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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
113/128

第113話


 トミヤス道場では・・・


「先生ーッ! カゲミツ先生ーッ!」


 ナガタニが声を上げながら、道場の縁側にすっ飛んできた。

 カゲミツが手を止め、縁側に立った。

 隣町から街道を全力で走って来たナガタニの顔色は悪い。


「何だ何だ? ナタノスケ、どうした?」


「大変です!」


「何!? 殺しでもあったか!? あ! マスダさんがついにやっちまったか!」


「すふー、すふー、ふー・・・先生、マサヒデ殿です」


 カゲミツがぎくっとして、


「あいつ、もしかして死んじまったのか!?」


「いやいや! まさか!」


「マサヒデがどうかしたのか!?」


「違います! いや、違いませんが!」


「どおしたってんだ! よし、ナタノスケ、落ち着け。俺も落ち着く」


 門弟達が、こそこそと囁く。

 ふう、ふう、と、カゲミツとナガタニが呼吸を整える。


「よし。ナタノスケ、まず、結果を話せ。途中の話は後で聞く」


「や、カゲミツ先生、そういう事ではなく。マサヒデ殿と、マツ様の婚儀がついに」


「あっ! あいつ、やりやがったのか!」


 おおっ! と門弟達から声が上がる。

 お七夜の祝はやったが、結婚式は行っていなかったのだ。


「そうなのです! しかも、もう勇者はほぼ確定! 2位以下は突き放しておりまして、魔王様との謁見も叶ったと!」


「あ、あの野郎! くっそお、泣いて戻って来ると思ったのによお! 上手く城に入り込めたのか!」


「まだございます!」


 く! とカゲミツが袖で目を払う。


「おう! 聞かせてくれ!」


「明後日、その婚儀が放映されると!」


「はあっ!?」


「いや、何を驚かれます! 魔王様の姫との婚儀です!」


 ざわっ・・・門弟達が驚き、どういう事だ、と顔を見合わせる。


「でありますから、世界に放映と!」


「まじで」


「勿論! オリネオの町は湧いておりました!」


「ぐ・・・」


「マサヒデ殿の演舞なども放映されるそうで! いや、私、胸が踊ります!」


「ああ・・・うん、ね。うん・・・」


 カゲミツは何とも言えない、笑顔と、何か別のものが混じったような顔で、ナガタニから目を逸らす。

 門弟が1人、カゲミツの後ろに来て、


「カゲミツ先生、失礼します。ナガタニ先生、魔王様の姫、とは? マサヒデ様に、3人目の妻が出来た?」


 それで、カゲミツはこんな顔をしているのか?


「ああ、知らぬのであったな! カゲミツ先生、もう話しても良いでしょう!」


「あ? ああ、うん、まあ・・・」


 む、とナガタニが頷き、


「マツ様は、魔王様の娘。つまり姫なのだ」


「ええっ!?」


 ぎくりとする門弟。

 口を半開きにする門弟。

 手に持った竹刀を落とす門弟。

 門弟達の皆が、呆然としている。


「驚くのも無理はない。身分を隠し、隠棲しておられた。それで、姓も、母方の姓を名乗っておられたのだ。マツ様はそれを知られるを好まぬゆえ、私達も今まで話さなかったのだ。すまなかったな」


 門弟がふらふらして、


「は・・・少々、少々お待ち下さい。では、ナガタニ先生、では」


「何だ? どうかしたのか」


「ト、トミヤス家は、あれですか。魔王家と、御親戚・・・ですか」


「そうとも!」


 皆の目が、カゲミツに向く。

 マサヒデは、魔王様の義理の息子となるのか? なるのだ。


「あっ! では、マサヒデ様は、もう魔の国に留まる事になるのですか!?」


「いや。ああ、そうか! 違う違う。マサヒデ殿が婿入りしたのではない」


 ナガタニが笑って、ひらひらと手を振る。


「はっ!?」


「マツ様がトミヤス家に嫁入りしてきたのだ。ふふふ。驚いたか」


「・・・」


 呆然とする門弟に、ナガタニが嬉しそうに笑う。


「レイシクランのクレール様もそうだぞ。トミヤス家に入る」


「・・・」


 皆、言葉も出ない。

 ナガタニが腕を組む。


「婚儀の放映だが、時差があるから・・・確か、3刻だったか? 3刻半かな? そのくらいだから・・・早くても昼過ぎか、遅ければ夜からか? 魔の国では、どのような婚儀を行うかは知らんから、はっきり分からんが、予定はすぐ分かるだろう」


「左様で・・・」


「マスダ先生も大喜びでな。明後日は、オリネオの広場で、大盤振る舞いをしてくれる。マスダ先生の奢りで、タダ酒が飲み放題だぞ。カゲミツ先生、楽しみですね!」


 ぎく! とカゲミツが顔を上げた。


「は!? うん、タダ酒か! 良いな!」


 む? とナガタニがカゲミツの顔を覗く。


「先生、どうなさいました? 途中から、何か浮かぬ顔を」


「あー、うん・・・ちょっと不安というか、嫌な予感というか」


 カゲミツの勘は半端ではない。

 ナガタニが眉を寄せる。


「何か、ご心配がありますか」


「ああ。ある」


「お聞かせ下さい。私で力になれましょうか」


 むうん、とカゲミツが唸り、腕を組む。


「いや、さあ・・・息子の婚儀に出ないって、俺、魔王様に怒られねえかなあ」


「平気でしょう。それは仕方ございません。ここから魔の国まで、何ヶ月も掛かるのですから」


「じゃあ、それは良しとする。でもさあ、流石に挨拶はしに行かないとまずい。だろ」


 む、とナガタニも眉を寄せた。

 ここから魔の国の首都まで、3ヶ月はかかる。海の様子によっては、もっと。

 往復で半年以上。


「まあ、まだ引こう。挨拶だけなら良しとしよう。だがよお、剣聖の看板背負った奴が、王様の前にときたら、何だ」


「む! 御前試合ですか!」


「だろお!? 面倒臭えなあ! 魔王様主催の御前試合なんて、とんでもねえ奴が出て来るに決まってんだろ! 絶対、世界中に声掛けるだろ! 放映もされるだろ!」


「ううむ」


「お前が御前試合に出るとする。もしそこにトワダ先生とかサカバヤシ先生がいたら、本気で殴りかかれるか? 道場の稽古で本気でこい! ってのじゃなくて、魔王様の目の前でだぞ。放映もされて。世界中が見てる。いけるかあ? でも、勝たなきゃさあ。かと言ってだぞ。もし。もしだぞ。もし一本取れちゃったら、それはそれでどうなの? 大丈夫なの? これ?」


「む・・・」


「やだよー。コヒョウエ先生とか居たらどうすんだよ。フギ先生とかさあ! ヤナギ先生とかさあ! カゲミツ、少しは腕を上げたな、で終わらねえんだぜ!? 一本取らないと! でも一本取ったらどうなんだよ! やだよ!」


 カゲミツがすがるような目で、ナガタニを見る。


「俺、もう剣聖やめようかな? 返上してもいいと思う?」


「や、それはどうかと・・・」


 ナガタニは少し考え、む、と頷き、


「先生。私、打ちのめされても構わぬと思います」


「なんで」


「剣聖以上の剣の達人が多くおられると、日輪国の良い宣伝になりましょう。カゲミツ先生も、いつものようにお笑いになられて、私は本気でいきましたが、刃も立ちませぬ。皆様、これが本物の武術家です。これで良いのでは」


「それで良いと思う?」


「私は良いと思います。このような武術家もおるか、と見る者もおりましょうし、剣聖はなんと謙虚であろうか、と見る者もおりましょうし。別に名に傷は付かぬかと」


「そうかあ?」


「はい。先生も常々、自分より強い者はいくらでも、と仰るではありませんか」


 ナガタニはにっこり笑って、


「もし魔王様よりそのようなお誘いがございましたら、マスダ先生やサカバヤシ先生もお誘いになられては? 直にお言葉を賜る良い機会です」


「じゃ、お前も連れてく」


「それでは師範代も指導員が居なくなりますので、私はここに」


「お前なあ!」


 お? とナガタニが不思議な顔。


「む、先生。私、今、少し腕が上がった気がします。気のせいでしょうか」


「てめえ!」


「皆! マスダ先生の手伝いが必要だ! 町へ行くぞ! されば先生、今日は!」


「あっ! 待ちやがれ!」


 たたたーっ! とナガタニは走って行ってしまった。


「ナタノスケ! 上がった腕見せろー! ああちきしょう! くっそ、あの野郎、叩きのめしてやる」


「カゲミツ先生」


 門弟が声を掛けると、むん! とカゲミツは煩そうに手を振り、


「えい! もう! 皆、行って来い! 今日は稽古終了! 明後日は稽古は休みだ! 俺も明後日はオリネオに行くから!」


「「「はい!」」」


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