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綺麗な首飾り|誰かにかけられた呪いに解きかた  作者: 神代紫音
第二章 横穴|深夜|イオアンはエルと語り合い、覚悟を決める
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第51話 女盗賊

「……どういうことだよ」

疑わしそうにエルが用心深く質問した。

「また、俺を騙そうとしてるんじゃないのか?」


「お前の首には、莫大な懸賞金がかかってるんだ」

とイオアンが答えた。

「セウ家の家臣団だけでなく、この辺りの領民すべてがお前を狙うだろう」


「嘘だろ? 俺のことをか?」

「女盗賊としてな」


「ああ……そういうことか。じゃあ、これを着てなきゃいいんだろ」

マントを外そうとしたエルを、イオアンが止めた。

「待て。脱いだところで変わらない。すでに布告が回ってる。逃走中の女盗賊は男装している可能性があるとな」


「そんな……」

馬鹿馬鹿しそうにエルが笑った。

「俺を見れば、一発で分かんじゃん」


「お前はそう思ってるかもしれないが、残念なことに、見た目が可愛すぎるんだ。髪を短く切った少女と思われてもおかしくない」


エルはまだ信じようとしなかった。

「だいたい俺に懸賞金なんて、急におかしいだろ」


「急じゃない。お前は〈暁の盗賊団〉を知っているか」

「どこかで聞いたことがあるような……?」

「市場で捕まえたとき、お前を牢獄塔へ連れていけと命じてただろ。あのとき話していた盗賊たちだ」

「ぼそぼそ喋ってたから、よく聞き取れなかった。そいつらと何の関係がある」

「この盗賊団の女首領と勘違いされたんだ」

「この俺がかよ?」

「そうだ」

「だって、これは奥方のドレスなんだろ? おかしいじゃん」

「そう思うだろうが、とにかくここから出るのはやめてくれ。詳しく説明する」


イオアンはエルの肩を抱いて、もとの場所に座らせた。


「〈暁の盗賊団〉という連中は、ちょっと変わってるんだ。義賊というのか、金持ちや権力者ばかりを狙う。ほとんど金も盗まない」

「じゃあ何を盗むんだよ」

「一族で大事にされてきた家宝とか、陰謀に関する秘密の手紙とか、貴族が大金をはたいて買った魔物の毛皮とか、そういうものだ」

「よく分かんないんだけど?」

「とにかく、そういう変わった物を盗み出しては、貧しい市民たちにお披露目する。市民たちは大喜びさ、日頃の鬱憤を晴らせるからな。総督府としては何とか捕まえたいんだが、いまだに手がかりすら見つけられていない」


「へえ、面白そうな連中じゃん」

と興味をもった様子のエルが気がついた。

「ちょっと待て。その盗賊団の女首領が、俺ってことなのかよ?」


「そうだ。連中の唯一の手掛かりが、盗賊団のリーダーが若い女だということだ。催眠術か魔法のようなものを使って、屋敷の人間を眠らせる。かなり若い娘ということ以外は分かっていない。記憶に霧がかかるんだ。その女なら、奥方様の部屋に侵入しても不思議じゃない。過去には高価なドレスを盗んだこともあるしな」


「じゃあ、その女が盗んだドレスを着て逃走したと?」

「そういうことだ」

「その女の首に懸賞金がかかっているのか?」

「それも莫大な金額がな。内務長官のギイス伯爵はかなり焦っている。なりふり構わず捕まえようとしているわけだ」

「じゃあ、いったい俺はどうすりゃいいんだよ!」


「だから、それを考えようとしているんだ」

イオアンが沈痛な表情で答えた。

「見張りの話では明日の朝、ここを調べて見つからなければ、あたりの住人に山狩りを呼びかけるそうだ。少なくない数の村人が参加するだろう。たとえ、お前がドレスを脱いだところで、その肌の色までは隠せない」


「そんな……」


「これが、処刑人がお前を尋問する理由だ。ただの馬泥棒としてではなく、数々の盗みを働いてきた〈暁の盗賊団〉の女首領としてな」


「……嘘だろ」

愕然とした表情でエルが、イオアンを見つめた。


「尋問は過酷なものになるだろう。何とかして自白を引き出そうとするだろう」

イオアンはエルから目を逸らし、前を向いた。

「すまない。想定外だった」


「だから、想定外じゃすまないって言ってんだろ!」

エルが、イオアンの胸元を掴んで揺すった。

「あんたの馬鹿馬鹿しい思いつきのせいで俺が死ぬんだぞ! 分かってんのか!」


イオアンはエルに揺すられるまま、

「……そうだな」

と感情を殺した表情で答えた。


エルは荒い息を吐きながら、

「どうしてくれんだよ……」

と震える声で呟くと、膝を抱えて頭を埋め、すすり泣き始めた。


幾つかの可能性がある――。

隣のエルの嗚咽を聞きながら、イオアンは正面を向いて考えていた。


尋問で、エルが女首領ではないと分かっても、ギイス伯爵は無理やりでっち上げた罪をエルに押しつけて、市民たちの前で公開処刑をする可能性がある。

伯爵はそういう政治的な工作が上手い。

父上がその「真実」を受け入れれば、私の関与は不問になるかもしれない。

そうなればブッケルムは〈魔の馬〉として復権し、私は何のお咎めもなく、ただエルだけがこの世から消えることなる。


この哀れな少年を生贄に差し出すつもりか?

自分が引き起こしたことなのに。

ブッケルムを屋敷から盗ませなければ、こんなことにはならなかったはずだ。

いや、違うな。

エルが〈首なし騎士団〉の見習いと聞いて、仕事を持ち掛けたときだ。

あのときから私には下心があった。エルを誘ったのは、ブッケルムのためだけじゃない、私自身のためでもあったんだから。


〈首なし騎士団〉といえば誰もが恐れる。

どの公爵家でも戦力として、喉から手が出るほど欲しい連中だ。

そして、もしかしたら彼らと、エルを通して接触できるのではないかと思った。

そうしたらどうなる?

父上や公妃様に報告すれば、私は褒めてもらえる。

日頃、私を軽視している騎士たちの鼻も明かせるだろう。

だからエルを屋敷に連れ込み、あとで追いかけようと思った。騎士たちの居場所を掴んで、上手くいったら面会する――。

あわよくば、そんなことを私は期待していたのだ。


まったく子供だな――。


つまりは劣等感だ。

そう、伯爵家の嫡男として生まれながら、騎士になれないという劣等感。


ベッドから動けなかった三年間、自問自答していた。

私の価値は何なのか?

この人生に意味はあるのか?

騎士になれない自分は、無用の存在だと思っていた。

弟の活躍も素直に喜べないところがあった。そんな自分が嫌だった。それで、ますます人を遠ざけるようになった――。


イオアンはゆっくりと息を吐くと、夜空を見上げた。


まもなく夜が明ける。

宝石のように青白く輝いているのは、プレアデスの星々だろうか。

星々にとって人間の人生など意味はない。しかし人間は、自分の人生の意味を自分で決めることができるはずだ――。


そう、己の生き方によって。


もういちど、父上を説得してみよう。

どうせ、エルが見つかれば決定的な処分を下されるんだ。

だが――説得が失敗したらどうなる?

父上は激怒するだろう。

病弱な自分が追いかけてきて、気分を逆撫でするような発言をするのだから。


いや駄目だ――。

私は失敗しましたですむが、エルにとってはそうじゃない。

確実に殺される。

だから、父上たちを絶対撤退させなければいけない。

しかし、どうやったら説得できるんだ。

頑固な父上を。

この無力な私に――?


では、私が持っているものは何だろう?


イオアンは胸元から〈綺麗な首飾り〉を取り出した。

もし、この私が持っている価値があるとしたら――それは、セウ家の爵位継承者であるということだけだろう。


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