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第8話 魔法は退化した

 すっかり遅くなってしまった。空が赤くなる頃に、私たちは解散して、それぞれ帰路につく。シモンは騎士団の訓練場へ、ユリウスはターコイズ宮へ、そして私はマゼンタ宮へ。


 勢いでユリウスにお菓子を渡してしまったせいで、セリーヌの分がなくなってしまい、私は申し訳ない気持ちだった。一番お世話になっていて、一番感謝を伝えたい相手なのに。


 仕方がない。今回は正直に謝って、次回は真っ先にセリーヌへあげることにしよう。


 そうしてマゼンタ宮の前に着くと、誰かが向かいから歩いてくるのが見えてくる。プラチナ宮の方面から歩いてきたらしいその女性は、華美なドレスを身に纏っていた。


 それだけで、侍女ではないことは明らかだ。使用人を引き連れて優雅な足取りで歩いてくると、私に気付いて足を止める。美しい銀色の髪は高く括り、私を見下ろす瞳は炎のように赤い。


 私は、この赤い瞳を知っている。




 相手が誰なのか大凡予想がついた。私は足を止めると、その大人を見上げてみる。目が合っているが、その女は私の瞳しか見えていないようだった。忌々し気に、私の瞳を睨みつけると、その表情とは裏腹に優雅な声で言った。


「ご機嫌よう、アンジェリカ」

「……誰ですか?」


 わかっていながら、私は低く呟く。この女が、自分に対して良い感情を持っていないのは明らかなので、敵意を剥き出しにしてしまう。だが、名前を知らないのも事実だった。


 女は、手に持っていた扇子を開くと、それで口元を隠す。そして、私が見慣れた瞳で、冷ややかに見下ろしてきた。


「第二皇妃よ。貴女にとっては姉の母親にあたるのだから、敬意を表しなさい」

「……第二、皇妃殿下にご挨拶申し上げます」


 何故自分を虐めていた相手の母親に敬意など払わなくてはいけないのか。


 腹が立ちながらも、立場で言えば相手が上なので、面倒を避けようと私は形だけの挨拶を見せる。ただし、嫌味のように『第二』を強調するのは忘れない。


 そう、この女は所詮皇妃の中でも2番目の地位だ。第一皇子を産んだ第一皇妃には劣る存在である。




 すると、ちょっとした嫌味のつもりが、相手の地雷を踏んだらしい。第二皇妃は音を立てて扇子を閉じると、鬼のような形相で私を睨んだ。


 しかし、全然怖くない。もしここで殴りでもしたら、すぐに父親に言いつけてやる。今なら心象的にも、私の言い分の方が通りそうである。


 しかし、皇妃は皇女ほど浅はかではなかった。私のことを射殺しそうな目で見つめてから、そのまま黙って背中を向けて、マゼンタ宮の中へ入っていく。


 娘の様子でも見にきたのだろうか。やはり皇妃が皇宮内にいると言うのは、十分な後ろ盾になるようだ。


 別にやりあっても良かったのだが。黙って行ってしまった第二皇妃の背中を見送り、少し拍子抜けしつつも、私も自分の部屋へと戻るのだった。







 第二皇妃は苛立たし気に足を進めていた。あの下賤の子供の瞳。あの瞳の色が、自分の子供に表れなかったことが、どれだけ悔しいか。自分が第二皇妃に甘んじていることが、どれだけ忌々しいか。あの子供には一生理解できないだろう。


 第二皇妃、名前は『カーリン・ルクレッシオ』。元々はルクレッシオ皇国唯一の公爵家、『アーネル公爵令嬢』だった。


 政略として皇帝の元へ皇宮入りしたのは最も早かったが、中々子供に恵まれず、少し後に皇宮入りした『ベルマン侯爵令嬢』が先に皇子を産んだことで、第一皇妃の地位はいとも簡単に奪われた。


 この国では、皇妃の序列を決定づけるのは、実家の強さでも皇宮入りの早さでもない。子供を授かった順番である。続々と皇宮入りする他の貴族令嬢たちに恐怖を感じながらも、どうにか2番目に子どもを授かり、第二皇妃の座は勝ち取った。


 しかし、生まれたのは女の子。しかも、瞳の色は自分に似た赤色。




 第一皇妃の子供は男で、しかも金色の髪に皇室の瞳だった。遅れをとった上に、産まれた子供も第一皇妃の子に及ばない。そんな気持ちになる。実家からも散々に罵られた。ベルマン侯爵家が、アーネル公爵家に大きな顔をしているのも知っていた。


 それでも、仕方がないではないか。子供を授かるタイミングが遅れたのも、女の子が産まれたのも、自分の瞳の色に似てしまったのも、全部自分が望んだことではない。


 だが、まだ負けたわけではない。結局は、皇帝にさえなれれば良いのだ。自分の子供が皇帝になれば、誰にも文句は言わせない。だから、こんなところで、こんなつまらない理由で、つまづく訳にはいかなかった。


 第二皇妃は自分の娘が謹慎させられている部屋の前に立つ。今まではマゼンタ宮の三階にある一番広い部屋だったが、今は二階にある普通の広さの部屋である。


 自分の娘が、こんな待遇を受けていることに納得がいかない。皇帝に何度も異議を唱えたが、聞く耳を持ってもらえなかった。




 ドアノブに手をかける。扉を開けば、真っ暗な部屋の中で、物が散乱していた。だいぶ暴れたらしい。当のエレオノーラは、ベッドの上で膝を抱えて座っている。


 髪もボサボサで、ろくに食べていないようだ。相当荒れた様子に、第二皇妃はため息と共に娘に近づいた。


「お……母様」

「かわいそうなエレオノーラ。こんな扱いを受けて、許されないわ」

「うっ、うう……お母様。あの子が、私を、貶めたのです! あの下賤の子が、私のことを……っ!」


 泣きじゃくる娘の身体を、皇妃は優しく抱きしめた。可哀想に、愛しい子。こんな扱いは許されない。皇妃は耳元でそう囁き続ける。そう、こんなことは許されない。


 エレオノーラは優しい母親の胸でひとしきり泣くと、疲れた声で言葉を紡いだ。


「お母様、私はもう疲れました。もう、皇位継承なんて……――」

「エレオノーラ」




 娘の言葉を遮り、皇妃はエレオノーラの顔を自分の方へ向ける。そして、赤い瞳同士で視線を交わらせながら、言い聞かせるように、こう言った。


「貴女は、皇帝に、なるの」

「……でも、私は……――」

「貴女は、皇帝に、なる」

「……」


 まるで呪いのように、皇妃はその言葉を繰り返した。どれだけ不利であろうと、どれだけ第一皇子が優秀であろうと、関係ない。結局はこの子が皇帝に選ばれるなら、それで良い。


 皇帝になる。そうすれば全ての雑音が静かになるだろう。そうすればようやく、自分と我が子に正当な価値が生まれるだろう。


 だから、第二皇妃は自分の娘に刷り込み続けた。こんなつまらないことで、挫けてもらっては困るのだ。この子の行動も、皇帝にさえなれば誰も否定できなくなる。今はただ、ほんの少し、不当な扱いを受けているだけだ。


 直に誰も、私たちに逆らえなくなる。




 暗い部屋で、皇妃は自分の子供を慈しむように撫でながら、呪いの言葉を吐き続けた。その言葉の中で埋もれながら、エレオノーラの瞳も澱んでゆく。そうだ、皇帝にならなくては。自分が、皇帝になれば、あんな下賤の子供一人、自由にできる。


 母娘は、お互いを抱きしめながら、重く言葉を重ねるのだった。


「貴方は、皇帝に、なるのよ。わかったわね、エレオノーラ」

「……はい、お母様」







 翌日。


 私は再び侍女たちに一人で出掛けたいとわがままを言って部屋を出ていた。ひとつ分かったことは、侍女たちは私がお願いすれば、大体聞いてくれる。


 一人で出歩かせるのも、本当は嫌だとは思うが、私が頼めば不安そうにしながらも了承してくれた。


 城の敷地からは出ないし、あちこちに城の兵士がいるので、危険なことはないだろう。そうして私は昨日ユリウスと約束した通り図書館に来ていた。


 図書館は相変わらず静かで、本のいい匂いがする。私が見渡すと、勉強用のテーブルにユリウスがいた。


「ユリウスお兄様!」

「あ、あ、アンジェリカ……。本当に来たんだね」

「約束したじゃないですか!」




 信用されていなかったことに少しむくれながら、私はユリウスの隣に座る。ユリウスは少し動揺しながら、自分の持ってきた本を私に開いて見せてくれた。


 難しい言葉が沢山並んでいる。アンジェリカはまだ8歳だし、エルサも学術的な本は難しくて読めなかったので、書いている内容を直ぐには理解できそうにない。しかしユリウスは、当然私が理解できないものと思って、ゆっくりと解説してくれた。


 簡単にまとめると、500年前『銀色の悪魔』こと大魔導士エルサが使用していた魔法は、現代では『古代魔法』と呼ばれているらしい。


 理由は簡単で、それが古代文明の残した技術であることと、既に使える人がいない『古代』のものだからだ。それに対して、現代の曲芸のような魔法は『現代魔法』と呼ばれている。


 では何故、古代魔法は絶滅してしまったのか。


「理由は簡単でね……危険だから、誰も使わなくなっちゃったんだよ」

「危険……?」

「う、うん。エルサ大先生が身を持って教えてくださったことなんだけど、強力な古代魔法の使いすぎは、寿命を縮めるんだ」




 その言葉に、私の心臓が大きく跳ねた。戦争が終わってから四年も経たずに、エルサは突如として亡くなった。戦争の無理が祟ったのだと医者は言っていたが、それは魔法の使いすぎが原因だったのだろうか。


 身体が震える。何とも言えない感情が胸いっぱいに広がっていく。


 エルサは、王国の使い捨ての駒になりたくなくて、必死に訓練した。役に立とうと、生き残ろうと、必死に魔法を使い続けた。


 けれどその結果は、結局『死』だ。虚しさのような、渇いた感情に襲われる。自分は結局、使い捨ての駒に違いなかったのだろうか。


 表情を暗くする私に気づかず、ユリウスは話を続けている。私は、その言葉の半分も頭に入ってこない。


「古代魔法だって、使いすぎなければ大して身体に害は無いんだよ。それでも、みんな古代魔法を怖がった。妖精の、呪いの力だって」

「……」

「それで、500年前の戦争が終わった頃から、古代魔法を使う人はいなくなって、現代には使い方や呪文も残されていないんだ」

「……そう、なんですね」


 ふと、マゼンタ宮の地下から抜け出した夜のことを思い出す。あの日、魔法で壺を割った私に対して、侍女たちは「化け物」と言った。


 私からすれば弱い魔法を使っただけのつもりだったが、彼女たちからすれば未知の呪文と未知の力だった訳だ。それは確かに、化け物に違いないだろう。




 私は渇いた笑いが漏れる。自分が思っている以上に、自分の使っていた魔法が現代に遺っていないのがショックだった。


 自分に生きる意味を与えてくれた魔法が、自分を殺したという事実も胸が痛い。どうやら思ったより、エルサは魔法のことを愛していたようだ。


 ユリウスはようやく、私が落ち込んでいることに気がついたらしい。理由は分からなかったが、暗い表情を見せる妹に、ユリウスは困ったように視線を彷徨わせてから、その本を閉じる。


「こ、この本は面白くなかったね!」

「……いいえ。教えて下さりありがとうございます」

「えっと、えっと……エルサ大先生の活躍が載った本は他にも沢山あるから、そっちを貸してあげるね」

「……はい」


 私は、無理やり笑顔を作った。自分の我儘に応えてくれたユリウスに、精一杯の感謝を伝えたかった。


 望んだ結果ではなかったが、事実を知れたのはいいことだと思う。使いすぎなければ大丈夫だと言っていたが、アンジェリカの身体で大きな古代魔法を使うのは控えた方が良さそうだ。


 今日は、これ以上調べ物をする気分にならなくて、私はマゼンタ宮へ帰ることにした。すると、ユリウスが「送ってあげる」と言ってくれる。兄らしい優しい気遣いに、私は素直に了承した。




 私とユリウスが一緒に図書館を出ると、それを待っていたかのように人影がふたつ道を塞ぐ。全く同じシルエットに、私は直ぐに思い当たった。


 第二皇子と第三皇子。双子の皇子だ。


 彼らの姿を見た瞬間、ユリウスの足が止まる。そして、怯えたようにガタガタと震え出した。そんな様子を見て、双子はニヤニヤと笑っている。髪の色は焦茶だが、瞳の色は皇室の色だ。その瞳が馬鹿にしたように冷徹な色をしていた。


 彼らの名前は『フェリクス・ルクレッシオ』。そして『ヴィリアム・ルクレッシオ』どっちがどっちか、私には見分けがつかない。


「おい見ろよフェル。下賤の子と『色なし』が一緒にいるよ」

「本当だヴィル。やっぱり気が合うんだな。皇室の外れモノ同士で」


 お互いの名前を呼んだことで、ようやく私にも見分けがついた。前髪を右分けにしているのがフェリクスで、左分けにしているのがヴィリアムらしい。




 下賤の子というのは自分のことだとわかるが、『色なし』とはユリウスのことだろうか。横目にユリウスの様子を窺えば、長い前髪の下で表情が青ざめているのが伝わってくる。何故『色なし』なのか、凡そ検討はついた。


 皇室特有の金色の髪も、皇室特有の瞳の色も持ち合わせていない。それが『色なし』なのだろう。ユリウスの赤い髪も、緑の瞳も、きっと母親譲りのものだ。彼が瞳を隠すように前髪を伸ばしているのも、そのことを気にしているのかも知れない。


 ユリウスは、何も言えずにうつむいていた。確か双子は12歳。ユリウスからすれば二歳年上だ。


 やはり、ユリウスの雰囲気が昔のアンジェリカに似ていると思っていたが、兄たちから虐められているのだろう。しかも相手は二人だ。彼には逆らうことなどできないとわかる。


 ユリウスは優しい人だ。それと同時に、弱い人だと私は思っている。優しい人は、どうしても弱くなってしまう。いい人は、人を傷つけることが出来ないから、自分が傷つく道を選んでしまう。


 仕方がない。と、私は一歩前に出た。優しい兄を守るのは、妹である自分の役目だろう。双子は、私を見ると楽しそうに笑っている。


「お、でたでた。エレオノーラに喧嘩を売った身の程知らず!」

「あ〜怖い。俺たちがこんなこと言ったのも、全部お父様に言いつけちゃうんだろ?」




 そう言ってケラケラと笑う声が耳障りで、私は二人を睨みつけた。完全に馬鹿にしているようだ。本当に父親に言いつけてやっても良いのだが、それもつまらないだろう。私は腕を組んで、双子を睨みつけた。


「言いつけて欲しいならそうしてあげるけど、私はそんなことしないわ」

「へえ、じゃあどうするつもり?」

「どうもしない。貴方たちに構ってあげるほど暇じゃないの。そこを退いて」


 しかし、双子は言われた通りに退くはずもなく、馬鹿にしたように大声で笑っている。その笑い声に、ユリウスは更に怯えたように縮こまった。だが、私は全く動じずに、双子を睨みつける。


「退いてだって! そんなこと言われて、素直に退いてもらえると思ってるのかなあ? ちょっと世間知らずなんじゃない?」

「仕方ないよ。だってコイツ、地下室で育ったんだから」

「ああそっか、それじゃあ世間知らずで仕方ないか! アハハハっ!」

「……言いたいことは全部言った? 満足したなら早く退いて」


 私は嫌味に反応を見せず、冷たい目で双子を睨んだ。自分のことを悪く言われるのは別に良い。皇族としての立場にこだわりは無いし、皇族としての誇りも申し訳ないが持ちあわせていない。事実であれば尚更何を言われてもいいと思っていた。




 だが、双子はその反応が気に食わなかったらしい。ぴたりと同時に笑うのを止めると、つまらなそうな表情で私を睨む。そして、嫌味が通じないと分かったのか、すぐに手段を変えてきた。


「嫌だよ。退いて欲しいなら力尽くでどうにかすれば?」

「ほらほら、ひ弱なもやしっ子たち。泣きながら『道をお譲りくださいお兄様』だ。言えるだろ?」

「……」


 呆れて何も言えなくなる。ユリウスの立場もあるので、どうにか穏便に済ませようと考えていたが、本当に力尽くで退かしてやろうか。


 先ほど古代魔法を使いすぎないようにしようと決めたばかりだが、この二人に痛い目を見せるくらいなら、支障はないだろう。使いすぎなければ大丈夫だとユリウスも言っていたし、そうだ、きっと大丈夫に違いない。


 そうして私が悩んでいると、不意に視界が翳った。どうしたのかと思ったが、私の後ろにいたユリウスが、私の前に立って腕を広げているようだ。まるで、私を庇うように立ち塞がっている。


 予想外の行動に、双子と私は驚いた。ユリウスは、こういう状況で何も出来ない人だと思っていた。しかし、ガタガタと震えながらも、私を守ろうと勇気を振り絞っているのが分かる。


「あ、あ、アンジェリカに手を出すな……っ!」

「お〜カッコイイ。今更お兄ちゃんぶってるの?」

「やーい偽善者。偽善者はクリストフェル一人だけで十分だって」

「う、うるさい! 僕と、け……『決闘』をしろ!」




 ユリウスの口から飛び出した予想外の言葉に、その場の誰もが驚いた。ユリウスの口から出るにはあまりに程遠い言葉だ。


 『決闘』はいわゆる喧嘩や虐めとは違う。暴力の大義名分のようなもので、この名の下に承諾した者同士であれば、どんな怪我をしようと、文句は言えない。自分の主張を通すための、正当な暴力である。


 こんな都合の良い口実に、双子は乗らないはずがなかった。二人は目の色を変えると、口元に妖しい笑顔を浮かべる。


 そして目配せをして、ヴィリアムは背中に背負っていた木剣をユリウスに投げ渡した。自分自身は道端に落ちていた太い木の枝を拾い上げると、それを構える。フェリクスも持っていた木剣を抜くと、同じように構えた。


「その決闘、乗った」

「お兄ちゃんからのせめてもの慈悲だ。木剣は使って良いぜ、使い方がわかればな」

「……っ!」


 ユリウスは必死に剣を構えるが、私には分かる。ユリウスの構えは、剣を握ったことが無い初心者のものだ。どうしよう。自分も参戦するべきだろうか。


 二対一は流石にユリウスが可哀想すぎる。だが、剣の代わりになりそうなものは見渡しても見つからない。


 そうして迷っている間に、ヴィリアムが地面を蹴った。速い。剣を使い慣れている動きだ。しかも身体を鍛えているのか、恐ろしくしなやかだった。


 こんなの一撃で決着がついてしまう。私は咄嗟に魔法を唱えるか迷った。【加護の呪文】であれば攻撃を防ぐことができる。だが、一瞬迷った間に、もう間に合わない。




 私は目をそらせずにヴィリアムの握る枝の先を目線で追った。それがユリウスの頭を直撃する、そう思ったその時。木剣が寸でのところで木の枝を受け止めた。私は息を呑む。受け止めた木剣は、ユリウスのものではない。


 そこに現れた新しい参戦者に対して、ヴィリアムは楽しそうに笑っている。


 私も、予想外の人物の登場に、驚いて名前を呼ぶことすら出来ない。鼠色の髪の少年は、ユリウスの前に立ち塞がってヴィリアムの枝を受け止めながら、余裕の笑みを湛えていた。


 ヴィリアムとシモンは、間近で睨み合いながら、状況に似合わぬ楽しげな声で言葉を交わしている。





「楽しそうなことしてるな。俺も混ぜろよ」

「良いぜドブネズミ。まとめて俺たちが『教育』してやる」

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