表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9

第9話 兄の帰還

 大変なことになってしまった。私は目の前で剣やら枝やらを構える四人の少年たちを見ながら、自分ではどうすることも出来ないため見守るしかない。


 シモンはユリウスの隣に並び、私と決闘したときと同様に、綺麗な剣の構えを見せている。二人は同い歳のはずだが、こうして並んで見ると、シモンの方が騎士として訓練している分、体格的に大きく見えた。


 しかし、目の前に対峙する双子はそんな二人よりも圧倒的に大きい。少年の年頃では二歳の差は埋め難く、双子の方が身長も高ければ、しっかりと鍛えているのか腕の太さも違った。


 シモンと距離を置いたヴィリアムに、フェリクスは不思議そうに尋ねている。


「ドブネズミって、クリストフェルが連れてきたっていう、あの平民のガキか?」

「ああ。最近訓練に顔を見せないと思ったら、こんなところで外れモノ同盟を組んでいたとはな」


 そう言って、双子は相変わらず耳障りな笑い声を上げた。引き続き喧嘩腰の態度に、私は腹の奥がムカムカする感覚を覚える。悔しい。武器があれば参戦したいと思ったが、そもそもシモンとの決闘で私自身に力がないことは既に理解していた。


 シモンに勝てなかったのだから、更に力のある双子相手では、余計に勝つことはできないだろう。どんなに剣術が身についていても、この身体にはそれを扱うだけの力が無い。そのことが、心の底から悔しい。




 やはり、自分には魔法しかない。しかし、私が使えるのは所謂『古代魔法』だけだ。あまり使いすぎないと心に決めたばかりだし、喪われた魔法を使ってしまえば、彼らからの追及は免れないだろう。


 そうなった場合、なんと言い訳をすれば良いのか、私には検討がついていなかった。


 『自分は500年前に生きていた大魔導士の記憶があります。だから、古代魔法を使うことができるんです。』と、本当のことを言ったとしても、到底信じてもらえるとは思えない。


 そんなことを考えている内に、再び目の前で斬り合いが始まった。ヴィリアムの握る木の枝が、シモンの木剣を激しく打ち付ける。木の表面同士が激しくぶつかり、微かに火花が散ったように見えた。


 一方、フェリクスもユリウスに斬りかかっている。上手い具合に一対一同士の構図が出来たようだ。しかし、ユリウスは剣なんて握ったことも無さそうなので、すぐに決着がついてしまうだろう。


 そう思っていたのだが、私は目を疑った。フェリクスは、ヴィリアムと同じ見た目をしているのに、剣の構えは全く異なる。それどころか、ユリウスと大して変わらないような腕前に見えた。


 なるほど、双子とはいえ似ていることばかりではないようだ。フェリクスはどうやら剣術があまり得意では無さそうに見える。これなら、まだユリウスでもある程度の勝負にはなるような気がした。




 だが、状況は明らかにユリウスとシモンが不利である。


 シモンは、剣の腕は立つものの、体格的に大きいヴィリアムに圧倒されていて、防戦一方のようだ。ユリウスに至っては、剣の構えからぐちゃぐちゃで、防戦すらままならない。


 私が思ったよりは、持ち堪えられないだろう。決断を迫られている気分だった。このまま彼らをある種の見殺しにするか、魔法を使って応戦するか、だ。


 もちろん気持ちとしては、このまま双子の思い通りになりたくない。兄らしく自分を庇ってくれたユリウスにも報いたいし、どういう意図かは分からないけれど、ユリウスを助けてくれたシモンの助けにもなりたい。


 昨日、公園の噴水前で、三人で笑い合ったことを思い出す。地下に閉じ込められていた頃のアンジェリカには、そんな相手ができることなんて夢のような話だっただろう。楽しかった。ほんのひと時だけど、あの時間を私は大事にしたいと思った。


 ダメだ。私も戦う。


 どうしても二人を見捨てることが出来ず、私は心を決めると一歩前に進み出した。しかし、すぐにシモンの叱責が飛んでくる。


「オマエは下がってろッ!」

「でも、私も戦いたいっ!」

「俺たちが誰のために決闘してると思ってんだ!?」


 その言葉に、私は肩が跳ねた。そうか、この状況は私のせいなのか。私が弱いから、私が守られる側だから、私が双子に舐められてるから。優しいユリウスとシモンが、私の代わりに戦ってくれているのか。




 そう思うと、余計にじっとしていられなくなる。前世では自分の身を自分で守るのが当然で、自分が皆んなを守る側だった。ただ守られている、この状況が、悔しい。


 すると、今までどうにかフェリクスの剣に耐えていたユリウスの身体が、勢いよく後方に弾き飛ばされた。地面を転がってしまったユリウスを満足そうに見下ろして、肩で息をしながらフェリクスが言った。


「はぁ、ふう……手間掛けさせやがって」

「も、もう止めなさいよ! ユリウスお兄様の負けでいいでしょ!?」

「外野は黙ってろ。これはな、決闘だ。どんな怪我をしても文句は言えないんだよッ!」


 そう言って、フェリクスは木剣を振り上げる。いたぶる気だと、直ぐに理解した。それを黙ってみているわけにはいかない。私は、魔法を使おうと即座に右手を前方に構える。ユリウスを守る魔法か、フェリクスを攻撃する呪文を唱えなくては。


 しかし、私が呪文を唱えるよりも、目の前の展開が早かった。


 地面に転がっていたユリウスが、方肘をついて上体を起こすと、もう片方の手をフェリクスに向ける。私の目には、ユリウスの手に魔力が宿っていくのが確かに見えた。


「【トルネード】っ!」


 ユリウスが口にしたのは、突風を起こす現代の魔法だ。私からしたら曲芸程度の魔法だったが、戦争ではなく子供の喧嘩にはこれが十分なのかも知れない。




 ユリウスの翳した手の先に魔力が集まり、やがてそれは大きな突風を巻き起こす。フェリクスの身体はその風に巻き込まれて、大きく後方へと飛ばされていった。


 悲鳴さえ置き去りにして、フェリクスの姿は見えないほど遠くへ運ばれていく。それを横目に見たヴィリアムは、焦ったように兄弟の名前を叫んでいた。


「フェリクス!? お前、いま何をした!?」


 ユリウスは、自分でも何をしたのか分かっていないかのように、呆然としている。あの様子からして、初めて魔法を使ったのだろうか。だとしたら、本を読んだだけであんなに上手く魔力を扱えるなんて、ユリウスには相当魔法の才能がある。


 吹き飛ばされた兄弟を心配して、ヴィリアムも引いてくれるのではないかと期待したが、逆効果だったらしい。ヴィリアムは目をつり上げると、怒りに満ちた表情で目の前のシモンを睨みつけた。


「オマエら、絶対に許さねえぞッ! 良くも俺の兄弟を!」

「ハッ! こいつらだって、お前の弟妹だろうがっ!」


 シモンは言い返しながら、ヴィリアムの攻撃を受け流していく。自分より力の強い相手と、真っ向から打ち合わず、攻撃を受け流す。それはこの前、私がやって見せた方法だ。


 一度見ただけで直ぐに実践に移せるなんて、シモンも相当の剣術の腕前だと思う。




 私はこの隙に、地面へ倒れたユリウスに手を貸して立たせてあげた。初めて魔法を使ったせいか、ユリウスは身体に力が入らないらしく、一人で立つこともままならない。


 魔法を使い慣れていない場合、魔力のコントロールが難しく、一度の魔法で大量に魔力を消費してしまう。ユリウスの魔法で、ついでにヴィリアムも吹き飛ばしてもらうことは出来そうになかった。


 私は、祈るような気持ちで二人の剣戟を見守る。先ほど私がわざわざ手を貸さなくても、ユリウスは負けなかった。シモンも、私の手助けなんて本当は必要無いのかも知れない。私は、シモンを信じてその決闘をただひたすら見守り続ける。


 けれど、シモンは防戦一方で全く攻撃に転じていない。隙を窺うようにヴィリアムから一度も目を離さないが、怒りに満ちていてもヴィリアムには全く隙がなかった。


 強い。私から見ても、この若さでここまで動けるのは相当な腕前だとわかる。戦場に出ても申し分ない腕前だ。そして、そんなヴィリアム相手に持ち堪えているシモンも同様に強いと思う。


 しかし、最後は体力の勝負だったのだろう。シモンは、腕が痺れたのか体力が尽きたのか、ついに木剣を取り落として体勢を崩した。片足に力が入らず、崩れるように片膝をつく。


 その瞬間を見逃すはずも無く、ヴィリアムは不敵に笑いながら木の枝を振り上げた。


「シモンっ!」


 私は彼の名前を叫ぶ。あんなもので殴られたら、木剣よりも痛いはずだ。血が出るかも知れない。今まで負傷する兵士など大勢見たはずなのに、シモンが怪我をするのは、全身から血の気が引くほど嫌だった。


 ユリウスを支える手を離して、私は無意識にシモンの元へ駆け出している。今更もう遅い。分かっている。それでもこのままただ見ていることはできなかった。




 ――しかし、ヴィリアムの振り上げた木の枝は、振り下ろされることはなかった。


 ヴィリアムが木の枝を振り下ろす力よりも、振り上げた枝を掴んだ男の力の方が上だったようだ。その男はヴィリアムの後方から現れると、彼の手から木の枝を難なく取り上げて、それを後方へと放り投げる。


 自分の武器を取り上げられて、ヴィリアムは噛み付くような勢いでその相手を振り返った。そして次の瞬間、ヴィリアムの表情が固まるのを、私は見逃さない。


 私も初めて見る顔だった。いや、もしかすると5歳までの間に会ったことがあるのかも知れないが、曖昧で覚えていない。けれど、彼が何者なのか直ぐに見当がついた。


 太陽の光を反射する、光そのものを体現する金色の髪。宝石のような青い瞳は、緑色の虹彩が散らばっている。


 アンジェリカの記憶が正しければ、彼は今16歳。一番上の兄である第一皇子――クリストフェルは、私たちの顔を見渡すと、慈しむような微笑みを向けた。


「俺が皇宮を離れている間に、ずいぶん仲良くなったんだな。ヴィル、ユーリ、それにアンジー。弟妹の仲が良いのは嬉しいな!」


 この状況を見て本気でそう言っているのだろうか。太陽のような笑顔を見せるクリストフェルの本心を窺うことができず、私は信じられない物を見る目で彼を見つめてしまう。




 しかし、私以外の三人も三者三様の反応を見せた。ヴィリアムは面倒くさそうに彼を睨み、ユリウスは気まずそうに目をそらす。そしてシモンは、クリストフェルを見ると瞳を輝かせるような笑顔を見せた。


「クリストフェル様! お帰りなさいっ!」

「ただいまシモン。俺のいない間も、ちゃんと訓練してたか?」

「えっと……はい!」


 嘘つき。そう言ってやろうとしたが、私は口を閉じる。あんなに嬉しそうなシモンの顔は初めて見たので、何となく黙っておいてあげたくなった。


 ユリウスは、ずっと地面を見つめて顔を上げようとしない。そしてヴィリアムは大きな舌打ちを残して、踵を返した。私たちに背中を向けて歩き出すヴィリアムに、クリストフェルは不思議そうな声を投げる。


「どこに行くんだヴィル? もっと兄弟の団欒を楽しもうじゃないか」

「その大事な兄弟が心配だから、俺は失礼するよ。あー、ダルい」


 クリストフェルに聞こえるように、彼に対する悪態を残して、ヴィリアムは行ってしまう。その姿を見送りながら、クリストフェルは残念そうな表情を見せた。


「相変わらずあいつらは二人の世界だな。まあ、双子だから絆が強いんだ、仕方ないさ」


 そう言って、クリストフェルは私とユリウスを見る。そんなことを言われても、私としては一生二人の世界から出てこないで欲しいと思ってしまった。それが表情に出ていないか心配になりながら、私はどんな表情を作って良いか目の前の兄を探る。




 助けてくれた。の、だろうか。けれど、その割にはヴィリアムに対して怒っている素振りも見えなかった。本当にただの兄弟喧嘩だと思っているのか。本気で。下手をしたら、シモンとユリウスは双子から酷い目に遭わされていただろうに。


 私が反応に困っていると、クリストフェルはいつの間にか私に近づいている。そして、大きな両手で私の身体を抱え上げると、嬉しそうな声を上げた。


「アンジー! ずっと病気だと聞いていたけど、やっと動けるようになったんだな! 本当に良かった! お前を看病していたエルの努力が報われたなあ!」

「ちょ、ちょっと! 下ろしてよ!」

「ああ、悪かった。まだ病み上がりなのに、乱暴だったか」


 私が抗議すれば、クリストフェルは直ぐに謝って下ろしてくれる。本当に素直で、見た目に加えて中身まで、まるで童話に出てくる王子様そのもののようだ。


 そんなことより、先ほどの発言に訂正しなくてはいけない部分がある。私は、クリストフェルが勘違いをしているようなので、すぐさま反論した。


「私はお姉様に虐待されていたんです! 全然病気なんかじゃありません!」

「虐待? エルが? そうか……それは辛かったな」


 本当に信じているのか、心からそう思っているのか。分からないが、クリストフェルは悲しげに目を細める。そして、労わるように私の頭を優しく撫でた。


「力になれなくて、ごめんな。お父様は然るべき対処をしてくれたか?」

「え、ええ……まあ」

「なら良かった。今後は、エルのことで困ったことがあれば、俺にも相談してほしい」




 私は呆気に取られて何も返す言葉がない。何というか、双子がこの男を『偽善者』と呼んでいたのが分かるような気もする。そう、うまく言えないが、何となく、苛々する。


 そして、今までずっと黙っていたユリウスが、震える声を上げた。


「お、お兄様は……お姉様のことをどう思いますかっ? 妹を虐待していた、エレオノーラお姉様を……」


 ユリウスは、相変わらず顔を上げることが出来ない。それでも、訴えたいことは伝わってくる。私もクリストフェルの返答を待った。


 長兄は、少し困ったように斜め上に視線を上げる。それから一度目を閉じると、今度は寂しそうな目で私たちを見た。


「エルは、少し誤解されやすい子なんだ」

「……」

「アンジーが辛い目に遭ったのは確かだし、そのこと自体はエルが悪いと思う。けど、そうすることしか出来なかった、あの子の事情もあるんだよ」

「……だから、悪く言うなってことですか?」


 私は、思わずクリストフェルの言葉に噛みついた。まるで、エレオノーラを許してやれと、そう言われたような気がする。正直私は、エレオノーラに重罰は望んでいないが、あの女を許すことは考えられなかった。


 できれば今後一生関わらずに生きていきたい。姉妹である間は難しいとは思うが、あの女を好きになることは一生ないだろう。


 こんなことを思う私に対して、クリストフェルはどんな表情をするだろうか。私が次の表情を窺っていると、クリスフェルは予想外に笑って見せた。


「いや、アンジーは恨んで良いと思うよ。ただ俺自身は、エルのことを嫌いになれなんだ。俺にとっては、エルとアンジーはどちらも可愛い妹だからな」




 心からそう思っているような言葉と表情で、私はこの男が更に分からなくなる。善悪の区別はついていそうだが、その判断を覆す程の弟妹愛に満ち溢れている。そんな感覚だった。愛は盲目とはこういうことだろうか。


 ユリウスも、その返答に納得がいっていないのか、相変わらずうつむいたまま何も言わない。そんな私たちを愛おしげに見ていたが、クリストフェルは思い出したように言った。


「しまった、帰ってきたのにお父様とお母様にまだ挨拶していない。それじゃあユーリ、アンジー、また晩餐会で会おう。シモン、オマエも訓練頑張れよ」

「はい!」


 力が戻ってきたのか、シモンは私たちに駆け寄りながらそう元気よく返事を返す。そして、クリストフェルは現れた時と同じように、音もなく優雅に去って行った。


 あれが、次期皇帝候補第一位と言われる第一皇子。見た目も完璧。そして人柄も、エレオノーラに比べれば断然良いのだろう。だが、私は何となく好きになれなかった。


 その気持ちが同じなのか、ユリウスはようやく少しだけ顔を上げる。


「……僕は、クリストフェルお兄様がちょっと、苦手だ」

「うん、分かるわ」

「は? 何でだよ」


 直ぐ様同意した私に対して、シモンが睨んでくる。きっとシモンは兄弟じゃないから、純粋にクリストフェルのことを尊敬できるのだろう。そのこと自体は悪く思わない。


 けれど、兄姉から虐げられていた私たちの立場だと、兄姉たちから守ってくれないクリストフェルのことを、どうしても好きになれなかった。私たちが欲しいのは同情ではなく兄姉たちへの批判や制裁、抑止力だ。




 双子の襲撃、そして長兄の帰還と思いがけないことが続いてだいぶ混乱していたが、私の頭の中は次第に落ち着いてくる。


 落ち着いてから、改めてユリウスと向き直った。ユリウスはずっとうつむいていたが、それはクリストフェルを苦手なことだけが原因ではないかもしれない。


「お兄様、身体は大丈夫ですか?」

「う、うん……少し力が入らないけど、さっきよりはマシだよ」

「そう言えば、なんか突風が出てたよな。あれって魔法か?」


 不思議そうに首を傾げるシモンに、ユリウスはひとつ頷いた。次いで、嬉しそうに笑って見せる。


「昨日シモンに言われて、本当にその通りだと思ったんだ。本を読んでいるだけじゃダメだ、実践してみようって」

「へえ、それでちゃんと出来たんだ。スゲーじゃん」

「……うん。でも、シモンが助けに来てくれたからだよ。ありがとう、シモン」


 素直にお礼を言われて、シモンは照れくさそうに視線をそらした。そんな二人のやり取りを微笑ましく見守っていたが、私はふと疑問に思う。どうして、シモンは此処に来たのだろう。


 ここは図書館の目の前で、この図書館は基本的に皇族しか使用できない。普通の騎士見習いは用事などないはずだ。シモンに直接疑問をぶつけようと思ったが、私はあることに思い至る。そして、自然とその考えを口に出してしまった。


「もしかして、私とユリウスお兄様が図書館で待ち合わせするって聞いてたから、私たちのところへ会いに来たの?」


 シモンは、私の純粋な疑問を聞くと、みるみる顔を赤くしていった。聞いていたユリウスも、嬉しそうに口元を綻ばしている。




「そうだったの、シモン?」

「私たちに会いたかったの? 会いに来たの? 仲間外れが寂しかったの?」

「う、うるせえ! 全然そんなんじゃねえよ!」


 言葉ではそう言っているが、シモンはきっと私たちの所へ会いに来てくれたのだと思う。ひとしきりシモンを揶揄って、私たちはまた笑い合った。まるで気の合う友人同士のように。


 この時間が楽しくて、楽しい分だけ私は少し寂しくなる。こうして三人でいられるのは、私が皇女だからだ。私が平凡な生活を望む限り、この関係は長く続かないだろう。


 それでも、私はいつか自分の手でこの関係を終わらせる日が来ると思う。その方法もまだ見つかっていないけど、いつか来るであろう「その日」を思って、私は既に寂しく思えた。




 ――その日の夜に行われる、クリストフェルの帰還を祝う晩餐会。そこで私の運命が大きく動き出すことになるとは、この時はまだ想像もできていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ