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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
112/128

第112話


 話は数日前の事。


 ここは日輪国、オリネオの町。

 マサヒデ、マツが暮らしていた田舎町である。


 隣の村にトミヤス道場があり、最近はこの町の冒険者ギルドに、師範代のショウジ=マスダと、指導員のナタノスケ=ナガタニが、門弟達を連れて、度々顔を出すようになっていた。


 実際に真剣を交え、時には命の奪い合いもする冒険者達―――


 冒険者とは、ただの町の便利屋ではない。

 奉行所の手伝いで、凶悪な犯罪の捜査も行う事もある。

 魔獣退治。用心棒。野盗退治。山賊退治。そして、時には傭兵。

 そういった命懸けの仕事もあるのだ。


 そのような者達と手合わせするのはどうか、とマスダとナガタニから進言があり、道場主であり、日輪国の今代剣聖であるカゲミツ=トミヤスも、それはもっともである、と、許しを得、希望者を募って、冒険者達と立ち会い稽古をさせるのである。


 冒険者の方も、高名なトミヤス道場のマスダ師範代、ナガタニ指導員からの指導をタダで受けられるので、中々の好評である。


 最初は、師範代のマスダの凶悪な容姿に怯える者も多かったが、その容姿と言動に反して、的確かつ丁寧な指導が、意外な人気を生んだ。

 ナガタニも冒険者の多くが使う剣の指導員であるし、元々、故郷では冒険者仕事で稼いでいたという事もあり、すぐに馴染んだ。


 時には、マサヒデが旅立つ前に、冒険者の指導を、と頼んだ、アブソルート流のジロウ=シュウサンと共に、豪華な稽古になる日もあるのだ。


 そして今日も・・・



----------



「マスダ先生ーッ!」


 冒険者が1人、訓練場に駆け込んできた。

 何だ? とマスダが見ると、稽古着にも着替えず、鎧を着たままの冒険者が慌てて駆け込んできて、倒れるように四つん這い。


「うっ!? てめえ、革鎧着て来るんじゃねえ!」


 虎族のマスダの鋭敏な鼻が、革鎧の臭いを捉えて、ぐっと顔をしかめる。

 だが、ナガタニもジロウも、何事かと顔を引き締めた。


「ご勘弁下さい! 危急の報せです! ナガタニ先生! シュウサン先生もお聞き下さい!」


 む、とジロウが頷く。


「落ち着いて下さい。何事かあったのですか」


「あったのです! 大事です!」


「落ち着いて。息を整えて」


 はあ、はあ、と冒険者が息を整え、ごくっと唾を飲み、もう一度顔を上げた。


「お聞き、お聞き下さい。トミヤス先生と、マツ様、婚儀が、明後日」


 この冒険者ギルドで『トミヤス先生』とは、剣聖カゲミツ=トミヤスではなく、マサヒデの方を指す。マサヒデはここで冒険者達の指導をしていたからだ。


「何いッ!?」「なんと!?」「本当ですか!」


 マスダも、ナガタニも、ジロウも、3人共、マサヒデとは縁が深い。

 ジロウはマサヒデとは剣友であるし、父のコヒョウエ=シュウサンはカゲミツの師である。

 ナガタニも同じく剣友でもあり、日輪国北方のゾエの地では、共に死線を潜った。

 マスダは元々マサヒデのファンで、マサヒデと戦った後、トミヤス道場に来たのだ。


「それと、それと、もうひとつ! トミヤス先生は既に魔王様と謁見を! もはや2位以下とは飛び抜けて点差が離れていて! 魔王様のご親族か、側近の龍人族でも倒さないと、追いつけない点差が! つまり、つまり、もはや勇者に!」


「なんだってーッ!?」


 と、大声を上げた、このマスダを倒したから、勇者確定なのである。


 マスダは250年近く(地下に籠もっていたので、本人は100年くらいと思っていた)無敗の勇者祭の参加者であったから、とんでもない得点がついていたのだ。

 マスダは長くマフィアの闇闘技場にいたのだ。マフィア共はそこら中から勇者祭の参加者を用意して(時には攫って)は戦わせる。それを殺しまくって、すごい得点がついてしまっていたのである。知らぬは本人だけ。

 その250年近く重ねに重ねた得点が、マサヒデに乗ってしまったのだ。


「先程、広場の、放映で・・・発表が、あって・・・」


 はあ、はあ、と息をついて、冒険者が下を向く。

 ナガタニが膝をついて、興奮する冒険者の肩に手を置き、


「さ、座って。腰を下ろし、少し休んで下さい」


「はい・・・」


 どっしゃりと腰を落とし、あぐらをかいて、冒険者が下を向く。


「はて? 少々お待ち下さい」


 ジロウが首を傾げる。


「マツ様は? 確か向かいの魔術師協会にいるはずでは?」


 お? とマスダがジロウを見て、にやりと笑う。


「ジロウさんよお、奥方ん所に顔出してねえだろ」


「ああ、まあ、はい・・・いや、会話に困ってしまうもので、どうも足が遠のいて」


「ふふん。薄情なこったな! 今、魔術師協会に居る、ありゃあな、影武者さ! 偽物だ!」


「なんと!?」

「「「はあーっ!?」」」


 ジロウと冒険者達が、大声を上げる。

 驚くジロウと冒険者達を見て、マスダがげらげら笑い、腕を組んで仁王立ち。


「はーっはっは! もう発表されちまったから良いだろ! 知らねえ奴らは聞いて驚け! マツ様はー・・・なあんと! 魔王様の娘! お姫様だったんだぜ!」


「「「げえーッ!」」」


「がはははははー! 放映されて当然だろ! 魔の国で大式典って事!」


「・・・」


 皆、驚愕で言葉を失ってしまった。

 喜ぶのは、マツが影武者であったと知るマスダとナガタニだけ。


「マスダ先生! この事、カゲミツ先生と奥方様に、急ぎお知らせせねば!」


「おう! そうだな! よし、皆、悪いが、今日はもう引けるぜ!」


「は・・・」


「おおっとそうだそうだ! 明後日だな! 俺が大盤振る舞いしてやる! 広場に集まれよ! 来た奴全員に酒奢ってやるぜ! 道場の奴は全員ここで待ってろ! 金持ってくる! 町の酒、買い占めねえとなあ! 俺の金で町中の酒買ってこい! 酒なら何でも買ってこい! 町になくなりゃ、酒蔵行って来い! タダ酒だあ! 1日盛り上がるぜ!」


 マフィア闘技場で永世チャンピオンだったマスダには、馬車何台分もの金貨の蓄えがあるのだ。ほぼ外に出ず、長年地下に籠もっていた為に、その額は途方もない。

 勿論、マツやクレールの貯金額には負けるが。


「おう! ジロウさんも、ぼけっとしてねえで! オヤジさんに報せなくて良いのかよ!」


「はっ!? あ、はい!」


 ジロウが慌てて走って行く。


「よーし、今日の稽古は終了! タダ酒は明後日だぞ! 腹が割れるまで呑ませてやるぜーッ! わはははははー! ナガタニさん、先に道場行け! 俺は金持って来てから追っかける!」


「はいっ!」


 どどどど! と砂煙を上げて、マスダが走って行く。

 その後ろを、ナガタニが袖で顔を隠しながら、追って行った。


「・・・マジかよ・・・」


 冒険者の1人が、ぽつっと呟いた。

 魔術師協会は、冒険者ギルドの向かい。

 すぐ隣に、魔王様の姫がいたのだ。



----------



 その日の早朝、日輪国首都、ウキョウ。


「おっ」


「あ、これは」


 2人の老剣客が顔を合わせ、頭を下げた。

 王宮剣術指南役、ヤナギ車道流宗家、ヨシヒラ=ヤナギ。

 森戸三傅流宗家、ヒデノブ=フギ。


「ヤナギ先生、お早いですね」


「ああいや、私も年ですから、少しは爺らしく、朝の散歩という感じで」


 にやり、と2人が笑う。


「いやあ、ヤナギ先生、足を運ぶと書いて運足とは、良く言ったものですよね」


「ふふふ。バレちゃいましたか」


「はっはっは。で、ヤナギ先生、どんな?」


「ふふふ。いや、最近、南方の空手で面白いのを。これは剣にも使えるかなあ、と、試してみてるんですよ。うちと似ているようで、微妙に違うんですよね」


「南方の空手・・・と言うと、こう、さいを使う?」


 すす、すす、とフギが左右に身体を動かす。

 う、とヤナギが一瞬身を固めた。


「む! 流石はフギ先生・・・」


「いやあ、色々な武器、試しているものですから。運足というと、足の裏全体を使って。ですね」


 ぺし! とヤナギが額を叩く。


「参ったなあ。フギ先生には、隠し事出来ないねえ」


「ヤナギ先生、私ねえ、あの釵の扱いを教えてもらった時ですよ。身体をですね、釵がですね、導くと。釵についていけば、勝手に身体が決まる、みたいな」


「ああ。私もそう教えて頂きました」


「ところで、トミヤス君、覚えてます?」


「勿論」


「刀が向かってく方に身体を持っていくだけ。そうすると、軸が勝手に決まるんだって。そんな事、言っていたんですよね。似てません? そう、刀が身体を導く」


 ヤナギが、おっ! と驚いた。


「おお・・・そうだったんだ・・・あの若さで、そこまでたどり着いてたのか。ただ使えるってだけじゃなかったんだ」


「そう! これが太刀の道なのかなあ、なんて言ってました」


 むう、と唸って、ヤナギが腕を組む。


「ううむ! 中々ではありませんか! もう少しうちにも来て欲しかった!」


「あ、そうそうそう。ヤナギ先生、トミヤス君の事、何か聞いてません? 陛下にはお手紙が届いているとか。私ね、気になってるんです」


「ああ、もう魔の国に着いて、ファッテンベルク家に行ったとは聞きました。米衆連合の事、あんまり聞いてないですけど」


「ファッテンベルク! あの狼族のお嬢さんの家」


「そう! 武門のファッテンベルク! いやあ、憧れますよねえ」


「もしかして、米衆の活躍は、ご存じない?」


「え? 何かあったの?」


 いやあ、とフギが笑う。


「ヤナギ先生ー、駄目ですよお。それで米衆相撲ファンだなんて」


「ええ?」


 ヤナギの怪訝な顔に、フギがにやにやして、


「私はね、門弟の知り合いの貴族の方に頼んで、放映を見せてもらったんです。ヤナギ先生の所、貴族の門弟、たくさん居るんですから、見せてもらわないと」


「どういう事? 何を見たんです」


 怪訝な顔のヤナギ。

 フギは、ぱん! と手を叩き、指を立てる。


「米衆相撲ファンなら、当然知ってますよね? グレート・マッカラナ」


「そりゃ・・・ええ!?」


「そう! やったんですよお。あのグレート・マッカラナと!」


「ほおんとう!?」


「ヤナギ先生、これ読売にも出たんですよ? グレート・マッカラナ、休場3ヶ月」


「ええっ!? あの休場してたの、トミヤス君とやったから!?」


「そうですよお」


「ちょっと待って下さい、フギ先生、それって、これじゃなくて」


 ヤナギが手刀を上げ下げ。

 刀ではないのか?

 フギが首を振る。


「いやいや、無手」


「お、おお・・・知らなかった・・・」


「向こうの人には分からなかったみたい。ラリアットのぶつかり合いに見えたみたいですけど、マッカラナがラリアットで突っ込んで来た所を、トミヤス君が、天地返しで、ずっどーん! あれで休場がたったの3ヶ月ってのが凄いですよ。ね」


「はあー! そうだったの!」


「で、それから後の事、聞いてないんです」


 ヤナギが腕を組み、ううむ、と考える。


「ファッテンベルクに着いたって連絡が来たの、結構前だからー・・・現地では、もう首都には着いてるんじゃあないかなあ? 脱落って話は聞いてはないし、何処かに潜伏してるのかなあ? 忍の子、いましたから」


「ううん・・・でしょうねえ。正面からは難しいでしょうけども、どう入るか。ですよね」


 マサヒデの動きの予想をしている2人に、声が聞こえた。


「号外! ごうがーい!」


「ん?」


 2人が顔を向けると、号外の束を抱えた若者が駆けてきて、


「号外でーす!」


「見せ・・・てえーっ!?」


 何をそんなに驚く?

 ひょいとヤナギが覗き込む。


「はっ!?」


 『勇者マサヒデ=トミヤス 魔王家マツ姫と結婚』

 『式典、明後日予定 放映決定』

 『夜会にて演舞 時差により演舞放映は深夜か早朝の予定』


「フギ先生、やられましたね・・・こりゃあ私も参った・・・」


「いやあ・・・参りました・・・」


「演舞、一緒に見ませんか?」


「いいですねえ・・・ええ・・・」


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