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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
103/130

第103話


 長い長い廊下を突っ走り、やっと当てられた客室に。

 慌てて荷物をかき分ける。


「ええと、ええと、大事な物の箱・・・」


 貴重品もあるので、馬車から運んできてもらった袋。

 着替えをぶんぶん投げ出し、底にやっと小箱が見えた。


「よし」


 ぱちりと錠を開けて、蓋を開く。

 ぱっと目に入ったのは、日輪国王宮に手紙を出す時の為の、王宮の印。

 そして、束となっている日記。


(しまったあー!)


 日記も陛下に送らねば!

 海上で長く待機していたので、日記も溜まっている。


(ええい、これは明日だ!)


 日記をベッドに放り投げて、底にある手紙。剣に背中合わせの両狼の印。


(これだ!)


 ぱっと部屋を駆け出た所で、ぴたっと足が止まった。


 魔王様はまだ仕事中。

 あの執務室は、普段ならマサヒデが入れる場所ではない。

 近付いても良いのだろうか・・・

 ドア脇に立つ近衛兵に、マサヒデが目を向ける。


「どっ・・・どうしましょう?」


「は・・・? どうしましょうとは、何を? マサヒデ様、如何なされました」


「これ、この手紙なんですが」


 ん? と近衛兵が顔を近付け、む、と小さく声を漏らす。


「ファッテンベルクですか。これは・・・確か、エッセンのお家ですな。お手紙でございますか」


「はい。リチャード様から、必ず魔王様へと渡されたのですが、すっかり忘れていて。急がないととは思うんですが、魔王様、まだ仕事中で。夕餉の席にも戻ってこられませんでしたし」


「リチャード大将から、必ずと、ですか。それは急いだ方が宜しいでしょう」


「執務室、大丈夫でしょうか。お仕事中、尋ねても」


「立ち入りは禁止されましょうが、お手紙を届けるだけでしたら問題ないかと」


「ありがとうございます!」


 返事をすると同時に、すぱーん! とマサヒデが駆けていく。

 羽織袴がばさばさと鳴る音を残し・・・

 ドア脇左右の近衛兵が、顔を見合わせる。


「マサヒデ様は、しょっちゅう走っておられるな」


「慣れぬ城中であるからな。お忙しいのであろうよ」


 ふ、と近衛兵が笑う。


「危急の際以外は走ってはならぬ、と、伝えた方が良いかな?」


「いいやあ、今のは危急であるぞ。リチャード大将のお手紙を忘れておったのだ」


 ぷ! と近衛兵が笑った。



----------



 マサヒデが執務室に走って行き、ぴたっと足を止め、廊下の向こうを覗いた。


(あれ?)


 執務室の周りに、人が集まっている。あれは城にいる人達ではない。

 警察、衛兵。制服の軍人は、少し雰囲気が違う。軍警察か?

 何か事件でもあったのだろうか。ぴりぴりしている。


 だが、手紙は早く渡さねばならない。

 可能ならば直に渡したいが、近付いてはいけないと言われたら、彼らのうち、誰かに預けて渡してもらおう。


 ゆっくり歩いて行くと、廊下のメイドが頭を下げる。

 これもメイドではない。メイドの格好の忍だが、レイシクランではない。

 皆、魔王家の忍達だ。

 どうやら大事が起こったようだ。これは近付けまい。


 マサヒデに気付き、衛兵が歩いて来る。


「申し訳ございませんが、只今魔王様は多忙です」


「はい。お邪魔をしてしまって大変申し訳無いのですが、この手紙をお渡しして頂けませんか。騎馬隊の大将の、リチャード様から魔王様へのお手紙です。エッセン=ファッテンベルクのリチャード様です。私の名は、マサヒデ=トミヤスです」


 お、と衛兵が少し驚き、


「む、貴方様がトミヤス様でしたか。不躾な物言い、大変な失礼を致しました。お許し願います。リチャード=エッセン=ファッテンベルク大将からのお手紙ですね。しかとお渡し致します」


「お願いします。お忙しい所、大変恐縮ですが、お渡しを遅れ、マサヒデが詫びておりましたとお伝え下さい」


「は。お任せ下さい」


 衛兵が手紙を預かり、マサヒデに敬礼。

 マサヒデも頭を下げ、振り返って歩いて行く。


(何があったんだろうか)


 ぴりぴりした空気を背中に感じつつ、マサヒデは廊下を歩いて行った。



----------



 こんこん。


「何用か!」


「魔王様! トミヤス様がお手紙をお運び下さいました! 差出人はリチャード=エッセン=ファッテンベルク陸軍騎馬遊撃隊大将であります!」


「入れ!」


 いらいらしてぴりぴりした魔王が、衛兵に目を向ける。

 左右には警察署長と軍人。街の衛兵をまとめる治安担当の者で、この衛兵の上司。


「リチャードから手紙か。マサヒデ君め、忘れておったな」


「は。忙しい所に大変申し訳ございませぬと、詫びておりました」


「良い。今は報告待ちの時である。貸せ」


「は!」


 魔王が手紙を受け取ると、警察署長と軍人が下がる。

 ぴ、と封を開け、手紙を取り出して、さーっと読んでいく。


(なるほど)


 白露帝国が日輪国にすぐにも矛を向けんとする現状。

 マツとクレールが居るだけでは、決定的な抑止力にならない。

 ついては、日輪国に魔の国の兵を少数でも良いので置きたい。

 演習という名目で、私兵でも良いので、暫くの間、送り出したいがどうか。

 実際に日輪国の兵書を読んだが、実に学ぶに良く、演習、講習はすべきである。

 近く参謀本部にも上申をするが、魔王様にも是非、兵を置く事をご検討を。


 と言った内容である。

 既に参謀本部には上申が届いているであろう。

 完全に私情ではないか、とも払う事も出来るが、魔王も全く同じ私情がある。


(アランも兵を置くのはどうかと言っておったな。演習か。なるほど)


 アランの案では、土地の借り上げと駐屯地建設。

 同盟国ではないので、今は難しいが、ハワード家に打診してみると言う。

 即同盟。これが叶えば一番で、兵を置く。


 合同演習として兵を置く。

 これは何の文句も言われまいが、長く置くのが難しいし、しょっちゅう合同演習と兵を送っていては、諸外国に良い目で見られない。


(ふうむ)


 まず合同演習で送るか。

 その間に、同盟の条約の下準備。

 どんなに長く置けても半年が限界。

 米衆連合に漏れると、日輪国との同盟が切られる恐れがあるから、慎重にせねば。


 この点、日輪国の忍の腕は頼もしい。

 ぎりぎりまで情報が漏れぬようにしてくれるであろう。


「ふ、良い話であるな。マサヒデ君が慌てるのも分かる」


 ぱさぱさと手紙を畳み、机にしまって、軍人の方を向く。


「おい、日輪国の兵書は恐ろしく優れているそうだぞ」


「は? はい。リチャード大将は、それを報せに?」


「参謀本部には、リチャードから何か報せはなかったか」


「ございました。日輪国にエッセンの家の私兵を送り、戦略と戦術の講義を受けたいと。これは受領され、リチャード大将と同じくして私兵を送った家がいくつか」


「そうか。少し、正規兵も学びに行かせてみるか? 我は少々興味がある。考えてみるか」


「は」


 魔王が警察署長の方を向く。


「確か、日輪国では警察組織を奉行所と言ったな」


「はい」


「ふむ。警察からも少し出向させてみるか? マサヒデ君も、奉行所とは縁浅からぬようだ。火付盗賊改という、軍警察に近い権限を持つ組織とも、伝手があるそうだ」


「軍警察程の・・・左様でありましたか」


「ふむ・・・ふむふむ。首都ウキョウには優れた武人が多くいると聞く・・・何人か腕自慢を送ってみるか。それも面白そうだとは思わんか? マサヒデ君は近衛に指導をする程の腕だが、そのマサヒデ君が手も足も出ん、という者がごろごろ居るそうだが」


「は」


「面白そうであるな。武術大国との技術交流か。此度の妖の件もある。陰陽術も学びに行かせたいが・・・ううむ、日輪国の独自のものであるし、さすがに教えてはくれぬかな・・・リチャードめ、面白い事を言ってきよるわ・・・」


「はあ」


「む! すまぬ。仕事に戻るか。あの鬼畜共は、まだ捕まらぬか」


「捕まえる事は容易いでしょう。証が揃わぬので、踏み込めぬのでは」


「ううむ、であろうな・・・証になりそうな物など、とうの昔に処分されておるか」


「魔王様。神獣タマコ様においては、お言葉を賜れます。証を揃えられずとも、面通しのみで拘束には十分です。後に強制捜査を致しては」


「面通しは捕らえた後であるぞ。証拠なしに捕らえて、発表はどうする。神獣の存在は決して民に知られてはならぬ。似たような事を考える輩が、また出てもおかしくない」


「匿名の複数の目撃証言で発覚した、で通しましょう」


「うぬ・・・それも致し方ないか。よし。1刻待つ。1刻で証が見つからねば、拘束の後、タマコに面通しの方向。その後、強制捜査に踏み込み、何としても証を揃える。その旨、皆に伝えよ」


「ははっ!」



----------



 翌朝、号外が出され、4組の父母8人の、殺人容疑者が拘束されたと発表された。

 子殺しの容疑であり、容疑と言っても既に証拠も揃っており、目撃者の確認も済んでいる、非道な殺人犯との事である。


 また、幻術使いの妖は存在はしたが、死んだ子らの念から産まれた野良犬の姿の妖で、その為に目撃された時期がほぼ同じであった、とされた。

 危険な存在ではなく、子供の念から産まれただけあって、ただのいたずら好きな妖であり、その祓いにマツとクレールの魔術師2人が助力したと、王宮魔術師ならびに魔術研究所の両所からの正式発表がなされた。


 号外には、狐という字は出なかった。


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