第15話 サプライズプレゼント
昨日は本当に大変だった。
私はベッドの上で枕を出しきめながら、死んだように横になっていた。本当に疲れた。自分が主役のパーティーがこんなに疲れるなんて知らなかった。まだデビュタントしていないので、スピーチやらダンスやらが無いだけこれでもマシなのだろう。
あの後、私の使った古代魔法に対して、会場にいた全ての人が喝采を送る事となった。
本を読んだり、ユリウスの話を聞いてわかったこと。それは、現代の人はあまりにも魔法に対して無知で、無関心だ。現代魔法と古代魔法の差がわかる人間は、魔法についてちゃんと勉強している人だけだろう。
更に分かったことは、貴族は魔法を軽んじていると言うこと。ユリウスが特殊なだけで、ほとんどの人は魔法を手品のようなものとしか考えていない。貴族ばかりが集まる場に、魔法を正しく認識できる人はいなかっただろう。
恐らくほとんどの人が、何が起こったかわかっていないし、あれが古代魔法だと気づいてもいない。ただ、私は『奇跡を起こす皇女』として褒め称えられることになった。
エレオノーラの、悔しそうな顔を思い出すと、少しだけ笑える。それから、クリストフェルの表情もどこか複雑そうだった。あの人は優秀なので、私の使った魔法が古代魔法だと気づいたのだろうか。
あとは、ヒューゴの表情も不思議なものだった。恍惚に似た笑顔とも取れる表情で、私のことを一番称えてくれたのが彼だった。素晴らしい。奇跡だ。ついに現れた。嘘ではなかった。とまるで独り言のようにぶつぶつと呟いていたのを覚えている。
それから、結局ユリウスは最後まで現れなかった。絶対に来ると約束してくれたのに、ひどい兄だ。それとも本当に体調を崩しているのだろうか。
そう思うと心配になってくる。私は、重たい身体を無理やりベッドから引き剥がすと、侍女たちに支度を頼んだ。
ユリウスの様子を確認しに行こうと、私はマゼンタ宮を出てターコイズ宮へと向かった。中へ入ることはできないが、使用人に様子を聞いたり、呼んで来てもらうことくらはできるだろう。
そうしていつもの通り、侍女を連れずに一人で歩いていると、突然声をかけられる。
「アンジー!」
その呼び方に、一瞬ユリウスかと思って私は足を止めると振り向いてしまう。しかし、よく見れば手を振りながら近づいてくるのは、クリストフェルだった。
そういえば、元々はこの人の呼び方だった。私は苦手意識のあるクリストフェルに声を掛けられて、少し警戒する。ひとまず兄に対する敬意として挨拶を返した。
「ご機嫌よう、お兄様」
「そんなに畏まらなくていい。俺たちは兄妹なんだから」
そう言ってクリストフェルは和やかな笑顔を見せる。この人は、昨日のパーティーでも常に人に囲まれて大変そうだった。圧倒的に次の皇帝候補として知られているので、どの貴族も媚を売ろうと必死のようだ。
しかし同じ兄とはいえ、私はユリウスに接するのと同じように、クリストフェルと接することはできない。どうしても、この人のことが好きになれないし、次期皇帝であれば尚更、関わらないようにするのが吉だろう。
やがて無関係になる人だ。仲良くするだけ無駄に感じる。
「昨日の疲れは取れたか? 一人でどこへ行くんだ?」
「……ターコイズ宮まで。ユーリお兄様が心配なので」
「ああ、ユーリは昨日、結局現れなかったからね」
そう言うと、クリストフェルは表情を暗くする。そして、私を手招きすると、手近のベンチに腰を下ろした。けれど私は、二人で仲良くお喋りをするつもりはなかったので、そんなクリストフェルの前に立つ。ようやく目線が合う高さだ。
クリストフェルは、座らないつもりの私を咎めることも、無理に座ることを薦めることもなく、話し始める。
「お父様は、ユーリを伯父様と会わせたくないんだろう。だからきっと、昨日はユーリを部屋に監禁したか、睡眠薬でも使って眠らせておいたんじゃないかな」
「はっ!?」
出てきた単語が想像よりも過激だったので、私は思わず大きな声をあげてしまった。監禁、睡眠薬。なんでそこまでする必要があるのか。ユリウスはポールソン家の血縁でもあると言うのに。
私がわけも分からないでいると、クリストフェルは優しく自分の隣のベンチを示した。私も、今度は大人しくそこに座る。話が長くなりそうだ。私が座ったことに満足すると、クリストフェルは話を続けた。
「これは複雑な話だし、まだ子供のアンジーは分からなくていいんだけど、ユーリの母君――第四皇女は誰からも愛される人だったんだ」
「……はい」
「だからお父様と伯父様は、二人とも、彼女のことを愛してしまったんだよ」
「……はい?」
私には分からない愛の話を、更に複雑にして煮込んだような展開に、頭がついていかない。つまり、第四皇妃のことを、ヒューゴも好きだったのだろうか。だから、彼女の面影を持つユリウスに合わせろと言っていた。ということだろうか。
それでもなんだかしっくりこない。私が頭を捻っていると、クリストフェルは、私にはこの話はまだ早いと判断したらしい。軽く手を叩くと、速やかに話題を変えた。
「まあ、そんな理由でユーリは昨日パーティーに来られなかったけど、許してあげてくれ。ところで……――」
まるでそっちが本題だったかのように、クリストフェルの纏う空気が変わる。少しピリピリとした空気の中、クリストフェルは笑顔のない表情で私を見た。
「古代魔法は、何処で覚えた?」
きた。いつか誰に聞かれてもおかしくない質問だった。私は固唾を飲んでクリストフェルの顔を見返す。やはりこの人は、古代魔法を知っていた。
落ち着こう。と、一度深呼吸してから、私は頭の中を整理した。嘘をつくか、本当のことを言うか。ここの判断はとても難しかったが、私はクリストフェルに聞かれたら、本当のことを言おうと最初から決めていた。
この人には、下手な嘘は通じなそうだ。それに、本当のことを信じてくれなかったとしても、私にとって何の問題もない。変な奴だと、頭がおかしいと思われても、別に構わなかった。
頭の中で何度かイメージした通りに、私は言葉を選ぶ。
「お兄様には、本当のことをお話ししますね」
「……」
「私には、前世の記憶があります。そしてその人物は、古代魔法の使い手でした」
流石に、銀色の悪魔の名前を出すのは憚られて、曖昧な表現に留めてしまう。クリストフェルの表情は変わらない中、私は続けた。
「その記憶通りにやってみたら、私にも古代魔法が使えたんです」
「……それを信じろと」
「では、お兄様はどんな話をしたら信じてくれますか?」
疑う瞳を向けてくるクリストフェルに、私は問い返した。本当のことを言ったのだから、私にはこれ以上どうすることもできない。
そんな私に対して、クリストフェルは鋭く尋ねた。
「君は、妖精神教とどんな関わりがあるんだ?」
「……? 妖精神教、ですか?」
確かに、現代で古代魔法を受け継ぐのは、その宗教団体だけだとユリウスから聞いている。クリストフェルの思考回路として、古代魔法を扱えることは、イコール妖精神教の関係者となる。これは自然な流れなのかも知れない。
だが、クリストフェルの口調は、どこか棘があって、その団体のことをよく思っていないのは明らかなようだ。
私は本で読んだだけで、妖精神教のことはほとんど知らない。実在していることに驚くくらいだ。そんな私の困惑した表情を見たからか、クリストフェルは大きく息をつくと、緊張が溶けたようにベンチの上で脱力する。
「そうだよね、君みたいな小さい子が、しかもエルに監禁されていたんだから、あんな奴らと接触する機会があるはずないんだ」
「……信じてもらえるかはわかりませんが、私はその宗教とは無関係です」
「うん。大丈夫、信じるよ」
そう言って微笑むクリストフェルの表情は、いつも通りの優しい兄だった。そのことに内心安堵しつつも、私は本当にこれで良かったのか不安になる。
前世のことを、もっと根掘り葉掘り聞かれたらどうしよう。もし自分の前世が、敵国の大魔導士だと知れれば、即刻処刑なんてこともあるのだろうか。
頼むから平凡に生きる道を残してほしい。
そう思っていると、クリストフェルは立ち上がって、私に向けて言った。
「お父様が呼んでいたから、執務室へ行くと良いよ」
「お父様が? お兄様は行かないのですか?」
「うん。俺とユーリが、一ヶ月前にお父様へ提案したことがあるんだ。おそらく、その話だと思う」
そういえば、皇帝もそんな話をしていた気がする。いったい何の話をしたのか、その時は気になって仕方がなかったが、パーティーの準備が忙しすぎてすっかり忘れていた。
ようやく答えが聞ける。私はベンチから立ち上がると、形ばかりの礼をクリストフェルに送ってから、足早にプラチナ宮を目指すのだった。
◇
私が皇帝の執務室に入ると、既にそこには先客がいた。
エレオノーラ、フェリクス、そしてヴィリアム。どうやら当人であるクリストフェルとユリウス以外が呼ばれているらしい。エレオノーラは私の顔を見ると憎しみの込もった目で睨みつけてくる。
私はそれを無視して、兄姉たちの間に並んだ。私たちが揃ったのを見ると、皇帝は早速本題に移る。
「もう知っている者もいるかも知れないが、先日、クリストフェルとユリウスから、同様の申し出があった」
意外な名前の組み合わせに、他の三人は少し動揺したように感じた。最近ユリウスの様子が変わったことは、彼らも気になっていたのかも知れない。皇帝は、更に続ける。
「内容は、『自分が皇帝になった際は、キョウダイの内から最も優秀な者を一人、自分の補佐官を任命したい』と言うものだ。お前たち全員優秀であり、皇帝となる資格も持っている。そんなお前たちを全員皇宮から追放することは、私の本意でもない。悩んだのだが、しきたり通り皇族としての地位は取り上げる。しかし一名だけ皇宮に残り、皇帝補佐官として過ごすことを許そうと考えている」
「それは、誰が選ぶのですか?」
「もちろん、皇位継承者に選ばれた者だ。だが、最も優秀な者という約束だからな。公平になるように決めたいとは考えている」
フェリクスの質問に、皇帝が答える。この口振り的に、まだ詳細なことは決められていないのだろう。
その話は、私にとって衝撃的ではあるが、全く関係ない話でもあった。いや、万が一にも補佐官なんかに選ばれてしまうと、平凡な生活が遠ざかってしまうので、絶対に無能な末っ子皇女のままでいよう。と、心に誓う。
しかし、弟妹想いのクリストフェルからこの提案が出るのは納得だが、ユリウスが同じ提案をしたのは意外だった。彼は、他の兄姉のことをあまり好きではないように見える。
だとしたら、ユリウスがそんな提案をしたのは何故だろう。
その時、私の脳裏にあの日図書館で『皇帝になる』と宣言したユリウスの顔が浮かんだ。もしかして、ユリウスは私のために皇帝になろうとしていたりしないだろうか。まさか、そんな、そんなはずないだろう。ないはずだ。
私は自分の頭に浮かんだ想像を消そうと首を左右に振る。私はここから出ていきたいのに、ユリウスが私を皇宮に残すために頑張っているとしたら、余りにも気持ちがすれ違い過ぎていて申し訳ない。
すると、隣にいたエレオノーラが静かに手を挙げる。そして、落ち着いた声で皇帝に尋ねた。
「それは、強制でしょうか?」
「と、言うと?」
「私が皇帝になった暁には、補佐官を選びたくありません」
その言葉に、執務室が静まりかえる。エレオノーラは冷たい表情で皇帝を見ていた。他の弟妹のことを想うクリストフェルとは、対照的な冷ややかさだ。
皇帝は、一度咳払いしてから、その質問に答える。
「うむ、そうだな。もちろん補佐官を選ぶも選ばないも、皇位継承者に選ばれた者の自由だ」
「ありがとうございます。それを聞いて、安心しました」
エレオノーラはそう答えると、優雅な一礼を残して踵を返す。これ以上、この話に興味はないと言わんばかりの態度だ。エレオノーラは、私のことが皇帝にバレてから、皇帝に媚を売るのは辞めたらしい。
しかし、私ももうこの話に興味はなかった。皇帝が暗い声色で「話は以上だ」と言う声を聞くと、私も無言で礼を残して執務室を出るのだった。
◆
フェリクスとヴィリアムは、先ほどの話を思い出しながら廊下を歩いていた。皇帝になった者が、最も優秀なキョウダイを補佐官に迎える。それは、彼らにとっては魅力的な話だった。
彼らの母方の実家であるハルネス子爵家は、大いに双子に期待していた。彼らが皇帝になることを、強く望み、それは大きな圧力となっている。
彼らの母親である第三皇妃は、実家からの圧力を受け流しながら、双子のことをただ愛してくれていた。皇帝にはならなくていいと、幸せに生きてくれればいいと、口癖のように言ってくれている。
それに、二人も分かっていた。自分たちでは皇帝にはなれない。
しかし、補佐官ならどうだろう。そう考えて、フェリクスは震える両手を握りしめた。なれるかも知れない。皇帝は無理でも、補佐官なら。自分にもチャンスがあるかも知れない。
そんなフェリクスを横目に見ながら、ヴィリアムは頭の後ろで手を組んで、のんびりした口調で言った。
「嬉しそうじゃん、フェル」
「当たり前だろ! ハルネス子爵家を継ぐより、皇帝補佐官の方が良いに決まってる。皇宮暮らしが続けられるんだからな!」
「それが、いけ好かないクリストフェルの元でも?」
「関係ないね。俺は、優秀だ。その力は、子爵家なんて小さいところじゃなくて、国のために使われるべきだ!」
そうして興奮を見せる兄弟に、ヴィリアムはやれやれと首を振る。しかし、彼が優秀なのはヴィリアムが一番よく知っていた。
二人は全く同じ顔をしていた。けれど、中身は正反対と言ってもいい。フェリクスは頭が良くてなんでも卒なくこなせる。ヴィリアムは運動神経が良くて剣術に優れている。
ヴィリアムは、難しいことを考えるのが苦手だった。王位にも子爵家を継ぐことにも興味がなくて、彼が目指すのは騎士、ただそれだけだった。
けれど、愛する兄弟が補佐官を目指すと言うのであれば、応援してあげたい。自分も、その夢のために協力してあげたい。そう強く思う。
フェリクスはとびきりの笑顔でヴィリアムを振り返る。二人は鏡合わせのように同じ顔で笑った。
「俺は絶対、補佐官に選ばれて見せる! お前も協力してくれるよな、ヴィル!」
「もちろん、俺たちが一緒ならなんだって出来るさ。そうだろう、フェル!」
◆
私はなんとなくマゼンタ宮へ戻る気になれず、いつもの公園に来ていた。もしかしたらユリウスに会えるかも知れないし、もし誰もいなくても思考を整理したいと思う。
噴水広場には、思った通り誰もいなかった。私はベンチに座ると、一人で空を見上げてみる。木々の隙間から覗く青空は、どこまでも青く澄んでいて、気分を落ち着かせてくれた。まるでシモンの瞳の色みたいだと思う。
先ずは、思考を整えよう。私は瞳を閉じると状況の整理を始めた。
まず、4年後に皇位継承者が決まる。今の所クリストフェルが有力だが、ユリウスとエレオノーラもその座を諦めてはいない。双子の考えてることは正直よくわからない。
そして、クリストフェルかユリウスが皇位継承者に選ばれた場合は、最も優秀なキョウダイを皇帝補佐官に任命して、引き続き皇宮で暮らすことが許されるようになる。これは私の望む平凡な暮らしとは違った。
なので、皇位継承者はそもそも選ばれないので大丈夫だが、皇位継承者から選ばれることも避けなくてはいけなくなってしまった。面倒なことが一個増えてしまい、私は頭が重くなるのを感じる。
できるだけ、みんなから無能な皇女だと思われるように振る舞おう。そう思うと、クリストフェルに前世の記憶のことを話したのは失敗だった気がする。間違っても私の記憶や古代魔法に可能性を感じないでほしい。今すぐ忘れてほしい。
決めた。私はこれから毎日お菓子を作って過ごそう。勉強もろくにせず、ただ遊んでいるだけのダメな皇女であることを周りにアピールして、間違って私を皇帝補佐官に指名したら、周りから反対されるような状況を作ろう。
それが一番いいだろう。残りの4年間を過ごす具体的な方針が決まったところで、私は目を開いた。
「わっ!?」
その瞬間、目の前にシモンが立っていることに気がついて、私たちは同時に声を上げる。びっくりした。音も立てずに近づいて来ないでほしい。
私が驚いているのを見ると、シモンはすかさず悪態をついた。
「な、なんだ! 寝てるのかと思っただろ!?」
「そう思ったなら起こしなさいよ!」
「い、いや……疲れてるのかと思って」
そういえば、昨日は私の誕生日パーティーだった。色々あってすっかり忘れていたが、確かに身体は疲れている。気を遣ってくれたなら最初から素直にそう言えばいいのに、本当にシモンは可愛くないと思う。
しかし、シモンは何処かそわそわしていた。私と目を合わせずにあたりをキョロキョロ見ている。挙動不審な態度に私は不思議に思って声をかけた。
「どうしたの? 何か心配事?」
「いや! 別に!」
「そうなの?」
「いや! 違う、その……オマエにこれを渡そうと思って」
意を決したように、シモンは私に小さい箱を手渡した。特にラッピングもされていない小さい箱を受け取ると、私は開けても良いのかシモンの様子を窺う。問題なさそうだったので、その小さな蓋を開いた。
中に入っていたのは、一本のリボンだった。金色の糸で美しい刺繍の施された、赤い生地のリボンだ。高級とまではいかないが、シモンからしたら、きっと高かっただろう。
私はそのリボンを手に取りながら、シモンを見る。シモンは少し顔を赤くして、私から目を逸らしながら言った。
「最初に会った時、リボン……ボロボロにしただろ? だから――」
「お詫びってこと?」
「それもあるけど! あーもうっ! 誕生日おめでとうっ!」
その言葉を聞いて、私はようやくシモンの意図に気がついた。そうかなるほど、これは誕生日プレゼントだったのか。本当の誕生日はとっくに過ぎていたから、全然発想がなかったけれど、昨日は一応私の誕生日パーティーの名目だった。
そう思うと、シモンのことが可愛く思えてくる。私はそのリボンを自分の髪に編み込むように結んだ。私の髪の色とリボンの赤色がよく合っている。
「どう、似合う?」
「あ……ああ、うん。すごく」
「ふふ、プレゼントありがとう」
照れているのが伝わってきて、なんだかこっちまで照れてしまいそうだ。それに、いつもユリウスと三人だったから、二人きりは久しぶりな気がする。
そうして、なんだか不思議な空気が二人の間に流れていると、シモンが口を開いた。
「あ、あのさ。俺……アンジーに伝えたいことがあって」
「なあに?」
「えっと、だから……俺は……――ッ!」
「アンジー!」
その時、シモンの声を遮るように私を呼ぶ声が聞こえてくる。そして次の瞬間、走ってきたユリウスがベンチに座る私の身体を抱きしめた。
あまりの衝撃で首が絞まるかと思いながら、私はどうにかユリウスを受け止める。
「ごめんねアンジー! 昨日気がついたら寝ちゃってたみたいで、パーティーに行けなくて! 誰も起こしに来てくれないし!」
「あ、えっと、大丈夫ですよお兄様。気にしないでください」
多分、それはユリウスのせいではないだろう。私がそうしてユリウスのことを慰めれば、彼もようやくシモンがいることに気がついたらしい。
そして、シモンの顔と私の髪に結ばれたリボンを見ると、ハッとした表情を見せた。
「もしかして僕、邪魔だった!?」
その言葉に、シモンは真っ赤な顔でユリウスの頭を叩く。二人の仲が良い様子に、私は思わず笑顔が溢れるのだった。




