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第7話 4番目の兄

 騎士の訓練場は、昨日と変わらず熱気に包まれていた。物陰から様子を窺うのではなく、今日はちゃんと用事があるので堂々と正面から入ろう。そう思いながら私は訓練場の門の前に立つと、見張りの兵士に笑顔を向けた。


「こんにちは」

「ん、子供……? どうしてこんな所に」


 不審そうな表情を見せる兵士を、私はじっと見つめる。自分の瞳を見ろと言わんばかりに見つめ続ければ、兵士もようやく私の瞳の色に気がついたのか、慌てて姿勢を正した。


「皇女殿下でしたか! ここには一体どんなご用件で」

「訓練の見学がしたいの」

「見学……ですか? しかし騎士の訓練は怪我も伴いますので、皇女殿下が見て楽しいものでは――」

「良いの。早く通して」


 私の真っ直ぐな言葉に、兵士は渋々と門を開けた。彼からすれば8歳の少女が見るには、あまりに刺激が強いと考えたのだろう。


 生憎、戦場で生きてきた記憶があるので、目の前で腕や首が飛ぶのを散々見てきたのだから、大抵の場合は私に衝撃を与えることはできないはずだ。




 それにしても、この瞳は本当に便利だと思う。宝石のような青い瞳に、緑の虹彩が散りばめられたこの特殊な色は、皇族であることを象徴している。謂わば身分証明のようなものだ。


 そう思うと同時に、私はひとつ違和感を覚える。本当に、皇族以外にこの瞳を持つ者はいないのだろうか。


 皇族の親戚で、この瞳を持つものが居てもおかしくない気がする。けれど、城の兵士たちの反応は、一律としてこの瞳を持つ少女はアンジェリカだと判断していた。


 そういえば思い出してみると、父親には兄弟が一人いたような気もする。誰かから伯父の話を聞いたような記憶はあるが、その話を聞いたのはアンジェリカの物心がつく前後のようなので、かなり記憶が曖昧だった。


 普通に考えれば、その人に子供がいれば、その子供に皇族の瞳が出現することだってあるだろう。父親だけではなく、その前の代やもっと昔に、皇室から離れた兄弟たちの子供はどうだろうか。隔世遺伝だってありえる。


 考え出すとキリがないので、私は一度首を横に振るとその思考を中断した。自分はまだルクレッシオについて知らない事ばかりだ。


 皇宮を出て皇族ではなくなるためには、それらの事情も後々知っていく必要があるだろう。だが、今はまだこの瞳の持つ便利さだけを享受することにしよう。




 騎士の訓練場は、高い塀に囲われて外から見えないようになっている。しかし、昨日私が覗き見をしたように、壁自体はボロボロで崩れかけている部分もあるため、外から覗こうと思えばいつでも覗けるはずだ。


 真ん中では、騎士たちが実戦形式の稽古をしていて。壁際では騎士見習いたちが基礎の稽古や体力作りをしているようだ。訓練場の面積は広く、大勢の騎士や騎士見習いが訓練していても、狭さや息苦しさはほとんど感じなかった。


 私はきょろきょろと中を見渡す。そして、訓練場の端で筋トレをしているお目当ての相手を見つけた。


 このような男ばかりの訓練場に突如現れた少女に対して、皆の視線が自然と私に集まっている。しかし、そんなことを気にも止めず、私は走り出した。


「シモン!」


 名前を呼ばれて、シモンはようやく私に気がついた。腹筋をしている途中だったのか、身体を上げた状態で一度硬直すると、私の顔を見るや否や明らかに動揺し始める。


 一緒に筋トレしていたのか、足を押さえていた相手を蹴り飛ばすと、慌てて立ち上がって私に駆け寄った。


「どうしてここにっ!? アンジェリ……――」




 そこまで言ってから、シモンは思い出したようにはっとする。そして、訓練場の騎士たちが、その言葉を聞くと一斉に片膝をついて私に頭を下げた。


 シモンも、周りを見ると少し躊躇してから同じように頭を下げる。訓練場の誰もが自分に頭を下げている異様な状況に、私は困惑した。それと同時に、自分の行動が浅はかだったのを痛感する。


 自分は皇族で、彼らは皇室の騎士だ。これが、自分と彼らの間の『関係』である。前世では、騎士は友達や戦友のような感覚だったので、自分が敬意を払われる対象だという自覚が無かった。


 私は表情を暗くしながら、頭を下げ続ける彼らに対して呟くように告げる。


「訓練の邪魔をするつもりじゃなかったの、ごめんなさい。私は気にせず、続けてください」


 そう言うと、騎士たちはお互いに顔を見合わせる。皇女がこう言っているが、本当にいいのだろうかと探っている空気だった。そこに、二拍乾いた手の鳴る音が聞こえれば、全員の視線がそちらに向かう。


 騎士団長だ。老いてはいるが威厳は失わず、鍛え上げられた筋肉を老体に似付かわしくないほどに纏っている。騎士団長は、よく通る声で全員に告げた。


「各自、訓練に戻れ!」


 その号令で、騎士たちは何事も無かったかのように元の訓練へと戻っていく。その中で騎士団長だけは、真っ直ぐに私の元へ歩いてきた。


 隣に立てば、騎士団長の身長の高さにも驚かされる。私が小さすぎることを除いても、彼の身長は優に二メートルあるだろう。




 その大男が、私の前で片膝をつく。そして厳つい顔に似合わぬ優しい瞳で、私と目線を合わせた。


「皇女殿下にご挨拶申し上げます。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「えっと……。友達に渡したいものがあるだけなの」

「そうでしたか。皇女殿下自ら御足労いただけるなんて、よほど大切なものなのでしょう。直ぐに呼んで参ります、どいつでしょうか?」


 凄く大事に捉えられてしまい、私は嫌な汗が流れた。まさか、手作りのお菓子をプレゼントしようと思っただけなのに、こんなことになるなんて。言えない。渡したい物がお菓子だなんて、恥ずかしすぎる。




 私は、裏返りそうな声で気まずそうに目をそらしながら答えた。


「シモン……なんだけど、ちょっとだけお借りしてもいいですか? その、ここだと渡しにくくて」

「あいつですか。なるほど……お待ちください」


 そう言って騎士団長は壁側の方へ歩いていく。こちらの様子を横目に窺っていたシモンは、騎士団長が来たのを見ると、慌てて真面目に訓練している風に装っていた。


 一度騎士団長に頭を叩かれてから、シモンは引きずられるようにこちらに連れて来られる。そして私の前まで連れてくると、騎士団長は再び笑った。


「こちらでお間違い無いでしょうか?」

「は、はい」

「それではどうぞ、お貸しいたします」


 そう言って騎士団長はシモンから手を離すと、踵を返して訓練の様子を見に行ってしまった。残された私とシモンは、気まずそうに数秒黙り込んだ後、どちらからともなく提案する。


「取り敢えず、外で話そうか」







 騎士の訓練場を出てから、少し歩いた所に公園がある。木々が多く、小さな川が流れて、中央には静かな噴水もあり、皇城の中でも屈指の憩いの場だ。


 そこそこの広さもあるので、私とシモンは一緒にそこを歩き始めて、ようやく気分が落ち着いてくる。


「何してんだよ、オマエ」


 開口一番、シモンは呆れたような口調で私に言った。その口調が砕けた物で、私は少し安心する。自分が皇女だと分かったので、騎士を目指す彼はもう、丁寧に扱ってくるのかと思った。先ほど訓練場で、片膝をついた礼をしたように。


 だが、私としてはこの距離感の方が落ち着く。シモンとは友達になりたかったので、畏まって欲しくなかった。私もようやく詰まっていた息を吐き出すと、その言葉に応える。


「私もこんなことになるとは思わなかったの」

「皇女なんだろ、自覚持てよな」

「仕方ないでしょ、皇女として扱われるようになったのは、ほんの数日前なんだから」


 その言葉に、シモンは不思議そうに首を傾げた。しかし、この話を掘り下げても楽しくないと分かっているので、私はすぐに話題を変える。




「今日はちゃんと、訓練に参加してたみたいね」

「……悪いかよ」

「ううん、偉いなと思って。いや、普通かな?」


 思えば騎士見習いが訓練に参加するのは至って普通のことだ。ただ訓練に参加したくらいで、偉いと褒めるものでは無い気がする。そんなことを考えていると、シモンは拗ねたようにこう言った。


「訓練をサボりすぎると、年下の細腕の女に負けるかも知れないから。真面目にやろうと思って」

「あら、そんな女の子がいるの? こわいね」

「ああ恐ろしいよ。全く、誰から剣を習ったんだか」


 そう言って二人は目を配る。そして目が合うと、同じタイミングで笑い出した。まだ知り合ったばかりだと言うのに、シモンとはとても話し易かった。


 良くも悪くも彼には裏表が無くて、前世で平民と関わることの方が多かった私にとっては、貴族とは違うこの距離感が心地良い。


 そうして暫く話しながら歩いていると、公園の中央にある噴水へと辿り着いた。静かに水の噴き出す音が涼やかに充満し、噴水の周りにはベンチも備えられている。


 一際高い木々で囲われているため、木漏れ陽が気持ち良い。爽やかな空気が美味しくて、私は一度思い切り深呼吸した。


「だ、だれっ?」


 すると、噴水の向こう側から声を掛けられる。噴水の水でよく見えないが、誰かが奥にいるようだ。私とシモンが顔を見合わせていると、声は更に続けて言った。


「ご、ごめんなさい! すぐ出ていくから、すみませんっ!」




 どこか怯えたように、声が震えている。そしてゴソゴソと音が聞こえていたが、何かを落としたのか、次いでドサドサという音が聞こえてきた。この時点で、私は噴水の向こう側へ小走りで回る。


 自分たちが来たことで、先客に気を使わせてしまったのかも知れない。申し訳ない気持ちで噴水の裏側を見れば、そこには知っている顔がいた。


 いや、正確には顔は見えない。長い赤毛で顔を隠していて表情までは見えないが、先日の晩餐会にいたので覚えている。

 『ユリウス・ルクレッシオ』。第四皇子だ。


 ユリウスは、地面に落としてしまった数冊の本を、慌てて拾っていた。私にはまだ気づいていない様子なので、私も一緒になって床に膝をつき本を拾い集める。


 正直、第四皇子のことはよく知らなかった。もっと言うなら。第二皇子と第三皇子のこともよく知らない。自分の兄姉のことで知っているのは、エレオノーラがいけ好かない悪女であることと、第一皇子が人格者であるという噂だけだ。


 兄姉はみんな嫌な奴かと思っていたが、第四皇子の様子はどちらかと言うと何かに怯えていて、暗い雰囲気がある。まるで、エルサの記憶が蘇る前の、アンジェリカのようだった。




 そう思った時、ふと思い至る。もしかしてこの皇子も、私のように他の皇子たちから虐められていたりするのだろうか。第四皇子の母親である第四皇妃は既に亡くなっている。つまり、この皇宮においてこの皇子には後ろ盾がいないも同然だ。


 母親が貴族家出身のはずなので、実家の目がある以上アンジェリカのような虐げられ方はしていないとは思うが、この陰鬱な雰囲気は何事も無く平穏に育っているとは考え辛い。


 そうして全ての本を拾い集めたところで、ユリウスはようやく私に気がついた。


「ありが……――ヒッ! アンジェリカ!?」

「ごきげんよう、お兄様」


 形式ばかりの挨拶と共に、私は拾った本をユリウスに差し出した。しかし、ユリウスはまた何かに怯えたように、折角拾い集めた本を取り落としてしまう。


 また拾い直しかと、私はため息をつく。シモンは見ているばかりで、手伝ってくれる様子はない。床に膝をついて、私が再び本を拾い始めると、ユリウスの引き攣った声が聞こえてきた。




「ど、どうして……?」

「本は大事に扱わないとダメだから、早く拾おうと思って」

「そうじゃなくて、ど、どうして僕のところに……? まさか復讐するつもり……ッ!?」


 復讐。と言う物騒な単語に私は少し笑いそうになる。この人は一体何に怯えているのだろう。こんな小さな少女に、何が出来ると言うのだろうか。そして、ユリウスの疑問に答えたのは、今までずっと傍観していたシモンだった。


「俺とこいつはただ散歩してただけだ。オマエに用はないから安心しろ」

「こらシモンっ! 私はともかく他の皇族にはちゃんと敬語で話しなさい!」


 私がそう叱れば、シモンは面倒くさそうに目をそらした。そんな私たちのやり取りを見ていたユリウスは、少しずつ警戒心が薄れてくる。そして、恐る恐る私に尋ねた。


「お、怒ってないの? 僕が君を三年間も……その、助けなかったこと」

「ああ、あの晩餐会で私が言ったことですか? あんなのただの嫌味なので、全然気にしてないですよ」

「オマエ、なに言ったの?」

「ふふ、内緒」


 エレオノーラは制裁を受けて謹慎処分となり、そろそろ一週間が経つ。マゼンタ宮の一番良い部屋を私に取られ、かなり屈辱的な気分になっていることだろう。


 私が他の兄たちや父親にも、同罪だと言ったことを、この兄は重く受け止めているようだ。




 だが、ユリウスがその事を気に病む必要はないと思う。自分と2歳ほどしか変わらず、後ろ盾もないこの皇子には、きっと何もできなかったはずだ。


 それでも、ユリウスは下を見ながら、小刻みに震えている。ただでさえ暗い雰囲気が、余計にジメジメして見えた。


 ここは早く立ち去ってあげようと、私は本を拾う手つきを早める。そして、改めて本の表紙を見ると、あることに気がついた。ここにある本は全て、貸出中だった魔法に関する本だ。


 しかも、基礎ではなく応用について書かれているものばかりに見える。


 昨日諦めた本たちを目の前にして、私は思わず飛び上がるほど喜んだ。この本であれば、私の――いや、エルサの知る魔法について載っているかも知れない。


 私はまだ震えているユリウスに向かって、本を抱えながら勢いに任せて詰め寄ってしまう。


「ユリウスお兄様! この魔法の本は全てお兄様が借りたものですか!?」

「へ……? う、うん。そうだけど――」

「私にも読ませてください!」




 瞳を輝かせる私に、ユリウスの身体の緊張が徐々に解ける。ふと長い前髪の隙間から見えた瞳は、皇族特有のものではない、深い緑色をしていた。


 ユリウスは、私と同じように、少し興奮した様子でベンチに置いていた本も拾い上げる。そして早口に捲し立てた。


「アンジェリカは、ま、魔法に興味があるの?」

「はい! でも昨日私が借りた本にはお遊び……いえ、基礎的な内容しか載っていなくて」

「応用の内容だと、ここら辺の本が分かり易いよ。こっちの本は実践よりも理論について載っていて、こっちの本は歴史がメイン。あとはこの本だと応用を更に応用した実験がまとめられていて……――!」


 そう言ってユリウスは自分が読んでいた本について一冊ずつ解説を始める。先ほどまで澱んだ口調だったのが嘘のように饒舌になる様子から、本当に魔法が好きなのだと伝わってくるようだ。


 シモンは途中から飽きてあくびをしていたが、私は一冊ずつ真剣に説明を聞いた。しかし、私の求めるような魔法の内容は、やはりどの本にも載っていないらしい。


 どれも、応用とはいえ曲芸の中の応用に過ぎない。古代の文明が作り出した、美しい魔法については、どの本にも載っていないようだ。私が諦めかけていると、ユリウスは最後に思い出したようにこう付け足した。


「でも僕が一番好きなのは、エルサ大先生!」

「はい! え、はい?」


 自分の名前を呼ばれた気がして、大きな声で返事をしてから、私は特大のクエスチョンマークを頭に浮かべる。今、本当にエルサの名前を呼んだのだろうか。困惑している私の前で、ユリウスは解説を続けた。




「エルサ大先生が使用していた『古代魔法』は、現代では喪われてしまったけど、僕はこの世で一番美しい魔法だったと思うんだ!」

「ち、ちょっと待って。古代魔法? 喪われた……? お願い、その内容をもっと詳しく教えて!」

「アンジェリカも古代魔法に興味あるの? エルサ大先生に関する本は僕の部屋にあるから、明日図書館へ返しに行こうか?」

「お願いしますっ!」


 嫌な予感で、心臓の音が大きくなる。もしかすると、エルサの愛した魔法は退化したどころの話でないのかも知れない。喪われた。だとしたら、それは何故なのか。いったい自分が死んでから、この世界と魔法に何が起こったのだろうか。


 そうして私が自分の考えに耽っている間、シモンはパラパラとめくっていた本を閉じると、それをユリウスに差し出しながらこう言った。


「お貴族様は、何でもかんでも本を見て学ぶんだな」

「えっと、うん。そうだね。むしろそれ以外、魔法を学べる機会は殆どないし……」

「ふーん。でも実際に使えなきゃ、勉強するだけ無駄じゃね?」


 その会話を耳半分で聞いていた私は、ハっとなってシモンの後頭部を叩いた。油断も隙もない。将来騎士を目指している見習いが、将来主人になる皇族に対して舐めた口をきいて良いはずがないだろう。




「こらっ! 敬語!」

「い、いや、僕のことは気にしなくていいよ……。多分、同い年くらいだと思うし。君、名前と歳は?」

「シモン。多分10歳くらい」

「ああ、やっぱり同い年だ。僕のことはユリウスでいいよ、シモンくん」

「くん付とかヤメロ……ください。呼び捨てで良い」

「じゃあ、えっと……シモン。僕は君の言う通りだと思うよ。僕は魔法の勉強は沢山しているけど、実際に使える訳ではないから」


 そう言って、ユリウスはまた落ち込んだようにうつむいた。この世界の曲芸レベルの魔法であれば、一般的な教養とはまた違う、趣味のような分類なのかも知れない。


 戦争もないのであれば、魔法に殺傷能力を持たせようという発想もないのだろう。専門の先生がいなければ、本を読むだけでは魔力のコントロールすら難しいのかも知れない。


 落ち込んでしまったユリウスを元気付けようと、私はポケットからお菓子の入った袋を2つ取り出した。そして、シモンとユリウスにそれぞれ渡してあげる。




 二人はそれを受け取ると、袋に入ったマカロンを不思議そうに見つめていた。


「はい、それは私たちが仲良くなった記念にあげるわ!」

「これ食いもんか?」

「お、お菓子だよ。マカロン……だよね?」

「そうよ、私が手作りしたんだから!」


 そう言って得意気な表情を見せる私に対して、シモンは驚いたような目をむける。それから、もう一度お菓子をまじまじと見た。何度も私とお菓子を交互に見るので、どうやら信じられないらしい。


 一方ユリウスは、嬉しそうに口元を綻ばせている。


「あ、ありがとうアンジェリカ。僕、甘いものが好きなんだ。嬉しい、よ」

「これをオマエが……? 人って見た目によらないんだな……」

「ちょっとどういう意味!? いらないなら返してよ!」

「ヤダっ!」


 無邪気に言い合う私とシモンを見て、ユリウスは当初の緊張も忘れて笑っていた。ユリウス自身も、そうして心から笑ったのが久しぶりなのか、笑っている自分に少し戸惑いを感じている様子を見せるのだった。

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