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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
109/136

第109話


 そして夕方。


 マサヒデ達は、こっそり城門の方へ。


「うぐっ」


 神輿が2つ。

 布が被せられていて、神輿本体は見えないが、足? というか、肩に乗せていく棒が見える。これに乗っていくのか!

 布の上からでも分かる、この重厚さはどうだ!


「やあやあ、マサヒデ様!」


 近衛兵がにこにこ笑いながら(兜で見えないが)、マサヒデ達に嬉しそうな声を掛けてきた。


「明日は気合を入れて参りますぞ!」


「はい・・・」


 凄い揺れが期待出来る。これに乗って、3里(12km)の道を!?


「・・・」


 金色の、綺羅びやかな鎧の近衛兵。

 彼らはこの全身鎧を着ながら、全力で走るマサヒデに、安々とついて来る。


 ごくん、とマサヒデ達が喉を鳴らす。


 この者達が担ぐ神輿! なんと恐ろしい神輿であろうか!


「レイシクラン様も、こちらで式を挙げられれば良かったのですが」


「はっ!? い、いやーあ・・・残念ですう・・・」


 クレールが愛想笑いを浮かべる。背中には冷や汗。

 こんな物に乗せられては、死んでしまうかも!


「レイシクラン公はお忙しいですからな。まあ、皆様ご到着から1週間。すぐに発ったとて、1週間ではこちらにも参られますまいし・・・云々云々」


 近衛兵の言葉が聞こえない。

 実際に見ると、怖気がしてくる。

 これに乗らされ、わっしょい! と担がれて行くのか!?

 ぐわんぐわんと揺れるはず! きつすぎる!


「あーはははー! 明日が楽しみですねー!」


 立ち直ったクレールが、にこにこ笑う。


「いや全く! 私も、胸が踊っておりますぞ!」


「あの、見てみても・・・」


 そっと手を伸ばしたクレールの手の前に、近衛兵が慌てて手を伸ばし、


「ああいや! 申し訳ございませんが、当日朝までは、衆目に触れてはならぬ決まりなのです。何卒、ご了承下さい」


「あ、いえ! こちらも知らず、失礼しました。明日、見られますし」


「いやいや! お気持ちはよっく分かりますぞ。お楽しみしておられませ」


「はいっ! では、戻ります! マサヒデ様、参りましょう!」


「そうですね。いやあ、楽しみですよ!」


 マサヒデも何とか作り笑いを浮かべる。


「ふふふ。そのお顔、緊張しておられますな」


 近衛兵がくつくつと笑う。


「い、いやあー! バレてしまいましたか!」


 マサヒデの固い笑顔を、良い方に取ってくれた。


「はっはっは! まあ当然でございますな! 姫様との婚礼の儀ともなれば、誰でも緊張は致しまするぞ!」


「ははは」

「あはははー」

「ふふふ」


 マサヒデ達が笑う。

 近衛兵も笑う。


「では、そろそろ戻りますね」


「はい! 緊張して寝坊はご勘弁下され!」


「ははは・・・」


 くるっと振り返って、マサヒデ達が歩いて行く。

 冷や汗がたらり。


「カオルさん、ありがとうございます」


「は・・・」


 影武者役は、カオルである。

 レイシクランの忍達との協議の結果、カオルになってしまった。


 一応、自分でも鍼も打てるから、何とか・・・なるのか!?

 上下の揺れで、頭を打ったり、首を折ったりしないだろうか・・・

 治癒師のラディも一緒に乗せたいが、ラディはきっと死んでしまうだろう。



----------



 そして晩餐会。

 魔王様は、満面の笑顔でいらっしゃるのでした―――


「明日が楽しみであるな!」


「はい」


「緊張しておるな!」


「いやあ」


 このような会話の繰り返しである。


「うむうむ!」


 ユカリもずっとにこにこしている。


「魔王様、先程から同じ事ばかり!」


「おけ。我も楽しみである! 港にて待っておるぞ!」


「は・・・」


 魔王様はぐびぐびと酒を煽り、上機嫌。

 マツもにこにこしている。


(くそう!)


 マツは魔術で何とかするという。

 風の魔術とか、そういうものか?


 マサヒデもカオルに影武者を任せられたから良いが、すり替わる時にバレてはいけない。この魔王様の目を騙す事が出来るか!


(浮かれていてくれれば良いが!)


 影武者の話は、祭の準備の者達には既に話してある。

 リュウイチも憂慮していたので、一緒に頼みに行ったのだ。


『魔王様には絶対に秘密であるぞ!』


 リュウイチの一言が、マサヒデを守ってくれた。

 神輿を担ぐ者達も知らない。担いでいるのが影武者と知れたら、どうなる事か。気合も何も抜けてしまうだろう。


(絶対にバレぬようにせねば!)


 ごっくん、とムニエルを飲み込み、固い笑顔をマツに向ける。


「ふ、ふふ。マツさん、ついに来ましたね」


「はい! 私・・・嗚呼! 私!」


 じわ、とマツの目尻に涙。


「おお、おお! マツよ、感無量であるか! 我もだ!」


「マツ!」


 魔王もユカリも、目にハンカチを当てる。

 それを見て、ぐぐっ! とマサヒデの胸を罪悪感が締め付ける。


 俺はこの2人を騙すような真似をするのか!

 ・・・でも、乗っては行けない。


(本当にすみません!)


 マサヒデはつらくなり、ぐっと目を閉じて、魔王から目を逸らす。

 下手したら、死んでしまうかもしれないんです!


「くっ」


 マサヒデの口から、小さく声が漏れた。


「おお! マサヒデ君!」


 がし! と魔王の手がマサヒデの肩を掴んだ。


「あがっ!?」


 凄い握力!

 ぎし! と骨が軋む音が、マサヒデの骨を伝わって聞こえてきた。


「あっ!? 済まぬ!」


 そのまま、魔王が治癒の魔術を掛けたが、突然の事にマサヒデの顔は歪んだまま。


「ああっ!? マサヒデ様!?」

「魔王様! 何をされるのです!」


 マツとユカリの声。

 クレールもびっくりして、ワイングラスに手を伸ばしかけたまま固まる。


「あいや! 皆さん、平気です」


 魔王がわたわたして、


「いや、いや、済まぬ! 思わず力が!」


「お父様! マサヒデ様を殺す気なのですか!?」


「そのようなつもりは!?」


「もうおやめ下さい! 魔王様が力んだら、死んでしまいます!」


「いや違う! 違うぞ! 嬉しさのあまり! うっかり!」


 左右から妻と娘に責められ、慌てる魔王。

 このような光景は、一生見られまい。

 そう思うと、マサヒデがくすっと笑った。


「いや、ユカリ母上、マツさん、全く大丈夫ですから」


「むう、マサヒデ君、申し訳ない」


 このしょんぼりした魔王様の顔。一生見られまい。


「いや、分かります。それに私、今と全く同じように、イザベルさんに殺されかけた事もありますし」


「何いっ!?」


 か! と魔王様の目が!


「ああいや! 違いますよ。敵意を持ってではなく、心配して思えずとか。今と全く同じように、嬉しくて私の手を掴んで、手を砕いたり。ね? マツさん」


「あっ! おほほほ! ありましたね! あれは、イザベルさんが、マサヒデ様を主と認めた時でしたね!」


 マツの顔が和んだ。

 クレールも笑う。


「あははは! あの時はびっくりしましたよね! 急に泣き出して! 目が輝いてましたよね!」


 は! と魔王が顔を上げた。


「おお! そうであった! マサヒデ君は狼族の主であったな! しまった、すっかり忘れておった!」


「いや、ありがたい事です。イザベルさんに、主と選んでもらえて」


「ああいや! そうではない。ヒラマツ国王より、祝の品が届いたであろう」


「はい」


「我も準備はしておったのよ! ちと席を外す。待っておってくれ。すぐ戻る」


 慌てる魔王に、ユカリが笑う。


「うふふ。魔王様、そんなに急がなくても。明日・・・は忙しいですし、明後日でも宜しいではございませんか。今夜は前夜祭の席なんですよ」


「むう」


 立ち上がりかけた魔王が、のたりと腰を落とした。

 少しして、頬杖をつく。

 慌てていた魔王の顔が、急に神妙な感じに変わった。


「うむ・・・狼族の主、か」


 ユカリも切ない笑顔だ。


「昔を思い出しましたか?」


 魔王が小さく頷く。


「うむ。大変であったな。皆を助けんと、駆け回った。あの時・・・そうだ。初めて我の為と狩りをしてくれた時だ・・・人死が多く出た・・・泣いたな・・・リュウイチが慰めてくれた。クレール。お前の先祖、シャルルもだ」


「はい」


「だが、シャルルは、我に慰めの言葉をかけた後、泣くな、誇れと言ったのだ。あれらも、喜んでくれと言った。余計に泣いてしまったな。そのような事を言われれば、誰でも余計に泣くであろうが」


 この事をマツから聞いていたクレールが、ぐっときたのか、そっと目にハンカチを当てる。

 ユカリが頷き、


「でも、良い思い出」


「うむ。良き思い出である」


 ふ、と魔王が鼻で笑った。


「マサヒデ君も、国を治めてみるか?」


「ええ!? いや、無理ですよ!」


「どうかな。我も何も分からず、あれと気付けば、いつの間にかであったからな」


「いや、魔王様。私は武術に身を置きたいです。せいぜい、田舎道場をやっていくくらいで一杯です」


「そうか」


「そうです」


 魔王がマツを見て、にやっと笑った。


「マツ。お前、良い男を捕まえたものだな」


「でしょう? 私の自慢の夫ですもの。見た時に、これだ! って閃いたんです」


 む、とマサヒデがマツを見る。


「これってなんです」


「うふふ。こーのーひーと! ね? クレールさんもでしょう?」


「はいっ! この人だー! って!」


「ふふ。そうかそうか」


 魔王とユカリが笑顔を浮かべ、グラスを取った。


「マツ。クレール。お前達がどんな出会い方をしたか、また聞かせてくれ。調べれば分かるが、わざと調べずにおいたのだ。マサヒデ君、マツ、今宵は程々にな。明日は早い」


「はい」

「分かりました」


 マサヒデは、どきっとしたが、普通に返事を返すことが出来た。

 部屋に戻ったらすぐ風呂、寝て、日の昇る前に起きて、おめかしをして・・・

 そして、どこかでカオルとすり替わる。


 レイシクランの忍達の力を借りて、バレないように港に潜入して、カオルとすり替わって、また城のどこかですり替わって、夜会。

 夜会では演舞もしないといけない。

 近衛兵の鎧をぶった切らないといけない。

 大変な1日になりそうだ・・・


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