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追撃戦

地下に降りた支援機が角をまがったその瞬間、映像が白く飛んだ。


『封鎖支援機、通信ロスト』


CICの作戦図で、青いマーカーが灰色へ変わった。


「おそらくEMPのセンサートラップです」


ナディアが歯を噛む。


「読まれていたということか」


---


真船を護衛する一団は、連携を取りつつ地下点検通路へと移動している。殿を務めたことで遅れていたアリーナ追いつき、トラップにより沈黙させられ、火花を飛ばす支援機を見た。


「トラップはうまく機能したようだ。通れる。行くぞ」


真船は、初めて息を吐いた。

トラップはうまく作動した。細い点検通路の先には、古い搬出用の縦坑がある。そこを抜ければ、港湾旧市街側の排水管理区画へ出られる。企業群が用意した合流地点まで、あと数分。

護衛の一人がわずかに息をついた、その瞬間だった。沈黙していた支援機がバチバチと火花を飛ばしながら再起動した。


「……再起動しただと!?」


誰かが呟く。支援機は立ち上がれない様子で脚部は死んでいるようだった。主センサーも焼けている。だが、背面の封鎖機構だけが、ギリギリと軋んだ音を立てて開いた。蛇腹状のバリケードが、細い点検通路いっぱいに広がる。壁から壁へ、床から天井の際までの高さまで。複合樹脂と高張力鋼の骨が噛み合い真船たちの退路を塞いだ。


CICで項が目を細める。なぜ動いたのかがわからない。そこで通信に柔らかな声が割り込んだ。


『我が麗しのアルテミシア様』


プーカだった。


『お困りのようでしたので、少々手を出させていただきました』


プーカのドールが、支援機の背面に取りついていた。人間なら入れない点検隙間へ腕を差し込み、焼け残った外部整備ポートへ直接接続している。

EMPで主系統は死んだ。焼け落ちかけた制御回路のいくつかは、今も断続的に火花を散らしている。プーカは使えない経路を切り捨て、残っている補助線と封鎖機構の予備回路だけを迂回接続していた。実際のところ動かせるのは、封鎖用途の機構だけだ。


歩行もできない。主センサーも戻らない。FCS(火器管制装置)など、あってないようなものだった。


『一分は持たせます。追撃をお願いしますね』


言い終える前に、バリケードの向こうで銃声が鳴った。支援機の外装に弾痕が生じる。SWAMPが即座に突破すべく撃ってきた。バリケードを破るための成形炸薬を取り出す者がいる。真船は護衛に押され、壁際へ伏せた。


だが、支援機を操るプーカも黙っていない。背面バックパックが開き、バックアップ用のスタンニードルガンがせり出す。細い銃身がバリケードの隙間へ向く。狙いは甘い。通路いっぱいに広がったバリケード越しに、近づく足を拒む程度が限界だった。


発射音は軽い。針状の電撃弾が、バリケードの隙間を抜けて撃ちこまれる。

ペトルは壁のくぼみに身を隠しながら撃ち返す。バリケードはフルメタルジャケットのライフル弾を止めることはできないが、威力を殺し、逸らすことはできた。イルゼが、バリケード越しに撃ち返す。狭い点検通路で、銃声と電撃弾の乾いた音がぶつかり合った。ドアノッカーの様な、突入支援機のFCSであればより精度の高い射撃ができるが、外から強引に動かしている現状では、応射の精度も甘く相手の頭を押さえる以上は難しい。EMPによるダメージもあり、制圧には至らない。


だがこれは制圧ではない。時間稼ぎだ。介入班の到着まで引き付けらればよかった。


---


「橘班長、時間がありません。お願いします。」


アルテミシアの声は震えていなかった。


「プーカさんが一分を作りました。追撃してください」


『了解』


橘の返答は短い。


『一班、急ぐぞ。二班、俺たちのケツを守れ。もうすぐSAGも来る。鬼ごっこを終わらせれば勝ちだ』


防火シャッターを迂回してきたSWAMPの残存戦力とオフ・ザ・ブックス(簿外戦力)が集まりつつあり、追跡を妨害することが2班の仕事であった。ドアノッカーが向きを変える。橘達が走る。CICのモニター上で、緑の三角が赤い三角へと急速に近づいていく。

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