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52-2・ミニライブ~響希は音痴~美穂vs響希

-中庭-


 軽音楽部のミニライブ&楽器体験は、観戦者が集まりやすい中庭で行われる。軽音部員が楽器や機材の準備をしていたら、興味を持った生徒達が寄ってきた。その見学者達の中に、紅葉&美穂&真奈、そして響希&清華&七菜の姿がある。

 興味津々に視線を向けている者から、後ろの方で帰宅ついでに眺めている者まで様々。ザッと見渡して、観客は30人くらい(7割が1年生)だろうか?


《はじめるよぉ~~!!》


 軽音楽部が一礼をしてミニライブスタート。疎らに拍手が起きる。


《1年生のみんなっ!入学おめでとうっ!》

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん

「お~~~~~~~~!!!」


 MCの豊沢愛に話を振られた1年生達の大半がノーリアクションだが、左側の最前列にいた約1名だけが、テンション高く応じる!


《なんだぁ~?元気があるのは1人だけ?

 2~3年生、今日も元気かな~~~!!》

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん

「んぉぉっっ~~~~~~~~!!!」


 話を振られた2~3年生達の大半がノーリアクションだが、最前列の真ん中にいた約1名だけが、テンション高く応じる!

 紅葉の恥も外聞も無いハイテンションぶりに、隣に立つ美穂&真奈は苦笑をしつつ、「1年にも、似たテンションの奴がいるんだな」と、好奇の目で大声を出していた生徒を眺める。


「ヤバイって、ひびき!目立ちすぎ!

 環奈ちゃんの話を聞いてヤケになっちゃったの?」

「かんちゃんの仇は討つけど、それとこれとは別だよ!」

「は、恥ずかしいですっ!」

「なんで?せっかくのライブなんだから楽しまなきゃ!」


「じゃっ!いっくよぉ~~!」

「お~~~~~~~~~~~~~~~!!!」×2

「・・・お・・・お~~~~~~~~」×たくさん


 MCと、無駄にテンションの高い3年生1名&1年生1名に煽られる形で、何となく他の見学者達も声を出すようになったところで、演奏が始まった。

 素人の高校生バンドとは言え、それなりに聞き心地の良い歌唱力と演奏だ。紅葉は大きく手拍子をしながら曲を口ずさむ。見学者達は、最初はテンション低めだったが、徐々に手拍子を加えていく。真奈は足でリズムを取りながら手拍子をしていた。美穂は、ノッてはいないが満足げに聴き入る。


「1年の中にも、紅葉並みに腹の据わったおバカさんが居るみたいだな」


♪~♪~♪~

 1曲目が終了。気が付くと、2階や3階の窓から、ライブ風景を眺めている生徒や先生もいる。会場が冷めた空気なら1曲演奏して撤収するつもりだったが、2曲目も盛り上がれそうな雰囲気だ。MCの愛がメンバー紹介と活動内容の紹介をする。


《次の曲いくよっ!歌える人は一緒に歌ってねぇっ!!》

♪~♪~♪~


 会場全体が手拍子をする中で、紅葉が歌詞を口ずさんでいる。ヴォーカルの愛は、紅葉に「一緒に歌おう」と手招きして呼んで、1番を一緒に歌ったあと、紅葉にマイクを託した。


「んぇぇっ?」

「紅葉ちゃん、歌上手いでしょ。しばらく任せた」


 目的は自分達の歌を披露することではない。軽音部員はライブで興味を持った人を集めて、新入生を物色していた。

 新3年生が引退をすれば、メンバー不足で活動が出来なくなってしまう為に、新入部員が必要なのだ。バンドに興味を持ってもらって入部希望者を得る。基本的には「来る者は拒まず」だが、見に来てくれた中から、次期「軽音部の顔」になりそうな“後継者”を探す。楽器未経験でも良いから、カリスマ性の有りそうな新入生が欲しい。

 ヴォーカルの愛がドラムの聡をチラ見すると、聡は一定の方向に目配せをした。同じ方向に注目をしていた愛は「一致」と解釈して頷く。

 容姿が整った3人組の真ん中。突出した美少女が、リズムに合わせて興奮気味に飛び跳ねている。元気が有って、リズム感も良さそうだ。


「そこの君!」

「えっ?」

「知ってる歌なら一緒に歌わない?」


 声を掛けられたのは響希だった。この歌は、大ヒット映画の主題歌なので、知らない人の方が少ないだろう。軽音部は「有望な新人のお試し」をする為に、誰でも歌える曲を選んでいた。


「えぇぇっ!?私っ!?」

「そう、君。ずっとノリノリでいてくれて、嬉しくなっちゃった」

「知ってる歌なので、是非っ!」

「ひびきっ?」 「響希ちゃんっ!?ちょっと待ってっ!」


 響希は、軽音部の格好良さを去年の優麗祭で見て知っている。白羽の矢を立てられたのが嬉しくて、清華と七菜が止めるのを聞かずに、誘い出されて紅葉の隣に立った。


「このまえはダイジョブだった?」

「このまえ?」

「入学式の時だよぉ」


 紅葉は入学式の日に発生したカミキリ事件のことを言っているのだが、響希は事件に巻き込まれた記憶を消去されている。だから「気絶をして保健室の運ばれたこと」と勘違いをして、「大丈夫です」と答える。


「一緒に歌うの?」

「・・・みたいです。いいですか?」

「うんっ!もちろんっ!ァタシ、源川紅葉。ヨロシクね」


 緊張気味の響希だったが、紅葉に優しく声を掛けられて少しリラックスをする。


「1年の田村響希です。よろしくお願いします」


 ヴォーカルの愛がサブのマイクを持ってきて、響希に渡す。今は曲の2番が終わった直後。間奏を挟んで、3番を歌うことになる。些か照れ気味の響希だったが、間奏が終わる直前にマイクを口に近付けた途端に雰囲気が変わる。たったこれだけの動作で場の空気を支配できる者など、滅多にいない。軽音部メンバー達は、「この子こそが次の軽音部の顔になる」と直感した。・・・が


「♪ス虚けS いっπに爪痕ダ ♪希棒▽井う名凸重い煮モツζ」

「んえぇっっっっ!!!!?ちょっと待って待ってっっっ!!!」

「♪黄身和狩るガΛと きっと餅アげて ♪笑ガオを店るだ老」

「ヒビキのマイク壊れてる!?」

「♪愛下♀太刀ζ かが焼き煮$え#」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん


 隣で歌っていた紅葉が驚いた。同じ歌を歌っているつもりなのに、響希からは雑音しか聞こえない。


「何語、歌ってんの??なんかの呪文???」


 真奈や観客達は唖然とする。美穂は必死で笑いを堪えている。軽音部員達は、響希に先天的なカリスマ性を感じており、入部を勧誘するつもりだった。響希くらい華が有れば、楽器スキルは二の次でも良かった・・・が、歌唱力が二の次以下では話にならない。


「あっっちゃ~・・・ひびきぃ~!」

「あ~~~~・・・響希ちゃんが歌っちゃった~」


 がんばった!響希は、先輩の期待に応える為に、とても頑張った!・・・が、酷い有様だった。眺めていた清華と七菜が頭を抱える。2人にとって、響希と一緒に行くカラオケボックスは、苦痛以外の何物でもなかった。

 田村響希。中学時代の音楽の授業で、歌唱力の評価は5段階中の1。しかも、本人に音痴の自覚無し。


「ダメダメダメダメ!!ヒビキ、真面目に歌ってっ!!」

「真面目に歌ってます!でも、先輩が話し掛けるから、歌いにくいんです!!」

「ヒビキの歌がヘッタクソすぎるのっっ!!」

「この歌は私がカラオケで何度も歌ってる得意な歌です!」

  「ひびき~・・・とりあえず、先輩に謝ろっか?」

  「何度も歌って、そのレベルだから、私達は困っているんですよ」

「ちっがぁ~~う!!絶対にヒビキが音痴なの!!!」

「違いません!!先輩の音感がおかしいんです!

 去年の文化祭の時なんて、スゲー下手くそなベースをやっていましたよね!?」

  「ひびきの歌も同レベルだって。」

  「いえ、先輩のベースの方がマシでしたよ」

「お~~お~~~お~~~~っ!ァタシのこと下手って言ったなぁ~!」

「何度だって言いますよ!先輩は下手です!

 あの時は、バルカン人の歌唱力があったから盛り上がっただけ!

 それなりに聴けたのは、キーボード(亜美)と、ギター(真奈)だけ!

 ベース(紅葉)とドラム(美穂)は、全然ダメだったじゃないですか!

 音楽に詳しくなくても、それくらいは解ります!」

「すっげームカ付いたっ!!ミホのドラムに比・・・・・ベブシっっっ!!!」

「グハァァァッッッッッ!!!」


 紅葉と響希の脳天に、美穂の鉄拳制裁が炸裂!容赦無く叩かれた紅葉は白目を剥いて気絶!力加減をされた響希は頭を押さえて蹲る!


「オマエ等うるさい。今は、軽音部の体験入部中だ。喧嘩なら、余所でやれ。

 それと、ドサクサに紛れて、あたしをディスるな!」


 清華と七菜が青ざめる。入学早々、友人が3年生に楯突いてブン殴られた。先輩に悪い意味で目を付けられてしまった。慌てて謝罪に行く。


「スミマセンでしたっ!!ひびきは、普段はこんな子じゃないんです!!」

「今日は、ちょっとテンションが上がっちゃってっ!」


 真奈が、やや呆れ顔ながら、清華達のフォローに入る。


「この子、もしかして、卒業した田村先輩の妹さん?」

「ひびきのお姉ちゃんを知ってるんですか?」

「はははっ!田村先輩、可愛くて有名人だったからね。

 そっか、やっぱ妹なんだね。顔はソックリだもんね」

「たむら?知り合いか?」


 蹲ったまま美穂を見上げる響希。美穂は響希のことを忘れているが、響希は美穂を覚えている。


「私達にバイク盗難の依頼をしてきた田村先輩ですよ」

「あぁ・・・田村環奈ね。アレの妹がコレか?ど~りで見覚えがあると思った。

 だけど、外側は似ていても、中身はだいぶ違うな」


 目の前に立っているのは、旧年の優麗祭で、響希達に因縁を付けてきた渡帝辺高生達を追い払ってくれた人。そして、ゲリラライブでドラムを叩いていた人。


「姉ちゃんは、女の武器を全面に出して男に媚びてる感じだったけど、

 妹の方は・・・・・・・・・・」


 演劇部の人達が言っていた。裏から手を廻して姉を人気トップの座から引き摺り降ろしたのは、ゲリラライブの一派だったと。そして、姉を失恋に追い込んだのも、同グループだと。「情報」と「当事者による悪口」が揃ってしまったことで、響希の頭に血が上る。


「かんちゃんをバカにするなぁぁっっっっっっっっっ!!!!」


 姉・環奈の凄さを解ってない奴に、いい加減なことを言われたくない。姉が真剣だったことを理解せずに「男に媚びている」なんて言われたくない。


「なっっ!!?」


 美穂が気付いた時には、既に響希に懐に飛び込まれていた!勢い良く平手が飛んで来て、美穂の頬に叩き込まれ、半歩後退する!

 一瞬で場の空気が張り詰めた。軽音部や見学をしていた1年生達が動きを止めて、一斉に美穂と響希に視線を向ける。


「私は何を言われても良い!でも、かんちゃんをバカにするなっ!!」


 美穂は、自分がノーガードでビンタを喰らった事実が信じられなかった。紅葉と大喧嘩をした時でも、生身の格闘では一発も打撃を喰らわなかった。体格の良い男と喧嘩をしてもノーダメージで勝つ自信は有る。だからこそ、警戒をする前に懐に飛び込まれたのが信じられなかった。


「なんだ・・・コイツ?」

「かんちゃんを悪く言ったのを、取り消せぇぇっっっ!!!」

「美穂さんっっ!!」


 響希が美穂に掴みかかる!しかし今度は、横から突っ込んできた真奈が、響希を突き飛ばした!


「アンタ、1年生でしょ!ちょっと、調子に乗りすぎなんじゃないの!?」

「かんちゃんをバカにしたソイツ(美穂)が悪いんだっ!!」

「少しは、穏やかな田村先輩を見習ったら!?

 そんなんじゃ、お姉ちゃんが泣くよっ!」

「うるさいっ!私は、かんちゃんじゃないっ!」


 響希は尻餅をついたが、直ぐに立ち上がって真奈にドロップキックを叩き込んだ!そして、芝生に転倒した真奈に対してマウントポジションになって、胸ぐらを掴む!真奈は、響希の両手を掴んで起き上がろうとするが、体勢が悪くて力負けをして背中を芝生に押し付けられる!

 姉は恋敵のことを「響希なら、そのうちぶつかる」「優高内で圧倒的な存在感を放つグループの一人」と言っていた。聞いた当時は意味が解らなかった。だが、当事者を目の前にしたら、頭に血が上って抑制できない。


「アンタ達の所為で、かんちゃんは泣いたんだ!!

 アンタ達が居なければ、かんちゃんは上手く行ったんだっ!!

 やっぱり許せない!!」

「はぁっっ!!何言ってんの!?意味が解らない!!」

「私が、かんちゃんの仇を討つっ!!」


 清華と七菜が、必死になって響希を落ち着けようと声を掛けるが、激高した響希は聞く耳を持たない。

 2人の視線を遮るようにして、眉間にシワを寄せた美穂が前に出る。


「さっきから、『かんちゃんかんちゃん』うるさい。

 仇だか、なんか知んないけど、やれるもんならなってみな」

「・・・・・!!?」


 真奈に跨がっていた響希は、正面から伸びてきた美穂の手に胸ぐらを掴まれる!そして、素早く頭突きを叩き込まれて、次の瞬間には、蹴り上げられて宙を舞っていた!


「姉ちゃんが、どんだけ偉いのか知らね~けどさ、それがなんだっての?

 姉ちゃんが居なきゃ、なんにもできね~の?」


 弾き飛ばされ、地面に背中を打ち付ける響希!直ぐに立ち上がるが、頭突きと蹴りのコンボが効いて、目眩をさせて両膝を付く!でも負けてられないので、無理をして立ち上がり、美穂に掴みかかった!美穂は、冷静に見極めて身を引き、響希の足に自分の足を引っ掛ける!無様に転倒させられる響希!諦めずに立ち上がって掴みかかるが、また避けられて、今度は背中を突き飛ばされて転倒する!それでも、また立ち上がって突進をしていく!


「かんちゃんが大好きで何が悪い!?

 お姉ちゃんをバカにされた気持ちを解るもんかぁっっっ!!!」

「!!!!!!!!!!」


 美穂の動きが一瞬止まる!そこへ、響希の平手が飛んで来て、美穂の頬に炸裂!美穂は、数歩後退して、響希を睨み付ける!


「はぁ!?それが何だっての!?姉ちゃんなら、あたしにも居たよ!

 だけど、オマエの気持ちなんて解んね~!!」

「・・・えっ!?」

「オマエ、バカなんじゃね~の!?」


 美穂が、響希から喰らったビンタの数倍返しのビンタを響希に叩き込んだ!更に、響希がフラついたところで、至近距離からラリアートをして、響希の体を芝生の地面に叩き付ける!


「・・・がはぁっ!」


「ひびきっ!ヤバいって!少し落ち着いて!

「響希ちゃん、もうやめなよっ!」


「美穂さん、もうそれくらいで!」


 清華&七菜、ついさっきまでやられていた真奈ですら、2人を止めようとするが、美穂と響希は聞く耳を持たない。

 響希は、内心では「格の違い」を感じていた。でも、姉妹揃って敗北なんて受け入れられない。


「絶対にやっつけるっっっ!!!」


 美穂は、自分でも「大人げない」と感じていた。でも、攻撃的な気持ちが抑えられない。こんな衝動に駆られるのは、紅葉との喧嘩以来か?いや、違う。あの時は、内心では、紅葉を許そうとしてたけど、紅葉が止まらなかったので、喧嘩を続行しただけ。今ほど苛ついてはいなかった。今は、姉の名を連呼するクソガキが、ムカ付いて仕方がない。


「やってみろよ!」


 響希は諦めずに突っ掛かっていくがワンサイドゲームだった。美穂は全くダメージを受けず、響希のみが頬を張られたり、突き飛ばされて転倒する。おニューのブレザーが泥だらけだが、響希はムキになって掴みかかる。

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