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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
117/150

第117話


 マサヒデ達が城の前に着くまで、1刻以上もかかってしまった。

 二之門を過ぎた辺りからかなり足を早めたのだが、広い広い。

 もう日は沈みかけで、マサヒデ達や近衛兵の影が、長く伸びて落ちている。


 もう民衆は見えなくなったが、その間、ずーっとぴしりと背を伸ばした近衛兵が並んでいる。マサヒデも顔を崩せない。ぴしりと背を伸ばし、かっちりと身体を固め、速歩の黒嵐に揺られていく。


 やっと城が見えた! と思ったら、大きな扉は開けられていて、人がみっちりと隙間なく並んでいる。


(うはあ・・・)


 あれが全部貴族やら政治家やらだ。

 少し近付いて分かったが、パーティションが置かれていて、通路は開いている。

 呼び止められたりしないだろうか?

 あそこを歩いて行き、着替え直し、パーティー会場へ。

 もう日は落ちて、良い時間になっている・・・


(はっ)


 マツは着替える。

 ドレスに着替えるなら、やたらと時間がかかるに違いない。

 クレールがいつもそうだから・・・

 大丈夫なのか? 流石に、事前に決めてあるだろうか?

 事前に決めてあっても、やっぱり今日は・・・なんてよくありそうな話。

 大丈夫か!?


 貴族様達の顔が見えてきた。


(いかんいかん、俺が心配することではない)


 大人しく、言われた事をしていれば良いのだ。

 でも、会場ではアルマダに近づかないでおこう。

 もしかしたらパウラが、なんて事があるかもしれない。

 それでなくても、女連中がわらわら群がるのは、既に分かっている。


(誰の側に居るのが良いだろうか)


 やはり魔王様か。

 気軽に声は掛けられまい。

 だが、動き出したら大変だ。

 マサヒデ君、誰々を紹介しよう。さあこちらへ・・・

 そうなると、際限無く挨拶回りだ。


 次点でマツ。

 マツは大人しくしていてくれそうだが、新郎新婦が近くにいると、これまたわらわらと群がってきそうだ。やはり魔王様がいないと。


 その次にイザベル。

 きりっとしていると、ちょっと近寄りがたい雰囲気はある。

 しかし、ロブ家の者がわらわらと来る恐れがある。というか必ず来る。

 だが、リチャードもそうだったが、軍人貴族の方が、普通の貴族よりましかも。


 クレールは危険そうだ。

 あーっ! マサヒデ様ー! このお方はどこどこの誰々で何々があれで・・・

 目に浮かぶ。


 そうこう考えているうちに、扉が目の前。

 アルマダが馬を止めた。


(ああっ! ついにか!)


 マサヒデも馬を止め、後ろの馬車も止まった。

 アルマダの騎士達が、ぽっくりぽっくりと馬を進め、扉の左右に綺麗に並ぶ。


 アルマダが歩きながらマサヒデに小さく頷いたので、マサヒデも馬を降りる。

 近衛兵が来て、黒嵐の口を取って離れていく。


「マツ様を。走らない」


 こそっとアルマダが囁いてくれた。

 目で頷き、すたすたと馬車に歩いて行くと、近衛兵がドアを開け、踏み台を置く。


 ドアの前に立つ。

 マツがこちらを見る。

 手を差し出すと、マツがにっこり笑って、マサヒデの手を取った。


 そして、マツが降りると、大きな拍手が上がった。

 手を取り、2人で歩いて行くと、さり気なくアルマダが前に立つ。


「頭は下げない。笑顔だけ。通り抜ける」


 アルマダが囁いて、2人を先導して行く。


 扉へ―――


 扉までの階段にも、入り切らない貴族達がみっしりで、歩いて行くマサヒデとマツに笑顔を向け、拍手を送る。


(耳が割れそうだ)


 もうアルマダの声も聞こえない。

 パーティションで区切られた間を、アルマダが歩いて行く。それに着いていく。


(うーわ!)


 広いロビーが、人で一杯。

 これが全部、貴族やら政治家やらか!

 当然だが、お七夜のパーティーなど霞むようだ。


 マサヒデは固く、マツは柔らかく、左右に並ぶ人々に、笑顔を振り向きながら、パーティションで区切られた通路を進み、廊下まで来て、やっとドアが閉じられた。



----------



 ぱたん、とドアが閉じ、拍手がくぐもった瞬間、


「おお・・・」


 と、マサヒデが小さく声を上げ、がっくりと肩を落とした。


「これからですよ。さあ」


 アルマダが言ったと同時に、手前のドアが開き、ぞろぞろメイドが出て来る。


「お色直しに行ってきますねー」


 マツは軽く手を振って、大量のメイドを引き連れて廊下を歩いて行く。

 アルマダの周りにも、メイドが群がる。


「では私も。ほら、マサヒデさんも早く」


 はっと見れば、がっくりしているマサヒデを、メイド達が並んで待っている。

 慌てて背筋を整えて、


「う、すみません。部屋は」


「こちらへ」


 すぱすぱと草履を鳴らして、メイドについて歩いて行く。

 5分程歩いた所で、マツが部屋に入っていくのが見えた。

 次の部屋にアルマダが入る。


 前の人混みが消えた所で、先が見えた。


「あれ」


 イザベルがドアの前で立っている。

 メイドに付いて近付いて行くと、こちらを向いて、ぴしりと膝を着いた。


「マサヒデ様、お疲れ様でございました。今宵、太刀持ちを務めさせて頂きます。このイザベル=エッセン=ファッテンベルク、栄誉に身が震えております」


「は?」


 太刀持ち? なんで?


「では、ここにてお待ちしております」


 太刀持ちってなんですか???


「はあ?」


 マサヒデの頭に疑問符がいくつも浮かんだが、がちゃりとドアが開けられ、メイドが手を差し伸ばす。


「あ、はい。じゃあ、イザベルさん、頑張って下さい?」


「ははっ!」


 後から続くメイドに押されるように、マサヒデは部屋に入って行った。



----------



 朝と同じよう、ばばば! と服を脱がされ、着替え素っ裸にされ、着替えさせられ。


「香りはこちらが良いかと」


 そして今回は香水まで。


「ええっ? いや、私は分かりませんから、お任せします」


 オリネオの町で選んだ物も、マツとクレールの見立て。

 別のメイドが出て、


「マサヒデ様は爽やか系が」

「柑橘系が」

「夜会ですから、敢えて大人の」


 さっぱりなので、困ってしまう。


「じゃあ・・・じゃあ、ええと、皆さんが選んだのなら、どれでもハズレはないと思います。私には決められませんから、くじ引きで決めて下さい」


「はい」


 メイドの1人が、きゅきゅ、とこよりを作り、手に握る。

 す、す、す、と引いていき、


「では今回は私の」


 ぴちりと1滴。

 マサヒデの胸辺りにするすると。

 羽織もめくって、裏側にもさり気なく。

 別のメイドがふわふわと手で扇ぎ、


「宜しいかと存じます」


「ありがとうございます」


 慌ただしい事である。


「ではマサヒデ様、こちらを」


 メイドが差し出したのは、オリネオの町の坊主からもらった念珠。


「あっ! これは、どうして」


「ハワード様が、得の高いお坊様から授与されたと、こちらを是非にと」


「ああ・・・いや、ありがとうございます」


 大事な物なのに、すっかり忘れてしまっていた。

 婚儀の式であれば、絶対に身に着けておかねばならない物であったのに。

 すっと手首に回すと、


「マサヒデ様」


 執事が出て来て、マサヒデに差し出したのは、愛刀・雲切丸。

 見た瞬間、ぴりりと引き締まった。


「むう」


 右手で受け取り、きらきら光る青貝微塵塗の鞘を睨むように見つめる。

 これから始まるパーティーで、演舞。

 見せるような型もないので、今回は鎧を切って捨てる。


「すみません。確認したい事が」


「は」


「鎧はいくつ」


「3、用意致しました」


「鎧は立てられていると思いますが、中の、支えの棒みたいな。分かりますかね」


「はい」


「木で立てられていますか。金属で立てられていますか」


「木でございます」


「木・・・分かりました。ちょっと失礼」


 喋りながら、マサヒデからぐんぐん威圧感が出たのを感じ、メイド達がひやりとして、皆、身を固めている。先程まで、ふわふわしていた姿は微塵も見えない。

 く、と鯉口を斬ると、眩しく輝く雲切丸の鍔元2寸。


「おおっ」


 執事が思わず声を上げた。

 名研師であり、マサヒデの抜刀の師でもある、イマイが手掛けた研ぎ。

 どうしても見たいからと、窓開けした鍔元2寸。


「必ず、斬ってみせましょう。3・・・3ですね」


「はい」


 くい、と雲切丸を納めて、マサヒデが顔を上げた。


「ただの余興ですよ。演舞なんて大層なものではありません。皆様を楽しませる事が出来れば・・・ええ」


 すとマサヒデが立ち上がった時、何かどっしりした重い空気を、皆が感じた。

 魔族の本能から、危険を敏感に感じているのだが、この細身の若者から、何を、どうして、これ程に危険を感じるのか。殺気は全くないのに。


「では行きます。マツさんは、まだ準備は出来てないでしょうね。待ちます、か」


 かちゃ、と静かにドアを開けると、イザベルが待っていた。


「イザベルさん」


「は!」


「太刀持ち、でしたね」


「は!」


 マサヒデは雲切丸を立てて、イザベルに差し出した。


「しばらく預かって下さい」


「ははっ! しかと!」


 やはり、刀を持ったマサヒデは、急に威圧感が出る。

 先程と打って変わったマサヒデを見て、イザベルは急に誇らしくなった。


(やはり我が主は違う!)


 ちらりと手の雲切丸を見て、何だか嫉妬心のようなものを感じてしまった。

 私が居るだけでは、主をここまで持ってくるには、未だ不足か。


「む。イザベルさん、今日は違いますね」


「は?」


「首。いつも付けてないのに。家から持ち出して来たんですか」


 なけなしの金を払って買ってきた、インペリアルトパーズのネックレス。

 ファッテンベルク家の石はシトリン(黄水晶)だが、金のないイザベルには買えなかったし、そもそもオリネオの町の宝飾店にはなかった。

 安いトパーズで揃えたが、これには満足している。


「いえ。しかと自分で稼いだ金で揃えた物。恥ずかしき事に、我が家の宝石とは違いますが、同じ色で誤魔化しております」


「ふふ。なら結構。家から持ち出してきたのなら、あなたをクビにしないといけませんでした」


 軽口のような物言いで、重みを感じる。

 マサヒデの目は、この先の演舞に向いているのか・・・


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