第109話
そして夕方。
マサヒデ達は、こっそり城門の方へ。
「うぐっ」
神輿が2つ。
布が被せられていて、神輿本体は見えないが、足? というか、肩に乗せていく棒が見える。これに乗っていくのか!
布の上からでも分かる、この重厚さはどうだ!
「やあやあ、マサヒデ様!」
近衛兵がにこにこ笑いながら(兜で見えないが)、マサヒデ達に嬉しそうな声を掛けてきた。
「明日は気合を入れて参りますぞ!」
「はい・・・」
凄い揺れが期待出来る。これに乗って、3里(12km)の道を!?
「・・・」
金色の、綺羅びやかな鎧の近衛兵。
彼らはこの全身鎧を着ながら、全力で走るマサヒデに、安々とついて来る。
ごくん、とマサヒデ達が喉を鳴らす。
この者達が担ぐ神輿! なんと恐ろしい神輿であろうか!
「レイシクラン様も、こちらで式を挙げられれば良かったのですが」
「はっ!? い、いやーあ・・・残念ですう・・・」
クレールが愛想笑いを浮かべる。背中には冷や汗。
こんな物に乗せられては、死んでしまうかも!
「レイシクラン公はお忙しいですからな。まあ、皆様ご到着から1週間。すぐに発ったとて、1週間ではこちらにも参られますまいし・・・云々云々」
近衛兵の言葉が聞こえない。
実際に見ると、怖気がしてくる。
これに乗らされ、わっしょい! と担がれて行くのか!?
ぐわんぐわんと揺れるはず! きつすぎる!
「あーはははー! 明日が楽しみですねー!」
立ち直ったクレールが、にこにこ笑う。
「いや全く! 私も、胸が踊っておりますぞ!」
「あの、見てみても・・・」
そっと手を伸ばしたクレールの手の前に、近衛兵が慌てて手を伸ばし、
「ああいや! 申し訳ございませんが、当日朝までは、衆目に触れてはならぬ決まりなのです。何卒、ご了承下さい」
「あ、いえ! こちらも知らず、失礼しました。明日、見られますし」
「いやいや! お気持ちはよっく分かりますぞ。お楽しみしておられませ」
「はいっ! では、戻ります! マサヒデ様、参りましょう!」
「そうですね。いやあ、楽しみですよ!」
マサヒデも何とか作り笑いを浮かべる。
「ふふふ。そのお顔、緊張しておられますな」
近衛兵がくつくつと笑う。
「い、いやあー! バレてしまいましたか!」
マサヒデの固い笑顔を、良い方に取ってくれた。
「はっはっは! まあ当然でございますな! 姫様との婚礼の儀ともなれば、誰でも緊張は致しまするぞ!」
「ははは」
「あはははー」
「ふふふ」
マサヒデ達が笑う。
近衛兵も笑う。
「では、そろそろ戻りますね」
「はい! 緊張して寝坊はご勘弁下され!」
「ははは・・・」
くるっと振り返って、マサヒデ達が歩いて行く。
冷や汗がたらり。
「カオルさん、ありがとうございます」
「は・・・」
影武者役は、カオルである。
レイシクランの忍達との協議の結果、カオルになってしまった。
一応、自分でも鍼も打てるから、何とか・・・なるのか!?
上下の揺れで、頭を打ったり、首を折ったりしないだろうか・・・
治癒師のラディも一緒に乗せたいが、ラディはきっと死んでしまうだろう。
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そして晩餐会。
魔王様は、満面の笑顔でいらっしゃるのでした―――
「明日が楽しみであるな!」
「はい」
「緊張しておるな!」
「いやあ」
このような会話の繰り返しである。
「うむうむ!」
ユカリもずっとにこにこしている。
「魔王様、先程から同じ事ばかり!」
「おけ。我も楽しみである! 港にて待っておるぞ!」
「は・・・」
魔王様はぐびぐびと酒を煽り、上機嫌。
マツもにこにこしている。
(くそう!)
マツは魔術で何とかするという。
風の魔術とか、そういうものか?
マサヒデもカオルに影武者を任せられたから良いが、すり替わる時にバレてはいけない。この魔王様の目を騙す事が出来るか!
(浮かれていてくれれば良いが!)
影武者の話は、祭の準備の者達には既に話してある。
リュウイチも憂慮していたので、一緒に頼みに行ったのだ。
『魔王様には絶対に秘密であるぞ!』
リュウイチの一言が、マサヒデを守ってくれた。
神輿を担ぐ者達も知らない。担いでいるのが影武者と知れたら、どうなる事か。気合も何も抜けてしまうだろう。
(絶対にバレぬようにせねば!)
ごっくん、とムニエルを飲み込み、固い笑顔をマツに向ける。
「ふ、ふふ。マツさん、ついに来ましたね」
「はい! 私・・・嗚呼! 私!」
じわ、とマツの目尻に涙。
「おお、おお! マツよ、感無量であるか! 我もだ!」
「マツ!」
魔王もユカリも、目にハンカチを当てる。
それを見て、ぐぐっ! とマサヒデの胸を罪悪感が締め付ける。
俺はこの2人を騙すような真似をするのか!
・・・でも、乗っては行けない。
(本当にすみません!)
マサヒデはつらくなり、ぐっと目を閉じて、魔王から目を逸らす。
下手したら、死んでしまうかもしれないんです!
「くっ」
マサヒデの口から、小さく声が漏れた。
「おお! マサヒデ君!」
がし! と魔王の手がマサヒデの肩を掴んだ。
「あがっ!?」
凄い握力!
ぎし! と骨が軋む音が、マサヒデの骨を伝わって聞こえてきた。
「あっ!? 済まぬ!」
そのまま、魔王が治癒の魔術を掛けたが、突然の事にマサヒデの顔は歪んだまま。
「ああっ!? マサヒデ様!?」
「魔王様! 何をされるのです!」
マツとユカリの声。
クレールもびっくりして、ワイングラスに手を伸ばしかけたまま固まる。
「あいや! 皆さん、平気です」
魔王がわたわたして、
「いや、いや、済まぬ! 思わず力が!」
「お父様! マサヒデ様を殺す気なのですか!?」
「そのようなつもりは!?」
「もうおやめ下さい! 魔王様が力んだら、死んでしまいます!」
「いや違う! 違うぞ! 嬉しさのあまり! うっかり!」
左右から妻と娘に責められ、慌てる魔王。
このような光景は、一生見られまい。
そう思うと、マサヒデがくすっと笑った。
「いや、ユカリ母上、マツさん、全く大丈夫ですから」
「むう、マサヒデ君、申し訳ない」
このしょんぼりした魔王様の顔。一生見られまい。
「いや、分かります。それに私、今と全く同じように、イザベルさんに殺されかけた事もありますし」
「何いっ!?」
か! と魔王様の目が!
「ああいや! 違いますよ。敵意を持ってではなく、心配して思えずとか。今と全く同じように、嬉しくて私の手を掴んで、手を砕いたり。ね? マツさん」
「あっ! おほほほ! ありましたね! あれは、イザベルさんが、マサヒデ様を主と認めた時でしたね!」
マツの顔が和んだ。
クレールも笑う。
「あははは! あの時はびっくりしましたよね! 急に泣き出して! 目が輝いてましたよね!」
は! と魔王が顔を上げた。
「おお! そうであった! マサヒデ君は狼族の主であったな! しまった、すっかり忘れておった!」
「いや、ありがたい事です。イザベルさんに、主と選んでもらえて」
「ああいや! そうではない。ヒラマツ国王より、祝の品が届いたであろう」
「はい」
「我も準備はしておったのよ! ちと席を外す。待っておってくれ。すぐ戻る」
慌てる魔王に、ユカリが笑う。
「うふふ。魔王様、そんなに急がなくても。明日・・・は忙しいですし、明後日でも宜しいではございませんか。今夜は前夜祭の席なんですよ」
「むう」
立ち上がりかけた魔王が、のたりと腰を落とした。
少しして、頬杖をつく。
慌てていた魔王の顔が、急に神妙な感じに変わった。
「うむ・・・狼族の主、か」
ユカリも切ない笑顔だ。
「昔を思い出しましたか?」
魔王が小さく頷く。
「うむ。大変であったな。皆を助けんと、駆け回った。あの時・・・そうだ。初めて我の為と狩りをしてくれた時だ・・・人死が多く出た・・・泣いたな・・・リュウイチが慰めてくれた。クレール。お前の先祖、シャルルもだ」
「はい」
「だが、シャルルは、我に慰めの言葉をかけた後、泣くな、誇れと言ったのだ。あれらも、喜んでくれと言った。余計に泣いてしまったな。そのような事を言われれば、誰でも余計に泣くであろうが」
この事をマツから聞いていたクレールが、ぐっときたのか、そっと目にハンカチを当てる。
ユカリが頷き、
「でも、良い思い出」
「うむ。良き思い出である」
ふ、と魔王が鼻で笑った。
「マサヒデ君も、国を治めてみるか?」
「ええ!? いや、無理ですよ!」
「どうかな。我も何も分からず、あれと気付けば、いつの間にかであったからな」
「いや、魔王様。私は武術に身を置きたいです。せいぜい、田舎道場をやっていくくらいで一杯です」
「そうか」
「そうです」
魔王がマツを見て、にやっと笑った。
「マツ。お前、良い男を捕まえたものだな」
「でしょう? 私の自慢の夫ですもの。見た時に、これだ! って閃いたんです」
む、とマサヒデがマツを見る。
「これってなんです」
「うふふ。こーのーひーと! ね? クレールさんもでしょう?」
「はいっ! この人だー! って!」
「ふふ。そうかそうか」
魔王とユカリが笑顔を浮かべ、グラスを取った。
「マツ。クレール。お前達がどんな出会い方をしたか、また聞かせてくれ。調べれば分かるが、わざと調べずにおいたのだ。マサヒデ君、マツ、今宵は程々にな。明日は早い」
「はい」
「分かりました」
マサヒデは、どきっとしたが、普通に返事を返すことが出来た。
部屋に戻ったらすぐ風呂、寝て、日の昇る前に起きて、おめかしをして・・・
そして、どこかでカオルとすり替わる。
レイシクランの忍達の力を借りて、バレないように港に潜入して、カオルとすり替わって、また城のどこかですり替わって、夜会。
夜会では演舞もしないといけない。
近衛兵の鎧をぶった切らないといけない。
大変な1日になりそうだ・・・




