第2話 楽園と天国に一番近いところ 発見編
寮で同室の斑目冬馬から与えられた、隠されたオレの玉将へのヒントは三つ。
『楽園と天国に一番近いところ』
『微笑む聖母の下』
『生み出される子供たちの、ゆりかごの中』
オレは考えを巡らせた。
楽園はどこにあるだろうか。
西遊記を思い出した。
ありがたいお経を求めて、西の天竺、極楽浄土に向かう話だ。
オレが求めているのは玉将だけど。
楽園は西だ。天国は空の上。
西にある高いところ。
学園の建物に当てはめてみる。
二つの校舎が南北に伸びており、それぞれ西棟、東棟と名前がつけられていた。
寮を含めて、校舎が一番背が高い。
「西棟の最上階だな」
オレは言った。
斑目は肯定するように微笑んだ。
◇
西棟の最上階には六つの部屋がある。
第一音楽室、音楽準備室、書道室、書道準備室、美術室、美術室準備室。
この中で、生徒が簡単に出入りできて聖母がいそうなのは美術室だ。
斑目は美術を選択しているし、間違いないだろう。
けれど、『生み出される子供たちの、ゆりかごの中』とはどういうことだろうか。
ゆりかごは生まれた子供のためのものだ。
考えても埒があかないので、放課後、美術室に向かった。
◇
放課後になったばかりで、掃除の時間でもあると言うのに、美術室には、美術部員の姿があった。
「どうしたの?」
先輩らしき部員に声をかけられる。
「探しものをしてて…」
「ふうん。どうぞ」
部員は興味なさそうに言って、自分の作業に戻っていった。
美術室は甘い柑橘系の油の匂いがした。
オレは美術室を見回す。
机が窓際に押しやられ、空いたスペースに石膏像と、その周りを囲むようにイーゼルが並んでいた。
奥の壁には細い金属が縦横に整然と並んだ棚のようなものが四台あった。あいだあいだに、白い何か薄いものが差し込まれている。
その棚の奥の壁には、棚の表札のようにそれぞれ名画が貼られていた。
そのうちの一つ、青いマントを羽織る女性の絵が目に止まった。
聖母マリアだ。
その下に行ってみる。
多分金属の棚のどこかにあるのだろう。
棚に差し込まれていたのは描きかけの油絵のパネルだった。
なるほど。
『生み出される子供たち』とは、これから完成する絵のことか。
絵は表面がまだ濡れていた。
乾かしているのだろう。金属の棚は描きかけの絵を寝かせる棚、ゆりかごというわけだ。
棚の一番上にあるパネルに斑目の名前があった。名前のところにオレの玉将がテープで貼り付けてある。
オレは表面を触らないように慎重にパネルを取り出した。
描かれていた絵は、静物画のようだった。
……すごい下手だな。
瓶が描かれているのはわかる。
わかるのは瓶だけだった。
色使いも、なんだかおかしい。
オレは玉将を剥がし、美術室を出た。
「見つかった?」
背後から声をかけられ、オレは飛び跳ねた。
斑目だった。
「おう」
オレは心を落ち着けながら続けた。
「お前、あの画力で美術選択とか、猛者だな」
斑目はなぜか嬉しそうに笑った。




