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回胴式優義記  作者: 煙爺
第二章
72/171

解放

3月22日 金曜日 8時20分


ガラガラガラ


「すいません河崎先生いらっしゃいますか?」


タバコの匂いが微かに残る職員室

その扉を開けアタルは

学年主任の河崎を呼んだ


するとすぐに返事が聞こえる

薄くなった頭に紺のセーターと赤のネクタイ

グレーのズボンに黒サンダルを履いた

この道25年のベテラン教師

そんな教師が不安そうな顔で現れた

「お、おぉ神崎君…どないしたんや?何か問題か?」


「先生 その逆ですよ…ちょっと早いけど

[コレ]渡しときますわ25日で終わりでしょ?」

(そんな不安そうな顔せんでも…今日までお疲れさんでした)


そう言うと鞄の中から茶色い封筒を取り出し

河崎に差し出した


するとそれを見た河崎が満面の笑みを

浮かべて足早に近付き茶封筒を受け取る

「そうか!!いやわざわざスマンな!

いやーもうそんな時期なったんやなぁ!!」


「まぁ松谷先生とはこれから先あんまり関わる事無いでしょうから……一応聞いときますけど…無いですよねぇ?たぶん」


アタルの言葉を聞き慌てる河崎

言葉を濁しながら答える

「あぁ…は、ハッキリした事は言えんけど

たぶん無いと思うで…ハッキリとは言えんけどな…」


「そうですか それ聞いて安心しましたわ

ホナ失礼します」


扉を閉め

廊下を出て教室に向かう


(こんだけ言うといたら大丈夫やろ

ホンマ実家でも学校でもアホの相手は疲れるわ……まぁもう終わった事や

2年の担任は確か家庭科の宮津先生やから問題無いけど……

3年は最悪やからな…覚悟せんと…

まぁ無理そうやったらサボったらエエわ

どうせ進路は決まってるしな)



3月25日 月曜日 11時37分


「関口先生」


見慣れないグレーのスーツ姿で花束を持った

小柄で怖い顔をした男が

後ろから掛けられた声に振り向いた

「おぉ神崎やないか 背高なったなぁ

完全に追い抜かれとるなハッハッハ」


ニカっと笑いながら話すその顔を見て

アタルも笑いながら話し掛ける

「ハハハ最近よぉ言われますよ

先生お疲れ様でしたコレ祝いの品です

受け取って下さい…お世話になりました」

そう言ってペコリと頭を下げ

25cm程の箱を差し出した


それを見て複雑そうな顔をしながら

口を開く関口

「神崎…気持ちは嬉しいんやけど…」


「まぁそんな事言わんと只の商品券ですから」


「いや余計アカンやないか!!」


「ハハハ冗談ですホンマはスポーツとかの後に使う薬用ローションです、スッとするやつ」


「そうか…いやそれでも拙いんやないか?」


「大丈夫ですよ

確か役人でもカレンダーとタオルはOKって聞いたような気がしますから

消えモンやし教師やから大丈夫ですって」

(今は全面的にアカンとか聞いたけど…

まぁ固い事言わんでエエやろ)


「お前はどっからそんな話聞いたんや……

そやけどこんなん貰うの初めてやから

どないしたらエエかわからんわ

神崎お前なんでワシにこんな事……いや

こんな事言うたら悪いなスマン……

せやけど担任でも無いワシにどないしたんや?」


「いや単純に助けてもうたからですよ

まぁこんなん言うたら悪いですけど…

先生は特に人気あるわけでも無いし

かと言って嫌われてるわけでも無いですけど

自分にとってはあの時助けてもうた事は

そんな事関係無しに有り難かったですから

それになんか返したいと思うのは自然な事でしょ

まぁドラマやったらお前の立派に成長した姿が恩返しや!とか言うんでしょうけどね

人間いつ死ぬか分からんし返せる時に返した方がエエと自分は思ってますから

固い事言わんと受け取って下さい」


それを聞き

笑いながら箱を受け取った関口

「そうかありがとうな!大事に使わしてもらうわ

神崎…お前も色々あるやろけど今まで通りやったらエエからな頑張り過ぎるなよ」


「ありがとうございます

ホナ帰りますわ、新しい学校でもお元気で」


「あぁ!神崎も2年なっても元気でな!」


そう言ってアタルの人生最高の教師は元気に去って行った


(やっぱりエエ先生やったな

普通より…ちょっとエエか…な?……

いや普通か、やっぱり)



教室に戻り

後ろの棚に置きっ放しだった教科書を鞄に入れる

更に春休みの宿題も入ったアタルの鞄は

いつもの何十倍という重さになっていた

机の横に鞄を掛ければ机が傾く程だ

仕方なく鞄を机の上に乗せ帰りの時間を待つ

暫くすると担任の松センが入って来た

教壇に立ち話を始める

「えー…今日で担任は終わりますが

この学校にいる限り先生は先生やからバレー部の顧問も………」


(相変わらずやな…最後まで…)


そんな下らない話を約15分も続けた松谷は

最後まで生徒に不評のまま担任業務を終え

クラスは解散となった


学校を出て裏の公園に入ると

いつも通り自転車の場所に行き鍵を開ける

肩に食い込む重い鞄を前カゴに入れペダルを漕ぎ出す…がバランスを鞄の重さに取られ

フラフラとヨタついてしまう

(ぬおっ!…アカン舐めとった…柿本の鬼ハン級にハンドルが効かん!……負けん負けへんで!おるぁぁぁあ!!)

全力でペダルを漕ぎ

何とかスピードを出し安定し始めた自転車は

通学路を外れアパートへと向かった



12時33分


ブーブーブー


駐輪場に自転車を停めポケベルを見る

送られ来た数字は525

(おっ久しぶりのカド台や…

525いう事は上げ狙いか珍しいな)

そんな事を思いながら入店

スロットコーナーに入るといつも通りの光景

全体的な客付きは4割程度

ニューパルサーのシマは15台中4人が座り

一人でモグモグを打つカズヤはまだ下皿のようだ

1番の狙い台である523番は残念ながら

常連のお爺さんが座っていたがまだハッキリとした出玉は出ていない

(まぁまだ12時半やからな…俺も頑張ろ

今日はカド台の上げ狙いやから油断出来んしな…アカンかったらモグモグや)


本格的に通い出してわかった事

どうやらこのN店

ここ最近カド台や内カド台にあまり設定が入らないのだ

カド台は

緑パネルのニューパルサー525番

ダイバーズ501番にピンクパンサー388番

アラジンマスター363番

そして

両替機とコイン精算機を挟んだ内カド台は

スーパーモグモグ377番

赤パネルのニューパルサー512番

緑パネルのニューパルサー513番

アラジンマスター376番

となっておりそのどれもが設定変更の跡を

見られない…

(設定入れる人変わったんかな?…まぁこればっかりはわからんけどな…)


更に他にも色々な事が分かって来た


ニューパルサーには設定5と6が1台づつ入っている事

モグモグのモーニング台が中間設定らしき台でそれ以外の2台どちらかに設定6が1台入っている事

更にその2台の内クレジットが1枚掛け表示になっている台は設定変更台である事

その他ピンクパンサーやダイバーズにも色々なクセを発見する事が出来た


(俺が来始めた頃はカドも内カドもしょっちゅう56入ってたのに…

最近…というかここ1カ月はランプ点灯しっぱなしやったからな…

モグモグはモーニングのせいで一枚掛けかわからんけど…)


そんな気持ちで警戒して打ち始めた525番台

しかし意外にもアッサリと当たってしまう

初当たりは投資4000円

まだSS判別の途中で頭の中で数えていた

132ゲーム目

左上段7から右下がりに7・カエル・7が並び

これがBIG

ホッと一息つきながら順調に消化する

BIG終了後

いよいよ判別の準備を開始

(さぁ…どうや?)


しかし


やっと準備が整った37ゲーム目

上段に7テンパイしたと思えばそのまま7が並びBIGスタート

判別のやり直しとなる

コインが増えて嬉しい筈なのに何故かイラッとしてしまうのは判別あるあるなのか…

そんな事を考えながらBIGを消化

再び判別の準備を開始する

(さぁ…今度こそ)


だが……


再び判別の準備が整った36ゲーム目

またしても上段に7が並びBIGスタート

(うおぃ!…ま、まぁエエわ…BIGやしな)

3度目のBIGを消化し

三度判別の準備を開始する


33…32…31とクレジットが減って行き

遂に1回目の判別ゲームが訪れた

(フゥ…さぁ頼むで、こんだけ引っ張られたんやからな!)


左リールに気合を入れてチェリーを狙う


ガチャ…っとレバーを叩き

ボタンを止めると…


左リールには見事に中段チェリーが止まった



17時を過ぎ

これから段々と客が入れ替わる時間になって

アタルは漸く箱を使える様になった

BIG13回にREG10回

総回転数は推定3000回転

出玉は1500枚前後と踏んでいる


あれから

調子良くチェリーが落ち設定5以上が確定し

調子に乗って設定6判別を行ったのだが…

結果は設定5で落ち着いた

この店のパターンからいってももう1台設定5以上…恐らくは設定6が何処かに潜んでいるとは思うのだが……

(まぁ持ち玉やし5やったら十分やろ…

多分6は隣の523番か518番やろうけど…

ナナロクで持ち玉アリの5捨ててまで6探すのは無理やし…さぁ閉店まで頑張ろか!)

今日はこの525番台と心中する覚悟を決め気合を入れて回し出した


18時を過ぎ

月末25日の給料日ということもあってか

段々と混み始める店内

近くの工場に勤める工員や作業員

会社帰りのサラリーマンなど普段は空いているN店も客付きが8割程まで伸びている

(きっと今頃U店は満席やろなぁ…)

そんなかつてのホームに想いを馳せながら

ニューパルサーを打つアタル

台の方は調子良く当たり

あれからBIG4回REG1回を増やして

出玉は推定2000枚を越えていた

(よっし 大丈夫そうやなエエ調子や)


すると

「あぁ ニィさん何遍も7押してもうて

ありがとうなぁワシ帰るから頑張ってや」

と挨拶をし、隣の523番台を打つ常連のお爺さんが箱を持って席を立った


「いやいやこちらこそコーヒーありがとう

ホナまた!お疲れさんでした」

(下皿のコイン呑まれてヤメか…

なんかエエな…ガツガツしてない感じで

確か常連のおばちゃん曰くこの辺の地主らしいし…流石に金持ちはちゃうな)

高そうなコートを羽織り去って行くお爺さんの後ろ姿を見ながらガツガツと自分の台を回し始めた


8割程の客付きにより空席が次々と埋まる中、アタルの隣523番台は空き台のままだ

(あー…まぁ俺の台が出てるから隣は座り辛いわな…でも518番も不発してるし

設定6は俺の隣が濃厚やと思うけどな

さぁ誰が座るかな…閉店まで空き台の可能性もあるでぇ)

10分が過ぎ…

20分が過ぎても空き台のままの523番台

このまま客の多い時間を過ぎるか?

と思われた18時39分

遂に勇者が現れた


ドスッ!


っと音を立て523番に座った勇者

おもむろに1000円分のコインを借りたかと思うと…そのまま動かず

ジッっとアタルの方を見ている


先程から視線を感じ

不快な気持ちになるアタル

(何やねんコイツ……鬱陶しいな…)


もう30秒以上経ったのでは?と思う程の時間

が経ち流石に我慢の限界に来たアタルは相手の顔を確かめる事に


(マナー違反にも程があるやろ…エエ加減にせぇよ?誰やねん)


そしてその顔と顔が合った


「あっ…」「あー!やっぱり!」


2人の声が被ってしまう


隣の523番台に座った勇者


それは全く久しぶりとはいえない顔見知り


春休み真っ只中の新入学生

ミヤマサこと宮永 正良だった


(またかいなマサやん…最近会い過ぎやろ)



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