23 新たな横槍
異世界ですが魔法はなく、何となくイギリスのヴィクトリア時代後期の世界観で書いています。
恋愛&ちょこっとミステリーな話になればいいなと思います。
お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
「それでは失礼させていただく」
ルーベルトの言葉にみんな立ち上がる。
客間を出て、厨房の近くを通りかかると、給仕達が廊下まで出てきてこちらを見ている。
リアーナはそちらに走って行き「先ほどはご迷惑をおかけしてすみません」と謝った。
アンドリューがリアーナを迎えに行くように追いかけ、こちらに戻ってきながら何か話しかけている。
リアーナの表情が強張った。
リアーナの異変に気がついたのはシャルロッテだけだった。
玄関を出る時「それじゃあね。リア」とアンドリューがリアーナに親し気に声をかける。
リアーナが戸惑いというよりは動揺した表情を浮かべて、アンドリューを見た。
エドワードが怪訝な顔をしてリアーナに寄り添おうとするが、リアーナはエドワードから離れようとする。
シャルロッテはリアーナの手を握り、ルーベルトの車に乗り込んでからリアーナの顔を覗き込んだ。
リアーナはまっすぐにシャルロッテを見返し「後で……」とだけ言った。
疲れたのでと言い訳して、ルーベルトとエドワードにはそのまま帰ってもらい、シャルロッテは自分の部屋でリアーナとふたりきりになる。
「何があったの?
あの時、厨房でアンドリューに何を言われたの?」
リアーナは涙をいっぱい目に溜めていた。
「いけなかったんです……。
私、エドワード様の事、好きになっちゃいけなかったんです……」
「なに?
今は平民と貴族でも結婚できるし、別に……、何も問題は……」
「だって……、エドワード様は王室に関係のある方だって……。
そのうち、王族としての婚約発表があるとか……」
「アンドリューが言ったの?」
「はい……」
「それを信じたの?」
「はい、言われて思い出しました。
前に祖母から聞いたことがあります……。
前の第2王子が今の王になる時に離婚して、他国の王女様を王妃様に迎えて……。
離婚した前王子妃の子爵令嬢には男の子がいたって……」
「もう!
ローエングリンは何してくれてるのよ!
私達には手を出せなかったからって、リアとエドワードの方に横槍を入れてくるなんて!
リア!
そんな他人から言われたことなんて信じないで!
ちゃんとエドワードから話を聞きなさい!」
「聞くも何も、私とエドワード様はそんな関係ではないのですからっ!
ここで私の気持ちを止めてしまえば……。
だから、お嬢様、私、今日からしばらく父の実家に行って、エドワード様から離れます」
☆ ☆ ☆
「リアはどこに行ったんだ?
シャルロッテ、教えてくれ!!」
ローエングリン家のお茶会から1週間。
リアの姿がヒューバート伯爵家から消えた。
エドワードがシャルロッテに頼みこむように聞くが、冷たく撥ねつけられる。
「教えません。
泣かせたら承知しないと言いましたよね。
たぶん、リアにもう会えなくなることがあなたに対する最大の復讐になると思うから、それに、そうリアも望んだから」
「リアはなぜ? こんな急に?」
「知ってしまったんです。
あなたが王子であることを、そしてグリース公国の王女と婚約の話が進んでいることを。
リアに言われて調べたところ、本当のことだとわかりました……」
「俺は断っているし、ジェームズ王子が後半年で10歳になるから、もういいだろうと王室から籍を抜く準備も始めている!!」
「あなたはそのつもりでも、周囲は全くそのつもりがないようですよ」
「いったいどこからその話を……。
シャルロッテも調べたということは、知らなかったということだろ?!」
「……ローエングリン公爵家のアンドリューです。
彼はリアに興味を持ったようで、リアとあなたを引き離す必要を感じた……。
彼はロバートより手強いかもしれません。
お茶会の時もそうです。
自然にロバートやエミリアのやっていることがトーマスにばれるようにうまく立ち回っていた。
自分は何も知らないようなふりをしてね。
リアは、祖父母のいるファーマソン子爵邸にしばらく行きたいと言ったのだけれど、嫌な感じがして私は行かせませんでした。
お茶会の翌日、ファーマソン子爵家にはローエングリン公爵家から問い合わせがあったそうです。
前子爵の孫、現子爵の姪に当たるリアーナ嬢に結婚を申し込みたいと……。
アンドリューは子供の頃から凡庸だと思われていましたから、他家に出すのは無理だと判断されてローエングリン公爵家が保有している子爵位をもらうようです。
こうなるとリアは前から思われて狙われていたのかも……。
ですから、誰にもリアの行き先は教えません!!
私はリアと約束しましたから!」
「シャルロッテ。
エドワードは本当にリアのことを思って大切にしていたよ」
「ルーベルト……。
エドワードはリアに自分の状態のことを話さなかった、だからリアは最初から何もなかったことにしようと思いこもうとして……、できなくて、物理的に離れることを選びました……」
「伯爵領か?!」
エドワードが鎌をかけてくる。
「探してみればいい、無駄ですから」
エドワードは絶望したように頭を抱えた。
「何でこんなことに?!」
ルーベルトが励ますように言う。
「早まるな、エド。
もし本当に一生リアを隠す気ならこんな話はしないだろう。
シャルロッテは何かを待っているんだと思う」
「何を?」
「お前がリアと向き合えるのを?」
「だから、それは……、半年後なら王室の人間でなくなることができる……」
「なら、話はそれからですね。
その時までにリアが新しい恋を見つけていなければいいのですが……」
「くっそー。
俺が弱って死んだら本望なのか?!
この、ギルロッテ!!」
「あなたが死んだら、リアは悲しむでしょうね……」
「死ぬことすらできないとは、地獄だな」
エドワードはシャルロッテを睨んでから、客間を飛び出して行った。
読んで下さりありがとうございます。
色々考えてみましたが、朝の7時くらいが一番投稿の時間が取れそうです。
明日からはそうしますので、これからもどうぞよろしくお願いします。