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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第107話


 翌朝。


 マサヒデは手紙の束と日輪国王宮の印を持ち、廊下を歩いていた。

 日記を日輪国国王ヒラマツ陛下に送るのである。


 大事な手紙なので、自分で冒険者ギルドに持って行くか、と考えていたのだが、廊下の先でリュウイチの背中の羽を見つけた。


(あ、あの人なら)


 御側御用取次役。魔王様の右腕。絶対に信頼をおける。

 他の者が信用出来ないというわけではないが。


 早足でリュウイチの背を追っていくと、リュウイチが気付いて振り向き、マサヒデに笑顔を向けた。


「これはマサヒデ様。おはようございます」


「おはようございます。リュウイチさん、頼みがあるんですが」


「何でしょう」


「大事な手紙を送りたいのですが、誰に預けたら良いでしょうか。私が冒険者ギルドに持って行っても良いのですが」


「お手紙ですか」


「はい。大事な手紙です。日輪国国王、ヒラマツ陛下宛」


 すう、とリュウイチの顔から笑顔が消えた。


「ヒラマツ国王に、大事な手紙ですか」


 あれ? これはまずい感じか?


「あ、いや。中身は日記です。私の旅の様子を知りたいと仰せで」


「旅の様子・・・どのような? 例えば、ファッテンベルク家の事は?」


「勿論、書いてあります」


「この城中の事なども?」


「勿論ですよ。私、やっとここに来られて興奮してます」


「む、私がお預かりしましょう。それと、申し訳ございませんが、中の文を読ませて頂きます」


 これはもしかして、検閲というものでは?

 マサヒデの胸が高鳴る。


「な、何か問題でも」


「念の為です。ただの日記でしたら問題ないと思いますが、削って頂きたい所があるかもしれません。後程お部屋に参りますので、半刻ほどお待ち頂けますか」


「はい・・・」


 リュウイチがマサヒデの手から手紙の束を取る。


「それと、明日の式に際してですが、婚儀のパレードは日輪国とは少々勝手が違いますので、お部屋に伺いました際、お話しておきましょう」


「分かりました」


「では後程」


 リュウイチはくるっと振り向いて、足早に歩いて行ってしまった。


(どうしよう!? 何かまずい事を書いてしまっていたら、捕まるのか!?)


 心臓をどきどきさせながら、マサヒデは顔を青くして、部屋に戻って行った。



----------



 半刻後―――


 ここん。


「はいっ!」


 マサヒデがソファーから飛び上がって返事をすると、リュウイチが静かにドアを開けた。

 どきどきどき。大丈夫だったか!?


「む、マサヒデ様。削って頂きたい所がございますので」


「は・・・」


 俺は捕まるのか!?

 スパイ容疑とかになるのだろうか!?

 リュウイチは青い顔のマサヒデの前に座り、下の方の手紙を取り、何枚かめくって、1枚を差し出す。


「これはまずい。イザベル様の、魔術研究所との月斗魔神の実験。実験の内容が詳細に書かれています」


「あ、駄目ですか」


「既にオト研の話はお聞きで」


「あっ・・・そうですね、秘密の研究所みたいな。秘密ですもんね」


「はい。この辺りは削って頂けますか。イザベル様が軍に呼ばれたとか何とかで、何の用だかは分からないが、数日離れた。そのような感じにして下さい。他は大丈夫です」


「はい」


「入手経緯は調べました。ジョアル冒険者ギルドの者、ハヤテが持っていたと。あの者から入手した事は、既に送ってしまわれましたか」


「す、すみません・・・」


「オト研という名は書いてしまいましたか」


「いえ。イザベルさんから、あまりその名を出すなと聞いたので。何処から手に入れたか分からないが、月斗魔神を賭けて勝負を申し込まれた、みたいな感じです」


「ならば結構です。私が責任を持ってお送り致しますので、こちらを」


 リュウイチが紙とペンを出し、


「これに新しく、イザベル様の所を書いて下さい。差し替えてお送りします」


「はい」


 マサヒデがペンを取り、かりかりと書いていく。

 リュウイチはしばらく無言でそれを見ていたが、


「ところで」


「はっ!?」


 びくっとマサヒデが顔を上げると、リュウイチが苦笑した。


「いや、明日の式の件です」


 明日! 良かった。明日があるのだ!

 捕まる事はなさそうだ。


「はい」


「書きながらで・・・魔王家の婚儀は、祝祭日となります。既に触れは出しておりますので、首都民が多く出ましょうが・・・」


「はい」


「マサヒデ様とマツ様は、城門から神輿に乗られまして」


「は!?」


 神輿に乗る!? 駕籠ではなく、神輿!?

 でかい馬車とか、派手派手しく飾られた馬ではないのか!?

 城の大広間みたいな所で、ありがたいお言葉みたいな感じではないのか!?


「神輿!? 神輿って、あれですか!? わっしょいって、あれ!?」


「はい。その神輿です。あれに乗られまして、城門からメインストリートを港まで。港にて降りろと言われましたら、降りて下さい。そのまま魔王様の前に歩きます。魔王様よりお言葉。これは短いもので、すぐ終わります。民の前で、結婚おめでとう、嬉しいぞ、と、一言二言で終わります」


「はあ・・・」


「その後、花火など上がりますが、マサヒデ様、マツ様はすぐ神輿に戻ります。適当に、集まった民に軽く手でも振って下されば十分です。そして、城まで戻ります」


「はい・・・」


「で・・・ううむ、神輿なのですが、結構な距離を練り歩く事になります。城から港まで、大体3里(12km)ございます。それを往復です。かなりお疲れになるかと思いますが、堪えて下さい」


 マサヒデが肩の前で手を上下に動かす。


「その、やっぱりこうですか。真っ直ぐ進むのではなく、わっしょいと」


「はい」


「すみません。私、耐えられる自信が全く。マツさんも大丈夫でしょうか」


「これは頑張って下さいとしか。御簾が垂らされますので、きつければ中で寝ておられても大丈夫です」


「わっしょいと揺れる神輿の中で、寝られるんですか」


 リュウイチが気不味い顔で、すっとマサヒデの視線を外す。


「何とか堪えて頂いて・・・それと、マツ様は魔術で誤魔化すので平気だと」


「そんな! ずるい!」


「頼みます。港で降ろされた瞬間、戻したりなされませぬよう。一応、紙袋は用意しておきますが、駄目だと思ったら、なるべく港に着く前に。下りた所で吐いておりますと、音でバレますので」


「く・・・」


「城に戻る頃には夕刻です。城門で神輿を下りまして、マツ様は馬車へ。マサヒデ様は、ご愛馬の黒嵐で、城まで。先導はハワード様方がお引き受け下さいましたので、その後についていくだけです」


「すごく不安なんですが・・・私、真っ青な顔で、ぐったりして馬に乗る事になるかもしれませんが。と言うより、馬に乗れるかどうか」


「そこを何とか・・・気合でも何でも、背筋を伸ばして頂き。城中に入ると、夜会となります。魔王様よりお聞きと存じますが、そこにてマサヒデ様の演舞。始まるまでは自由に過ごしておられて結構です。準備が整いましたらば、係の者がマサヒデ様を呼びに参ります」


「はい・・・」


「演舞が終わりましたら、また好きに過ごして下さい。時間になりましたら、魔王様よりシメのご挨拶で終了です」


「ううむ・・・リュウイチさん、私、演舞が出来るかどうか」


「そこを何とか・・・」


「当日になってみないと分かりませんけど、多分無理だと思います」


「・・・」


 リュウイチが無言で頭を抱えてしまった。

 マサヒデも頭を抱えたい。

 茶でも、とメイドの方を向いた時、マサヒデに電撃が走った。


「そうだ! リュウイチさん、多分いけます!」


 は! とリュウイチが顔を上げた。


「何か策が!?」


「レイシクランの忍の方に、こっそり神輿に乗ってもらいます。鍼を打ってもらいながら行けば、多分」


「む、む・・・良い策ですが、2人乗るスペースは」


「大丈夫ですよ。消えられるんですから。屋根の上とかに乗ってもらいましょう。忍者小説みたいですよね。祭の神輿の上に、忍が乗っているとか」


「鍼を打つ際は、中に入らねばなりませんが」


「いけますよ。皆さんなら、御簾の外から鍼を打ち込むくらいやります。姿を消したまま、隙間から腕だけ中に入れて、ぷすぷすっと」


「むう・・・揺れますが、平気でしょうか」


「ええ。皆さんの腕は確かです」


「む。分かりました。それで参りましょう。では、お手紙をお預かり致します。しかとお送り致します」


 リュウイチが一礼して部屋を去った後、メイドがとことこ歩いて来た。

 むう、と眉を寄せ、腕を組む。


「マサヒデ様、これは中々の難易度ですぞ。揺れ具合によっては」


「そんな!? た、頼みますよ! 暴れてる人でも、ぴしっと止められるじゃないですか!」


「や、勿論、手は尽くしまする。念の為、カオル殿に酔い止めをもらっておいて下さいませ。1日は持ちますまいから、途中でもう1服か2服となりましょう。胃が荒れてしまうと思いますが、そこは仕方ございますまい。揺れる神輿の中で、こぼさず飲むのは難しいでしょうが、水は我らが忍ばせますゆえ」


「ううむ・・・そこは任せて下さいって言ってほしかったです」


「や、当日になってみませんと、何とも・・・」


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