第4話 七つ時分の装鞍所 発見編
寮で同室の陸上部、「競走馬」と揶揄される斑目冬馬に隠された、オレの玉将へのヒントは三つ。
『七つ時分の装鞍所』
『陣地の9一』
『ミノムシ』
オレは考えを巡らせた。
七つ時分とは多分時間のことだろう。
九つが十二時。
そこから二時間ごとに一つずつ数字が繰り下がる。
ということは、七つ時分とは十六時か。
装鞍所とは、多分斑目のあだ名に関わりがあるだろう。
装鞍所とは、競走馬の待機場所だ。
「陸上部の部室だな」
オレが言うと、斑目は肯定するように笑った。
◇
次の日の十六時、部活を抜けてオレは、コンクリでできた長屋の運動部部室棟に来ていた。
今回のヒントはだんだんとものが小さくなっている。順に追っていけば、きっと見つかるだろう。
運動部部室棟には普段来ないので緊張する。
手前から三番目の陸上部の部室にそっとお邪魔した。
据えたような汗の匂いと熱気がむわっと押し寄せてきた。
扉と反対側の天井近くの窓から柔らかな光が入っているが薄暗い。
電気をつけた。
クーラーがなく暑い。
『陣地の9一』
これが将棋の盤上の住所だとオレは分かっていた。
陸上部部室に、盤上に見立てられるようなものがあるのだろう。
壁にロッカーが並んでいて、その前に長椅子が二つあった。
ロッカーだな。
ロッカーは横に九つ、縦に三つ並んでいた。
将棋の盤面は縦が九、横が九。上下三段がそれぞれの陣地だ。
やはりロッカーを盤面の陣地に見立てている。
盤上の住所で9一といえば左上だ。
オレは左上のロッカーを開けた。
真ん中に小さな巾着袋がぶら下がっていた。
『ミノムシ』
オレは巾着袋を手に取った。
中を見る。
オレの玉将が入っていた。
やっぱりな。
部室を出ようとしたところで、斑目が入ってきた。
「見つかった?」
「おうよ。てか、盤面の住所、よく知ってたな」
「調べたんだ」
斑目と話していると陸上部員が入ってきた。
目つきが鋭い。
「競走馬がサボってんじゃねーよ」
陸上部員は言って、クーラーボックスから飲み物を取り出した。
すぐに一口飲んだ。
そして、オレに向かって
「見慣れないやつだな。斑目の騎手ってわけ?」
と言った。
ニヤついている。
何言ってんだコイツ。
「すぐ戻ります」
斑目が言った。
陸上部員は舌打ちした。
「すみません、だろ」
斑目は動かない。
「タオルを取りに来ました」
「ああ?」
睨み合いが続いた。
根負けしたのは相手だった。
斑目から目を逸らし、部室を出て行った。
「ごめんね」
扉が閉まると、斑目が言った。
「オレじゃなくてあっちに謝っとけよ」
「嫌いだから」
オレは虚を突かれた。
「お前、強えな」
「中距離走ってるからね」
斑目の言葉の意味を一瞬考えた。
そういえば、斑目の走る800m走は『陸上の格闘技』と呼ばれているんだっけ。
オレは思わずニヤニヤした。
斑目がロッカーからタオルを取り出す。
斑目もニヤニヤしていた。




