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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第11話


 その昔、1人の刀匠がいた。

 名をオトサメという。


 世は魔族と人族が争っている戦乱期。

 長く続く平和を願い、刀を打っていた男は、突如店を閉じ、旅立ってしまった。


 そしてその男が辿り着いたのは、魔の国。

 人の寄り付かぬ魔力異常の地で、刀を打ち始めた。


 オトサメは狂気を宿し、身を削って刀を打ち続けた!

 平和を求めた刀鍛冶が、何故そうなったのか!

 今となっては、その理由は分からない。


 魔力異常の地で打たれた幾本もの刀は、恐ろしい力を持つ、まさに妖刀と呼ぶに相応しい刀ばかりであった。

 ほとんどは魔王が封印をし、世に出ているのは数本である。

 その数本のうちのひとつ、オトサメが狂気にまみれ、最後に打ったという作が、マサヒデの父、剣聖カゲミツが蔵している、真・月斗魔神。


 真・月斗魔神とは!

 魔剣を超える名刀!

 『真』の称号を冠した、刀剣界でも傑作中の傑作、最高の作と言われる一振り!

 それが、真・月斗魔神である……


「……と、これがオトサメという刀鍛冶の話。有名ですね」


「ええ。それで?」


 刀数寄者でなくとも、興味で魔剣や称号刀の図鑑を覗いた程度の者でも知っている。それ程に有名な刀匠だ。その狂気に満ちた人生も刀数寄者の目には魅力と映り、まだ日輪国にいた頃に打ったただの刀も、市場に出れば異常な額で取引される。

 部屋に集まったマサヒデ達は、少し不審な目で、真剣な顔のイザベルを見る。


「ここで注目して頂きたいのは、魔王様がほとんどを封印してしまった、という所。すなわち、数ある月斗魔神のほとんどが、魔の国にございます」


「ええ。日輪国にも2本ありますよね。1振りが御物(王家保管)。1振りは父上。父上のは、確かオトサメは日輪国産まれであるから、せめて最後に打った作は日輪国へ返すべきであると、日輪国に送られて来た。で、父上が御前試合の褒美にもらってきた。それまでは封印されていた、と。そうですよね。アルマダさん、合ってます?」


「ええ。合っています。イザベル様、その月斗魔神が何か」


 イザベルが重々しく頷く。


「実は、オトサメの刀の力を研究する機関が軍に存在していたのです」


「え!」「本当ですか!?」


「はい。オトサメ研究所、通称オト研。魔剣や称号刀の中でも、ひときわ恐ろしい力を持つ月斗魔神ですが、この力の謎を何とか解明出来ぬかと、研究しておりました。力を利用するではなく、その製法を解明したかったのです。もし製法などが分かってしまうと……偶然にも同じ製法を見つけてしまった、などという事があると……世界中が大量殺戮兵器で溢れます。鉄砲、大砲、爆弾など、比べ物にならない武器が。しかも見た目はただの刀やら槍やらと変わらない」


「確かに。子供でも軽く振るだけで、一振りで数十人、下手したら数百人と殺せる代物ばかりと聞きますからね。御物の月斗魔神も恐ろしい物でした」


「ええ。お城より大きな斧になりましたね……」(※首都編・115話)


 ぶん! とクレールがマサヒデに顔を向ける。


「な、なんですと!? そんな変化があったんですか!?」


 月斗魔神に魔力を込める事に集中していたクレールは、強く目を閉じていて、その姿を見てはいなかったのだ。


「あれは王子がもう封印してしまったでしょうね。まあ、クレール様あっての、あの変化なのでしょうが。一般人では、せいぜい大きめのハルバードくらいのサイズでしょうから、それ程に脅威とはされなかったのでしょう。が、大魔術師クラスの者が持ってしまったら、一振りで町が……ですよ」


 イザベルが深く頷く。


「はい。そのような武器は世界に広めてはなりませぬ。軍事バランスの崩壊云々のレベルではありませぬゆえ、例え偶然にでも作られてしまったら大事。という事で、研究をしておったのですが……」


「何かあったのですね」


「はい。研究所が爆発。3里(12km)四方を消し飛ばしました。魔王様ご自身でも対処不能な程の魔力異常を残し、現在も立入禁止区域になっております。爆心地に残っていたのは、ほんの少しの建物の残骸と、集められていた月斗魔神のみ。当然、資料などは残っておらず、原因は不明。不思議な事に、月斗魔神はどれも瑕ひとつなく……公式には大規模な魔力異常の発生、という事で、オト研なる機関は、世間が知る所には、都市伝説という類の話になっております」


 マサヒデが眉をひそめ、


「そんな事が……そして、月斗魔神はまた封印されました、という感じですか」


「はい。偶然外に出ていたなどで生き残った者達もおりますが、全員、厳重な監視体制の下で暮らしております。山奥にございましたので、被害者は研究員のみ。今はその山もなくなりましたが」


「ふうむ。で、もし、先程のハヤテさんという冒険者が、その生き残りの1人だったら、と」


「はい。話を聞くに、いくつもの博士号を持つとか……それ程の人材、オト研に居たとしても、全く不自然ではございませぬ」


 こんこん。

 マサヒデとアルマダの手が、柄に添えられた。


「失礼致します」


「どうぞ」


 アルマダが声を掛けると、音もなくドアが開いた。

 これはクレール配下の忍だ。

 マサヒデは刀の柄から手を離して、腕を組む。


「あまり静か過ぎると、逆に怪しまれませんか」


「む……あ、いや、マサヒデ様。それよりも、先程」


「ハヤテさんですね」


「は。彼の者の監視員から連絡が」


 マサヒデ達が溜め息をつく。


「監視員ですか……噂は本当でしたか」


「は。実は、ただ監視している、というだけでなく、ちと厄介な話が」


 部屋中の皆が渋い顔になる。

 称号刀が絡み、厄介な話、となると、碌な話ではあるまい。


「……あまり、聞きたくないのですが……聞きましょう」


「実は……出来ればで良いので、彼の者から月斗魔神を奪って欲しいと……」


 皆が驚いて、忍に顔を向ける。


「なんですって? 月斗魔神を奪う?」


「はい。ハヤテなる者、オト研から、月斗魔神を1振り奪って、隠し持っております」


「……」


 皆、絶句してしまった。


「監視員では手も足も出ぬ腕。強奪も何度か計画された事はあるそうですが、失敗に終わっておられると……軍などを差し向ければ可能ではございますが、騒ぎになるとまた……オト研の存在が明るみに出るのは、ちと憚れますし」


 アルマダが首を振る。


「出来れば、なら、やりません。危険すぎます。今まで何もなかったのでしょう? あれば大騒ぎになっているはずです」


「この先、何かあるかもしれませぬが」


「逆に手を出して、事を起こしてしまったら、藪蛇です。使うつもりなら、とっくに何か起こっていますよ。マサヒデさんはどう思います」


 マサヒデも頷く。


「その通りだと思います。クレールさんは?」


「同じです」


「カオルさんは?」


「下手に突つかぬ方が良いかと」


「イザベルさんは?」


「確かに火種を放置しておくのはどうかと思いますが、これは我らの役目ではございませぬ。軍からの願いとなりましょうが、私も既に退役しておりますし、我らには何の関係もございませぬ」


 アルマダが肩を竦め、苦笑い。


「と、いうわけで、監視員の皆様には、お断りです、とお伝え願えますか」


「は。それと、おそらくですが、マサヒデ様に客が来ております」


「客? おそらく?」


「ハヤテが下で酒を呑んでおります」


「それ、冗談では……ないですよね」



----------



 マサヒデ、アルマダ、カオル、イザベル、4人が階段を下りていく。

 2階廊下の手すりにもたれ、クレールもハヤテを見ている。

 店の中には、姿を消したレイシクランの忍達。


 他に客は居ない。

 ハヤテは強烈な存在感を放っている。

 この迫力に、皆、店を出て行ってしまったのか……


 ハヤテは、ふうー……と煙草の煙を吐いて、にやりと笑い、マサヒデに目を向けた。


「くくく……待たせるじゃねえか。トミヤス、な。名乗る必要はあるか」


「いえ」


「別に危ねえ話じゃねえさ……」


 くい、とハヤテが隣のスツールに顎をしゃくる。

 マサヒデが座ると、すっとカオルがハヤテの後ろに立つ。

 ハヤテは肩越しにカオルを見て、


「見間違いじゃあなかったな。やはり忍だ」


「……」


「日輪国の忍は伊達じゃねえってのは、本当だったようだ」


 女中がマサヒデに恐る恐る酒を出したが、マサヒデは首を振り、


「すみません。酒はからきしなので、茶を」


「はい……」


「俺がもらおう」


 す、とハヤテが手を伸ばす。

 懐手のマサヒデの手が、ぴくりと動く。

 ハヤテの後ろのカオルの刀の鯉口が、くっと切られる。

 アルマダもイザベルも、剣の柄に手が伸びる。


「くくく。危ねえ話じゃあねえさ」


 ハヤテは新しい煙草を咥え、しゅ! とマッチを擦って、火を点ける。


(魔術は使わないのか。そう見せているだけか)


 マサヒデは黙ってハヤテを見ている。

 美男子とも見える顔の作りなのだが、その目が全てを台無しにしている。

 冷たい恐怖しか見えない顔。


(なるほど。冷酷無比。味方も斬る。この人は間違いなくやるな)


「で、話とは」


「明日の早朝、立ち会って欲しいというだけさ」


「真剣で、ですか」


「ああ。訓練場は抑えてある」


 真剣の立ち会いを、危ない話ではないとは……


「お断りします」


「もう知ってるな。月斗魔神」


「ええ」


「あんたらの誰かが相応しいと見えたら、そいつに譲ろう。どうだ」


「相応しい、ですか。それ、誰が決めるんです」


 ハヤテが煙草を吸う。

 ちりちり……と音がする。


「ふうー……誰、じゃあない」


「と言うと」


「月斗魔神が決める」


「どういう事です」


「言った通り。剣が使い手を決める」


「例え選ばれたとしても、私達程度に扱える品ではないですから、断ります」


「嫌でも来てもらうさ……お前ら程の使い手は、今まで居なかったからな……」


「断ります」


「来なかったら、明日は大量殺人の記事が読売に載る」

「貴様!」


 イザベルが声を上げ、剣を抜いたが、ハヤテはちらりと見ただけで、マサヒデを見て、にやりと笑った。


「断るか?」


(この人は……狂ってはいないが)


 目的の為なら、どんな手も使う者。冷酷無比とは、本当のようだ。

 肩の上に置かれたイザベルの剣を、ぱん! と払うと、イザベルがよろけた。


「く!?」


「ふふふ……お前さんは選ばれそうもないな。ファッテンベルクのお嬢様」


「愚弄するか!」

「イザベルさん!」


 マサヒデが声を上げると、イザベルがぴたりと止まった。


「……」


「剣を納めて」


「は……」


 イザベルが剣を納めると、ハヤテがまた笑う。


「よく飼い慣らしたな。狼族の主というのも本当か」


「違いますよ」


「ほう? 違ったのか」


「イザベルさんの方が、私を選んでくれたのです」


「くくく……月斗魔神にも選ばれるかな」


「一体、何が目的なんです」


「月斗魔神に選ばれる者を知りたいってだけさ。腕が問題なのか、別の所なのか」


「なら、斬り合いなんてしなくても良いでしょう」


「と、思うだろうが、ひとつ分かっている事がある」


「何なんです」


「生死の境くらいの所にこないと、本当の力を出してくれねえのさ。ただの称号刀程度……世間に知れてる月斗魔神の力ってのは、表向きの大人しい力。実際の力は出やしねえ。俺は何度もその実際の力ってのを見ている。そして、お前達は、常に生死の境を歩いて来た……実験にはうってつけだろ」


 『称号刀程度』とは……称号刀でも恐ろしい力があると言うのに。

 月斗魔神はその中でも飛び抜けている。それが大人しい力というのか。


「明日の日の出。生死の間で待ってるぜ」


 ハヤテは煙草をもみ消し、店を出て行った。

 ち! とカオルが舌打ちする。


「ご主人様」


 マサヒデは顔をしかめたまま、店のドアを睨む。


「行くしかないでしょう。あの人、本当に殺しますよ。関係ない人達」


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