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回胴式優義記  作者: 煙爺
第二章
71/171

久しぶりのサヨウナラ

3月14日 木曜日 8時22分


卒業式の前日ということもあり

今日の授業は昼までに短縮され

昼休みの後は体育館で最後の予行練習だ

それによって図らずも明日から3連休となったアタルは朝から気分良く自転車を漕いでいた


(さーて明日から3連休…今日も昼までで帰れそうやし、久しぶりに早い時間からカエルを……お?)


いつも自転車を隠している学校裏の公園が近付いて来たアタルの目に珍しい物が映る

ベンチに学生服を着た男が座っていたのである

(何や珍しいな…早よ着き過ぎたか?)

チラリと腕時計を見ると時刻は8時23分

いつも通り、朝のHR開始7分前だ

(いやいつも通りや…ホナやっぱり珍しいのはあっちか)

公園に着き自転車を隠した後、中を通ってベンチに近付き

そっと横を通り過ぎるフリをしてその横顔を見た…すると

(あら!?)

思わず足を止め、声を掛けるアタル

「西岡君!!どないしたんこんなとこで?」


ベンチに座り下を向いていた顔がパッと此方を向いた

「神崎君!おはよう偶然やね…」


「おはよう、ほんでどないしたん?こんなとこで…もう行かな学校間に合わんで?」

(おかしいな…いっつも早めに来てる筈の真面目な西岡君がこんな時間にこんなとこで…

間違いなく何かあったんやろ)


そう聞くと答え辛そうに話した

「うん……わかってんねんけど……どうやってこれ持って行ったらいいか…」

そう言うと自分の手元に目をやる西岡君


(これ?……いっ!何やこれ!?)


鞄と共に西岡君が持っていた物

それは大きな手提げの紙袋入った大量の荷物

(何や!?結婚式の引き出物並やんけ!

これ…まさか!)

嫌な予感がしたアタルは恐る恐る西岡君に

尋ねた

「西岡君……これってひょっとして…全部お返し?」


「…うん…」


(ハァー……こら確かに鞄には入らんわ…

ていうか貰った時はどないしたんや?)

「あの…これって貰った時はどないして持って帰ったん?」


「…え…あの時は箱が多かったから…鞄と神崎君に貰った袋に何とか全部入れて…急いで家帰ったんやけど…

今日はこれ中身クッキーやから…鞄に入れたら割れるから…家にあった紙袋に…」


「ほんでここまで持って来たけど正門にも裏門にも先生立ってるから入られへんと……」


「…うん…」


(なるほどな…まぁそういう事やったら協力出来るわ)

「よっしゃほんなら俺の鞄に全部入れたらエエわ、ほら早よ入れよや 俺も手伝うから」


そう言うと素早く紙袋のクッキーを自分の鞄に入れ始めるアタル

それを見て目を見開きビックリした様子で此方を見る西岡君

「えっ!?でも神崎君の荷物は…」


「大丈夫大丈夫…俺の荷物は全部教室の後ろの棚に入ってるから、鞄はいっつも空や空」

(ノートも無しでルーズリーフとシャーペン1本だけやし辞書も常に図書室の借りモンやしな)


「えぇ!そうなんや……でも…」


申し訳ない…そんな顔をする西岡君を無視して丁寧にラッピングされたクッキーを全て自分の鞄に入れたアタル

「大丈夫やって ホラもう時間無いから

行こ行こ」

そう言って紙袋を畳み最後に鞄に入れて

西岡君の肩を叩き、サッサと歩き出した


「あっ…ちょっと神崎君…」

何と言っていいのかわからない

そんな顔をしながらも後ろを付いてくる西岡君を無視して裏門を通り

何事も無かった様に教室へと向かう

廊下に入ったところで西岡君が横に並び

アタルに話し掛けて来た

「ゴメンな…神崎君…いっつも……ありがとう」


「何言うてんの…そんなもん気にせんでエエねん、教室ついたら今日は俺と鞄交換して

休み時間にクッキー配ったらエエからな

しかし西岡君も大変やねぇ……

ちなみにこれって何個あんの?クッキー」


「え…うん…ありがとう……えっと確か…

……38個…やったかな…」


「さっ!38て…1クラス26人しか女おらんのに……ひょっとしてウチのクラス全員ちゃうの?」

(エラいこっちゃがな……柿本…頑張れよ)


「いやそんな事無いよ!…他のクラスの子とか…後…女子バレー部の先輩にも何個か…」


(先輩!?やるなぁ流石やで…あんまりからかったら可哀想やからこの辺にしとこか)


無事教室に着き

ドアの前で鞄を交換

アタルが先に教室に入る


ガラガラガラ


(うわっ!何やこれ!)

教室に入った途端

バッ!っと

一瞬にして女子の視線を集めた

しかし

すぐにパッと目を逸らし

何事も無かったかの様に談笑に戻る女子生徒達


(何やコレ?………あー…はいはい…注目してんのは俺の後ろかいな…なるほどなるほど

今日はある意味1ヶ月待った宝クジの当選発表日やもんなハッハッハ

心配せんでも俺の得た事前情報によると

1等のリップクリームは入ってるらしいからお楽しみに)




昼休みに入り

給食の時間も終わったアタルは

いつも通り自作のおにぎりを食べていた

(さぁいつ帰ろかな…まぁ西岡君がクッキー配り終わる迄は待っとこか…

鞄も交換せなアカンしな

今日はいつ終わるかわからんかったから

カズヤさんにも言うて無いし

帰ったらカズヤさんに電話かな…)

他クラスにクッキーを配りに行っている西岡君を一応待とう…そう考えていた

その時


ガラガラガラ!


「ちょっとスマン神崎って奴おるか?」


勢い良く後ろの扉が開き

急に入って来た男に名前を呼ばれてしまう


(何やねん……俺はもう帰りたいねんけど…)


柿本とは違う濃い完全な茶髪の坊主頭に

太めな体型で手にファンタグレープを持ち

緑のTシャツを着て上から中ランと呼ばれる少し長めの学ランを着た見覚えのあるヤンキーがクラス中を見渡していた


「あら神崎休み?クラス間違ったかな?」


(何してんのよ…マサやん)


そう…入って来たのは

この中学で1番有名なヤンキー

宮永 正良ことミヤマサ


突然現れた完全体のヤンキーに静まり返る教室

そんな中…呼ばれた張本人は頭を抱えたい気持ちで一杯だった

(勘弁してや…折角馴染んで来たのに…)


仕方ない…そんな気持ちで立ち上がり

返事をするアタル

「はいはい自分が神崎ですけど…何かありました?」


「おぉホンマか!ちょっと付いて来てくれや

頼むわ、な?」


「え?まぁ別にいいですけど…ちょっと伝言あるんで待って貰えますか?」


「おぅエエで」


「ホナちょっとスンマセン」

そう言うとルーズリーフを取り出し西岡君にメッセージを書くアタル

(えーと…スマンけど配り終わったら鞄を元に戻しといて下さい…っとこんでエエな

後はこれを誰かに……おっ そうや)


「柿本 ちょっとエエか?」


教室の端で固まっていた柿本を呼ぶ

すると硬直が解けたようにこちらへと

走り寄る柿本 顔が不安だと訴えている

「ど、どないしたんや!?」


「いや…そんな大層な顔すなや…

悪いねんけどな西岡君帰って来たらこのメモ渡してくれへんか?頼むわ」


「おぅそら別にエエけど…いやそんな事よりあれミヤマサさんやろ!?また何したんや!?」


「何もしてへんわ!相変わらず失礼なやっちゃな…大丈夫やって ホナ頼むわな

ちょっと行ってくるわ また月曜日に」

そう言うとミヤマサのところへと戻った

「いやお待たせしました 行きましょか」


「おう 悪いなホナ付いて来てくれや」


2人で一年校舎の廊下を歩く

それがアタルにはとても不思議に思えた

(ホンマやったらマサやんに出会ったんは

俺が中3でマサやんが高2やもんな……

それが今はマサやんと並んで中学の廊下歩いてんねんから…不思議なもんやで…)

不思議な感覚…だが嫌では無い

同じ校舎を制服で歩くただそれだけの事

だがそれをする事で同じ学校の先輩と後輩なのだという事が確認された気がして少し嬉しくなってしまった…


暫く歩き体育館の裏へとやって来た2人

そのままネットの穴を潜り校外へ出て

懐かしの市営グラウンドまでやって来た

そして野球場のベンチ前で足が止まる

「まぁ座ってくれや」


「はい ホナ失礼して」

そう言ってアタルが座るとミヤマサがタバコに火を付け話出す

「悪かったな急に」


「いや大丈夫ですよ 後は帰るだけやったんで」


「ん?1年は卒業式の練習あるんちゃうんか?」


「あーいや自分は卒業式参加したらアカン言われてるんで今日は鞄取りに帰って帰りますわ」


「はぁ?言われてるって…誰にや?」


「担任の松センです 前にちょっと揉めまして…それ以来ちょっと」


「あぁそれ聞いたわ…なんやド突こうとして

関ぐっさんに止められたんやろ?ふーん…」


「まぁその辺は何とか話付けたんで大丈夫です、2年なって担任変わったら関わる事も減るやろうし……それより今日はどないしたんですか?3年の番長がわざわざ」


「ば、番長て…そんなんちゃうわ!

今時そんなんおらんやろ……いやな?

前から気にはなっとたんや

お前戸池シバいたらしいな?

あと2年の森元も…何でや?」


急に真剣な顔になりアタルを問い詰める

久しぶりに見たミヤマサのその顔に

懐かしさを覚えながらも冷静に答える

「あぁ…あれは始め森元に絡まれたんですよ

それだけやったら謝って済まそうと思ったんですけどね…流石に金出せ言われたら無理ですわ」


「あー…そらしゃあないな…」


「ほんでその後に戸池に呼び出されていきなり胸倉掴まれて腹ド突かれたんでやり返しました、一応言わんように言われたから誰にも言うて無いんですけどよぉ知ってますね」


「あたり前や そんな噂すぐ広まるわ

まぁ森元と戸池は家も近所の先輩後輩らしいからな森元やられて戸池がキレたんやろ

そやけどお前1年やのに強いなぁ身体もデカいしどっか道場通ってんのか?」


「金も時間も無いんで通えませんよ

その代わり個人から習いましたけど

ボクシングとレスリングとあとちょっとだけ柔道の技を」


「へぇーやっぱりなぁ…

戸池が言うとったらしいわ

あいつにド突かれたら立たれへんかったてな

そら無理な筈や」


「はぁ?本人に聞いたんですか?何やそれ…

俺に言うな言うといて…どういうこっちゃ」


「いや戸池が森元に話してそれを森元が誰かに言うたらしいから本人は知らんかもしれんけどな、まぁそんなもんすぐ広まるから無駄や無駄」


「なるほど まぁ別にもう卒業する人やからいいですけどね」


「そうか まぁ金出せ言われたらしゃーないわな…そら森元が悪いわ悪かったな呼び出して」


「それ聞く為に呼んだんですか?」


「まぁな あんまり酷い奴やったら卒業する前にシメなアカン思たけど…大丈夫そうやし」


「へー番長も大変ですねぇ」


「だからその番長ってやめろや!そんなんおらんから!」


「ハハハそうですね、ほんならこっちからも一個質問して良いですか?」


「質問?別にエエけど…何や?」


「ホナ聞きますわ…

ミヤマサさん

正月のS店のビガー

あの後何枚出ました?」


その質問に息を飲み

目を見開いて此方を見るミヤマサ

思わず声が大きくなった

「な、な、何で知ってんねん!!?」


「いやーあの時は助かりましたわ

ナンボ入った台か教えてもうて」


そう言うとアタルの顔をまじまじと見て

更に驚いた顔になった

「あぁぁぁあぁ!!!

あの時の引き戻しニィちゃん!!」


「ハッハッハどうもお久しぶりです

1日だけやけど先輩の内にお会い出来て良かったですわ…あっそろそろ帰らんと

ホナ帰りますわお疲れ様でしたサヨウナラ」

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