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16/19

第16話 4年後の私たち




「アンジェリカ皇女殿下、お誕生日おめでとうございます!」


 瞬く間に月日は流れて、私は12歳になった。4年なんて、意外とあっという間だったなと、感慨深くもなる。


 この4年間、私は自分で決めた通りに、目立たず静かに過ごしてきた。お陰でお菓子作りの腕はだいぶ上がったと思う。今日のささやかな誕生日パーティーも、私の希望で全てのスイーツを私が手作りで用意した。


 今年の私の誕生日パーティーが何故、ささやかな物なのか。それは私のデビュタントと関係がある。この国ではデビュタントは通常14歳から16歳の間に行う物なので、私はこのままデビュタントをせずに皇室を去るつもり満々だった。


 しかし、皇帝がどうしても私のデビュタントを12歳になったら行うと宣言しており、強行されることになったのだ。追い出す娘への、せめてもの餞だったのかも知れない。


 本当は皇室主催でデビュタントを行う予定だったのだが、その予定が狂ったのはつい半年ほど前のことである。突然、ヴェルヘルム王国から使いがあり、王国主催のデビュタントに私を招待すると言ってきたのだ。


 真意が分からないこの招待に、皇帝はとても苛立っている様子だった。しかし、ルクレッシオ皇国は実質的にはヴェルヘルム王国の属国扱いなので、この招待を断ることはできない。


 結果的に、私はわざわざヴェルヘルムへ行って、デビュタントを行うことになったのだ。ヴェルヘルムのデビュタントは私の誕生日のおよそ二週間後。


 そうなると、王国でのデビュタントを差し置いて、皇国で私の誕生日パーティーを盛大に行うこともできず、こうして皇室の関係者だけでささやかなパーティーを行うことになったというわけだ。




 するつもりのなかったデビュタントなど、色々と不安なことはあるが、それもあと少しの辛抱である。私のデビュタントが終われば、すぐにクリストフェルの誕生日が待っていた。それが終われば、ついに皇位継承者が正式に決まるだろう。


 4年経ったが、私の予想は相変わらずクリストフェル一択だった。ユリウスもかなり成長したし、エレオノーラも頑張ってはいるが、やはりクリストフェルの完璧さには敵わないだろう。


 まあ、誰が継承者に選ばれようと私には関係ない。私はもうすぐ自由の身なのだから。嬉しくて身体が自然と踊り出しそうだった。


 私は12歳になってだいぶ背が伸びた。髪も伸びて、腰くらいの長さがある。相変わらず私の髪色は、肩より少し下の辺りから腰までの間が、美しい金色のグラデーションになっていた。


 筋トレも欠かさないお陰で、健康的な体力としなやかな筋肉も手に入れた。もう剣を振るっても簡単に力だけで負けたりはしない。


 それでもまだまだ周囲の子供扱いに変わりはなかった。侍女たちは相変わらず私の作ったお菓子を、口々に褒め称えながら美味しそうに食べてくれる。そうして仲の良い侍女たちと楽しい時間を過ごしていると、私のパーティーに客人が現れた。


「誕生日おめでとう、アンジー」




 このパーティーは、プラチナ宮の小さなホールを借りている。理由は、マゼンタ宮でやると彼らが祝いに来られないからだ。私は待っていた二人の訪れに、嬉しそうな笑顔を向けた。


「シモン! ユーリお兄様!」


 ユリウスは、14歳になって更に美形になった。4年前は可愛いという印象だったが、今ではかなり男らしくなったと思う。髪型も垢抜けて、今では社交界の注目の的らしい。


 そしてシモンも、14歳になった。私と大して変わらなかった身長はユリウスよりも高くなり、しっかりと訓練に取り組んだ賜物か、筋肉もついて逞しくなったように見える。それに何より、目を引くのは服装だ。


 騎士の服に、青い勲章。そう、シモンは平民では異例の若さで騎士の試験に合格して、正式に皇室の騎士になった。


 ドブネズミなんて呼ばれていた頃が嘘のようで、今は貴族と言われても納得してしまうような存在感がある。そんなシモンは、私の顔をじっと見つめてから、自然と片膝をついた。


「皇女殿下のお誕生日をお祝いいたいます」


 騎士として百点満点の美しい挨拶。私の背後に控える侍女たちも、感心しているのが伝わってきた。私はシモンのその態度を見ると、思い出したように侍女たちを振り返る。


「お客様が来たから、みんなはちょっと席を外してくれる? 準備を手伝ってくれてありがとう!」

「かしこまりました。皇女殿下」




 私がそう言えば、侍女たちはぞろぞろと部屋を出て行った。そして、扉が閉まるのを確認すると、シモンはようやく立ち上がってくれる。


「もう。そういう態度とられるの嫌いなんだってば」

「仕方がないだろ。俺ももう見習いじゃないし、使用人の前でタメ口きけるかよ」


 ふん、と生意気に私を見下ろしてくる態度に、腹が立ちつつも少し安心してしまう。シモンは、私やユリウスしかいない時だけ、いつも通り接してくれたが、いつしか他の人の前だと騎士然として接するようになった。


 私やユリウスをちゃんと皇族として扱う。それは身分のことを考えれば当たり前なのかも知れないが、それが少し寂しい。なので私たちは相変わらず、例の公園で定期的に集まったり、こうして意図的に私たちだけの空間を作って接していた。


 ユリウスは、持ってきた箱を私に手渡しながら、嬉しそうに笑っている。


「おめでとうアンジー。こうして今年も君の誕生日を祝えて嬉しいよ」

「ありがとうございますユーリお兄様。今年のプレゼントはなんでしょう?」


 開けてごらんと言われて、私はいそいそと蓋を開ける。そして出てきた物を見て、思わず笑ってしまった。本だ。それも沢山ある。皇室図書館には無いような、俗っぽいけれど最新のもので、お菓子の作り方が沢山書かれている。


 毎年、ユリウスは本をプレゼントしてくれた。彼らしいし、私としても新しい本がもらえるのは嬉しい。期待を裏切らないユリウスのプレゼントに、私はとびきりの笑顔を見せた。




「毎年ありがとうございます、お兄様!」

「まあ僕のプレゼントより、シモンのプレゼントの方が気になるんじゃない?」

「……」


 そう言って悪戯な表情でシモンの顔を覗き込むユリウスに対して、シモンは軽く睨みつける。そして、懐から小箱を取り出すと、無言で私に手渡した。小さなリボンでラッピングされたその見た目は、最初の頃に比べると成長が窺える。


 私は差し出されるままに受け取ると、小さなリボンを解いて蓋を開けた。


 すると、中には花畑を模ったような美しい髪飾りと共に、瑞々しい花びらが敷き詰められている。いつからこんな芸当を覚えたのだろうと、私は微かに笑いながら、その髪飾りを取り出した。


 無数の小花があしらわれており、それぞれ小さいながらも宝石が埋め込まれている。光に当たればキラキラと反射して、美しい。聞かなくても、高価なことは明らかだった。シモンも騎士になったんだなと、プレゼントから実感してしまう。


 毎年、シモンはアクセサリをくれた。女の子にプレゼントして喜ばれるものが分からないのだろう。そんなところも可愛く思う。


 いや、いつまでも可愛いと思ってはいけないと、私は反省した。エルサの記憶がある私からすれば、14歳なんてまだまだ子供だが、彼ももう立派な男の子なのだから。


「綺麗な髪飾りね、ありがとうシモン。高かったんじゃない?」

「別に、大した事ない」

「ふふ、私のせいで騎士の初任給を使い果たすなんてやめてね?」

「そ……っ! んなこと、するわけねえだろ!?」


 顔を真っ赤にして反論するあたり、まだまだ子供っぽくて安心してしまう。最近時々シモンが妙に大人びて見える時があるので、心配してしまった。お願いだから、私が去るまでは今まで通りの可愛いシモンでいてほしい。




 そうして私たちが話していると、再びホールの扉が開いた。そして、大きな花束を抱えたクリストフェルが入ってくる。


 色とりどりの薔薇を背負って立つクリストフェルは、本当に童話の王子様のようだった。今年で20歳になる兄は、超絶な美形に成長しており、その優しさと有能さで、既に多くの貴族女性から言い寄られているらしい。


 これで白馬に乗っていたら完璧だな。と私が考えている間に、目の前に大量の薔薇が差し出された。


「お誕生日おめでとう、アンジー」

「あ、ありがとうございますクリスお兄様。随分と沢山の薔薇なんですね」


 私が困惑しながらそう言うと、クリストフェルは笑いながら赤い薔薇を一輪手に取る。そしてそれを私の髪に差しながら、そっと耳元に唇を寄せた。


「本当は歳の数だけ束ねようと思ったけど、本当の君の年齢が分からないから、こんな量になってしまったよ」


 その言葉に、私はドキッとさせられる。そう、私に前世の記憶があることを知っているのは、クリストフェルだけだ。他の二人には聞こえないような声量だったとは思うが、私は思わずクリストフェルを睨みつけた。


 4年経って分かったことだが、この人は世間が言うような清廉潔白な人ではなく、かなり意地悪だと思う。私に睨みつけられると、クリストフェルは楽しそうに笑っていた。


「あはは、喜んでもらえてよかった。それじゃあ俺は忙しいからもう行くね。シモンとユーリも、楽しんで」


 クリストフェルは、二人にも親しげに声を掛けてから、颯爽と行ってしまう。本当に何をしに来たんだと、私は重すぎる薔薇の花束を抱えながら彼の後ろ姿を見送った。




 花束はシモンが受け取ってくれて、手際良く花瓶に移す作業へ取り掛かってくれる。こういうことを自分から申し出るようになったところも、シモンの成長だと思った。


 ふとユリウスを見ると、黙ってクリストフェルが去った後の扉を見つめている。ユリウスからすればクリストフェルは、超えられない壁のようなものかも知れない。


 ユリウスはとても努力していた。皇帝として相応しい教養も学力も剣の腕も磨き、そして彼なりに魔法も極めていると思う。


 それでも、クリストフェルには及ばない。全てにおいて、彼はユリウスより頭一つ分優れていた。それが、現実。もしかしたら、6年分の人生経験の差なのかも知れない。けれど皇帝は、その差が埋まるまで待ってはくれない。


 今年、皇位継承者が決まる。


 正直、今の感じを見ていると補佐官はユリウスが選ばれるのではないかと思っていた。エレオノーラやフェリクスも優秀だが、人柄まで見れば圧倒的にユリウスが一位だ。


 そんなことを考えていたからだろうか。またホールの扉が開くと、私を祝うつもりの無い人たちが現れた。


「お、甘い匂いがすると思ったら、やっぱりお前か」


 そんな犬のようなことを言いながら無遠慮に入ってきたのがヴィリアムで、その後を追うようにため息をつきながら入ってきたのがフェリクスだ。私でももう、見分けがつく。


 それもそのはずで、双子はこの4年で見た目によって見分けがつくようになった。ヴィリアムは騎士たちと共に訓練に明け暮れ たせいか、16歳とは思えないほど逞しい体つきになっている。


 一方フェリクスは、ずっと机にしがみつくような生活をしているせいか、肌も白くて体格も細かった。眼鏡のおまけまでつけているので、尚更見分けがつきやすい。




 双子は、以前のように私やユリウスに突っかかったりしなくなった。それは、彼らが大人になったのもあるし、私の餌付けの成果とも言える。別に懐いてはいないが、私に意地悪をしても良いことは無いと理解したらしい。


 相変わらず嫌味は言うし仲良くもなっていないが、今日もこうして私の手作りお菓子の匂いを嗅ぎつけて、甘い物だけ食べに来たようだ。


「いらっしゃいフェリクス、ヴィリアム。今日は私に言うことがあるんじゃない?」

「言うこと? はっ、まさか俺たちに祝ってほしいわけ?」

「……いいえ、期待した私がバカだったわ。好きなもの持っていって良いから、早く出て行って」


 メガネを上げながら私を見下すフェリクスに、私は呆れてそれ以上何も言えなくなる。二人はホールに用意された私の手作りお菓子をいくつか袋に詰め始めた。


 すると、ヴィリアムは花束の世話をするシモンに気づいたらしく、お菓子詰めの作業をフェリクスに任せると、シモンに近づきその肩へ腕を回した。


「よおドブネズミ! お前はこんなところで何してんだ? 騎士になったからって余裕ぶって、訓練もせずにお花弄りか」

「……」


 無視。皇族に対して礼儀を改めたと思っていたが、シモンはヴィリアムに対してだけはあのような塩対応である。何故なら、ヴィリアムはずっと騎士団に混ざって訓練しているので、騎士の誰もヴィリアムを皇族として扱っていないからだ。


 ヴィリアム自身もそれを望んでいるし、恐らく彼は皇宮を追放されたら、ハルネス子爵家に戻ってすぐに騎士になるだろう。そうなればシモンとは立場が同じになるし、この関係が丁度良いのかも知れない。


 そうしてヴィリアムがシモンに鬱陶しく絡み続けている間に、フェリクスが私のお菓子の詰め放題を終えたらしい。フェリクスに一声かけられて、二人はさっさとホールを出て行った。




 疲れた。けれどこれで私の誕生日パーティーに脚を運ぶ人はもういないだろう。皇帝はデビュタントの件でヴェルヘルム王国の使者と話しているはずなので、今日は顔を見せないはずだ。


 そうして、ようやく友達と三人の時間を楽しめると思った時、丁寧に扉がノックされる。そして、扉が開いた先で、赤い髪の少女が礼儀正しく一礼していた。


「アンジェリカ皇女殿下、お誕生日おめでとうございます」


 顔を上げてにっこり微笑んだアストリッドは、目を瞑りたくなるほど輝かしい美少女へと成長していた。私自身、アンジェリカも相当可愛いと思うが、この少女は系統の違う愛らしさだ。儚げで、守ってあげたくなる美人。


 ユリウスと雰囲気が似ている辺り、血は争えないと思う。私の従姉妹である少女は、艶やかな赤い髪をひとつにまとめて、可愛らしいドレスで身を包みながら、私に近づいた。


「……いらっしゃい、アスタ」

「突然ごめんなさい。今日は週1回の訪問の日だったので来てみたのですが、ここでパーティーを開いていると聞いて、来てしまいました。お邪魔でしたでしょうか……」

「そんなことないわ。来てくれてありがとう」


 私が笑顔を作ってそう言えば、アストリッドは華が咲くような笑顔を見せる。そう、4年前の誕生日パーティー以降、アストリッドは私の友達として、週に一度皇宮を訪れていた。


 今日はパーティーの日だから来なくても良いと、使いに言っておいたはずだが、伝わっていなかったらしい。




 別に、彼女のことが嫌いなわけではない。とても良い子だと思う。けれど、私が彼女を苦手な理由は3つあった。


 1つは、ヒューゴの真意が分からないこと。あの人が自分の娘を私の友達として傍に置く理由がよく分からなかった。アストリッド自身はそんな気がないかも知れないが、彼女を通してヒューゴに監視されているようで気分が悪い。


 2つ目は、ユリウスが彼女を苦手なこと。そもそもユリウスはポールソン家と距離を置きたいように見えるので、アストリッドが遊びに来ると、自然とユリウスが私の元を離れて行った。


 そう思っていると、案の定ユリウスはアストリッドに対して少し不快そうな表情を見せてから、私に無理矢理笑顔を向ける。


「……それじゃあ、僕は少し用事があるから失礼するよ。アンジー、また後で顔を出すからね」

「あ……」

「忙しいのですね、残念です。また今度ゆっくりお話ししましょう、『ユリウスお兄様』」


 この、『ユリウスお兄様』という呼び方も気に入らない。ユリウスの妹は私だけだと言うのに、このような呼び方をするのが許せなかった。いくら血縁的に一番近しい親戚だからといって、馴れ馴れしいのではないだろうか。


 ユリウスがアストリッドを避ける理由も実はよく知らないが、敢えてユリウスの嫌がる話題を振る気にもなれず、謎は謎のままである。


 ユリウスが部屋を出て行くのを見送っていると、アストリッドの視線を感じた。仕方がなく振り向くと、彼女は瞳を輝かせて私を見ている。


「とても素敵な赤い薔薇ですね。余りにも似合いすぎて、皇女様の一部かと思ってしまいました」

「あ、あはは。そうかしら? アスタの方が似合いそうだけど」

「そうでしょうか……?」




 私の社交辞令に、アストリッドは本気で照れているらしい。素直なのか、それともこれが計算だったら恐ろしい。


 すると、アストリッドは黙々と薔薇の花を花瓶に生けているシモンの姿を見つけると、思いついたように駆け寄った。


「シモン! 私にもその薔薇を一輪ちょうだい!」

「……これはクリストフェル皇子殿下からアンジェリカ皇女殿下への贈り物です。皇女殿下の許可なく私からはお渡しできません」

「そうだったのね。皇女殿下、私にも一輪いただけませんか?」


 その質問に、私は咄嗟にダメだと言いたくなる。しかし、冷静に考えればダメな理由などひとつもない。所詮クリストフェルからのプレゼントだし、これだけ沢山ある薔薇の一輪くらい、彼女にあげても何の問題もないだろう。


 私は、感情ではなく理性に従って、笑顔で一度頷いた。


「もちろん、良いわよ」

「ありがとうございます! シモン、私に皇女殿下と同じように薔薇を差して」


 アストリッドは心底嬉しそうに私に対してお礼を言った後、シモンを振り返ってそう命じている。その姿をみていると、私は何故か面白くなかった。


 シモンは、嫌そうな表情を隠そうとはせず、しかし断ることもできない。何故なら、彼女は皇族の親族にあたる。そして、私の公式的な友達でもある。


 騎士であるシモンが、彼女の申し出を断ることが出来るとしたら、皇女である私が命令したときだ。


 けれど、私には止める理由がない。そうして見ていると、シモンは桃色の薔薇を一輪手に取り、そっとアストリッドの髪に刺した。シモンの手が、彼女の髪に触れているのを見ると、余計にモヤモヤする。




 そう、私が彼女を苦手とする3つ目の理由は、意味の分からないモヤモヤを抱えるからだ。得体の知れない感情は、気分が悪い。笑顔と共に振り返ったアストリッドは、私より何倍も薔薇が似合っていた。


「お揃いですね、皇女様!」

「……ええ、そうね」


 私は、うまく笑えているだろうか。自信がない。前世でも女の子の友達なんて一人もいなかったから、これが正しい同性の友達付き合いなのか、分からなかった。







 アンジェリカがささやかな誕生日パーティーを開いている頃、ヴェルヘルム王国ではデビュタントの準備が着々と進められていた。


 今年の王国主催のデビュタントは、特別なものになる。何故なら、ヴェルヘルムの次期国王であるラグナル王子の、16歳を記念したお披露目も兼ねていた。


 そのため、周辺諸国に呼びかけて、デビュタントを迎える女性やお披露目を迎えた貴族子息を全員集めた、盛大なパーティーを行う計画である。


 まだこのことは広く知られていない。ヴェルヘルムの王子は身体が弱く、あまり表に顔を出さなかったため、ほとんどが謎に包まれていた。そのため、この度のパーティーは大きなサプライズになるだろう。


 身体の弱かった王子が、まるで人が変わったかのように身体を鍛えたり、自分で調合した薬草を摂取し始めたのは、今から4年程前だった。王子は、不安だった周囲が涙を流して感動するほど、健康な身体へと成長していった。


 それも全て、彼の中にある大きな想いが原動力となっている。


 ヴェルヘルムの若き王子は、バルコニーに出ると王城から眼下を見渡した。夜闇のように黒い髪を風に遊ばせながら、城の中を行き来する人々の中から、まるで誰かを探すように。


「大丈夫、きっともうすぐ会える」


 王子は、まるで独り言のようにそう呟く。そして、血の色のように赤い瞳を細めると、その人のことを思い浮かべながら名前を呼んだ。







「そうだろう、エルサ」

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