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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
114/134

第114話


 さて、魔の国の首都、ロ=マーン。


 表通りではシズクを旗持ちに先頭にして、


「わっしょおーい!」

「おおーうっ!」

「わっしょおーい!」

「おおーうっ!」


 と、神輿が近衛兵の精鋭達に担がれていく。

 通りにずらりと並ぶ民衆も「わっしょい! わっしょい!」と声を上げている。


 そして裏通りでは・・・


「マサヒデ様、潮の香が強くなりました。そろそろ港です」


「む、裏通りだと、海が見えなくて分かりませんね」


「このまま行くと、港の外壁にぶつかりますが、丁度倉庫と外壁の間です。侵入するに良い所」


「その壁、上がれますか」


「大丈夫です。結界などはございません」


「そこ、今日も、結界は張られてないんですよね? 港、魔王様が来るんですよ」


「大丈夫でしょう。よし、念の為だ。誰か、先行して侵入経路の確認を頼む」


「俺が行こう」


 さー! と忍が姿を消して駆けて行く。


「マサヒデ様、侵入経路はいくつかございます。ご安心下さい」


 こうして、マサヒデ達は港に侵入せんと、静かな裏通りをこそこそ歩いて行くのである。



----------



 一方、港のシルバー・プリンセス号。


 甲板には船員が並び、わあわあと声を上げていた。

 これは、港に来る魔王様と、向かってくる神輿を迎えろ、という命を出したから。


 そしてもうひとつ。

 そろそろ神輿が来るぞ。

 魔王様が到着したぞ。

 この情報を、船で待機しているマツ達に伝える為でもあった。


「魔王様だーっ!」

「降臨されたぞーっ!」


 わいわいと、輝く銀のどでかい船の上から、大量の声が上がる。

 街からだけでなく、海からも。

 ばさばさとマントをなびかせて港に立った魔王も、これには喜んだ。


「おお。あれはレイシクランの船であるな」


 黒く禍々しい全身鎧を着た魔王が、シルバー・プリンセス号を見上げ、手を振る。


「魔王様ーっ!」

「手を振ってくれたぞーっ!」

「わあー! わあー!」


「はっはっは! 嬉しいものだな」


 兜の下でにこにこしながら、共に飛んで来たリュウイチに声を掛ける。


「まったく、クレールか? 我を喜ばせようとしておるのかな」


「ははは! リオン、クレール様がわざわざ命を出すものか。純粋に、この婚礼祭の雰囲気にあてられただけだ。街からの声が聞こえんのか。波が声で消えそうだぞ。海が海でなくなりそうだ」


「ふふふ」


 周りに誰も居ないから、旧友のリュウイチもタメ口である。

 リュウイチと、クレールの先祖の初代レイシクラン、シャルルと、魔王。

 このたった3人から、魔の国の建国が始まったのだ。


「おっ。リオン、見ろ。遠眼鏡でお前を見ておる者までいるぞ。人気者は大変だな」


「だろう? 手を振っておくか」



----------



 遠眼鏡で覗いていたのは、シルバー・プリンセス号の船員のサミュエル。通称サム。

 元米衆連合海軍少尉で、退役した後も海の仕事がしたい、という事で、この船に乗っている。

 マサヒデ達に、水練や軍隊格闘技などを教えた事もある。


「むむ、装飾は美しく派手だが、結構古いタイプの鎧だな」


 ほう、と隣の船員が感心した声を上げる。


「あれは厚そうだ。鉄も良い物を使っているだろう。徹甲弾でも貫けるかどうか」


「となると、相当の重さがありそうだが」


「だが、見ろ。軽く手を振っている」


「流石は魔王様だな。あの動き、相当の力があるぞ。どう見積もっても鬼族並ではないか? いやまあ、それ以上だろうが」


 2人が笑顔で大きく手を挙げ、魔王様に手を振り返す。

 わっしょい、わっしょい、とシズクの声が微かに聞こえてくる。

 もうすぐ神輿が到着だ。


「ううむ、しかし、上まで手が上がるのか! 上手く作ってあるな・・・肩の作りはどうなっているか分かるか」


 プレートアーマーでは、普通は上まで手が上がらない。

 せいぜい肘が肩と同じに上がるくらいで、上段は何とか振り被れるかも、程度。

 それが、真上に手を挙げて手を振っている。


「いや、マントで分からんなあ・・・んん?」


「どうした、サム? 何か見えたか」


「いや・・・んん?」


「どうしたんだ?」


「む、間違いない。あれは魔力を帯びた金属で作ってある。いや、後から魔力を籠めたかは分からんが。普通の布の服のように伸び縮みするようだ。手を挙げているのに、脇が全く空いていない」


「何? では、隙間がなくなるのか?」


「ああ。凄い鎧だな。狙い所は、目ぐらいしかないぞ。もしかしたら、恐ろしく軽い鎧かもしれん。魔王様の鎧だ。一部だけがそう、という事はないだろうな」


「むう・・・だが、そんな鎧、酸欠になりそうだが」


「普通に動いている。ならんのだろうな。凄い鎧だ。一見は時代遅れの鎧に見えるが、最新装備でもとても敵わんだろう。恐ろしいな」


 伸び縮みはするが、実は全く軽量化はされてはいない、超重量の鎧である。

 軽く動けるのは、魔王の超剛力があってこそ。


「もし軽量化がないのであれば、あんな鎧を着てあんな軽い動きが出来るのは、鬼族とか熊族くらいではないかな・・・あと龍人族か」


「凄いな・・・それと、気になるんだが」


「何だ」


「武器を何も持っていないな? 隣の龍人族が預かっているでもない」


 ふ、と船員が笑う。


「おい、サム。魔王様に武器が必要なのか」


「ははは! それはそうだな!」



----------



 魔王が港の隅の仕切りを指差す。

 背が高く、幅もあり、神輿がすっぽり隠れる。

 ここで影武者のカオルとマサヒデが入れ替わるのだが、魔王様には秘密。


「なあ、リュウイチ、あの仕切りを急に作るとか言い出したが、あれは何に使うんだ」


「ああ! お前なあ、マツ様は魔術で平気だそうだが、マサヒデ君は魔術も使えん、人族だろうが」


 魔王はリオンと呼び捨てするのに、その娘は『マツ様』と様で呼ぶ。

 変な感じだが、普段からそうなので、リュウイチに違和感はない。

 城中では、あくまでいち家臣なのだ。


「それが?」


「あのなあ。いくらマサヒデ君が鍛えているとはいえ、あんなに揺れる神輿に担がれて、服も乱れないと思うか? 髪も大丈夫か?」


「あっ! それはそうだな! あそこで直すのか!」


 は、とリュウイチが溜め息をつく。


「そういう事だ。マツ様は魔術で平気と言ってくれたから良かったが! そうでなかったらどうだったんだ! 着付けのし直しだぞ! どれだけ時間がかかるんだ! お前、いくら何でも浮かれすぎだ。最近、結構抜けているぞ」


「そ、そうか? そうかな?」


「そうだ。一昨日だったかな、財務省の書類が文科省の所に入っていた」


「それは俺のミスではないなあ。書類分けするのは書記官だなあ」


「書記官がそんなミスをするか。文科省に送れ、などと言って渡したのではないか」


「むむむ・・・」


「まあ、嬉しいのは分かるぞ。俺も自分が浮かれているのは自覚している」


「だろう!」


「そりゃあそうさ。あのマツ様が結婚なんだから。そう言えば、カゲミツ殿はどうするつもりなんだ。こっちに呼ぶ・・・しかないよな」


「まあなあ。気が引けるが、仕方ない」


「やはり御前試合とか上覧試合とか、とにかく試合をするのか?」


「そのつもりだ。だがな、マサヒデ君に聞いたのだが、カゲミツ殿は、自分より上はいくらでもいるぞ、と言っているそうだ」


「ほおーう・・・」


「でな。ここからだ。面白い事に、なるべく日輪国の武術家は呼ぶなと言うんだ」


「何故だ」


「昔、カゲミツ殿が世話になった武術家がいたら、カゲミツ殿も気が引けてしまうからさ! 剣聖が、がちがちになって、まともに剣も振れぬとかな!」


「ははは!」


「だが、それで困っておるのだ。こう、武術といえば、どうしても日輪国と大中心国が上がるだろう」


「ふうむ。確かになあ」


「カゲミツ殿以外が、ほとんど大中心国というのもな」


「ふむ」


「勿論、当国の者も出す。だが、マサヒデ君は、ファッテンベルクのルーカスを手も足も出させずに勝ったのだぞ。ショウジ=マスダと対した際も、無傷。そのマサヒデ君が、10人いても掠りもせぬというのが、カゲミツ殿。魔の国の武術家は? なあ、リュウイチ、誰か思い浮かばんか?」


「1人いる」


「誰だ」


「お前だ」


「そりゃあ・・・大人げなくないか?」


「少し撃たせてみろ。カゲミツ殿に凄い名誉がつく」


 む、と魔王が兜の中で顔をしかめる。


「お前な。それは流石に失礼じゃないのか。あからさま過ぎるだろ」


「どうかな? マサヒデ君が10人いても、だろ? 意外と良い勝負になるかもしれんぞ」


「ううん・・・そうかな?」


 リュウイチが顎に手を当てる。


「魔術抜きなら、まあ負けはせんだろうが、面白い勝負になりそうな気はするが。それと、日輪国の武術家を調べてみた。まあヤナギ車道流は絶対に外せない」


「ああ、王宮剣術指南役か。名は知っている」


「あとはオノダ一剣流。これは元王宮剣術指南の流派で、刀ではなく剣だ。分派も大量にある。その本家だ。日輪国の剣の流派なら頂点じゃないのか。それと、サカバヤシ流。これは居合抜刀の頂点と言われているそうだ」


「居合抜刀か! それは面白そうだな! たしか、マサヒデ君はサカバヤシの息子に勝ったんだったな。マサヒデ君に聞いてみるか」


「うむ。ショウジ=マスダの柔鋼流も調べてみたが、これは本来、門外不出だそうだ。情報が名前くらいしかない。いくら魔王様のお声が掛かっても、出てこんだろうな」


「どうしても出せんか? それも見てみたいな」


「簡単に出せるさ。ショウジ=マスダを呼べば良いんだ。あいつは柔鋼流だ」


「ああ、それもそうか。流石リュウイチ。頭だけは良いな」


「お前が抜けているんだ」


「ふん。魔の国からも武術家出してえなあー。クノはどこにいるんだ」


「あいつは諦めろ。お前が呼ぼうが、絶対に出てこん」


「国に触れを出してみるか? 上位はカゲミツ殿と立ち会い出来るぞ、なんて。所詮人族だろ、なんてぞろぞろ出てこねえかな」


「所詮人族ってのはないな。何しろ、マサヒデ君がいるんだ。だが、出て来るさ。トーナメントでも開いて、何人かに絞ってみるか?」


「ふむ? それも良いか。探さなくて済むし」


「まともなのが来れば良いがな。最近、剣聖の称号、出してないだろう。御前試合を見る暇などないなどと。しばらくぶりに剣聖でも選んだらどうだ」


「むう」


「おお、そうそう。カゲミツ殿も、最初はただ看板欲しさに御前試合に出たそうだ」


「ほう? 金が欲しくてか?」


「いや違う。これが結構面白い話でな」


「ほうほう」


「ま、その辺りの話は、本人から聞いたらどうだ」


「おい!」


「おっと、そろそろ神輿が来るぞ。放映も来る。ちょっと近寄りがたい雰囲気でも出してろよ。インタビューだ、なんて来たらうるさいぞ」


「む・・・うむ」


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