EpisodeWelcomeToGuild
夜が明けてあたりが明るくなったころ、青年たちは町へとたどり着いた。
夜の一悶着から疲労を顔にのぞかせる青年がぼやく。
「やっと着いた。重かったぁ...」
「そうね、足止め喰らった上にお土産までもらっちゃったからだいぶ遅くなっちゃったわね。」
すでに町は起きており、人々は忙しなく動き回っていた。
青年は幼いころ行商に連れて行ってもらった以来の町に不慣れさを覚えていた。
「とりあえず、まずはギルドに行こう。」
青年の提案にイリスは無言で頷く。
彼女もまた初めての町に面食らっていたのだ。
ギルドは町に入ってすぐにあった。
それもそのはず、こういった施設は討伐した魔物の持ち込みや武装した集団が出入りするため、町の中心部に置かれることはそうないのである。
二人は少し緊張しながらギルドの扉を押し開ける。
そこはまだ朝なのにも関わらず、冒険者でにぎわいを見せていた。
冒険者たちは入ってきた二人に一瞥をくれたが、すぐに別の事柄に興味を移していった。
青年は今日二度目の驚きを隠しながら受付へと進んでいく。
受付は可憐な女性が担当していた。
青年は顔が赤くなりそうなのを感じ、そのあと幼馴染のイリスがどんな目で見てくるかを考え平静を装う。
受付嬢は懐にすっと入ってくるような笑顔で訪ねてきた。
「おはようございます!本日の要件をお伺いします!」
「あ、あの冒険者登録をし、したくって。」
緊張から少し上ずった声が出て恥じる青年をよそに受付嬢はそんなことなかったかのように対応を続ける。
「かしこまりました!それでは読み書きのほうはできますか?」
「あ、はい、少しだけなら。」
「ではこちらの用紙にお名前と年齢をいただいてもよろしいでしょうか。お連れの方も読み書きのほうはいかがでしょうか。」
いきなり話を振られたイリスはこちらもこちらでおたおたと答える。
「え?あ、あたし?あ、はい!あたしも少しだけなら!」
「そうですか、でしたらこちらにお名前と年齢をご記入お願いします。」
二人とも書類を手渡すと受付嬢は記入欄を確認し、軽くうなずいて口を開く。
「書類の確認できました!それでは手続きの準備ができ次第及び致しますので、まずその狼さんを買い取り窓口に持っていってみてはいかがでしょうか?」
「あ、はいそうしてみます。」
すぐ横にあった買取窓口には台の上に立ちこちらを見下ろしている鋭い眼をした濃いひげ面のドワーフがいた。
「おう、買取か。」
その小さな体躯からとは思えない凄みのある視線に狼狽えながら青年は言葉を返す。
「は、はい、この狼をお願いします。」
青年が狼に括り付けていたロープをドワーフに手渡すと、ドワーフはそれを軽々と引き上げ、狼はカウンターの中に引きずり込まれていった。
「ほう、シンリンオオカミか。まぁ、片面は引きずられて多少ヨゴれちまってるが、もう片面は悪くないな、頭カチ割ったのが良かったなぁ、坊主。」
狼を片手で引くその腕力と戦闘スタイルまで見抜く観察眼。そして雰囲気よりも言葉数の多いドワーフに戸惑っている青年だったが、そんなことはお構いなしにドワーフは狼の品定めをしながら話を続ける。
「ま、そうさな、この類の毛皮はいくらでも使い道はあっからな、駆け出しの坊主におまけして、銀貨四枚と銅貨八枚で買い取ったる。」
「あ、ありがとうございます。」
カウンターから伸びてきた武骨な手からコインを受け取る。
青年はそれを革の財布に押し込み鞄の奥にしまい込んだ。
「ダリアさーん、イリスさーん!手続きの用意ができましたので受付窓口のほうへお越しくださーい!」
受付嬢のよく通る声がギルド内へ響いた。
「あ、はい!ほらイリス、行こう。」
「ええ、そ、そうね。」
受付に戻ると先ほどと同じにこやかな顔をした受付嬢が待っていた。
「お待たせしました。それでは手続きを進めますので、あちらの奥の部屋に行ってください。」
指をさした方向には簡素な扉があった。
「はい、わかりました。」
そして二人は部屋の扉を開き、奥へと進んでいく。
それを確認した受付嬢はある男へ声をかける。
「リックさーん!」
声をかけられた男はちょうど飯を食っていたようで、いきなりの指名に口に詰め込んでいた芋でむせていた。
「ぼふっ!おへっ、かへっ!な、なんですか、いきなり声かけて、どうしました。」
受付嬢はそんな滑稽なしぐさを見て少し微笑んだあと本題へと入った。
「ふふっ、依頼ですよ、リックさん。新人の方の試験官、お願いできますか?」
その男は少し思案したのちに軽く頷いて答えた。
「ふむ、さっきの子たちですね、承りました。それじゃ、裏行って用意しておきますね。」
そのころ扉の奥の二人の前には細身の壮年の紳士が立っていた。
「お待たせいたしました。それではまず、お二人に冒険者たる資格があるかどうか拝見させていただきます。」
青年たちの顔つきが少し締まる。
それを見た紳士は少し顔を緩めて口を開いた。
「なるほど、その様子、資格についてご存じでしたか。であらば話は早いです。あなたの持つ冒険者たる称号を見せていただきたい。」
そう言うと、紳士はまず青年の頭の前に手のひらを向ける。
警戒態勢を取られてもおかしくない行為にも見えるが青年は至って平静だった。
「それでは、許可を頂きます。おっと、安心してください。ギルドが開発した特殊な鑑定ですので、不必要な称号は閲覧いたしません。」
「へぇ、そうなんですね。あ、許可ですね、はい、どうぞ。」
青年の許可と同時に男の手にぽう、と淡い光が灯る。
「ふむ、ありがとうございます。確かに初級剣術の称号、確認致しました。それでは、もう一方も許可をいただいても?」
彼女も青年同様に許可をする。
「はい。ありがとうございます。こちらも確かに初級魔法使いの称号を確認致しました。」
紳士は手を下ろし話を続ける。
「それでは、最終試験として実技試験を行います。裏手に用意がありますのでお進みください。」
二人はそのまま裏手へと進んでいく。
そして裏手に出ると素材の解体場と兼用の運動場があった。
そこには一人の男が待っていた。
「お、来た来た。こっちおいでー!」
男はラフな服装をしていたが、その上からでも鍛えられた肉体を感じさせた。
「それじゃ、二人とも試験始めよっか。」
「は、はいっ、よろしくお願いします!」
「お願いしますっ!」
二人の緊張を見抜いた男が笑う。
「あっはは!そんなに緊張しなくていいよ。軽い試験なんだからね。あ、そうだ、緊張ほぐしついでに自己紹介とこの試験の説明でもしようか。僕はリック。銅級冒険者だよ。それでなんでこういう試験をやるようになったかなんだけど、昔は試験どころか称号の確認すらなしに誰でも手を上げたら冒険者になれちゃったんだよね。そしたら案の定初心者の子たちの生存率が低くて低くて、これじゃ後進が育たないってことで最低限の力を示さないとなれないようにしたんだよね。よし説明終わり!それじゃそっちのターンね。」
「僕の名前は、ダリアです!山を越えたところの村の出身です。」
「あ、あたしはイリスです。あたしもダリアと同じ村から、です。」
「よし、自己紹介もしたしこれで俺たちもう知り合いだな!サクッと内容の説明しちゃうね。まずイリスちゃん。君にはね使える手札を見してもらおうかな。」
「手札ですか?」
「そう、何ができるかってこと。使える魔法を撃ってもらえばそれで十分。」
男は青年にも続ける。
「前衛のダリア君には俺と模擬戦してもらうよ。前衛は直接やりあうからすこーしキビしめに、ね。あ、大丈夫。マジじゃないからね、俺は体には打ち込まないし、君は俺に一発でも攻撃入れられたらゴーカクってわけ。」
男は彼女に向き直り話を続ける。
「じゃ、まずはイリスちゃんの方パパっとやっちゃおう。」
「はいっ!」
そして男が指で示した先には的があった。
「それじゃアレ撃ってみちゃって!」
彼女は短杖を前へ突き出し呪文を唱える。
「炎よ、矢となりて我が敵を貫け!」
火の矢が飛んでそれを認識した時には、もう的ははじけ飛んでいた。
「うん、文句なしだね!イリスちゃん合格!」
サムズアップをした男が合格を告げる。
そのあと、男は青年に向き直り木剣を向けた。
「さぁ、俺らもやろうぜ!ルール確認はオッケー?」
青年も力を込めて木剣を握る。
「はい大丈夫です!いきますっ!」
「よし!来いっ!」
彼女の後に続こうと意気込んだ青年が地を蹴ってまっすぐ突っ込んで剣を振るう。
「速攻かけるんだ、悪くない判断だ、ねっ!」
しかし男はその攻撃を軽々と避ける。
「ふんっ、はっ、せやぁ!!」
青年は連続して斬りかかり、突き、薙ぎ払いを繰り出す。
しかしその攻撃の全てを男はまるで遊ぶかのように剣一本分すれすれで避け続ける。
「それじゃ当たらないなぁ、ほらほら、もっと打ち込んでおいで!あ、ちなみに制限時間とかはないからね、君がギブアップするまで試験は続けられるよ。」
会話をするまでの余裕がある男と打って変わって、青年には少し焦りが浮かんでいた。
先夜に狼を倒したことで青年にはちょっとした自信が生まれていたが、その自信はすさまじい速度で崩れていた。自信の喪失とともに青年の動きのキレも落ちていく。
直線的だったあの狼などとはわけが違うその流動的な動きに青年は翻弄され、みるみるうちに青年の顔に疲労が見え始める。
「はぁ、はぁ、なんで当たらないっ!」
焦りと疲労から木剣の重みが増したように感じ、構えが甘くなる。
青年はこの試験の前に相手の称号は見ないと決めていた。見ずに合格してこそだと考えたからだ。しかし構えとともにその覚悟が揺らぎそうになる。
「どうした?攻撃が止んだね、もうギブアップかい?」
男の見え見えの挑発。青年にもそれは分かった。しかし、乗らないという選択もまた今の青年の中にはなかった。
「この野郎ォ!」
感情のまま大振りだが自信の上段斬りを繰り出す。
「へぇ、今日一のパワーじゃん。でも、そういうのはこうすんの、さっ!」
剣を剣で打ち返される。
より強い力で剣を打たれ、青年の手を凄まじい痺れが襲う。
「くっ、つぁあ!おぉ!!」
剣から今すぐ手を放したい気持ちを気力のみで押さえつける。
しかしその痺れと抑えるための気力が青年の頭を少し冷めさせた。
「ふぅ、ありがとう、ございます。おかげさまで、すこし頭冷やせました。」
「そう、でも頭冷やしただけじゃゴブリンだって殺せないぜ。」
青年の帰ってきた冷静な部分がその挑発を無視させる。
「えぇ、でも冷静になれないようなやつもゴブリンは殺せないですから。」
「なんだいそれ、さっきまでの自分の自己紹介か?」
安っぽい挑発を右から左へ流し青年は再び上段斬りを敢行する。
「おいおい、自棄になったか?もう打ち返してあげる気も起きないぜ?」
振り下ろした木剣を流すような形で受けられる。
「そこだぁっ!!」
青年は上段斬りからさらにもう一歩踏み込み、がら空きの脇腹に左拳を差し込んだ。
服の硬さではない硬度を感じつつも、確実に当たった感触を手にした。
「あっ!」
男は抜けた声を上げ、剣を降ろす。
「はぁ、これだって一発、ですよね...!」
「確かに、一発は一発だね。いやぁ、つい熱くなりすぎちゃったな。ダリア君。合格だよ。おめでとう。」
男はふっと息を吐きだし二人に向き直り告げた。
「それじゃ、ただ今を持って二人のことをギルドの新たなる仲間として迎え入れる。これからもよろしくな!」
二人は顔を見合わせ男に叫んだ。
「「はいっ!!よろしくお願いします!!!」」




