52-1・体験入部の企画~弓道の体験入部~演劇部
-入学式の3日後・放課後-
弓道場では、部長の九堂入矢(♂)と副部長の麻由を中心に、矢尾葉夏(♀)や黒須望厳(♂)等の3年生達が、新入生の部活見学メニューを相談していた。
麻由は2年生の秋に部長に就任したが、「生徒会が多忙」という理由で副部長に降りて、春からは副部長の九堂が部長に昇格をしている。
「やっぱ、矢を射ているところを見せて、弓道の格好良さをアピールしたいよね」
「見学者に、行射の体験なんかもしてほしいな」
「えっ!?初心者に、いきなり弓を持たせるんですか?」
「葛城は頭が固いなぁ~。
新入生に『弓道は面白く無さそう』なんて思われて、
部員が1人も来なかったら困るだろ?」
「まぁ・・・それはそうですが」
麻由は、2年前の体験入部を思い出す。その時の弓道部員達は正座で瞑想をしていた。気持ちを乱しやすい麻由には、その光景が新鮮に感じられて入部を希望した。改めて考えれば、瞑想を見て弓道に憧れる生徒なんて珍しいだろう。麻由自身、弓道ではなく瞑想に惹かれただけだったので、自分が2年間で、これほど上達するとは思っていなかった。
ここは、部長や他の3年生の提案を受け入れるべきだろう。弓道部の体験入部時の方針は「格好良い行射を見せる&矢を射る体験をしてもらう」で決まった。
-3E教室-
紅葉&美穂&真奈が集まって、「愉怪な仲間達部は、どうやって新入生を呼び込もうか?」を考える。
「いやいやいや・・・新入部員なんていらんだろう?」
「んぁぁっっ!?それじゃ、ァタシ達が卒業したら廃部になっちゃうぢゃん!」
「廃部で良いだろ!
便宜上、変身する奴が集まりやすい状況を作っただけ!
井戸端会議以外に活動はしてね~だろ!」
「んぁっ!ヨーカイ退治してるぢゃん!」
「変身して妖怪と戦っているところを新入生に見せる気か?アホンダラ!」
美穂は、自分が発した言葉に違和感を覚えて考え込む。カミキリ事件では“妖怪と戦っているところ”を目撃した新入生が居たはずだ。山本や部活動の連中は妖怪に襲われている。だけど、カミキリ事件から3日が経過をしたが、誰も妖怪のことを話題にしていない。割井事件の時も同様だ。住宅街であれだけの戦闘になったのだから、部外者に見られても不思議は無い。「怜香が、余計な映像を切ってネットで公開したからバレずに済んだ」なんて無理がある。火車事件も話題になったが、今では無かったことのように忘れ去られている。
「どうなってるんだ?何で、皆、事件のことを覚えてない?」
よくは解らないが、「裏で何かが動いて隠蔽している」と考えなければ辻褄が合わない。
「ん~~~・・・・仕方なぃなぁ!ミホゎそれでイイ?」
「んっ?あっ、すまん、聞いてなかった」
紅葉の呼びかけで我に返る美穂。協議の結果、愉怪な仲間達部は、部活見学期間に何をすれば良いのか解らないので、「新入生に混ざって、他の部活を見学をすること」になったらしい。本末転倒だが、一般人を愉怪部に入部させるわけにはいかないし、暇潰しに他の部活動を見に行くのは面白そうだ。
「考えても意味が無いから、それでいいや」
部長の美穂が許可を出して、愉怪な仲間達部の「1年生歓迎・体験入部」の活動内容が決まった。
-文架市陸上競技場-
まだ体験入部期間ではないが、やる気のある1年生と、事前に声を掛けられた1年生は、練習に合流をしている。
ミニハードルを跨ぐ練習(速く走る為の基本練習)をしていた水島清華が振り返る。視線のずっと先で、先輩達を交えた1年生の力試しの女子1500m走がスタートした。
「ガンバ、ひびきっ!」
1500m試走の中に田村響希の姿がある。スタートから200m経過で、先輩を全て追い抜いてトップに出て、そのまま引き離して400mを経過する頃には独走をしていた。
「あの子、速いな!」
「知らね~のかよ?去年の県内中学で、総合2位だぞ」
「スゲー可愛いじゃん」
「知らね~のかよ?卒業した田村先輩の妹だぞ」
陸上部員の大半が注目をする中で、響希はトップでゴールをした。ゴールラインで待機をしていた玉木が、ストップウォッチのボタンを押す。タイムは4分59秒。2位でゴールした先輩とは、5秒以上の差を付けた。
「う~~~ん・・・ギリ5分切りか~・・・鈍ったなぁ~」
試走でいきなり存在感を見せつけ、先輩方からは「絶対に入部してね」と期待をされた響希だが、当の本人は悔しそう。中3の秋に出した自己ベストに比べて20秒近く遅い。部活引退以降は本格的な練習からは遠ざかっていたので、ある程度の覚悟はしていたが、それでも20秒近くも遅くなるとは思っていなかった。顧問の山本は「トレーニングをすれば、直ぐにタイムは戻る」とアドバイスをくれる。
響希は、ダウンのジョグをしながら、空を見上げて考える。陸上部に入部をして長距離を続けるのは決めている。でも、様々な部活動を見てみたい。中でも、見た目が格好良い弓道部、姉が所属をしていた演劇部、文化祭でイケていた軽音楽部は体験しておきたい。
-月曜日・放課後-
1年生の体験入部期間が始まった。野球、サッカー、バスケ、バレーボールは安定の人気で、中学時代からの経験者が見学に行く。スタートラインが高校からになる弓道とフェンシングも多くの見学者が集まった。
弓道場では、弓道着を着た麻由が射位に立ち、足踏~胴造~弓構~打起~引分~会を、丁寧、且つ、凜々しく完成させて、的に鏃を向けて弦から手を離した。矢が的に突き刺さると、見学者達から「おぉっ!」と感歎の声が上がる。
麻由は、部員達から「見学者が居る間は、ずっと行射をしてろ」と言われている。ちょっと恥ずかしいのだが、「弓道部のエース」の自覚はあり、新入部員は1人でも多く欲しいので、弓道の美しさを見てもらうことに異論は無い。
部長の九堂が「試しに射たい人」と希望者を確認したら、何人かが挙手をする。3年生の黒須が男子を、矢尾が女子をまとめて、行射の指導を開始。入部希望者は誰でも歓迎するが、あえて行射をさせることで素人達の才能を見極める。同じ素人で、同じ事を指導しても、早い上達が約束された者は、ダメなりに優れた行射をするのだ。「才能有り」と認めた者は、ロックオンをして熱烈に勧誘をする。
「矢を丸いのの真ん中に当てるだけでしょ?カンタンカンタン!」
軽口に気分を害された麻由が、振り返って声の主を見る。
「あら、あの子達は?」
矢尾が指導する列の中に、響希&清華&七菜の姿があった。響希が、気後れする友人2人を引っ張ってきた様子だ。
「ちょっと、ひびきってば!その言い方はマズいって!」
「見て感じるほど、簡単ではないと思いますよ!」
「そうかな~?弓矢なら、お祭りの屋台でやって、景品に当てたことあるよ!」
軽口を叩く子に限って、失敗してに赤恥をかくのが“お約束”だ。響希の前に並んでいた1年生の射た矢は、方向も飛距離も悪く、見当外れな飛び方をする。続いて響希の順番。矢尾が指導をしようとするが、「前の人のを聞いていた」と拒否。随分と生意気だ。気が焦ってる証拠。これは確実にダメなパターンだろう。
「・・・え?」
麻由は驚いた。指導をしていた矢尾と黒須、弓道部全体を見ていた比嘉先生(顧問)と九道部長も目を見開いた。
響希が深呼吸をした途端に雰囲気が変わり、響希の周りだけが静寂に包まれる。他人が指導されてるのを聞いて覚えた足踏~胴造~弓構~打起~引分~会の行程を雑なりに卒無くこなし、矢を射る。飛距離は充分で、矢は真っ直ぐに飛んでいく。しかし、的の5㎝ほど脇を通過して、安土に突き刺さった。
「ありゃっ!外れちゃった!お祭りの弓矢と違うっ!恥ずかし~~~!」
「ほら、だから、簡単ではないと言ったじゃないですか」
響希は、恥ずかしそうに肩をすくめ、次に並んでいた清華に弓を渡す。「きっと、笑われているんだろうな~」と思いながら周囲を見回したら、先輩方は黙ったまま響希に視線を止めており、弓道部エースの麻由が声を掛ける。
「アナタ、弓道経験者なんですか?」
「はぁ?い、いえ、初めてです。
お祭りの弓矢は、何回かやったことありますけど・・・。」
「今日初めて弓道場に入って、弓具を持って、あれだけのことをやったの?」
「いや、だから、お祭りでは・・・」
「全くの別物よ!お祭りの射的と一緒にしないで!」
「は・・・はぁ・・・すみません。」
格好良い生徒会長さんに怒られた。お祭りの弓矢と同レベル扱いをして見事に外したのだから「怒られても仕方が無い」と思っていたら、今度は比嘉先生が目を輝かせて足早に寄ってきた。
「君、組と名前は?」
「えっと・・・B組の田村響希です」
「是非、我が弓道部に!
君ならば、葛城が引退後の弓道部を背負っ・・・・・え?たむらひびき?」
「はい・・・田村です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
比嘉は露骨にガッカリとして、響希に背を向けてしまう。「次期エース候補が転がり込んできた」と思ったのに、「田村響希」だった。なんで、陸上部のスーパールーキーが、弓道部の体験入部に来ている?ひやかしか?
「もう一度、射てみませんか?」
今度は、麻由が響希に寄って行って、自分の弓を差し出した。
「・・・えっ!?」
「今は体験入部中だから、皆さん1射しかしませんが、
競技では2射で1セットなんですよ」
「は、はい」
2射目も的に中る事は無かったが、集中力や周囲の空気を支配する雰囲気も含めて、間違いなく才能有り。初心者で離れ(矢を射る)の姿勢に慣れていないので、矢が的に中らないだけ。自身が使いやすい弓具を得て、上半身の筋力と体幹を鍛えれば、麻由が弓道部を引退すると同時に、エースになれるだろう。
「田村さん・・・もう、所属する部活は決めてあるのですか?」
「はい・・・陸上部に入ろうかと思っています」
「そう、それは残念ね。でも、気が向いたら遊びに来てください。
アナタなら大歓迎です。いつでも、弓の指導をしますよ」
評価をされた響希があどけなく笑う。その笑顔を見た麻由は「田村環奈先輩とソックリ」と感じながら、旧友・鈴奈の面影も感じていた。
響希達3人は、弓道場を出て、次の目的地に向かう。
「2人とも、陸上部で決まっているんですよね?」
「そのつもりだけど、もっと面白そうな部活があったら気が変わるかも。
弓道部はイイ感じだったね」
「ひびきが他の部活なんて、陸上部の先生が認めてくれるわけないよ」
「中学時代の部長でリレー選手の清華だって、陸上部しかないでしょ」
「七菜ちゃんは、吹奏楽継続の一択だよね?」
「見て、雰囲気を感じてから決めるつもりです」
その後、響希達は吹奏楽部の見学に行って、七菜が中学時代の先輩達から「即戦力が来た」「必ず入部しろ」と熱烈歓迎をされた。
-火曜日・放課後-
演劇部の見学に行った響希は、先輩達から「環奈先輩の熱心ぶり」や「場を支配する演技力があった」と聞かされ、改めて「姉は偉大」と認識した。そして同時に妙な話を聞く。
「環奈先輩、私達は入学する前(環奈が高1の時)は、
優高人気投票でトップだったのに、
一昨年(環奈が高2の時)はトップになれなかった話、
田村さん(響希)は聞いてる?」
「えっ?そうなんですか?今、初めて聞きました。
かんちゃん、そ~ゆ~の、全然教えてくれないから・・・。
優高って、そんなイベントがあるんですか?なんかメンドくさそう」
「去年から無くなっちゃったけどね」
「かんちゃんがトップになれなかった時は、もっと可愛い子がいたんですか?」
「う・・・うん。私達は、絶対に環奈先輩の方が素敵って思うんだけど・・・」
「かんちゃんに勝つなんて凄すぎ!同期の人ですか?」
環奈の連覇を阻止したのは、環奈の1つ下の世代。
「へぇ?なら今は3年生なんですよね?」
演劇部の先輩達は、環奈先輩を崇めつつ、妹から「当時の環奈先輩の心情」を聞き出したかったので、「全然教えてくれない」と言われてアテが外れてしまった。むしろ「余計なことを喋ってしまった」と気拙そうに互いの顔を見合わせる。
「ただの噂だから、あんまり本気で聞かないでね。
環奈先輩が連覇できなかったのは、
勝った人が組織票を使ったからって噂が有って・・・」
「最初に聞いた時は『まさか』って思ったんだけど、
最近の行動を見ていると、もしかしたら本当かもって思えてきちゃって・・・」
環奈が2年生だった時は同学年だったのに留年をした女生徒と、現3年生で最もジャジャ馬な女生徒。彼女達は、環奈以上の存在感を発して華がある反面、「怖い人達」と苦手視する者も多い。半年前の優麗祭・ゲリラライブは、苦手視する者達から見れば、運営の顔に泥を塗る身勝手な行動だった。今の優麗高で一番の問題児グループは彼女達だろう。
「どう考えても重い処分があるはずなのに、凄く軽い罰で済んだみたい」
「ど~ゆ~ことですか?」
環奈の連覇を阻止した女生徒は、問題児グループとは全く種類が違うタイプ。ゲリラライブを強行した問題児達を罰する立場のはずなのに、いつの間にか同じグループに所属をしている。
「裏で手を組んでいたとしても不思議じゃないって言うか・・・」
「・・・へぇ~」
響希は「トップを取った姉は凄い」と思うが、人気投票自体に価値を感じないので、「トップは取らなくても姉は凄い」と思っている。逆に、その程度の無価値なことに労力を使う人が居たとしても「ただのバカ」にしか思えない。
「・・・それにね」
だが、演劇部員の次の言葉で、響希は硬直する。
「環奈先輩が好きだった男子は“その人”が好きだったらしいよ」
姉が中1の頃からずっと想いを寄せ続けた相手は冨久海跳。それは、響希も知っている。
「・・・・・・・・え?」
優麗高には「人気投票で上位を取った男女は交際に発展しやすい」という伝説がある。1年時は海跳と環奈が上位に並び、2年時は海跳はトップになり、環奈は排除をされた。そして、海跳は、その年のトップ女子を好いていた。
「かんちゃんを失恋に追い込んで泣かせた人?」
響希の脳内で“一ヶ月前にベッドの中で泣いていた姉”の姿が思い起こされる。
姉は恋敵の名は教えてくれなかったが、「響希なら、そのうちぶつかる」と言った。妹は「かんちゃんの仇は討つ」と豪語した。
「だ、誰なんですか?」
響希は問い詰めるが、演劇部員達は「接点を持たない方が良い」と教えてくれない。しばらく沈黙が続き、時計を確認した清華が口を開く。
「ひびき、そろそろ時間だよ。行こう」
「ああ・・・うん」
今日は、軽音部が新入生歓迎&勧誘のミニライブを行うことになっていた。
「私達は、環奈先輩の妹が変な感じに目立って、
目を付けられて欲しくないだけだから・・・」
「なんか困ったことがあったら、いつでも相談に来てね」
響希達は演劇部員に礼を言って、次の目的地に向かう。




