51-4・忘却ハンマー~25年前の有紀~響希と玉木
-優麗高前の歩道-
有紀と粉木が優麗高を見上げ、結界の消滅と妖怪の浄化を感知していた。家にYスマホを忘れた所為で変身できないおバカさんの為に、慌てて駆け付けてきたのだが、紅葉が変身する必要も無く、無事に事件は解決できたようだ。・・・てか、下級妖怪如き、ゲンジとセラフが共闘しなくても、楽勝してくれないと困る。
「全く、あの子ったら!帰ってきたら、お仕置きね!」
「まぁ、止めはせんけど、ほどほどにな。
そない事よりもオマンの出番や。
学校に残っとる連中に、妖怪のこと忘却してもらわなあかんさかいな」
「かなりの人数に見られちゃったでしょうね。
見たか見ないかは確認せずに、残らず全員、ブッ叩いた方が早そうね」
有紀は、忘却ハンマーを肩に担いで優麗高の校舎を見上げる。巻き込まれた一般人の記憶消去は退治屋の通常業務なので、得体の知れない“何者か”に見られても特に問題は無い。
-校舎内・一般棟3階-
美穂&真奈が、紅葉&麻由を見付けて合流をする。2人は、3Aで薙ぎ倒された机と椅子を並べ直しているところだった。自分だけが取り残されて、一時はかなり焦った美穂だったが、紅葉と麻由の様子を見て安堵をする。何があったのか詳しく聞きたいが、先ずは散乱した机を元に戻すのを手伝うことにした。
「ありゃりゃ?」
紅葉が逆転のキッカケになった日本史に資料集をめくったら、髪の毛は全て元に戻っているはずなのに、ページによってはツルッパゲのままの肖像画がある。肖像画が多すぎて、元に戻る効果が全部に及んでいないのかな?優しい紅葉は、転がってるシャーペンを拾ってツルッパゲのままの肖像画に髪の毛を書き足してあげた。
「く、紅葉、それはっ!」
紅葉の行為を見た麻由が溜息をつく。
後日、置勉しておいた鈴木良太氏が資料集を開いた時、空海や日蓮や一休さんや足利義満やザビエルの肖像画に髪の毛をラクガキされているのを見て、「俺は虐められているのか?」と落ち込み、見かねた麻由が紅葉を連行して、「ァタシが書き足しました、ごめんなさい」と自首させたとかなんとか・・・。
-一般棟・階段室-
青ざめた表情の響希が力無く階段を降りていく。紅葉から気遣われて、「大丈夫です」と答えてから現場を離れた。だが、「大丈夫」だから現場を離れたわけではない。怖いから現場から離れたのだ。さっきの鳥顔や武者はなんだ?あんなもの、テレビの特撮やアニメでしか見たことがない。
「そう言えば、助けてくれたのは、東中の源川先輩だった。
何か知っているのかな?」
怖いけど何が起きていたのか知りたい。踵を返して階段を上がろうとする。しかし、見上げた真正面の踊り場に、巨大ハンマーを肩に担いで、フードで顔を隠した人影(有紀)が立っていた。
「悪いけど、無かったことにしてね」
「えっ?えっ?」
巨大ハンマーを振り上げた人影が飛び掛かって来る!慌てて逃げる響希!しかし、瞬く間に距離を詰められ、容赦なく脳天に巨大ハンマーを叩き付けられた!
「脳内消去・忘却の彼方へ!!」
ばちこ~~~~~~~~~~~~~~んっっっ!!!
「うんぎゃぁぁぁっっっっっっっ!!!」
-教務室近くの男子トイレ-
北村先生(紅葉の担任)と山本先生(美穂の担任)が、大便室で気絶をしていた比嘉を発見した。比嘉は禿げたままだ。衝撃の事実を知った2人はアイコンタクトを取り、大人の対応を決めて比嘉を介抱する。
「・・・んっ?んんっ?」
「気が付きましたか、比嘉先生」
「んっ?ここは?」
「学校のトイレですよ。どうしたんですか、比嘉先生?
寝不足で、つい眠ってしまったんですか?」
「比嘉先生は、学活も授業も部活動も熱心ですからね。
きっと、疲れが出たのでしょう」
「・・・は・・・はぁ。」
2人の視線を頭部に感じた比嘉は、恐る恐る頭に手を乗せて偽りの髪の毛が無い事に気付く。
「水くさいですよ、比嘉先生。イメチェンしたのに、隠していたんですか?」
「そのままで良いんじゃないですか?
坊主頭の比嘉先生、なかなか似合っていますよ。
精悍さに磨きがかかりましたね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「たまには3人で呑みに行きますか?」
「良いですね。今以上に、親睦を深めましょう」
「北村先生!山本先生!」
山本が比嘉の手を引いて立ち上がらせ、北村が比嘉の肩を組んで寄り添う。比嘉には、北村と山本が、あえてハゲには触れずに、それでいて見ぬフリもせず、「悩みがあるなら聞くよ」と言っているように思えた。この日の夜、比嘉は、家族以外では初めて、北村と山本に自分がヅラを被っていたことを打ち明ける。
まだ、他の先生や生徒の目が有るのでカツラを手放すことはできないが、一人で悩まずに誰かに知ってもらうだけでも少し気が楽になった。この日以降の比嘉は、「夏休み明けには『丸坊主にしました』って事にしようかな?」などと考えるようになる。
-屋上-
事後処理を処理を終えた有紀が、粉木と合流して、日常を取り戻した優麗高の校庭を眺めていた。おもむろに、有紀が粉木に質問を投げ掛ける。
「ねぇ、粉木さん。私と粉木さんが初めて会った時のこと、覚えていますか?」
「急になんや?まだ、若かりし頃を懐かしむ歳でもなかろうに」
「私はまだ若いです!ただ・・・ちょっとね」
「おまんが言う『初めて会った時』ちゅうんは、
有紀ちゃんがワシを訪ねてきた時んことか?
それとも、その前の、おまんが忘れてなきゃならん時のことか?」
「はい、普通なら忘れているはずの出会いです」
-25年前-
PM7時すぎ、鎮守の森公園で妖怪が発生した。妖怪退治屋の簡易特殊強化戦士ヘイシ隊、及び、ヘイシ強化型ヘイシⅡが緊急出動をする。
その日は妖気が溜まりやすい日だった。当時の鎮守の森公園は、今ほど整備をされておらず、鬱蒼としており、昼間でもあまりひとけが無い。
「全く、迷惑な話やのう。
こんな危ない日に公園をウロチョロするなんて、何処の何奴や?」
若き日の粉木が、タンデムに巨大ハンマーを括り付けてバイクを走らせる。一般人が妖怪事件や退治屋に関わった場合は、記憶を消去する。それは、現代も25年前も同じ。当時は、粉木が事後処理の任務に就いていた。
公園入口到着したヘイシ隊は、ヘイシⅡの指揮で公園内に突入する!女子高生の前に立ち塞がっていた笑い地蔵を囲んで、火気で一斉に攻撃!妖怪が一定のダメージを受けたところで、日本刀を持ったヘイシⅡが突進をして、袈裟斬りにして仕留めた!退治を終えたヘイシ部隊は、怯えている女子高生には見向きもせずに、瞬く間に去る!
ここからが粉木の任務だ。巨大ハンマーを肩に担いだ粉木が、女子高生の背後に立つ。気配に気付いて振り返る女子高生には、まだ幼さが残っている。ブッ叩くのは気が引けるが、一般人に妖怪世界のことを知られるわけにはいかない。
「すまんのう。」
ばちこ~~~~~~~~~~~~~~んっっっ!!!
「ふんぎゃぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
霊力が潤沢に込められている巨大ハンマーは、退治屋関係者からは“忘却ハンマー”と呼ばれている。衝突時に衝撃の強さによって、対象の脳に送り込まれる霊気量が変わり、叩く数分前~数時間前の範囲で、記憶を喪失させる優れ物のアイテムだ。今は、女子高生の記憶を1時間程度喪失させる力加減で叩いた。
粉木は、気絶をした女子高生に向かって、もう一度謝罪をしてから、その場を立ち去っていく。これで、笑地蔵事件の全てが終わったはずだった。
だが、3週間後、粉木が帰宅した直後の妖怪博物館(現YOUKAIミュージアム)に押し掛けてきた少女がいた。笑地蔵事件で記憶を消去したはずの女子高生だった。粉木は内心で動揺をしたが、そんな素振りは見せずに対応をする。
「お嬢ちゃん?お客さんか?
こない博物館、お嬢ちゃんが見て楽しいところではないで」
「駅前の商店街で見付けて、尾行してきました!」
「何や、ワシになんか用か?一目惚れでもしよったんなら諦めや。
ワシはりょうさんモテるよって、お嬢ちゃん1人の物にはならへんで」
「この前、ハンマーで私を殴りましたよね!?」
「・・・なんやて?」
「変な鎧の人達が、動くお地蔵さんをやっつけましたよね!?
あれは、何だったんですか!?おじさんは、なんで私を叩いたんですか!?」
「・・・お、おまん・・・あの時の記憶があるんか?」
「やっぱり、ハンマーで私を殴ったのは、おじさんだったんですね!」
「し、しまった、口が滑ったっ!」
とりあえず、ハンマーで殴られた仕返しで、粉木は、ビンタ三発と、ボディーブローを一発と、金的蹴りを一発と、アッパーカットを一発と、踵落としを一発と、延髄蹴り一発と、パイルドライバーを、問答無用で喰らった。
女子高生の名は源川有紀。彼女は、この頃から今と変わらずにバイオレンスだった。
当初、粉木は「ハンマーでの叩き方が浅くて、忘却をし損なった」と思った。しかし、退治屋本部の指示で、有紀の身辺調査や、有紀の採血をして分析をした結果、「粉木がミスをしたのではなく、彼女が特殊」と判明する。一定以上の強い霊能力を持つ者は、忘却ハンマーから流れ込む霊力が防御されて、記憶を抹消することができないのだ。
有紀の才能を知った粉木は、退治屋にスカウトして、しばらくの研修を経て妖幻システムを支給する。
-今に至る・優麗高屋上-
有紀と粉木が、手摺りに寄りかかって校庭を眺め、過去の思い出を交えながら、会話を続ける。
「あの日、私は、殴られた直後には、妖怪の記憶を失っていましたが、
数日をかけて、徐々に思い出しました。
忘却ハンマーでは、霊力が強すぎる者の記憶は消せない・・・
だから私には、あの日の記憶が残ったのよね」
「あぁ、そや。忘却ハンマー自体、あん時より強化はされとるけど、
そいでも、おまんや、お嬢、天の巫女、
玉兎の依り代になった少年の記憶は消せんやろな」
「依り代の少年・・・鈴木良太君も強い霊力があった。
だから、自覚が無いまま、妖力が強い場所に行ってパトロールをしていた。
そして、妖怪に支配されるのではなく、妖怪を支配できた・・・ですよね」
「あぁ、そや。それがどうした?」
「1人・・・忘却の手応えが感じられなかったの」
「・・・なんやて?」
「打ち込みをミスしたのかと思って、
対象が気絶したあと何発か叩いたんですが、全く手応えがなくて」
「その対象・・・よく、死なんかったのう。
せやけど、その対象・・・やがて、有紀ちゃんと同じように、
今日の記憶を取り戻す可能性があるっちゅうこっちゃな」
「・・おそらく」
現時点で有紀の後継者が不在なら、有紀と同じように強い霊力を持つ鈴木良太が退治屋にスカウトをされる可能性はあった。だが、良太は監視対象になり、玉兎は討伐対象になった(ゲンジⅠ・スピンオフ②)。同様に、紅葉がいる限り、有紀が忘却を出来なかった者が退治屋の管轄に入ることは無い。
有紀と粉木は、忘却を免れた者への警戒を決めたが、既に彼女が“別の意思”から眼を付けられたことには気付いていない。
-数十分後-
響希が目を覚ましたら、保健室のベッドの上だった。付き添っていた清華と七菜、そして副担任の玉木百萌音先生が、安堵の表情になる。響希は階段の踊り場で気絶をしていたらしい。
「よかった~~~!何があったのよ、ひびき!」
「う~~~~~ん・・・私どうしちゃったんだろ?」
「覚えてないんですか、響希ちゃん?」
この日、優麗高の校舎内に残っていた者の多数が、数秒間ほど意識を失っており、意識を失う15分前くらいまでの記憶が飛んでいた。だが、響希だけが、他とは大きく違い、数十分間も意識を失っていた。
「本当に大丈夫なの?念の為に確認をしておくわね」
「・・・は、はい」
玉木先生が、響希をベッドの仰向けに寝かせて、腕や足のマッサージをしてくれる。大学時代まで陸上長距離のアスリートをしていた玉木は、筋肉の状態で体調の善し悪しが解るらしい。
「田村さん、中学時代は、上位ランカーだったのよね」
「はい・・・一応。先生は何分くらいで走っていたんですか?」
「ふふふっ、田村さんのタイムに比べたら、恥ずかしくなるくらい遅いわよ。
入るんでしょ?陸上部。」
「はい・・・多分」
「しなやかで良い筋肉だわ。短距離もイケそうだけど、全体的には長距離向きね。
キチンと体調管理をして、シッカリと鍛えれば、もっと速くなるわよ」
「そ、そうですかね?」
俯せを要求されて寝返りをして、再び腕や足、そして背中や腰のマッサージをされる。響希は、他人に体を触られるのは、(幼児体型がバレるので)あまり好きではなかったが、玉木にマッサージを施されるのは、嫌な気分はしなかった。一定のマッサージを終えた玉木は、最後に響希のお尻をポンと叩く。
「はい、終わり。どこも異常なし。どう?リラックスできたかしら?」
「あ、ありがとうございました」
「正式な部活見学や体験入部は来週からだけど、
やる気のある子は、もう、明日から見て廻るみたいよ。
田村さんも、いつでも見学に来てね。待っているから」
「・・・は、はい」
気が付いたら、もう15時を回っていた。響希はベッドから起きて立ち上がり、清華&七菜と共に、玉木に礼をして保健室をあとにする。
「ホント・・・惚れ惚れするくらい良い素質。
私のところに来てくれるのを楽しみにしているわ」
玉木百萌音は3人を見送った後、保健室の扉が閉まるのを待ってから嬉しそうに微笑んだ。




