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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
116/132

第116話


 マツの風の魔術ですっ飛んできて、城門内。


 門から顔を出せば、既にわっさわっさと人が。

 朝と違うのは、城門左右の道から、貴族の馬車が続々入って来る所。


(これ大丈夫か?)


 マサヒデの目の前を、何台も馬車が通り過ぎ、城内に入って行く。

 晩餐会を行っていた部屋も広かったが、これだけの人数が入るのか?

 おそらくどでかい部屋が別にあるのだろうが・・・


(やれやれ)


 うんざりして城の方を見ると、見慣れた者が馬に乗ってこちらに歩いて来る。


「あ、マツさん、アルマダさんが来ましたよ」


「あら」


 きらきら光る鎧を着たアルマダと騎士達。

 城門に入ってからの先導は、近衛ではなく、アルマダ達。

 騎士達の背中には、魔王家の紋章が入った旗が立っている。

 近衛ではなくアルマダに任せてくれたのも、魔王様が気を使ってくれたのだろう。


 続いて、マサヒデの愛馬の黒嵐と、黒く光る、金の意匠をぎらぎら施された馬車。

 黒嵐にはマサヒデ、馬車にはマツが乗る。


「うわあ!? 黒嵐、凄いおめかしされましたね!」


 派手な羽が着いた面頬。

 鞍にも赤白で編まれたしめ縄? のような物がついている。

 一目で分かる、高級な毛皮が敷かれていて、垂れ下がっている。


 驚き半分、呆れ半分。


「あの鞍は、流石に重いのでは・・・」


「あのくらい、黒嵐ちゃんなら平気ですよ」


「まあ、まあ、走りはしませんからねえ・・・ええ」


 アルマダ達が城門から伸びる道から外れると、また馬車が走って行く。

 大丈夫なのか? 貴族で部屋がいっぱいにならないだろうか。

 家族を連れて来る者もいるだろうから、大量に・・・


「マサヒデ様」


「ん?」


「お神輿はすぐ目の前に下ろされますからね。降りたら、ほら。外の皆さんに手を振ってあげて下さいね」


「うっ、恥ずかしいですね」


「ここから馬でも結構ありますから。城の前やロビーには、お客様もおりますし。通り道は空いていると思いますけど、あまり固い顔をしておられますと」


「それは無理です。固くもなりますよ」


「パーティー用に着替えがございますから、素通りで引っ込めますから」


「リチャード様も来てるでしょうか。イザベルさんのお父上」


 ううん、とマツが腕を組む。


「ううん・・・来てはないと思いますよ。だって、ここに着いて1週間ですよ」


「あ、そうか! そりゃあ無理ですよね」


「エッセンのファッテンベルクからは、何ヶ月も掛かりますから、流石に・・・ほとんど、この首都におられる方だと思います。事前にイザベルさんが連絡してたら、分かりませんけど」


「むう、リチャード様が来てたら、助かったんですが・・・私、この国で喋れる貴族の方って、リチャード様しかいませんよ」


「ですけど、御親戚の方がおられると思います。ロブのファッテンベルク。首都におられますから」


 ぽん! とマサヒデが手を叩く。


「ああ! そうだそうだ! パウラさん、首都から逃げてきたって言ってましたね!」


「ロブ家も凄いんですよ。エッセンとは私兵の数が全然違いますけど、騎馬銃兵がずらり! エリート部隊なんですから」


「へえー!」


 マツが首を伸ばし、うーん、と背伸びして、目を細めて先の方を見る。


「ううん、ここからだと見当たりませんけど、もしかしたら、奥の方に並んでるかも・・・」


「エリート部隊かあ! 見てみたいなあ! あ、でも、やっぱり怖い人ですかね。リチャード様も、凄い威圧感がありましたから。クレールさんがリチャード様ー、って言ったら、急にほんわかしましたけど」


「そうなんですか?」


「ええ。クレールさん、ロブの家とも、仲良しなんでしょうか」


「うふふ。顔が広いですからね。そうかもしれませんね。でも、マサヒデ様」


「うん?」


「かっこいい兵士が並んでいても、凄いなあ! なんてじろじろ見ないで下さいね。ぴっと背筋を伸ばして、真っ直ぐ前を見る!」


「む、ううむ」


 マサヒデが残念そうに唸る。


「気になるなら、今日を乗り切ってから、後日お訪ねになれば良いのです」


「むう・・・あっ」


 マサヒデが奥に向けていた顔を、マツに向ける。


「マツさん、パウラさんはどうなったんです」


「あ、確かに・・・パウラさんは、今どこなんでしょう? 大丈夫でしょうか?」


「私達をすぐに追いかけてきたなら、近くにいるはずですよ。しばらく海の上にいましたし。いきなり飛び込んできて、ハワード様ー、なんて、アルマダさんに抱きついたりして」


「うふふ。大変なパーティーになりそう!」


 この件は大丈夫。

 アランがパウラにこっそり連絡を取り、パウラがエッセン=ファッテンベルクの家から出て、1週間も経っていない。

 2ヶ月以上、ここに滞在していても、パウラが来る事はない。ないが・・・


「アルマダさん、間違いなくロブの人達に捕まりますよね」


 マサヒデが眉を寄せ、きりっと顔を引き締めている馬上のアルマダを見る。


「・・・ええ」


「うわあ、大変そうだな・・・アルマダさん、いつも上手く立ち回れるけど、今回も大丈夫かな。可愛そうですけど、今日はアルマダさんの側には近寄らないでおきましょうか。ロブ家を訪ねる時も、私達だけにしましょう」


「そうですね・・・でも、ハワード様の方から来そうですけど」


「えっ」


「ご友人の結婚式ですよ。一言も掛けずに、なんてないと思います」


「ロブの人達も引き連れて!?」


「多分。マサヒデ様、ルーカス様と立ち会いなされたでしょう? 当然、ロブの方々も知ってます。あれこれ聞かれそうですよ。ルーカス様も、本業は軍人ですけれど、名の知れた武術家の1人なんですから」


「うへえ・・・」


「でも、ハワード様より、まずご自分の心配をなされたらどうです。演舞、大丈夫なんですか?」


「まあ、大丈夫でしょう。動きもしない鎧を斬れば良いんですから」


「演舞の後、大丈夫なんですか?」


「演舞の後?」


「うわあ凄いですねえ! なんていっぱい来ませんか? テルクニのお七夜の時もそうでしたよ」


 は! とマサヒデの顔がみるみる青くなる。


「ああっ! 確かに!」


「お父様にくっついて、ずっと主賓席にいれば、少しは楽かもしれませんけども」


「うむむ・・・」


「お父様が歩き出したら大変!」


 がば! とマサヒデが頭を抱える。


「うわあ! どうしよう!」


「頑張って下さいね」



----------



 マツとだべっていると、通りの向こうに旗が見えてきた。

 シズクだ。


「あ、マツさん。来ましたよ」


「あら」


「シズクさんも大変ですね。流石に疲れた・・・のかな? 港では全然疲れてなかったけど」


「でも、格好良いですよね! 神輿の前で、わっしょい! わっしょい! って掛け声する方!」


「ええ。私は絶対にやりたくないですが」


「団扇の人とかが良いんですか?」


「いやいや、あれこそ大変ですよ。もし扇いでて、勢いが出すぎちゃって、うっかり折れちゃったりしたら」


「ああ、確かにそうですね!」


「でも、皆さん鎧着てるのに、団扇って意味あるんですかね。全然涼しくないと思いますけど」


「さあ・・・景気付けみたいなものでは? お祭りなんですから・・・」


「でしょうね・・・それに、鎧着たまま、お神輿を担ぐなんて、肩の所が傷だらけになってますよ・・・あれ、高い鎧なんでしょう? 近衛兵の鎧なんですから」


「う、ううん」


「法被とかじゃ駄目なんでしょうか? 魔の国の文化というか。面白いですねえ」


「私は初めて日輪国に来た時、驚く事がたくさんでしたけど」


「どこの国も面白いですよね」


「はい。ではそろそろ。下ろされたら、さっと乗って下さいね」


 もうお神輿は門の目の前。

 シズクが入って来る。

 お神輿も入って来る。


 足が止まって、シズクがぐるんぐるん旗を回すと、お神輿が下ろされた。


「おっ!」

「よいしょっ!」


 ささ! とマサヒデとマツが乗り込むと、ぴん! という感じがして、うわっ! と声が上がった。


(おおっ!?)


 思わず声を上げそうに驚いた。何の音もしない静寂から、急に凄い声だ!

 もう降りても大丈夫か?

 す、と御簾に手を掛けた時、


「お待ちを」


 近衛兵の小さな声。

 さ、と手を引っ込めると、がらがらと馬車の音。


(あ、そうか)


 自分も馬に乗り換えるし、マツも馬車に乗る。来るまで待たないと。

 すぐに馬車の音が止まった。

 横しか見えないので、様子は分からないが、神輿の前で、アルマダ達が並んでいるのだろう。


「どうぞ」


 近衛兵の小さな声。

 よし、と御簾に手を掛け、さ、と上げて顔を出すと、うおーっ! と声が上がった。

 城門の方を向いて、軽く手を振ってみる。

 わあわあと声が大きくなり、皆がぶんぶん手を振る。

 マサヒデの背中は、冷や汗がだらだら。


 マツも花嫁衣装に気を付けて、ゆっくりと出て来て、にっこり笑って手を振る。


(くそう、流石に慣れてるなあ)


 そして、マサヒデの隣に立った。


「馬車に乗せて下さいね」


 マツに合わせて、ゆっくりと前で待つ馬車に並んで歩いて行くと、近衛兵が馬車のドアを開けた。さ、と踏み台がドアの下に置かれる。


 マサヒデが手を取り、マツが慎重に馬車に乗ると、ぱたん、とドアが閉まった。

 背中に歓声を浴びながら、黒嵐の横に立ち、しゃ! と乗ると、また声が上がる。


 前のアルマダが、ほんの少し首を回し、肩越しにマサヒデを見た。

 微笑んでいる。

 さっと手を挙げて、


「前進!」


 と声を挙げ、ゆっくりと馬を進め出す。

 マサヒデも合わせて、馬を進める。

 後ろから、花嫁の馬車の音。

 両脇には近衛兵がずらり。


(くそう、まずはお貴族様のお出迎えか。やれやれ)


 顔を引き締めて歩いて行く。

 城に着けば、大量のお貴族様が、にこにこしながら拍手で迎えてくれるだろう。

 パーティーはどうなることやら・・・


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