EpisodeFirstBattle
旅を始めた二人は最寄りの町を目指し山の中を進んでいた。揺れる木漏れ日が二人にもう日が暮れ始めていることを知らせる。
「よし。この山を越えたら一番近くのギルドのある町だな。」
「そうね、誰かが地図反対に読むからここまで来るのにだいぶ暗くなってきちゃったわね。」
「なっ、この、その話はもう終わっただろ!」
「ふふ、あと数日はこの話してやるんだから。あたしのこと置いてこうとした罰よ。」
二人になり緊張と緩和のバランスが取れ、順調に談笑をするまでになっていた二人の旅は、突如聞こえてきた遠吠えによって中断を余儀なくされた。
「おい、聞いたか?狼だ。」
「ええ。」
「多分奴らは俺らの位置に気づいてるはず。背中合わせで備えよう。」
その予測は無情にも当たり、三匹の狼が木々の間からぬるりと姿を見せた。
牙をむき出しにしており、彼らの通り道に偶然出くわしたわけではなさそうな様子だった。
「来た...!」
青年は腰の鉄剣を鞘から抜きはらい上段に構える。
それに呼応するように彼女は短杖を懐から取り出し敵に向ける。しかしその手は少しの震えを見せていた。
青年はそれを視界の端でとらえる。
「そりゃ...そうだよな。でも、大丈夫。二人ならきっと大丈夫。」
言葉ではそう言いながらも青年は必死にこの場面の打開策を考えていた。
最良の答えは出ないがまず動くしかない。先手を取られ後手に回る方が不利だと考えた。
青年が命令を下す。
「まず俺が”見る”!もし見てるうちに仕掛けてきたら牽制できるか!?いや、してくれ!」
ここで提案ではなく命令を下したことで、靄がかかっていた彼女の思考は少しではあったが確かにクリアになった。
「了解!」
彼女は杖を突きだし己の魔力を練り始めた。
魔力のにおいがわかるのか、それとも野生の本能からか狼たちに”見る”だけの隙はできた。
青年は目を見開き狼共を見据えた。
【{種族名:シンリンオオカミ}{個体名:無し}{所持称号:狩人・捕食者}】
【{種族名:シンリンオオカミ}{個体名:無し}{所持称号:統率者・狩人・捕食者}】
【{種族名:シンリンオオカミ}{個体名:無し}{所持称号:狩人・捕食者}】
今この場で青年と狼だけが群れのリーダーを認識した。
「イリス!左右の狼に攻撃してくれ!」
脳内で計画は建った。あとはプラン通りに動くだけだった。
まず青年はリーダー格の狼に向けて走り出した。
そして青年の先の命令に応じて彼女が動いた。
「行くわよ!炎よ、矢となりて我が敵を焼き貫け!」
炎の矢が飛翔し一匹の狼を焼いた。狼は今まで感じたことのない熱に大きく仰け反ったのちに暴れまわって一目散に逃げ出した。
もう一匹は直撃せずとも生まれて初めての熱い光とそれを出した相手を前に動けずにいた。
しかし、リーダーに向かう青年を狼に直撃し暴れた際に舞った火の粉が襲った。その想定外が青年の動きを鈍らせた。
「あつっ!ぐっ、うわぁ!!」
その隙をリーダー狼は見逃さない。初めての火の恐怖をも上回る野生が青年を飲み込まんとしていた。
狼に押し倒される。故郷の村にいた犬を思い出すような顔だが、その膂力は比べ物にもならなかった。
「ぐおぉ!、いっっ。」
咄嗟に剣を噛ませ頸への直撃は避けたが、腕に食い込む爪がこの状態がいつまでも続くものではないことをいやというほど思い知らせてくれた。
計画はあくまで計画。計画通りに物事が進むことのほうが少ない。しかし青年はそのあとのプランなんてものは用意してなかった。
脳内で言葉がごちゃごちゃしている。
痛い!この後は?後なんてあるのか?故郷のこと。母の顔。そして、予想外のことに顔を青くさせている幼馴染のこと。
青年は考える前に彼女に叫んだ。
「逃げろ!!お前だけでも!!!」
彼女は杖だけは降ろさずにふるふると首を横に振った。
「いや...いやよ...」
青年にはなぜ逃げないのかわからなかった。だが彼女の目には絶望と恐怖、そしてまだ確かに消えていない闘志が見えた。
「いやよ!あなたを置いてはいけない!!」
彼女が叫ぶ。
だが彼女は何もできずにいた。
魔法を放てば青年も焼いてしまう。
それ以外に使える魔法もない。
思考を回す。どうすればいいのか、彼から目を離せない。
しかしもう一匹の狼もいつ動くかわからない。
なら、まずもう一匹の対処をする。その結論に落ち着いた。
魔法を放つため呼吸を落ち着かせようにも思うように息が吸えない。
「ほ、炎よ、矢となりて、わが、てきを貫いてっ!」
乱れた呼吸が照準を乱す。
火の矢が外れ木にぶつかる。
幹が爆ぜた。
ぶつかり貫かれた木の内側の水分が一気に蒸発し、大きな破裂音を生み出した。
原理は知らず、単なる偶然だとしても、場面が変わるきっかけには十分すぎるほどだった。
「きゃあ!」
「うわっ!!」
二人と二匹は爆音に気を取られた。
二匹目の狼も爆発音に驚いたのちに、火と爆音を出す存在に恐れをなし、きゃんと鳴き逃げ出した。
これにて数の有利は消えた。
「うぅらぁっ!」
そして青年は音に驚き一瞬力の緩んだ狼を力いっぱい跳ね除けた。
青年は剣を構えなおし狼とにらみ合う。
ここまで歩いて、戦った彼の体力、精神力的にもこれが最後の攻防になることを予感させた。
狼が牙をむき出し走ってくる。
青年は今まで何千回何万回と案山子に打ち込んだ上段斬りを繰り出す。
この技は数少ない青年の自慢の技だった。
「てりゃあぁぁぁっ!!」
剣が狼の頭へずるりと滑り込む。皮を断ち、頭蓋を砕く感触が手に伝わる。
そして狼が地面に崩れ落ちる。
そのあと二人も安堵で膝から崩れ落ちる。
「はぁ、はぁ、勝った、んだよな?」
「えぇ、そう、そうみたいね。」
いまだ消えぬ恐怖の中で、二人は確かな達成感を感じられていた。
青年は手に握られた剣を見て、父への感謝を感じる。
彼女は青年の横顔を見て、改めて安心感を覚える。
震えた声で彼女が言う。
「ね。や、やっぱりあたしがいてよかったでしょ。」
「あぁ、その通りだな、ありがとう。」
「なんか素直だとそれはそれで調子狂うわね。」
「ふふ」
「あはは」
「「あはははははは!!!」」
ひとしきり笑った二人は顔を見合わせる。
そこで青年は純粋な疑問を抱く。
「ふぅ、なぁ、これって売れたりするのかな?」
「さあ?でもとりあえず持って行ってみましょうよ。」
「たしかにそれもそうだな。紐あったかな。」
鞄からロープを取り出し、村の狩人の見よう見まねで狼に結び付ける。
二人はまた立ち上がり歩く。
二人と一匹の亡骸を引いて。
もう夜が来ている。
山を越えれば町は近い。




