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18/19

第18話 もう一人の従兄弟の話

 デビュタントが三日後に迫っている。


 私は借りていた本を返すために、数冊の本を抱えながら図書館へ向けて歩いていた。デビュタントまでのスケジュールは、明日シモンの叙任式を行い、明後日ヴェルヘルムへ向けて出発することになっている。


 ルクレッシオの皇城からヴェルヘルムの王城まで、馬車で真っ直ぐ向かえば大凡半日程度だった。到着した日は王城で泊まり、翌日にデビュタント本番となる。そしてその日も王城に泊まって、次の日に半日かけて馬車で帰ってくる予定だ。


 面倒臭い。本来なら出席しなくてもいいはずだったデビュタントに無理矢理連れて行かれるのだから、周囲の浮かれる雰囲気とは裏腹に、私としては全く楽しみでもなかった。


 ひとつ期待があるとすれば、ヴェルヘルムの現在の姿を見られることだ。アンジェリカとして12年間ルクレッシオ皇国で過ごしてきたので、もちろん今では皇国にも愛着はあるが、やはりエルサとして24年間暮らしてきた王国が私の故郷だと思う。


 今では世界の中心となった祖国が、どれだけ発展して豊かになっているのか、自分の目で見たいと思っていた。その発展は、もちろん私の手柄でもあるのだから。




 図書館に着くと、私は慣れた足取りで通路を進む。たくさんの本を読んだおかげで、この迷路のような図書館も、既に私の庭も同然だった。


 慣れた道を進んで行きながら、私は移動式の階段を探す。背の低い私のために皇帝が用意してくれたものだ。最後に使ったのがいつだったか思い出しながら通路を進んでいた私の視界に、不意に小さな階段が飛び込んでくる。


 だが、私の階段の上にクリストフェルが座っていた。適当に座りながら本を読む姿すら絵になってしまう。しかし私としては、向こうに机と椅子があるのだからそっちで読んでほしいと思う。正直、邪魔である。


 そんな私の視線に気がついたのか、クリストフェルが顔を上げた。私の不満そうな顔を見ると、対して嬉しそうな笑顔を見せる。


「やあ、アンジー」

「ご機嫌よう、お兄様。そちらの階段、私の物なので退いていただけますか?」

「あはは、こんなものに頼らなくても、お兄ちゃんを頼ってくれて構わないよ?」


 そう言いながら、クリストフェルは私の手から本を取ると、返却するべき場所に検討がついたのか歩き始める。私は不満に思いながらも、本が返却されるのを見届けるために、その後ろをついて行った。


「それは、お兄様が踏み台になってくださるという意味ですか?」

「なるほど、可愛い妹相手ならそれもアリだね」




 そんな軽口を叩きながら、クリストフェルは、軽々腕を伸ばすだけで、本を元の場所へ戻してしまう。私が階段に乗って背伸びしてようやく届く位置だと言うのに。


 私は不満に思いながらも、渋々と兄に頭を下げた。


「ありがとうございます」

「いや、礼には及ばないよ」


 そう言いながら、クリストフェルは私の様子をじっと窺っている。そう言えば、クリストフェルが図書館にいるのは珍しかった。本を読まないと言うことはないと思うが、圧倒的にユリウスの方が頻繁に遭遇するので、そんな印象である。


 もしかして、私に話でもあるのだろうか。明後日出発なので、打ち合わせでもしたいのかも知れない。そう思ってクリストフェルの顔を見返してみるが、全く話し始めようとしない。気まずくなったので、私の方から話題を探した。


「そう言えば、もうすぐお誕生日ですね。それに正式な皇位継承ももうすぐ決まるはずです。おめでとうございます」


 私がそう言うと、クリストフェルは驚いた表情を見せる。それから、悲しそうな顔で私から目を逸らした。


「ありがとう。でも、まだ分からないよ」

「それは、クリスお兄様より皇帝に相応しい人がいると思っているのですか?」




 少し意地悪な聞き方をしてしまった。しかし、これは聞いてみたかったことでもある。クリストフェルは、自分が皇帝になると思って生きていると、ずっと思っていた。そんなクリストフェルが、自分より皇帝に相応しいと思う人などいるのだろうか。


 すると、クリストフェルは、苦しそうに少し表情を歪める。それから、私の顔を見ないで言った。


「そうだね、俺より皇帝に相応しい奴なら、いたよ」

「いた?」


 過去形なのが気になって、私はすかさず聞き返す。クリストフェルは悩むように少しの間考え込んでから、覚悟を決めたように私に向き直った。


「ユーリから、何も聞いていないんだね?」

「ユーリお兄様と、何か関係があるのですか?」

「……場所を移そう」


 それだけ言うと、クリストフェルは図書館の出口へ向けて足を進める。私も、黙ってその後をついて行った。


 図書館を出て、少し歩けば、皇室墓所が見えてくる。歴代の皇帝や皇后が眠る聖廟だ。ここにはほとんど人が訪れることはない。




 ただ人気の無いところを選んだだけかと思ったが、クリストフェルは迷わずひとつの墓石の前に立つと、片膝をついてその墓跡に祈りを捧げ始める。私は、後ろから覗き込んでその墓跡に刻まれた名前を読んだ。


 『ソフィア』。それはユリウスの母親であり、第四皇妃の名前だ。クリストフェルは、一頻りソフィアに祈りを捧げると、私のことを振り返る。


「本当は、12歳の女の子に話すような内容では無いんだけど……」

「お忘れですか? 私は――」

「ああ、分かっている。それを分かっているから、全て話すよ。俺から見た、いや……俺が実際に経験した、俺たちの従兄弟の話だ」


 そう言うと、クリストフェルは想いを馳せるように両目を閉じる。聖廟の中に、優しい風が吹いた。やがてクリストフェルはもう一度目を開くと、ゆっくりと語り始める。


 ポールソン家と皇室の因縁。その始まりから。







 皇帝は――アンジェリカたちの父親であるアンブロシウスは、兄のヒューゴととても仲が良かった。たった二人きりの兄弟で、お互いを愛して生きていた。


 けれど、兄のヒューゴは剣の腕も学術に於いても、全て弟に劣っていたという。それをコンプレックスに感じながらも、ヒューゴは自分がしきたり通り殺されることになるだろうと、覚悟を決めていたそうだ。


 愛する弟が、幸せに生きていけるなら、それでも良いと。


 そんな二人には、幼馴染の少女がいた。それが、『ソフィア・ポールソン』。病弱だった彼女は皇宮の医師の元へ診察に通っており、皇宮へ出入りする内に、二人と仲が良くなった。


 アンブロシウスとヒューゴは、二人ともソフィアを愛していた。


 けれど、ソフィアが愛していたのは、ヒューゴだけだった。


 皇位継承者が決まる日の前日、ソフィアは泣きながらアンブロシウスに縋ったらしい。どうか彼を殺さないでと。


 愛する兄のために、愛する女性が泣いている。アンブロシウスは結局、兄を殺すことが出来なかった。数多の反対を押し切って、しきたりを改変することにしたのだ。


 そして、皇宮を追放されたヒューゴは、ソフィアと結ばれることになる。ヒューゴは弟に心から感謝して、ソフィアもアンブロシウスに最大限の感謝を示した。




 本当に、お人好しで優しすぎる皇帝だった。何ひとつ、彼の愛したものは手元に残らない。けれど、アンブロシウスはそれで良いと思っていた。自分にそう、言い聞かせていた。


 やがて、ヒューゴとソフィアの間に一人の男の子が生まれる。彼の名前は、『オスカル・ポールソン』。美しい金色の髪と、皇室特有の瞳を持っていた。


 時を同じくして、アンブロシウスの元にもベルマン侯爵令嬢との間に第一子が生まれる。それが、『クリストフェル・ルクレッシオ』。オスカルとクリストフェルの二人は、従兄弟でありながら兄弟のように、一緒に育った。


 似た髪の色と瞳の色。まるで双子のように、二人は親友になった。しかし、悲劇だったのは、オスカルが余りにも天才だったことだ。


 決して、クリストフェルが劣っていたわけではない。彼も優秀だった。けれど、天才ではなかった。何をやらせても、オスカルの方が上手く出来た。早く覚えて、上手に実行できる。そして優しく、誰からも愛された。


 やがて、こんな声が囁かれ始める。「次期皇帝に相応しいのは、オスカル・ポールソンではないか」と。


 幼いクリストフェルには、周りの反応などよく分かっていなかった。けれど、大人たちはクリストフェルとオスカルを引き離したのだ。たった一人の従兄弟であり大親友と、突然会うことを許されなくなった。




 それから数年後、突如としてポールソン伯爵家の事業が上手く行かなくなる。今なら分かるが、あれはきっとアーネル公爵家とベルマン侯爵家からの圧力だったのだろう。自分たちの子供より優秀な子供を持つ、ポールソン伯爵家への制裁だった。


 その結果、ポールソン伯爵家は、今にも没落寸前となってしまう。困り果てたヒューゴとソフィアに手を差し出したのは、またしてもアンブロシウスだった。


 しかし、以前はお人好しだった彼も、皇帝として生きる中で心が擦り減っていたらしい。日々の公務。自分を愛していない皇妃たちに囲まれ。優しい彼の人格は、徐々に歪んでいった。


 ――アンブロシウスは、この好機を見逃さなかった。


 彼は、ポールソン伯爵家へ、皇室から援助することを提案した。但し、交換条件として、ソフィアを皇妃として入宮させることを提示したのだ。


 ヒューゴは怒った。そんなことは許さないと、弟を怒鳴りつけた。しかし、ソフィアは自分の家門と愛する夫、そして愛する息子のために、自分が犠牲になる道を選んだのだった。


 ソフィアはヒューゴと離婚して、第四皇妃となった。ポールソン伯爵家は、皇室からの援助で没落せずに済んだ。しかし、アンブロシウスとヒューゴの間の兄弟愛は、粉々に打ち崩されてしまう。


 それでも、アンブロシウスは孤独の中で愛を欲した。そして、かつて愛したソフィアを手に入れたが、しかし心は虚しいだけだった。




 やがて、ソフィアとの間にユリウスが生まれたが、身体が弱かったソフィアは二度目の出産に耐えられず、命を落としてしまう。それが、悲劇の引き金となった。




 ある日、クリストフェルの元に一通の手紙が届く。それは、懐かしい親友からの手紙だった。久しぶりに会いたいと。狩りにでも行こうという内容だった。


 嬉しいけれど、自分たちの年齢で狩りはまだ早い。クリストフェルがそう返事をすると、お互い親に黙っていれば大丈夫だと、オスカルらしくない返事が届いた。


 誰よりも誠実で、真面目で、親に隠し事をしないような奴だった。けれど、少し会わない間に、オスカルもちょっと悪いことをしたくなったのかも知れない。そう納得すると、クリストフェルは誰にも内緒で、オスカルと一緒に狩りへ出かけた。


 久しぶりに会うオスカルは、少しやつれて見えた。けれどそれだけで、他はいつも通りに感じる。二人は弓矢を携えて、小動物を追いかけた。いつも自分より優秀なオスカルが、珍しく矢を外してばかりだったので、ちょっとからかってやったのを覚えている。




 そして、その時は訪れた。




 少し休憩しようと、クリストフェルから提案した。湖のほとりで、座って話でもしようと。


 クリストフェルが前を歩いた。オスカルが後ろからついてきた。


 ふと、足元に小さなリスが寄ってきたのを見て、クリストフェルは足を止める。そうだ、自分に懐くリスを拾い上げて、オスカルに見せてやろうと思った。


 そうしてクリストフェルがしゃがんだ瞬間、彼の頭上を一本の矢が通り過ぎていく。


 風を切る音に、驚いて振り返れば、オスカルが青い顔をして立っていた。震える手で、弓を握っている。彼が矢を放ったことは間違いない。けれど、今の矢は一歩間違えればクリストフェルに当たっていた。


 いや、違う。クリストフェルを狙っていた。


「オスカル……?」


 信じられない。信じたくないという一心で、クリストフェルは彼の名前を呼んだ。まさか、親友が自分を殺そうとするなんて、そんなことはあるはずがない。早く、言い訳をしてほしい。なんでもいいから、違うと言ってほしい。


 しかし、オスカルは余りにも素直で、純粋だった。嘘をつけない、優しい性格だった。絶望的な表情で、今までのオスカルからは想像もできないような言葉を発する。


「俺が、皇帝になるんだっ! そのためには、君が邪魔なんだ、クリストフェル!」

「皇帝になる……? 何を言っているんだ。君は皇族じゃない。俺を殺しても、君は皇帝にはなれない」

「なら、全員殺してやる! 君の弟妹も、全員!」




 そう言って、オスカルは再び弓矢を構える。親友の余りの変貌に、クリストフェルは言葉を失った。まだ幼いクリストフェルには、ポールソン家との一連の騒動を深く理解はできていなかったが、オスカルの母親が亡くなったということはわかる。


 それが、ここまで彼を歪めてしまったのだろうか。


 いや、違う。


 クリストフェルは、彼の構える矢の先で、怯むことなくオスカルを見つめて言った。


「それは、君の『夢』なのか? 君が、皇帝になりたいと、そう思ったのか?」

「……っ!? そ、そうだ……俺は、俺が、お父様のために……」

「お父様? それは本当に君のための夢なのか? 君の『父親の夢』じゃないのか!?」

「う……るさいっ!」


 オスカルは強く頭を横に振ると、再びクリストフェルを睨みつける。そして弦を引く腕に力を込めた。それを見て、クリストフェルの頭の中に、瞬時に数通りのシミュレーションが浮かぶ。


 ここで、オスカルを生かしたら、どうなるか。


 全ての可能性を考えると、クリストフェルも弓を構えた。恐ろしく速く。そして迷いなく。クリストフェルの放った矢が、オスカルの喉を正確に射抜いた。オスカルの手から放たれた矢は、クリストフェルの頬を掠めた。




「オスカル……」


 倒れて動かなくなった親友に、クリストフェルは呼びかける。しかし、返事はない。





 やがて、皇宮を黙って抜け出したことで捜索隊が出されており、クリストフェルは救助された。そしてオスカルの死体と共に居たことで、クリストフェルは状況説明を求められることになる。


 そして、恐ろしく冷静に、クリストフェルは「事故だった」と答えた。オスカルから無理に狩りに誘われて、自分の放った矢が偶然オスカルに当たってしまったと、顔色ひとつ変えずにそう主張した。


 子供通しで、大人のいないところで狩りをしたことによる、不幸な事故だったと。アンブロシウスは全てから目を逸らして、そう事態を収めようとした。


 しかしヒューゴはそれを認めなかった。クリストフェルは罰を受けるべきだと言ったが、アンブロシウスはそれを無視して、全てを事故として処理したため、クリストフェルは結局何も罰を受けずに済んだ。


 それどころか、オスカルに関する悪い噂が流れるようになる。全て憶測だったが、中には事実を見抜いている噂も紛れていた。叛逆の噂を切っ掛けに、ヒューゴは身を潜めるように皇室への糾弾を緩めていく。




 本当のことを言うべきだったのかも知れない。ポールソン家が叛逆を考えていた、と。けれどクリストフェルがそれを主張してしまえば、ソフィアが身を売ってまで守ろうとしたポールソン家が、本当に没落してしまう。


 彼女の死を、無駄にしてはいけないと思った。


 自分がオスカルに殺されるべきだったのかも知れないと、考えたこともある。けれど、そうなれば次に狙われるのはエレオノーラ、フェリクス、ヴィリアム、そしてユリウス。幼い弟妹たちだ。


 クリストフェルは、彼らを守らなくてはいけないと思い、たった一人の親友であるオスカルを、殺した。そう、瞬時に判断した。




 ――それはまだ、クリストフェルが7歳の頃の話である。







 全ての話を聞き終えると、私は思わず息を詰めていたのだと気づく。呼吸すら忘れるほど、重たく、暗い話だった。


 クリストフェルは聖人のような男だと思っていたが、それは違ったらしい。冷静で、理性的に、手が下せる人間だ。私はこの人以上に皇帝が相応しい人など、やはりいないと思う。


 けれど今の話だと、クリストフェルはオスカルこそが皇帝になるべきだったと思っているらしい。自分よりも優秀で、愛されていた彼が。


 クリストフェルは、ソフィアの墓石を哀しそうに見つめる。彼女の息子の命を奪ってしまったことを、彼は悔いているのだろうか。そのままクリストフェルは言葉を続ける。


「俺は、自分勝手な奴だ。国のために生きる自信なんてない。皇帝になりたいと、強く望んだこともない。俺はあの時死ぬはずだったのに、いつだって、誰かのためにと言い訳をしながら生き続けているんだ」

「……良いんじゃないですか。私なんて、自分のことしか考えてないですから」

「はは、そうやって生きられるなら、俺も自信を持って皇帝になれるかも知れないな」


 少し笑いながら、クリストフェルは私を見る。この人は、私たち弟妹のために生きているのだろう。それなら、私たちが皇室を追放された後、この人はどうやって生きていくのだろうか。


 そうか。一人で生きていくのが怖いから、彼は補佐官の話を持ちかけたのかも知れない。そう思うと、少し納得がいった。結局補佐官の話は、クリストフェルもユリウスも、利己的な提案にすぎないのだろう。




 そして、クリストフェルは話を戻してポールソン家と皇室の、今の関係について教えてくれた。


「彼らはオスカルが死んで以降、皇室との連絡を遮断していた。だから4年前、アンジーの誕生日パーティーに来たのは意外だったよ」

「お父様と伯父様は、仲が良く見えました」

「他の貴族の前で、不仲を見せるわけにはいかないからね。それに、マヤ・ポールソンと再婚して、子供が生まれていることも皇室は知らなかった」


 普通に考えれば、自分の死んだ元妻の妹と再婚するのは異常な気がする。しかし、あの二人はお互い、ソフィアを奪った皇帝に対して、復讐心のようなものを持っているのかも知れない。


 あれは、再婚ではなく、復讐のために手を組んでいるのではないだろうか。


 そう思うと、アストリッドの存在がやはり恐ろしく感じた。彼女を私に接近させる目的は何なのだろう。


「彼らがユーリに執着するのは、ソフィア皇妃の子だからだ。父親が違うにしろ、オスカルの兄弟で、彼女によく似ている……。ポールソン家は、ユーリが欲しいんだよ」

「ユーリお兄様が、皇室から追放されるのを、待っているんですね」

「そうだ。そうすれば、ユーリは母親の実家であるポールソン家に引き取られるのが筋だからね」

「ユーリお兄様は、この一連の話を……?」

「知っているはずだよ。だからあの子は、ずっとお父様からポールソン家との接触を禁じられてきた。まあ今は、自分からポールソン家との関わりを避けているようだけど」




 今思えば、ユリウスがクリストフェルを苦手だと言っていたのも、自分の兄にあたるオスカルを殺した人だから、だったのかも知れない。


 そして、ユリウスがアストリッドを避ける理由も、なんだか合点がいった。


 大好きな兄の置かれている状況を考えると、胸が痛む。しかし考えてみても、私にしてあげられることは何ひとつなかった。その事実が更に胸を締め付けた。


 クリストフェルは墓石から離れて私に近づくと、少し声のトーンを落とす。周りに人がいないことを確認してから、小声で続けた。


「それで、俺は4年前に西部へ視察に行った時、伯父様の不審な噂を聞いて、調べたんだ」

「不審な噂?」

「叛逆を企む噂だよ。オスカルが殺されて、大人しくなったのは見せかけで、虎視眈々と皇位を狙っていると。そして噂を辿ると、とある場所に行き着いた」

「それは……?」


 嫌な予感がする。けれど聞かなくてはいけないと思った。私が覚悟を決めてクリストフェルを見返すと、彼も私を真っ直ぐに見つめ返して言った。





「『妖精神教』。彼は、あの教団と繋がっている」

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