閃光の内側
二班を下した二号機はすぐに高度を取った。建物上空で緩い円を描き、高精度の偵察カメラを下へ向ける。熱源、ミリ波、音響、通信測位。複数のセンサーが、見えない壁の向こうを少しずつ映し出していく。得られた情報は、フォーアイズとプーカのドールからの映像と合わせて、CICへ送られていた。
送られた情報をもとに刻々とCICの作戦図が更新される。ナンバリングされた光点が建物の正面と屋上へ貼りついた。ナンバーはモニターの隊員情報とリンクしており、バイタルデータなどをリアルタイムでモニタリングしている。
赤い三角はまだ動かない。
アルテミシアはモニターの前で、固唾をのんでいた。祈りは終わっている。命令も出した。あとは、彼らが戻ってくるまで見届けるしかない。任せるというのは、実際にその場にいるのとはまた異なるストレスがかかる。
『一班、正面口に到達』
橘の声が入る。
『二班、屋上非常口に到達』
副班長の声が続いた。画面の中で、隊員たちが扉の両脇へ分かれる。突入用の爆薬が、金属扉の蝶番側と錠前側へ手早く貼りつけられていく。ドアノッカーは盾を展開し、最初に踏み込む位置へ膝を落とした。
項主任技官は、CICの端末に表示された防火シャッターの管理コンソールを見ていた。
「閉じますよぉ。完全じゃないですけどね」
「やってください」
ナディアが即答する。項は、指先を軽く動かした。建物内の作戦図で、通路のいくつかが灰色に塗り替わる。非常口へつながる道。二階通路から倉庫奥へ降りる階段。事務室横の短い連絡廊下。防火シャッターが落ち、赤い三角の移動経路を制限する。
「まぁ、回り道はできますけどねぇ」
項が言う。
「ただ、横やりは入りにくくなったとはずですぜ。死角も減ってます」
「十分です」
アルテミシアは小さく言った。実際、図面上は迂回すればどうということはない。それは平時で、なおかつ施設を日常的に利用していればの話だ。セーフハウスの構造は頭には入っているが、銃撃戦の中でとっさに最短ルートを取るのは難しいだろう。
『一班、チャージセット』
『二班、チャージセット』
橘は二号機のドアガンナーに指示する。
「準備完了、遅延信管を五秒に設定、撃ち込め!」
『了解。室内へ閃光弾を撃ち込む。五秒後に突入しろ』
上空の二号機で側面扉が開いた。安全索を固定した射手が、機体側面の安定架に据えた狙撃擲弾銃へ肩を預ける。CICから指定された窓、採光部、割れた通気口。素早く発動時間を調整された弾体が撃ち込まれていく。
発射音は、機体のリフトファンに飲まれて短く途切れた。
四十ミリ非破片型閃光音響弾が数発立て続けに撃ちこまれる。ガラスが割れ、円筒形の弾体が内部へ転がり込む。すぐには弾けない。
一秒。
二秒。
指定された区画へ投射された時限信管付きの閃光弾が、ほぼ同時に発光した。白い光が、建物の内側を塗り潰す。続いて爆音が走った。音は通路を曲がり、階段を叩き、金属棚を震わせた。
『ブリーチ!』
扉が同時に爆ぜた。正面口と屋上非常口。二つの入口で破片が内側へ飛び、煙と粉塵が通路を満たす。閃光の衝撃が収まらない内に、ドアノッカーが盾を前へ出して踏み込んだ。
『武器を捨てろ、両手は頭に、両膝を地面につけ』
支援機が合成音声による警告を形式的に行う。一班が素早く左右に分かれながら、遮蔽を取りつつ続く。二班もほとんど同時に屋上から突入する。
戦いはいよいよ情報戦から現場へと移った。
最初の接敵は正面通路だった。閃光弾の衝撃から早くも立て直した敵兵たちは、素早く制圧射撃により部隊の再起動の時間を稼ぐ。橘達もドアノッカーを盾に、稼いだ数秒で全員が遮蔽を取りつつ応射できる位置を確保した。
三発、四発と銃弾が当たる。装甲面で火花が散り、跳弾が床を削った。橘は盾の左後ろから遮蔽を取りつつ、銃口だけを先に出した。
「コンタクト! 右二、左に警備ロボ一」
「ECM展開」
電子戦担当が背負ったECMパックを起動する。出力は電子戦支援機に比べると劣るが可搬性に優れる。
通路奥で、警備機械の頭部センサーが震えた。一般警備用の筐体に、無理やりガンラックを背負わせた機体だった。銃口は人間の動きより遅く精度も出ないが、それを踏まえても十分に危険だった。
「鉄くずを優先してつぶせ!」
軽機関銃の銃声が響く。その重量のある機体は三脚としては優れており、反動を十全に抑え込んでいる。動きは遅いが厄介である。左翼に展開した隊員が射撃を加えると、即座に方向を転換し応射をする。
絶え間ない射撃に頭を上げられないが、腕だけで応射し、隙を見て銃座を狙い射撃をする。すでにプレートキャリアで止まったが、銃弾を受けている隊員も少しずつ現れだす。
「EMP準備よし!」
「全員で制圧射!狙いを絞らせるな!」
その瞬間、全員が一斉に射撃に参加する。アルテミシアの祈りの影響もあり、警備ロボの安価なFCSは優先度判定システムが処理落ちしかける。
右翼の隊員がEMPライフルを素早く構える。重量があるそれはチャージの隙があるため、正直に狙っている時間はとりにくい。この時間を稼ぐべく、左翼は頭を押さえられる危険を踏まえて射撃を加えた。
EMPライフルの短い発射音が重なる。警備機械の脚部が硬直し、片膝をついた。二発目で上半身が遅れ、三発目でセンサーが黒く焼け落ちる。
移動砲台ともいえる機械を黙らせたことで、形勢は一気に介入班に傾いた。EMPにより警備ロボが動かなくなったことを確認し、橘はハンドサインで集合を指示する。
「よし、進むぞ。曲がり角に注意しろ」
一班はさらに前へ出る。
防火シャッターを閉じたことで、敵の位置取りはある程度制限される。正面から来る銃口は多いが、角度は限られる。ドアノッカーが盾で受け、隊員がスタンニードル弾を撃ち、痺れた端から拘束していく。自爆装備を見せた者には実弾を使用せざるを得ない状況は1回あった。非殺傷を旨とするが、ここでの逡巡は許されない。二班も上階で接敵し、制圧を進めていた。
『二班、上階を確保。敵二、無力化。1名軽傷。これより階を降りる。誤射に注意』




