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綺麗な首飾り|誰かにかけられた呪いに解きかた  作者: 神代紫音
第三章 隠れ家|朝~昼|イオアンは古い物語を聞かされ、芝居の稽古に参加し、舞台で演じる
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第62話 カルハース2

玄関ホールが暗転し、少ししてからまた明るくなった。

二階のぐるりと回っている回廊を、少年らしき人物が歩いて、すべての窓のカーテンを引いていた。

他の三名は回廊からゆっくりと階段を降りてきて、エルの前に立った。全員が黒ずくめの格好で髑髏の仮面を被っている。


本当に、本物の〈首なし騎士団〉なんだ――。

イオアンは息を呑んだ。


エルが気やすい口調で、

「ねえ、仮面を外してよ。イオアン様が気味悪がるだろ」

と口を尖らせた。


中央の中肉中背の男が、

「駄目だ。これが我々の正装だからな。客人の前で外すわけにはいかない」

とにべもなく断った。


エルが左右の騎士へ顔を向けた。

「ダルトンとブシェルは捕まらずに戻ってたんだ!」


左側の背の高いがっしりとした騎士が頷いた。

「いろいろと楽しかったぞ」


「ダマリは?」


右側の小柄な騎士が答えた。

「夜警隊にしょっぴかれた。俺たちも逃げるので精一杯だった。あいつは今頃、怯えて泣いているだろうな」


「そうなのか……ねえ、さっきの光はなんなの?」


「隠れ家の防衛機構のひとつだ」

と中央の男が答えた。最初の押し問答をしていたのと同じ深みのあるいい声だ。この男がリーダーのカルハースなのだろう。

「仕組みが存在するのは知っていたが使ったことがなかった。なかなか効果がありそうだな。基本的には外部の幻影魔法の応用になる」


イオアンが質問した。

「では、鍾乳洞の骸骨の仕掛けもそうなのか」


「いや、あれは本物だ。じっさい君の頭に当たっただろう」

とカルハースが答えた。

「我々が殺した相手ではないが、どこから手に入れたかは聞かないでくれ。魔法に比べたらずっと手軽だからな。ただ、別な魔法が洞窟に仕込んである。だから君たちがやって来ることは、すべて水晶玉で把握していた」


では、お見通しだったというわけか――!

とイオアンが驚いていると、


「ねえ、上で着替えてきていい?」

と落ちているヴェールを拾いながらエルが訊き、カルハースが答えた。

「駄目だ。ちゃんと説明してからだ」


「えー、さっきの光のせいで、ぐしょぐしょに汗をかいてるんだけど」

「それにおそらく、お前はヒロイン役だからな」

「ヒ、ヒロイン?」

「お前たちが来るのを見て、計画したのさ」

「なんだよ、計画って」

「芝居をする」

「芝居? 誰が?」

「ここにいる六人で上演するんだ」


イオアンが眉をひそめた。

「まさか、私まで入っているのか?」


「もちろんだ。芝居には観客が必要だからな」

「そんな芝居を見るために、私はここに来たんじゃない」


「じゃあ何のためだ? まさか我々を探るためかね?」

とカルハースが眉を上げてみせた。

「まあ、いいじゃないか。せっかく集まったんだからみんなで楽しもう。さっきのも悪くはなかっただろう?」


「さっきのとは何だ?」

「さっきの我々の演技さ。なかなかのものだったと思うのだが」

「じゃあ、分かってからかっていたのか?」

「君の演技力を知りたくてね。イオアン君、君は合格だよ。最高だった! エルを想う気持ちがひしひしと伝わってきたよ」

「馬鹿にするな、私は本気だった。帰らせてもらう!」

「そうカッカするな、人生を損するぞ。それに扉は閉まっている」

「……私を閉じ込める気か」


「君だって、エルを閉じ込めたんだろう?」

とカルハースがにやりとした。

「それに私は、女装しろだなんて無茶な要求はしない。嘘偽りのない、ありのままの君を知りたいんだ。芝居に参加して欲しいだけだ。なぜか我々はいつも人が足りないんだよ。芝居が終わったら好きに帰ってもらっていい」


「では……芝居さえ見ればいいんだな?」

とイオアンが用心深く尋ねた。


「いや、それなんだがね……」

とカルハースが首筋を掻いた。

「正直なところ、まだ脚本も決まっていないんだ。だから配役も未定だ。ということは、君が主役ということもあり得るわけだよ!」


「馬鹿な!」

「嫌かね? 不思議だ。たいていの人間は喜ぶものなんだが……」

「やめてくれ、冗談じゃない!」


「イオアン君、人生の配役は好きに選べるものじゃないんだ」

大袈裟にカルハースが両手を広げてみせた。

「与えられた役を演じるしかない。我々に選べるのは、それをどう演じるかだけだ。まあ向こうでゆっくり相談しよう。私が見たところ、君には劇作家の素質もありそうだ。さあ、我々と一緒に最高の筋書きを考えようじゃないか!」


笑いながらカルハースは馴れ馴れしくイオアンと肩を組むと、奥の居間へと導いていった。背を向けた〈首なし騎士団〉の黒いマントには、大きく髑髏の白い刺繍がしてある。その下には、海賊旗のように二本の舶刀が交差していた。


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