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51-3・紅葉変身不可~結界~3人目の合格者

 とりあえず、今の3人には、逃げ回る以外の選択肢は無し。

 だが、キグナスターのお陰で、カミキリとの距離を稼げたようだ。渡り廊下との交差路が近い。曲がって、カミキリから身を隠した直後なら変身が出来そうだ!先頭を走っていた美穂が、「変身の準備をしとけ!」と合図をして、3人同時に渡り廊下を曲がった!


「よしっ!今だっ!」

「んっ!」 「はいっ!」


 素早く足を止めて、サマナーホルダを窓に向ける美穂!麻由はHスマホを、紅葉は電卓を翳す!


「変身っ!」 「幻装っ!」

「げん・・・・・んぁぁっっっ!!!あれぇぇっっっっ、チガウっっ!!!」


 異獣サマナーネメシス&聖幻ファイターセラフ登場!紅葉だけが生身のまま取り残される!


「何やってんだ、紅葉?」

「早く変身して下さい!」

「スマホ、おうちに忘れて、間違ってママの電卓持ってきちゃったっっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジかぁ~」×2


 このタラズは何の為に学校に戻ってきてたんだろうか?以前からチョッピリおバカさんだとは思っていたけど、こんなに使えない子とは思っていなかった。


「さて・・・やるぞ、麻由っ!」

「そうですね、美穂さん!」

「ァタシゎど~しよう?」

「邪魔にならないところで、足し算でもしてろ!」


 同時に渡り廊下から飛び出し、ネメシスがカミキリに向かって突進をして、セラフが弓矢を構える!その直後、紅葉とセラフの耳に「コーン」とキツネの鳴き声のような音が聞こえた。


「んぇ?」 「なに?」


 途端に優麗高全体が暗転!動揺して、周囲を見回す紅葉とセラフ!気が付くと、周辺全体に薄いモヤがかかっていたが、他に異常は無さそうだ。


「妖気の霧が掛かっている?・・・カミキリが発生させたんでしょうか?」

「ん~・・・ワカンナイ。

 でも、ちょっとモヤモヤするだけで、ヤバい感じは無さそぅだょ」

「美穂さんもご無事ですか?」

「んぁぁっっっっ!!!ミホっっ!!!」

「美穂さんっっ!!!」


 異常はあった。ネメシスだけが必要以上に周囲を見回している。目の前に居るはずのカミキリを認識していない。それどころか、紅葉とセラフの姿や声も全く認識していない。


〈カミカミ~~!!髪ノ毛ニ恵マレタ者ニ制裁ヲ!髪ノ毛無キ者ニ救済ヲ!〉

「ど、どうなっているの?」

「ミホがおかしくなった?」

《あらあら、勉強不足なのかしら?妖気の結界のこと、知らないのね?》

「!!!!!!!!!!!」×2


 カミキリの雰囲気が先程までと違う。今までは、片言の言葉と嘶きだけだったのに、流暢に言葉を喋っている。



-モヤのかかっていない世界-


「・・・何がどうなった?」


 ネメシス(美穂)だけが廊下に突っ立っていた。さっきまでは間違いなく妖怪が居たはずなのに、今は居ない。カミキリに突進をしていく最中に一瞬だけ妙な違和感があって、その直後にカミキリや紅葉とセラフが消えていた。ネメシス以外が何処か別の場所にワープした?

 直ぐに変身を解除してスマホで麻由に連絡を入れてみる。コール音が鳴るので電波の届かない場所に飛ばされたワケではなさそうだが、何処に行った?状況が把握できない。

 ただ、ハッキリしている事は、美穂の周りに広がっている世界は、いつもと変わらない平穏そのもの。


「何も起きていないのに、異常が発生してる?どうなってるんだ?」



-モヤがかかっている世界-


 紅葉とセラフ(麻由)の目の前にはカミキリが存在しているにもかかわらず、真横に居る美穂は変身を解除して、スマホを取り出し通話をしている。途端にセラフのHスマホが着信音を鳴らす。発信者は美穂だ。眼前に敵が居るので通話に応じている余裕は無い。理屈は解らないが、状況は解ってきた。


「そう・・・これが結界?」

「んぁっ?マユ、解るの?」

「実際に体感するまではピンと来ませんでしたが、知識だけなら・・・。

 以前、妖怪について調べた時に、結界についても記述がありました。」


結界

 空間領域の設定。様々な種類の結界が有り、発動者の目的に応じて効果を変える。一般的には、中に居る者を外に出さない結界、外に居る者を中に寄せ付けない結界、妖怪が自分を生息しやすくする結界(絡新婦が使用。下級妖怪レベルの張る結界なので、紅葉や麻由なら足を踏み入れた瞬間に違和感に気付く)、敵の能力を下げる結界などがある。

 一定以上の妖力や理力を有し、術式さえ覚えれば発動が可能になる。ただし、発動時に大幅に力を消耗させてしまう為、よほどの実力者が使用する場合以外は、事前に妖力や理力を溜め込みやすい物の中に封じ込めておき、呪文で力を開放して発動させる。


「おそらく、今、この場にある結界は、私と紅葉と妖怪以外を排除する結界です。

 だから、美穂さんは同じ場所に居るのに、私達を認識できなくなりました。

 多分、学校に残っている他の生徒や先生方も、私達を認識できません」

《正解、良くできました。ヒヨコちゃんなりに、お勉強はしているのね。

 この結界は、私が設定をした“一定以上の霊力”がある者以外を排除するの。

 つまり、お嬢さん達2人は合格。白いお嬢さんは不合格って事ね》


 下級妖怪のカミキリが、こんな高度な術を使ったのか?と疑問を感じるが、それどころではない。司令塔の美穂が、戦場から強制排除をされてしまった。しかも、紅葉は変身不可能。




-YOUKAIミュージアム-


 有紀は、バカ娘にYスマホを届けるつもりだったが、家を出た直後に粉木に呼び出されて、退治屋のアジトに来ていた。その場には、崇だけでなく、何故か、麻由の後見人・龍山剛太郎の姿もある。

 粉木や有紀どころか、崇ですら上手く感知できないほど“巧妙に妖気を隠した何か”が、文架市に入り込んでいるらしい。おそらく、その“何か”ならば、有紀や剛太郎のストーキングにも気付くだろう。必然的にストーキング対象(紅葉&麻由)が注目をされてしまう。敵か味方か、正体が解らない相手に、こちらの手の内を晒すのは得策ではない。粉木と崇は「しばらくは紅葉のストーキング禁止」と判断した。退治屋とは直接的な関係の無い剛太郎も、事情を聞いて「ストーキング禁止」を納得した。

 優麗高で下級妖怪が発生したことは、この場に居る皆が察知している。だけど、下級妖怪程度なら、ゲンジとセラフで対処できるだろう。


「優麗高周辺に結界が張られたようやな。崇君、結界の主が解るか?」

「結界の発動者はカミキリですね。

 ですが、下級妖怪レベルでは、このような複雑な結界は張れません。

 何かが、カミキリを媒体にして結界を張ったと考えるべきでしょうね。

 ただし、結界の力はカミキリの妖力に隠れているので、

 裏で操っているのが何者なのか、察知できません。

 実に上手く存在を隠していますよ」

「ややこしい事をしやがる。

 結界の主の暴く方法はあるんか?ワレがタマ取ってきちゃる!!」

「神の使いのクセに物騒な事言うなぁ。

 僕が直接結界に触れれれば、裏で操っている奴の正体は、多分、解るだろう。

 だけど、相手にも僕が酒呑童子って事を察知される。

 相手が、手の内を隠している以上、

 こっちが晒してやぶ蛇になるのは、得策ではないよ」

「そういうこちゃな。

 まぁ、些か心配ではあるが、

 『なんか』が前面に出てこな、お嬢と天の巫女でどうにかなるやろう」

「あ・・・あの・・・それが・・・その」

「どうしたんだ、ママ?」

「え~~~~と・・・」

「何や、有紀ちゃん?心配でもあるんか?」

「紅葉の変身アイテム、私が持っているのよね。

 あの子、家に忘れて行っちゃって、

 私が届けようとしたら、粉木さんからの呼び出しと、

 問答無用の『ストーキング禁止』は発令されちゃって・・・」


 ママが、申し訳なさそうな表情で、ポケットの中からYスマホを取り出して、皆に見せる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×3


 粉木&崇&剛太郎の表情が固まった。




-優麗高・結界内-


「ふんぎゃぁぁぁっっっっっ!!!ツルッパゲいやだぁぁぁぁぁっっっ!!!」

「いやぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」


 多目的棟の2階廊下を全力で逃走する紅葉とセラフ(麻由)!階段に到着!セラフは、1階に向かって階段を駆け下りた!・・・が、紅葉は、階段を駆け上がって行った。カミキリは紅葉の背とセラフの背を見比べた後、紅葉の方を追いかける。


「あぁぁっっ!!!紅葉っ!何で上に!!?」


 今までは、美穂が先頭になって走っていたので、2人とも迷うこと無く美穂の後ろにくっついていたが、美穂が居なくなった途端に行動が割れてしまった。

 もし、紅葉がツルッパゲ突風を喰らったらどうなる?自慢のツインテールが無くなるのは想定内として、妖気に反応するアホ毛はどうなるんだろ?アホ毛も無くなる?それとも、ツルッパゲなのにアホ毛だけは残る?妖怪が発生すると、ツルッパゲの頭で、アホ毛だけがピコンピコンと反応する?


「シッカリしなさい、私!

 今は、そんな余計なことを考えてる余裕は無いはずよっ!」


 セラフは、両手でマスクの頬を叩き、気持ちを切り替えて上階に上がった紅葉とカミキリを追う!




-一般棟・3階-


「・・・どうなってんの?」


 新入生の田村響希が歩き回っていた。陸上部顧問に呼び出されたので、一緒に帰宅する清華&七菜には図書館で待っていてもらったのに、図書館には人っ子1人いなかった(カミキリ騒ぎで逃げ出した)。


「まったくもうっ!あの2人、どこに行っちゃったんだよぉ!?」


 数分前に少し空気が重いような妙な違和感に包まれた。学校全体に変な霧がかかっていて気持ちが悪い。この気持ち悪い感じは、時々、鎮守の森公園から感じるのと同じだ。そんな時に限って、鎮守の森公園では喧嘩や痴漢騒ぎなどの警察沙汰が発生をする。

 異変を感じた響希は、ツルッパゲで落ち込んでいる先生に声を掛けたのだが「響希が見えていない?」ってくらい、何を言っても認識されなかった。先生達にいくら触れようとしても、立体映像の如く擦り抜けて全く触れることができない。

 重い空気と霧が発生してから、何かがおかしくなった。不安になった響希は、「ちゃんと接触できる人はいないのか?」と探していた。


「ふんぎゃぁぁぁっっっっっっっっ!!!ツルッパゲいやだぁぁぁぁっっ!!!」

「・・・え?」


 渡り廊下の方から、耳を劈くような甲高い悲鳴が聞こえてきた。騒がしく駆ける足音も聞こえてくる。響希は確認する為に駆け出す。そして、渡り廊下に繋がる丁字路に飛び出した瞬間!


「ふんぎゃぁぁぁっっっっっっっっっ!!!・・・・んぁぁっっっ!!!?」

「えっっ!!!?」


 足を止めた響希と、全力で駆けてきた紅葉が擦れ違った!直後に、響希の眼前に異形の怪物が突進をしてくる!


「きゃぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!怪物っっっっっっっっ!!!!!」


 響希は、状況が理解出来ず、悲鳴を上げて尻餅をつく!そして、カミキリは、美味そうな制裁の対象が飛び込んできたと歓喜する!


「んぁっ!!?新入生!?ァタシとマユ以外にもいたっ!?」


 部外者に見られた!?結界を張った直後、カミキリは「一定以上の霊力がある者以外を排除する」「美穂は不合格」と言った。てっきり合格者は、自分と麻由だけだと思っていたのに、もう一人いた。


(なんでっ!?ど~ゆ~こと!?)


 紅葉の脳内に一瞬だけ疑問が過ぎったが、今は思案をしている時ではない!彼女を危険から遠ざけねばならない!


「んぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!!」


 紅葉は、慌ててターンをしてタックルでカミキリの体勢を崩し、両腕を押さえ付ける!今まで何度かツルッパゲ突風を見たが、妖怪がクロスさせた腕を振り下ろした時に技は発動された!ならば、安易だが、腕を押さえ付ければ、ツルッパゲ突風を封じられるはず!


「に、逃げてっっ!!」

「えっ!」

「はやくっ!!」


 新入生は状況が理解出来ず、尻餅をついたまま目を大きく見開いて、紅葉とカミキリを眺めるばかりで動こうとしない。腰が抜けたまま動けずにいる。

 いくら相手が下級妖怪でも、生身の紅葉では、いつまでも妖怪のパワーに抗い続けることはできない!徐々に押し負けて、体勢が崩れ来たところで、蹴りを喰らって弾き飛ばされ、3A教室に突っ込んで、整然と並んでいた机をいくつも薙ぎ倒しながら床を転がった!


「ふんぎゃぁぁぁっっっっっっ!!!」

「紅葉っ!」


 追い付いてきたセラフ(麻由)が、走りながら弓を構えて、妖怪に向かって牽制の矢を射る!

 矢はカミキリに簡単に弾き落とされてしまった!だが、セラフは、その間に床を滑り込んでカミキリの真横を通過!新入生を庇うようにして、カミキリとの間に入る!


「ひぃぃっっ!!」


 “鳥顔で手がハサミの妖怪”の次は“黄色い武者”が出現した。響希は、目の前で起きている事が一欠片も理解出来ずに怯えるばかり。


「この子は・・・確か、新1年生の田村さん。何で結界の中に?」


 今のレベルなら、下級妖怪クラスならば、念糸矢の一射で仕留める自信はある。だけど、行射の為に足を止めれば、奴のツルッパゲ突風の直撃を喰らってしまう。スキンヘッド覚悟でやるしか無いのか?

 極悪非道なカミキリは、容赦なく顔の前で両腕をクロスさせている!回避をしたら、無関係の響希がツルッパゲになってしまう!希望に満ちた新入生を、入学初日から絶望の底に落とすわけには行かない!盾となり、相打ち狙いで覚悟を決めるしか無さそうだ!


 一方、3A教室内で半身を起こした紅葉の手の下に、分厚い教科書が落ちていた。視線を向けると、それは日本史の資料集だった。「鈴木良太」と名前が書いてある。自学で日常的には使わない教材を、置勉してあるのだ。

※置勉:家で使わない教材を学校に置きっぱなしにすること。


「そ、そぅかっ!これだっっっ!!リョータっ!!力を貸してもらうよっ!!!」


 紅葉は、廊下でカミキリがツルッパゲ突風を発するタイミングに合わせて、歴史の資料集を投げた!


「マユゥっっっっっ!!!今だっっっっ!!!」


 カミキリが発射したツルッパゲ突風が、歴史の資料集に炸裂!ツルッパゲ突風の妖気は、歴史の資料集に吸い込まれ、捲れて見開いていた“明治維新”のページの、西郷隆盛&大久保利通&坂本竜馬が次々と禿げ上がっていく!


「そ、そうかっっ!」


 カミキリの特殊攻撃は、音楽室の飾られていた肖像画にも効果があった!物理的ではなく概念を変化させる!つまり、歴史上の人物の肖像画や写真が沢山掲載されている日本史の資料集には、ツルッパゲの対象が幾らでもある為、ツルッパゲ突風の破壊力を留める最強の盾になるのだ!


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!!六根清浄っっっ!!!!」


 弓を手放し、標準装備の小太刀を抜刀して、カミキリに突進をしていくセラフ!浄化の念を込めた渾身の切っ先を叩き込んだ!


「痛みは無いはずです。どうか安らかに浄化されて下さい」


 セラフはマスクの下で目を閉じて黙祷を捧げる。カミキリの裂傷に光が留まり、徐々に広がって闇を浄化していく。「六根清浄」とは「欲や迷いを断ち切って、心身が清らかになる」こと。例え敵でも「痛めつけること」が苦手なセラフは編み出した、妖怪に苦痛を与えずに浄化させる呪術である。


 紅葉&セラフ&響希の周辺が明転して、モヤが急速に晴れていく。カミキリを倒したので、結界が消滅をして、元の世界に戻ったのだ。依り代になっていたカツラが床に落ちて、中から鳥顔で手がハサミのヌイグルミが這い出てきて、セラフのHスマホに吸収された。


 カミキリの妖気によって支配されていた“概念”が消えた為、日本史資料集の西郷&大久保&竜馬が、ツルッパゲから、ちゃんとした髪型に戻っていく。音楽室のツルッパゲにされていた肖像画や、理科室でふっさふさにされていた模型も元の姿に戻る。先生方、柔道部と野球部員とサッカー部員も、元の髪型に戻る。

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