政治家、貴族、軍人が待っている。

 分厚いドアでくぐもって聞こえるが、明らかに大量の人数だ、と分かる。


「少々お待ち下さい。準備が出来ましたら、ドアが開きますので、お入り願います」


「はい」


 メイドは細くドアを開け、するりと中に入って行った。


「・・・」


 マサヒデ達はしばらく待っていたが、静かになった様子もなく、ざわざわと声が聞こえる。


「・・・まだですかね?」


「さあ?」


 マツがマサヒデに苦笑を向ける。


「・・・」


 マサヒデは落ち着かないように、襟を引っ張り、袖を引っ張り、帯をいじり。


「まだですかね?」


「さあ?」


 人の声は止まない。

 行きたくないのに、なぜこんなに焦るのか不思議だ。

 脇差の位置を確認し、鉄扇の位置を確認し、髪を手で押さえ・・・


「まだで」


 じゃあーん・・・!

 銅鑼の音が響き、マサヒデがぴたりと口をつぐんだ。

 聞こえていた人々の声も、ぱったりと止んだ。


「そろそろですよ」


 マツが言うと、すっ、とドアが開いた。


「ん、ん」


 小さく咳払いして、ドアに歩いて行く。

 暗い。


(ああ。闘技場と同じだな)


 マサヒデとマツが並んで入口に立つと、ぱぱぱ! と光が当たる。


(やっぱり)


 と、思った瞬間、わ! と声が上がり、ばちばちばち! と凄い拍手。


(ううむ、闘技場に出て良い経験になった)


「ふふ。参りましょう」


 す、とマツが進み、マサヒデも一瞬遅れて足を出す。

 後ろから、アルマダ、カオル、イザベルも、静かについて来る。

 周りがうるさいので、本当に静かについて来ているかどうかは分からないが。


 歩いて行く2人に合わせ、光はついて来る。

 暗くて奥が見えないが、パーティションで区切られた花道は、奥まで続いている。

 魔王様はどこにいるのだ? とりあえず、奥だ。


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