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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
115/128

第115話


 ここは港に作られた仕切りの中。


 神輿が運び込まれ、中ではマサヒデとカオルが大わらわ。


「お早く!」


「分かってますって!」


 ぱぱぱ! と服を脱ぎ、ばさばさと落とす。

 カオルも着ているマサヒデの服を脱いで、マサヒデに着せ替えていく。

 着せ替えた後、カオルが忙しく身体を左右に方向け、


「髪、良し。帯、良し。襟、良し。袴。良し。後ろを見ます」


 ささ! ぴぴ! と背中、袴の後ろを軽く引っ張り、む! と頷く。


「よし。マサヒデ様、大丈夫です。御髪を」


 カオルが、さ、さ、と何度か櫛を通して、くるりと振り向き、


「マツ様、準備整いました」


「はい」


「私はそろそろ。マツ様、こちらにお戻りになられましたら」


「はい。分かっております。マサヒデ様、帰りは楽ちんですからね」


「は?」


 カオルはマサヒデが脱いだ服をささっと集め、


「では失礼します」


 と言って、するっと仕切りをすり抜けて消えてしまった。


「ええ、ちょっと」


「マサヒデ様。大丈夫ですから」


「むう」


「もう良い? 大丈夫?」


 仕切りの前で、旗を揚げているシズクの声。


「はい。もう大丈夫ですよ」


 マツが答えると、うむ、とシズクが近衛兵に頷く。近衛兵も頷く。

 近衛兵が合図をすると、


 どーん!


 大きな太鼓の音が鳴り響いた。腹まで響くすごい音!

 しばらくして、もう一度、どーん! と鳴ると、喧騒が静まっていく。


 しーん、と静かになり、聞こえるのは波の音だけ・・・


「本日!」


 リュウイチの声だ。


「この場に! 偉大なる! 魔王様の! 新しき! ご家族が! 産まれた!」


 しーん・・・

 と、ばさ! と仕切りの布が開いた。


 マサヒデはぎょっとしたが、すぐに立て直し、顔を引き締める。


「マサヒデ=トミヤス様! 参られませい!」


「ん」


 小さく咳払いして、仕切りを出、魔王の前に歩いて行く。

 魔王はマサヒデを見て、小さく頷いた。


「マツ=フォン=ダ=トゥクライン様! 参られませい!」


 しずしず・・・

 白無垢の花嫁衣装のマツが、するすると打ち掛けを鳴らし、歩いて来る。

 マサヒデと並んだ所で、魔王がまた小さく頷く。


「魔王様よりお言葉を賜る!」


 す、と魔王が小さく息を吸い込む音が聞こえた。


「本日! この場にて! マツ=フォン=ダ=トゥクラインは! マツ=トミヤスとなる! マサヒデ=トミヤス!」


「は!」


「我が娘を預ける!」


 かちゃ、と鎧を鳴らし、魔王の手がマサヒデの肩に。


(う)


 一瞬、魔王に肩を壊された事を思い出したが、乗せられただけ。


「マツを頼む!」


「は!」


「マツ=トミヤス!」


「はい」


「幸せを祈る!」


「ありがとうございます」


 す、と魔王が手を引くと、リュウイチが声を上げる。


「マサヒデ=トミヤス! マツ=トミヤス! 御二方の幸せを祈ります! 以上!」


 わあっ! とすごい歓声と拍手が、観客達から上がった。

 放映をしている者か、凄い勢いで喋っている声が、歓声に混じって聞こえる。

 マサヒデとマツは深く頭を下げ、仕切りの中に戻って行った。

 さ、と静かに仕切りが閉じると、


「ふーっ!」


 と、マサヒデが息を吐き、胸に手を当てた。


「マサヒデ様、すぐ出ますよ。さ、乗って下さい」


「ええ?」


「大丈夫ですから。お早く」


「本当に大丈夫なんですか?」


「さ、早く!」


 マツが御簾を上げて、神輿に乗り込み、はみ出た衣装を引っ張り込み、マサヒデが神輿に乗り込んだのを見て、


「シズクさーん! もう良いですよー!」


 凄い歓声が上がっているので、マツも大声。


「はいよー!」


 シズクが近衛兵に頷くと、近衛兵達がざっと集まり、あっと言う間に仕切りを取り払った。


(うっ!)


 ぐうっ! と神輿が持ち上げられる。

 本当に大丈夫なのか!?


「行いーくぞおー!」


「おおーう!」


 ぶん! ぶん!

 シズクが旗を振り回し、声を上げる。


「わっしょおい!」

「おおーう!」


 と、神輿が揺れた瞬間。


「はっ」


 一瞬の浮遊感。

 マサヒデが体勢を直し、すとんと降りる。

 あっと顔を上げれば、神輿を担ぐ近衛兵の足。神輿が前に出て行く。

 はっとして横を見れば、尻もちをついたマツ。


(あれ?)


 音がしない。

 これはマツの術だ。


「あいたたた」


「あっ! マツさん!」


 慌ててマサヒデが近寄ると、マツが顔を上げた。


「大丈夫って言ったでしょう?」


 マサヒデはマツに手を伸ばし、立ち上がらせて、かくっと首を落とした。


「先に言って下さいよ・・・」


「私は大丈夫ではなかったですけど。おしりが」


 はっ、とマサヒデの口から、呆れ笑いが出た。


「では、城に戻りましょう。門の所で、お神輿が降ろされたら、乗ってしまうんです」


 マサヒデは拗ねた顔で、ち、と小さく舌打ち。


「なあるほど! 考えましたねえ! あーあ・・・」


「うふふ」


 マツがにやにやして、マサヒデの手を取り、すりすりと頬に当てる。


「本当に、本物の、私の旦那様に」


 ぼ、とマサヒデの頬が赤くなった。


「ちょっと。やめて下さいよ。恥ずかしい」


「誰にも見られてないから良いんです」


 頬に擦り付けるのをやめて、ひたりと止める。


「固い手。剣術ばかり」


「いけませんか」


「いいえ。好きな手。マサヒデ様、手が温かいですもの」


「また、恥ずかしい事を」


「手が温かいと、心が冷たいなんて、嘘ばかり」


「かもしれませんね」


「ま。照れてるんですか?」


「さあ」


「うふふ。自分は恥ずかしい事も平気で言うくせに。思った事を正直に言っただけなんて」


「正直に言うだけではありませんか」


「今は私も正直に・・・」


 す、とマサヒデが手を引くと、手にばっちり白い化粧。


「あっ?」


 マサヒデが慌ててマツの顎に手を当てて、くいと上を向かせる。


「マサヒデ様・・・」


 マツがすっと目を閉じたが、マサヒデは声を上げた。


「わあっ! 大変だ!」


「えっ?」


 ぱちっと目を開けたマツに映ったのは、少し顔が青くなり、慌てているマサヒデの顔。

 マサヒデがマツの顔の前に手を上げて、これこれ! と指差す。


「ほら! ほらこれ! ほっぺたの化粧が取れちゃってますよ! ほらこれ、これ!」


 マサヒデが差し出した手には、白い粉がばっちり。

 すりすりと頬を擦り付けてしまったから、取れてしまったのだ!

 マツの顔の脂粉が、頬だけ取れて、顔が・・・


「ええーっ!?」


 マツが驚いて、頬に手を当てる。ここだけ取れてしまったのか!


「ど、どうするんです!? もう、カオルさんも行っちゃいましたよ!?」


「大変! どどどうしましょう!? お化粧道具なんて持ってませんよ!?」


 マサヒデもマツも、わたわたして、きょろきょろと周りを見渡す。

 はっとして、マサヒデがシルバー・プリンセス号を指差す。


「そうだ、船、船! 警備の忍の人が居ますよ! 直してもらいましょう!」


「あっ! そうですね! ちょっと船に行ってきます!」


 ばすーん!

 マツが慌てて、風の魔術で飛んで行った。

 それを見送ってから、


「はあーっ」


 マサヒデが肩を落として、額に手を当てる。

 大事な大事な結婚式も、厄介が続いてばかり。

 城に戻った後は、お貴族様のお相手をして、演舞。


(大丈夫なのか?)


 懐紙を出して、粉が紋服に着かないように、慎重に手を拭う。

 懐に入れようとしたが、服に粉が着いたら大変。

 丸めて投げ捨てる。


(何だか、えらく不安になってきたな・・・)


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