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51-1・紅葉の寝坊~クラス分~着任式~カツラの先生

-4月某日-


♪~♪~♪~

「んっっっ!!!朝だぁ~!」


 ベッドから半身を起こした紅葉が、スマホのアラームを止めて、「むんっ」と伸びをする。珍しく、ちゃんと起きた。朝から気合いが入る。


 今日から新学期、もう3年生、優麗高の最高学年として、可愛い新入生達の模範を示さなければならない。誕生日が来て18歳になれば、選挙権だってもらえる。自分が投票する“清き一票”が国を動かせる。もう大人の仲間入りだ。前にパパと一緒に見た“せーけん放送”で「しょーひ税の撤廃と大陸進出」を公約に掲げていた人がいた。パパは「無茶苦茶だな」と呆れていたが、紅葉は、そ~ゆ~頼もしい人に総理大臣になって欲しい(※国民は首相を選べなせん)。

 今年度中に“60番”と出会って、ビビッと恋をして、卒業と同時に結婚をする!そして十代で子供を産んで、若いママになる!そんな、内に秘めた野望もある!


 ジャージからブレザーに着替え、洗面台で鏡に映る自分とニラメッコしながら寝癖を整え、口に咥えていた輪ゴムを手際良く後ろ髪に廻してツインテールが完成。頭頂部にピィンと立っているアホ毛を軽く撫でて、鏡を見て確認する。


「よっしゃ!」


 今日は始業式とホームルームだけなので、教材の準備をする必要は無し。軽いカバンを持ってキッチンに行き、準備されていたトーストとハムエッグとサラダを食べる。


「おはよっ!」

「おはよう。今日はちゃんと起きたのね」

「んっ!今日から3年生だからねっ!いつまでも寝坊なんてしてられないよっ!」

「あら、良い傾向ね~。・・・でも、いつまで続くことやら」


 朝食を終えたら、リビングに行ってソファーに座り、大人ぶって新聞に目を通す。テレビ欄と4コマ漫画しか読まないけど。

 新聞のチェックが終わったら、テレビでニュース(ワイドショー)を見て、世相の勉強をする。


・

・

・


「紅葉!いつまで寝てるの!?

 今日から学校でしょ!いい加減に起きなさいっっ!!!」

「んぁぁぁぁっっっっ!!!?」

「静かだとは思っていたけど、まさか、まだ寝ていたとは思わなかったわ!」


 ママに怒鳴られてベッドから飛び起きる紅葉。ちゃんと起きたのは夢だった。やばい、アラームかけてなかった。枕元にあるスマホで時間を確認したら、亜美との待ち合わせ時刻の15分前。

 慌てて洗面台に行って寝癖を直してツインテールを結い、部屋に戻ってブレザーに着替え、キッチンテーブルにあった朝食のうちから牛乳だけを飲み干して、他には目もくれずに玄関を駆けていく。


「行ってきま~す!」

「忘れ物ない?」

「んっ!」

「行ってらっしゃ!気を付けてね!」


 紅葉は大急ぎで玄関を飛び出していった。有紀は、紅葉の部屋に入って脱ぎ散らかされていたジャージを折りたたんでイスの上に置き、ベッドの掛け布団を丁寧に折り返す途中で動きを止めた。


「・・・・あ、あの小娘」


 枕元にYスマホが置きっぱなしだ。一般的な女子高生が家にスマホを忘れて、その日は不自由をしたなら「忘れるのがマヌケ」で済む。だが、紅葉の場合は変身アイテムだ。妖怪が出現しても戦えない。




-優麗高-


 学校に到着した紅葉&美穂&真奈&亜美は、旧クラスメート達と挨拶を交わしながら、先ずは校庭の人集りができたところに寄って行く。掲示板に貼られた“新しいクラス”の確認をしなければ、どの教室に行って良いのか解らない。


3年A組(理系特進)

鈴木良太 葛城麻由 他(大半が男子生徒)


3年B組(理系一般)

桐藤美穂 他(男子生徒の方が多い)


3年C組(理系一般)

メインキャラ無し(男子生徒の方が多い)


3年D組(文系特進)

熊谷真奈 平山亜美 藤林優花 他(女子生徒の方が多い)


3年E組(文系一般)

太刀花美希 源川紅葉 他(女子生徒の方が多い)


3年F組(文系一般)

メインキャラ無し(女子生徒の方が多い)


 2年から3年への進級時にクラス替えがある高校は珍しいのだが、優麗高は3年生で理数系と文系、及び、特進と一般へのクラス分けがある。

 亜美と真奈は念願叶って文系特進入り。勉強嫌いな紅葉は文系一般。美穂は2年の3学期に頑張って総合80位だったが、これまでの素行不良が足を引っ張って理系一般だった。麻由は「此処が私の座る場所」と言わんばかりに理系特進に名が連ねてある。


「あっ!私と平山さん、同じクラスだ!」

「ホントだ!1年間、よろしくね!優花ちゃんも一緒だぁ~」

「スゲーな、2人とも特進かよ」

「ァタシゎミキと一緒だよぉ!」


 新しいクラスを確認した紅葉&美穂&真奈&亜美は、生徒玄関に向かって歩き出す。




-生徒会室-


 麻由が、本日の始業式&入学式で使う資料を整えていた。

 8時45分から始業式があり、その後、新しいクラスでの初めてのホームルームで、10時半から入学式で、引き続き教職員の着任式になる。麻由は入学式で新入生に向けてスピーチをするので、事前に新入生の履歴をパソコンで確認していた。

 生徒の資料は、全て学校側で電子データとして管理されている。一般生徒は見ることが出来ないが、生徒会だけは門外不出のデータを確認をできるのだ。


「・・・あら、この子?」


 文架東中出身の田村響希の履歴書で手を止めて顔画像を眺める。以前、冨久海跳の見送りで文架駅に行った時に、田村環奈の見送りに来ていた妹だ。一言挨拶をした程度だったが、その時から違和感があった。


「・・・やっぱり、似ている」


 麻由には、中学時代に坂上鈴奈という名前の友人が居た。後に、鈴奈は人間ではなく、剛太郎が孤独な麻由を守る為に送り込んだ天界人と知った。今は天界に戻ったはず。

 優麗高に入学して、最初に環奈先輩を見た時は、鈴奈かと思ってしまった。だが接してみたら、顔は似ていたが、全体的な体格や雰囲気が全く違ったので、直ぐに別人と理解した。


「田村響希さん・・・鈴奈にソックリ。一体どうなっているの?」


 2歳も年下の響希が、剛太郎の指示で麻由の友達を演じていたとは思えない。なによりも、響希自身に自分の生活があるのに、鈴奈のフリなんてできるわけが無い。身近に、ソックリな容姿が3人もいる?田村姉妹と鈴奈は、姓も出身中学(姉妹は東中で、鈴奈は北中)も違う。親が離婚をした3姉妹?鈴奈にはまだ何か謎がある?麻由の中で、小さな興味と不安が蠢動をする。




-3年D組-


 亜美と真奈が一緒に教室に入り、名簿順に並んだ自分の席を探す。亜美の席は直ぐに解った。1つ後ろの席の優花が、「こっち」と手招きで案内してくれる。


「亜美ちゃん、おはよ~!同じクラスだね!」

「おはよ~、優花ちゃん!一緒で良かった!1年間、よろしくね!」


 亜美が席について机脇にカバンをかけ、1年生の頃から仲良しの優花と会話を始めたら、早速、真奈が寄ってきた。


「私、熊谷真奈、よろしくね」

「よろしく、藤林優花です。いつも紅葉ちゃんと一緒にいるよね」


 真奈達は、始業式の為に体育館に行くまでの空き時間を、新しいクラスに馴染む為に使う。




-約1時間後・3年E組-


 始業式を終えて教室に戻ってきた紅葉&美希が、窓の外を眺めながらホームルームまでの時間を待つ。3年生の教室がある校舎最上階(3階)の窓から一望する景色が新鮮だ。


「んぁっ!ぴかぴかの1年生だっ!」

「南中陸上部の私の後輩が入学するよ。舞香って名前の足がすっごい速い子」


 グラウンドの向こう側の歩道を、紅葉達と同じブレザーを着て、まだあどけなく、緊張した面持ちの生徒達が歩いている。中には、親と一緒の者達も居る。紅葉は、新1年生達を眺めながら「自分もあんな時期があったな」「ママと、亜美と、亜美のママの一緒に来たっけ?」「あれから2年、スッカリ歳を取ったな」なんて物思いにふける。




-しばらくの後-


「桜の雨も降り止み、 葉桜が萌えいづる季節となって参りました。

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

 在校生を代表して、歓迎の意を表したいと思います」


 入学式では、初々しい1年生達の前で、在校生代表でスピーチをした葛城生徒会長の格好の良さが、憧れの的となった。

 その後、在校生達が合流をした着任式で、新しく赴任した先生達が紹介をされ、ステージ上に立つ先生方の1人、玉木百萌音(たまき ももね)が生徒達の注目を集める。


「若いよな?新卒か?」 

「スゲー、可愛い」 

「メッチャ、スタイル良いじゃん!」 


 生徒からは、概ね評判は良さそうだ。玉木百萌音先生は1年B組の副担任になる。1Bの生徒達は色めき、他のクラスの生徒達からは羨望の眼差しが注がれる。

 魅力的な先生に、格好良く美しい生徒会長。そして、彼女達に引けを取らない逸材が、1Bの列に並んでいる。


「ん?男子達が、こっちばっかジロジロと見ている。気持ち悪っ!」


 1年B組・田村響希。1ヶ月前に優麗高を卒業した田村環奈の妹で、健康的な肌の色と、スマートに引き締まった体格を除けば、姉とソックリの美形だ。


 同じ1年B組の、列の先頭(出席番号1番)に立つ友人(天海七菜)と、1年D組の列に並んでいる友人(水島清華)は、響希が男子からの人気が高いことや、分け隔てなく誰とでも仲良く出来る姉とは違って、響希が寄って来る男子には全く愛想がないことを知っている。

 中学時代から小生意気な響希のことを、「ちょっと可愛いからって調子に乗っている」と嫉んだり、目の敵にする女子も少なからず存在したが、陸上長距離で一定の実績を持つ彼女に、あからさまに盾突ける者はいなかった。




-放課後・教務室-


 本日は、始業式&入学式&着任式のみで授業が無い。12時過ぎには下校時刻となる。

 陸上部は校内ではなく陸上競技場で練習をするのだが、顧問の山本武史(3B担任)は、まだ教務室に残っていた。新入生の女子2人を呼び出して話をしている。1Aの鷹司舞香と、1Bの田村響希。陸上競技短距離と長距離の即戦力が、他の部活に奪われないように、早速勧誘をしているのだ。


 期待の大型新人と陸上部顧問が会話をする光景を眺めながら、弓道部顧問の比嘉司太郎(ひが したろう)先生は、大きく溜息をついた。


「ちぇっ・・・副顧問は男かよ」


 昨年まで弓道部の副顧問をしていた教諭が3月で離任したので、新しく赴任した先生から副顧問が選ばれると思っていた。比嘉は「弓道部には女子生徒が多いので、副顧問には女性が必要」と教頭にアピールしており、新任の玉木百萌音先生が弓道部の副顧問に充てられることを期待していたが、「玉木はハードルや長距離走の経験者」ということで陸上部の新しい副顧問が割り当てられ、去年度までの陸上部副顧問が弓道部に廻されたのだ。この人事には非常に落胆した。


「比嘉先生、弓道場に行きましょう。

 確か、A組の葛城麻由って、県内でも上位レベルなんですよね?」

「私は所用を済ませてから行くので、日野先生、先に行ってもらえますか?」

「解りました。じゃ、先に行ってますね」


 比嘉先生は弓道部の新しい副顧問を見送って、もう一度大きな溜息をついた。「葛城麻由は、県内上位レベル」なんて曖昧な次元ではない。「県内上位」は1年半も前の話だ。2年生夏の大会では、県大会で3位入賞をしている(2年秋の新人戦は、県大会を欠場)。目の上のタンコブだった渡帝辺工業高校の矢崎ゆみは3月に卒業をした。他校の弓道関係者からは、「葛城の成長は著しい」「今年は、優麗高の時代になる」「全国大会進出は確実」と太鼓判を押されている。それすら解っていない日野に腹が立つ。


「弓道部の副顧問をするつもりなら、もう少し弓道部のことを勉強してこい。

 やる気が無いなら辞退しろ」


 小声で悪態をついて、また溜息をつく。新入生を勧誘中の山本が、玉木を呼んで紹介を始めたので、比嘉の視線が自然と玉木に向く。


「・・・ん?」


 比嘉先生の視線に気付いたのだろうか?玉木先生が、比嘉先生の方に視線を向ける。比嘉は直ぐに視線を逸らしたが、玉木は比嘉の方をガン見している。


「ヤバい、見取れていたのがバレたのか?それとも、もしかしたら!?」


 慌てた比嘉先生は、頭を抑えて立ち上がり、足早に教務室から出て、駆け足気味に廊下を歩いて、職員用トイレに駆け込んだ。


「ズレている!!?」


 不安に駆られ、洗面台の鏡を睨み付ける比嘉先生。玉木先生からガン見されていたので、てっきり“ズレている”のかと思ったけどズレていなかった。何一つ、異常は無い。皆が見慣れている比嘉先生の精悍な顔が映っている。


「い・・・いや・・・違う。皆が知っている俺は、本当の俺では無いんだ」


 力無く歩き、大便室に入って扉を閉め、蓋の上に腰を降ろす。比嘉司太郎は、自身の顔には自信がある。端整な顔立ちのおかげで中学の頃からモテた。大学時代は、顔を武器にして手っ取り早く金を稼ぐ為に、ホストのバイトをやっていた。だがそれがマズかった。毎日、ポマードを使ってイケてる髪型を仕上げていた為、髪の毛からはタンパク質が奪われて細い髪になり、毛穴は詰まり、元気な髪に恵まれなくなった。そして、気付いた時には、地毛の大半を失っていた。


「・・・くそっ!」


 髪の毛を鷲掴み、引っ張る比嘉。てっきり比嘉から生えていると思っていた髪の毛が、頭から外れて、見事な禿げ頭が出現した。こんな頭では女性に積極的アプローチができない。


「髪の毛さえちゃんと有れば・・・全員に髪の毛が無ければ・・・」


 悲しそうにカツラを見つめる比嘉。その耳に「コーン」とキツネの鳴き声のような音が聞こえた。途端に、比嘉が握っていたカツラが、闇を纏いながらゆっくりと浮上する。


「な、なんだっ!!?」

〈カミカミ~~!!髪ノ毛ニ恵マレタ者ニ制裁ヲ!髪ノ毛無キ者ニ救済ヲ!〉

「う、うわぁぁぁっっっっっっっっっ!!!

 化け物だぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!!」

〈儂ハ オマエノ 意志ニ反応シテ生マレタノニ バケモノ扱イハ ヒデーナ〉


 闇に塗れた人工毛が徐々に人型に変化!両手がハサミで、鳥のような顔をした妖怪=カミキリが姿を現す!


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