③バンダナの少年~優麗祭での災難
-響希・中2春-
文架市の龍脈は亜弥賀神社に繋がっている為、鎮守の森公園には妖気が溜まりやすい日がある。そんな日は、霊感で誘き寄せられた通行人が、妖気に悪意を活性化された外道に襲われる頻度が高くなる事を、響希は知らない。
「ねぇ、知ってる?何日か前、この公園で痴漢が出たんだって?」
「うん、聞いてる。お母さんから、気を付けなさいって言われたよ」
「それなのに通るの?怖くない?」
「何日か前に出て、警察に捕まったのに、また出るなんて無いでしょ?
それに、こっちの方が近道できるし!」
「え?警察に捕まったの?」
「え?わかんない。まだ捕まってないの?」
部活の帰り、やや薄暗い鎮守の森公園内を、響希と清華が歩く。響希は、ややドンヨリした空気を感じているが、そんなのは時々あるし、そんな時でも何度か公園を通ったけど、今までは痴漢に出会したことはなかった。なによりも、「まだ子供の自分達など、痴漢だって興味を示さないだろう」と根拠の無い自信(?)もある。
「もし出てきたら、全速力で逃げればいいじゃん!」
「まぁ・・・そうだけど」
陸上部で、響希は長距離ブロック、清華は短距離ブロックに所属をしている。部に入って1年が経過して、先輩が優しいけど怠けることを許してくれないので、響希は着実に記録を伸ばしていた。まだ、中学時代の姉のベストタイムには及ばないけど、痴漢と競走をして逃げ切るくらいの自信はある。
「ひゃっはぁ~」
「夜は、これからだぜ~」
「一緒に遊ぼうよ~っ」
清華の予感的中。バカっぽい3人組が響希達の行く手を遮った。どう見ても子供にしか見えない少女達なんだけど「ガキには用は無い」と道を空ける気は無さそうだ。
響希は直ぐに逃げようとしたが、清華が恐怖で腰を抜かしてしまった。清華に気を取られた隙に囲まれてしまう。
「ヤバいっ!」
痴漢が1人なら逃げ切る自信はあったけど、3人もいたら逃げられない!響希がパニックで頭の中が真っ白になりかけたその時!
「そこまでだ、悪党共っ!!」
何処からともなく、若い男の凛々しい声が響き渡った。アホ共が辺りを警戒する。
「ん~?」 「誰だあ~?」
響希と清華はパニックになっていたので、その先の出来事はあまり覚えていない。気が付いたら、痣や掠り傷だらけになった少年が、倒れた3人のアホを見下すようにして立っていた。
響希よりも少し年上っぽい、頭にバンダナを巻いた少年。学校の男子がする喧嘩とは違う流暢な動きで、痴漢共をやっつけたような気がする。
「怪我は無いか、お嬢さん方?」
「あ・・・あぁ・・・はい」
「あ、ありがとうございます」
動揺をしていた中学2年の少女達には、「名前を聞いて、後日お礼に行く発想」なんて無かった。もう一度頭を下げてお礼を言うと、足早にその場から立ち去っていく。
帰宅後、母親の顔を見た途端に響希は大泣きをした。「何事か?」と訪ねる親に、泣きながら公園での出来事を報告して、親が警察に通報したあと、少し気持ちが落ち着いてから、親が公園に様子を見に行ったが、もう少年やアホ達の姿も無かったらしい。
響希の脳内で「バンダナ少年の勇姿」が何度も頭の中でリプレイされる。彼が、東中学区に引っ越してきたばかりの高校生って事など知るはずも無い。一ヶ月前に東中を卒業した先輩が、未来の恋敵になる事など想像もしていない。響希が彼の名を知り、彼への気持ちが初恋と知るのは2年後になる。
-響希・中3秋①(第10話とリンク)-
その日、響希は、友人の天海七菜に誘われ、幼馴染みの清華を伴って、優麗祭に訪れていた。クレープ、たこ焼き、焼きそば、フライドポテト、チェロス等々、ズラリと並んだ模擬店に目移りする。先ずはクレープで胃にスイッチを入れた。
「次はタコ焼き食べようよっ!」
はしゃぐ中学生3人娘を、遠目に眺めるガラの悪い高校生の3人組がいた。響希達がタコ焼き店から離れるのを確認して、仲間内でアイコンタクトを取って笑う。そして、響希達の対面から近付いた。
「危ない、ひびきっ!」
「えっ!?」
どんっ!
「わっ!」 「げぇっ!」
手元のタコ焼きに集中しながら歩いていた響希が、ガラの悪い高校生とぶつかってしまう。高校生のワイシャツにソースが付着してしまった。市内では問題児の多い渡帝辺工業高校の制服だ。
「お気に入りの服が台無しだ~!前見て歩けよ!」
「ちゃんと、前を見てました!そっちがぶつかってきたんじゃないんですか!?」
「マズいって、ひびき」
「お互い様だったとしても、ソースはひでえだろう!どうしてくれるんだよ!?」
「ク、クリーニング代を弁償すればいいんでしょ?
いくら?1000円?2000円?」
「ソースは普通に洗っても落ちね~んだよな」
財布を握り締めて困惑する響希。いつも勝ち気な響希だが、問題児だらけの渡帝辺の生徒とは揉め事を起こしたくない。清華と七菜は怯えている。一方、ガラの悪い連中は、アイコンタクトを取って、厭らしい笑みを浮かべた。
「仕方ね~な。俺は優しいから、2000円で勘弁してやるよ」
「だけど、こんな人目に付くところで弁償代をもらったら、
まるで俺等がカツアゲをしているみたいだ。
人が少ない、校舎の方に行こうぜ」
響希達からすれば、せっかく楽しい優麗祭に来たのに、早々にトラブルに巻き込まれて台無しだ。でも仕方が無いから、渡帝辺高生達に従って人が少ない工事中の校舎の方に歩いて行く。
渡帝辺の連中からすれば、これで「一丁上がり」だ。周りに人がいなくなったところで、響希が財布から金を出そうとするが、リーダー格が響希に寄ってきて壁ドンをする。メッチャきしょい。
「急に、なにっ!?」
「俺にぶつかって、俺の服を汚したのは、
俺に一目惚れして気を惹きたかったからなんだろ?
お望み通り、遊んでやるよ。何処に行く~?」
「はぁ!?違いますっ!そっちからぶつかってきたんでしょ!」
「ひびき~!ヤバいってっ!まずは謝ろうっ!」
「そ、そうですよ!清華ちゃんの言う通りですよ。
相手の服を汚してしまったのは事実ですからっ!」
「謝らなくて良いからさぁ~。遊びに行こうよ」
「な、なんでそうなるの?」
「君たち何処の学校?優高じゃなさそうだね」
「遊んでくれるなら、クリーニング代、要らないよ」
「何なら、俺等が、おごってやるよ!」
「そうそう!俺たちバイクで来てるからさ!遊びに行こうよっ!」
響希だけじゃなくて、清華や七菜も、マンツーマンでガラ悪い奴等に言い寄られている。この人達、急に何なんだ?金をふんだくるのが目的じゃなかったのか?こんなバカっぽい奴等と遊びに行くなんて冗談ではない。逃げ出したいんだけど、囲まれて、清華は腕を掴まれていて、簡単に逃げられそうにない。
「ねぇ、そこのイケメンくん!」
リーダー格の背後から声がした。特にイケメンでもない3人組の男が振り返ると、そこそこ可愛い女子が微笑んで立っていた。
「喉渇いたでしょ?差し入れ、あげるっ!」
女生徒は満面の笑みを浮かべて、持っていた紙コップのジュースを、リーダー格に向かって軽く投げて渡した。リーダー格は「逆ナンか?モテる男は辛いぜ」みたいな表情をしながら、格好をつけてワンハンドでキャッチするのだが、事前に蓋が外してあったので、中のオレンジジュースが溢れ出して、服をズブ濡れにする。
「あははははっ!タコ焼きのシミだけじゃなくて、ジュースまみれっ!
こりゃ、早く帰って洗濯しないと、大変だな!」
女生徒の表情が、作られた満面の笑みから、挑発的でドエスの笑みに変化する。逆ナンではなく喧嘩を売られたと知ったアホ面達は、頭に血を上らせて女生徒に掴みかかった。しかし、女生徒の方が何段も格上だった。一人目と二人目の男に対して素早く突進を回避して足を引っ掛けて転倒させ、3人目に対しては楽々と攻撃を回避しながら誘き寄せて、立ち上がった一人目に激突させる。
「ばーか!同世代じゃ相手にしてもらえないから、ガキをナンパか!?
そんなヘタレじゃ、あたしの相手にゃならね~んだよ!」
女生徒はギラついた攻撃的な眼で男達を睨み付ける。痩せ形の響希よりも胸が平らだが、メッチャ格好良い!
「ひぃぃっっっっ!!!」 「お助けくださいっっ!!!」 「逃げろっ!!!」
男達は一目散に逃げていった。助けてもらった響希&清華&七菜が、女生徒に礼を言う。
「いつまでもこんな所に居ると、さっきの奴が仲間を連れて戻ってくるぞ」
「わ、解りました!ありがとうございます!」
そそくさと立ち去る響希達。離れ際に振り返って女生徒を見る。すると、「サッサと行け」と手で合図をしたので、もう一度会釈をして、その場から離れた。
響希達は、彼女の名が“桐藤美穂”ってことは、約半年後に高校1年生になってから知る。
「怖かったねぇ~」
「さっきの人、優高の制服着てたよね。メッチャ格好良かった」
トラブルから無事に逃れられた響希達は、さっきの渡帝辺共に再会しないように警戒をしながら、気持ちを切り替えて優麗祭を楽しむことにした。七菜がパンフレットを見て次の予定を立てる。
「模擬店は懲りたので、体育館にステージ部門を見に行きませんか?
演劇部のハムレット、興味があります。
優麗高の学業レベルを推し量れそうですね」
「いいね!
人が多いだろうから、見付かりにくいし、
見付かっても周りの人に助けてもらえるし!」
「あっ!そう言えば、かんちゃんのクラスが演劇をするんだってさ!
かんちゃんの出番まで、もうチョット時間が有るけど、行ってみよう!」
足早に体育館へと向かう。そして、演劇部のハムレットや、2Aのオズの魔法使いを楽しみ、しばらくの時間が経過。3年E組の演劇が始まった。




