51-2・ハゲとフサフサ~逃げ回る紅葉&麻由&美穂
-学校の外-
学校内で妖怪が出現した。外周のジョグをしていた麻由が感知をして足を止める。カミキリ自体は警戒をするほどの妖怪ではないが、出現をする前に一瞬だけカミキリとは別の妖気が発生したような気がする。別の妖気がスイッチになってカミキリが出現したようだ。別の妖気が何なのか、種類も深さも解らない。
「・・・くっ!行かなきゃ!」
麻由の今居る位置は学校正門のちょうど真反対。まともに外周を廻っていたら、現地に到着するまでに3~4分は掛かってしまうだろう。ショートカットをして、グラウンド側に抜けた方が、校舎に早く到着できる。
-文架大橋西詰め-
「んぁっっっっ!!!?」
美穂&真奈&亜美と帰宅中の紅葉が「学校にカミキリが出現したこと」を探知した。カミキリが出現する直前に発せられた謎の妖気も探知したが、それが何なのかは解らない。
「んっ!アミ、ゴメン。先に帰ってぃて!ミホ、学校に戻るょっ!」
「しゃーない、行くか」 「私も行きます」
「気を付けてね」
原チャの美穂は「お先に!」と言って、アクセルを捻ってスピードを上げて、来た道を戻っていく。そして、だいぶ遅れて紅葉が「ミホ、待て~~!」と叫びながら自転車を立ち漕ぎして突っ走り、その後を真奈の自転車が追い掛ける。
-優麗高-
「・・・こ、これはっ!」
麻由が校舎に戻ったら、時既に遅し。何人もの被害者が出てきた。先生方や生徒達が、怯えた表情で、頭を抱えている。そして、驚くべき事に、全員がツルッパゲになっていた。
「何があったんですか?」
「あうぁぁぁっっ・・・・
変な化け物に襲われて、突風に煽られたと思ったら髪が無くなっていたんだ」
「な、なんですってっ!」
麻由の背に冷たい汗が流れる。なんて極悪非道な妖怪なのだ。妖怪の攻撃を喰らったら、自分もツルッパゲになるのか?そんな、凶悪な妖怪とは戦いたくない。だけど、戦闘を放棄したら、学校に残っている全員がツルッパゲにされてしまう。我が身(髪)を犠牲にしてでも、戦うしか無いのか?
ちなみに、皆には、髪の毛が無くなった以外に、特に外傷は無い。
「ぎゃぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!」
柔道場の方から声がした。迷っている暇は無い。麻由は、悲鳴が聞こえた方に駆けていく。そして、柔道場に飛び込んで驚愕をした。柔道部員達が、青ざめた表情で頭を抑えて震えている。妖怪の姿は既に無い。優麗高の柔道部員は、全員坊主頭のはずなのに、見渡す限り全員がふっさふさのロングヘアになっているではないか。
「こ、これは一体?」
「あうぁぁぁっっ・・・・
変な化け物に襲われて、口から発射された光線を浴びた途端に、
髪がフサフサになったんだ!」
「な、なんですってっ!」
「ヤベーよ!
こんな髪型がコーチに見付かったら、精神が弛んでいるって激怒されちまう!」
「くっ!なんて卑劣な!!」
どうやら妖怪は、髪の毛がある人はツルッパゲにして、髪の毛が無い人はフッサフサにするようだ。つまり、髪の毛がある麻由は、ツルッパゲにされてしまう。怖くて仕方がないが、自分以外に戦える者がいない。意を決して、残存妖気を追跡して柔道場から飛び出していった。
ちなみに、柔道部員達には、髪の毛がふっさふさになった以外に、特に外傷は無い。
-グラウンド-
麻由が到着をした時には、チャラ男が多いサッカー部員達がツルッパゲにされたあとだった。女の子を意識した髪型でキメているサッカー部員達は、「これではモテない」と号泣をしている。そして、今まさに、坊主頭が多い野球部員達の前に、妖怪カミキリが立ちはだかっている!
〈カミカミ~~!!髪ノ毛無キ者ニ救済ヲ!〉
カミキリが、野球部員達に向かって口を開き、妖気の光線を照射!途端に、丸坊主だった野球部員達が、フッサフサの長髪になる!炎天下の野球場で、腰まで丈のある髪を靡かせた高校球児が汗を輝かせながら白球を追う。嫌だ、何かサマにならない。去年の夏は、県大会のベスト4まで進んだ。今年は、更なる飛躍を目標にしていたのだが、髪の毛がこんなにフサフサになってしまったら、2回戦くらいで相手チームから「あんなチャラ男共になんて負ける気がしね~よ」とフルボッコにされるのが目に見えている。観客達からは、「あんなに髪の毛がフサフサだから負けたんだ」と物笑いの種にされるだろう。新3年生達は「夢は潰えた」と泣き崩れる。
ちなみに、サッカー部員達と野球部員達には、ツルッパゲかフッサフサになった以外に、特に外傷は無い。
「あ~~~~~~~っ、もうっ!そんな事くらいで泣かないでください!
生えてる髪の毛を奪われるよりもマシです!
アナタ達の場合は、もう一度スキンヘッドにすれば、良いだけでしょうに!!」
〈カミカミ~~!!髪ノ毛ニ恵マレタ者ニ制裁ヲ!〉
怒鳴り声を上げた所為で、麻由の存在がカミキリに認識されてしまった。光沢が有り、風にサラサラと靡く麻由の美しい黒髪は、カミキリにとっては制裁の対象だ。カミキリは次の標的を見つめて目を爛々と輝かせる。対する麻由は腹を括って構えた。一定の防御力がある聖幻ファイターなら、一撃でツルッパゲにされることは無いだろう・・・多分。
「えっ!?・・・もしかして私・・・変身してない?ひぃぃっっっっ!!!」
ツルッパゲとフッサフサに動揺をしながら、夢中になって妖怪を追跡していたので、変身を忘れていた!ここで変身すると、サッカー部員と野球部員に正体がバレてしまう!
慌てて踵を返して逃走をする麻由!カミキリは、極上の獲物を見逃す気は無いらしく、麻由を追っ掛けてくる!麻由が校舎正面側に来たところで、カミキリは走りながら顔の前で両腕をクロスさせて、気合いを込めて振り切った!途端に、妖気の塊が飛んで来て麻由に襲いかかる!妖気を目視できる麻由は、横っ飛びで回避!妖気の塊は、正門前に立っていた桜の木に着弾!満開の花を咲かせていた桜の木が、一瞬にしてツルッパゲになる!
「ひぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっっっ!!!
いやぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
やはり、妖怪の攻撃を喰らうとツルッパゲになるようだ。ちょっとだけ光線を浴びたらロングヘアがセミロングに変化するくらいなら、我慢して踏み込もうかとも思うが、多分そんな都合の良いシステムではなく、問答無用でツルッパゲになるのだろう。
麻由は、悲鳴を上げながら、隠れる場所や遮蔽物が多い校舎内に逃げていく。
-しばらくの後-
優麗高の理科室に美穂の姿があった。髪の毛がフッサフサに生えた人体模型を見て首を捻る。
「う~ん、久しぶりにジックリと見たけど、こんなんだったっけ?」
遡ること数分前、美穂が優麗高に到着したら、正門前の桜の木が禿げ上がっていた。特に気にして見たことも無かったけど、登校時に紅葉が、この桜の木を見上げていた。その時は、満開に花が咲いていて、時折、花弁が舞っていたような気がする。 桜の花ってこんなに早く散るの?それとも、紅葉は道中で別の木を見ていたのに、美穂がこの木と錯覚したのだろうか?明確には、覚えていない。
とりあえず、遅れて自転車で突っ走ってくる紅葉を待つ気は無いので、警戒をしながら校庭内に踏み込む。妖怪が何処に居るのか解らないけど、「校舎に入れば何処かで騒ぎが発生してるんだろう」と予想をしつつ、適当に捜索をして、理科室に入って今に至る。
人体模型の、人の表皮側の半分に毛が生えているなら、まぁ、有りなんだろうけど、内臓が透けてる方の半分まで、髪のフッサフサなのは違和感がある。そして、もっと違和感があるのは、人体模型の隣に在る骸骨の模型まで、髪の毛がフッサフサに生えていることだった。
「流石にこれは無いだろう。誰かのイタズラか?」
美穂は「誰かがカツラを被せたのだろう」と思って外そうとしたが、驚いたことに1本1本が骸骨の表面からシッカリと生えていた。
「えっ?地毛??」
無数にある髪の毛を、1本1本、丁寧に植毛しなければ、こんな状況にはならない。いくら何でも、イタズラでできる代物ではない。やはり元々、この骸骨の模型には髪の毛が生えていたのだろうか?ただでさえ気味の悪い模型なのに、髪の毛が生えている所為で不気味ぶりが増している。
「いやぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「んっ!?」
聞き覚えのある悲鳴が近付いてきた。これはアレだ、ヘタレが、超ヘタレまくっている時の悲鳴だ。廊下に顔を出したら、案の定、麻由が泣きそうな表情で、こっちに向かって突っ走っている。部活動があるから学校に残っていたんだっけ?
美穂は、突っ走って来る麻由に向かって、手を振って存在をアピールしたが、慌てている麻由の眼中には一切入らず、理科室の前の廊下を全力疾走で素通りして行った。相当テンパっているようだ。サトリ戦や紅葉との特訓で頑張ったので、かなり見直したのに、ちょっと目を離すと直ぐにこれだ。
「おい、こら、待てや!!!」
イラッと来た美穂が、麻由を追いかける。何かに追われているのかと、念の為に後ろを振り返るが、何も追ってくる様子は無い。
「おい、麻由、止まれ!」
「ひぃぃぃぃぃっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「止まれって言ってんのが聞こえないのか!?」
「いやぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!」
「少しは落ち着けってんだ!!」
「スキンヘッドはいやぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「行けぇ!キグナスター!!」
〈クェェェェェッッッッッッッッッッッッ!!!〉
進行方向の窓ガラスから、白鳥型モンスター=キグナスターが出現!麻由に向かって低空で飛んで足下を掬った。麻由が無様に転んだ隙に美穂が合流をして、麻由の胸ぐらを掴んで、ビンタを10発ほど叩き込んでやった。かなりの荒療治(&鉄拳制裁)だったが、麻由は落ち着きを取り戻す。
「うぅぅ・・・あぁっ!美穂さんっ!いつの間に!!?」
「だいぶ前から居たっつ~の!
テンパりすぎだ!何があった!?」
「・・・じ、実は」
麻由は、深く深呼吸をして、周囲を警戒して、カミキリの姿が無いことを確認してから、すぐ目の前の音楽室に身を隠し、今までの経緯の説明を始めた。
「・・・で、ツルッパゲにされるのが怖くて、全力で逃げ回っていたと?」
「は、はい」
「そんで、妖怪を引き離していたってのに、気付かずに逃げ回っていたと?」
「は、はい」
「フツーにヤベーだろ」
つまり、麻由が逃げ延びた=妖怪は標的を別の誰かに変えたって事だ。
「索敵できるか?」
「は、はい!」
「直ぐに探し出せ!オマエが逃げた所為で被害が拡大すんぞ!」
気持ちを落ち着けて、カミキリの索敵を開始する麻由。その直後!
「ふんぎゃぁぁぁっっっっっ!!ツルッパゲいやだぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
「へっ!?」 「この声は?」
聞き覚えのある悲鳴が近付いてきた。これはアレだ、タラズが、脳ミソを全く使ってない時の悲鳴だ。廊下に顔を出したら、案の定、紅葉が泣きそうな表情で、こっちに向かって突っ走ってきた。刃吾幻戦で急成長して、かなり見直したのに、ちょっと目を離すと直ぐにこれだ。
美穂が現場に来てから、そこそこの時間が経過してるから、紅葉が到着して、美穂よりも先に妖怪と遭遇しても不思議ではない。美穂が手を振って存在をアピールしたら、発見した紅葉が音楽室に向かって来る。紅葉から20mほど後ろ、鳥の頭をした人型の妖怪が追い掛けてきた。
「ちょ、美穂さん、なんで、紅葉を呼ぶんですか!?
真後ろに妖怪が居るんですよ!」
「あほっ!無視しちゃマズいだろ!オマエは紅葉を見捨てるつもりか!!?」
「ふぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!」
紅葉が音楽室に突入!直後に妖怪も踏み込んできて、両手をクロスさせてツルッパゲ突風を発射!慌てて回避する麻由!妖気が見えない美穂には、紅葉が体当たりをして共に突風の放線から離れる!ツルッパゲ突風は、ベートーベンの肖像画に炸裂!
「なんんじゃ~~~!!こりゃぁぁっっっっっっ!!!!
ベートーベンがハゲたぁぁっっ!!!!」
「肖像画までスキンヘッドに!!」
「スゲー!カミキリの攻撃スゲー!でも、絶対に喰らぃたくないっ!」
動揺する紅葉&美穂&麻由に対して、カミキリはツルッパゲ突風を連射!慌てて回避する紅葉達!外れたツルッパゲ突風が、あちこちに炸裂をして、肖像画のシューベルト&バッハ&モーツァルト等々が、次々にツルッパゲにされる!
「なっ、なんちゅう非常識な攻撃だ!!」
「ヤダヤダヤダヤダ!ツルッパゲは絶対に嫌だぁぁっっっ!!!」
「退避をしましょう!!」
「キグナスター!頼むっ!!」
〈クェェェェェッッッッッッッッッッッッ!!!〉
窓ガラスから出現をしたキグナスターが、カミキリに突っ込む!負けじと、嘴を開くカミキリ!キグナスターは、カミキリの口から発せられた光線を僅かに浴びるが、戸惑うこと無くカミキリを弾き飛ばした!その間に、音楽室から脱出をした紅葉&美穂&麻由が逃走をして、追い付いてきたキグナスターが3人の真上を飛ぶ!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×3
「おい、麻由!何でこうなった!!?」
「目的はよく解りませんが、髪の毛がある場合はスキンヘッドにされ、
髪の毛が無い場合は、長髪にされてしまうようです」
「うぇぇぇ~~~~~~~・・・白鳥ちゃん、なんか変っ!」
〈クェェ♪クェッ♪クェッッ♪〉
逃走中の3人の真上を飛ぶキグナスターは、頭から黒い長髪を生やして靡かせている。本人は気に入った様子だが、傍から見ると違和感しか無い。もし、ネメシスがキグナスバイクを召喚した場合、バイク形態でも髪の毛がフッサフサのままなんだろうか?運転する時に、もの凄く邪魔になりそうだ。
美穂は、長髪を靡かせるキグナスターが目障りなので、インバージョンワールドに帰らせる。
「肖像画や人体模型まで効果を発揮するって、ど~ゆ~事なんだ?」
「人体模型も・・・ですか?」
「理科室の半分が内臓になってる人形と、骸骨の模型まで、長髪になっていた!」
「そ、そうかっ!そう言うことか!!」
「んぁっ!マユ、何か解ったの!?」
「はい、ようやく解りました!
妖怪の攻撃は、頭髪を物理的に変化させるのではなく、
概念を変化させてしまうんです!」
「概念・・・か。だから、画や模型にまで影響を与えたって事か!」
「そう言うことです!」
「・・・・・・で?」
「はぁ?」
「攻撃の要領が解ったのはヨシとして、攻略方法は!?」
「そ、そんなものは有りません!単に、概念に攻撃をする事が解っただけです」
「攻略法が無きゃ意味無~じゃん」
「あぁっ!そうだっ!
スキンヘッドのカツラを被れば、カミキリは長髪にする攻撃をしてくるので、
元々髪の毛のある私達には効果が無いのかもしれません!」
「おぉっ!マユ、あったまイイ!」
「少しも頭良くない!少しは考えてから喋れ!
学校の何処を探せばハゲのカツラなんてあるってんだよ!?
ここはテレビ局じゃねーんだぞ!」
麻由が気付いたことは戦況には少しも影響を与えず、麻由の発案した作戦は実行不可能。春休み中の活躍は何だったの?あれは夢だったのかな?ってくらいダメダメである。




