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あの日、スタバで消えた君を、俺は今もベンティサイズの孤独の中で待っている  作者: ルツ


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星ヶ丘の嘘と、三年前のキャラメルソース(乱闘・怪死編)

星ヶ丘テラスの優雅なウッドデッキを、どす黒い殺気が侵食していく。 

キョウコさんから受け取ったカードをポケットにねじ込んだ瞬間、背後のブティックのガラス越しに、二人の「清掃員」の姿が見えた。 

作業服に身を包んでいるが、その目はゴミではなく、俺の頸動脈を正確に捉えている。

「凛、後ろだ!」 叫ぶと同時に、俺は横のテラス席から「キャラメル・マキアート」をひったくり、突っ込んできた一人目の顔面に中身をぶちまけた。

「ぐあぁっ!」 熱い飛沫に怯んだ隙に、凛の鋭い前蹴りが男の鳩尾を撃ち抜く。

「もう! 期間限定のやつだったら承知しないからね、おじさん!」 冗談を叩きながらも、凛の動きに迷いはない。制服のスカートを翻し、二人目の「清掃員」が隠し持っていたナイフを、電光石火の裏拳で叩き落とした。 だが、プロは甘くない。さらに三人のスーツ姿の男たちが、買い物客の群れを割って現れる。

「逃げるぞ、凛! 坂の下へ!」 俺たちは星ヶ丘の急な坂道を駆け下りた。 

背後から迫る足音。絶体絶命かと思われたその時、坂の途中のコーヒーショップから、数人の若者たちがスケートボードを手に飛び出してきた。

「おいおい、そこで何やってんだ! 営業妨害だぞ!」 若者たちがわざとらしく男たちの間に割り込み、乱闘の導線を遮る。

さらに、一台のタクシーが「急停車」を装って道路を塞いだ。

「あ、悪いね、左神さん! ちょっとブレーキが滑っちゃって」  

街が動いている。俺がこれまで撒いてきた「人情」という名の種が、この眩しい坂道で芽吹いている――俺はそう信じて、凛の手を引いて東山通の雑踏へと逃げ込んだ。

 ――その、翌々日のことだ。 名古屋市北区、矢田川の河川敷。 早朝の散歩客が、奇妙な「オブジェ」を見つけて悲鳴を上げた。 

それは、星ヶ丘で俺たちを襲ったはずの「清掃員」の男たちだった。 

二人の死体は、まるで仲良くコーヒータイムを楽しんでいるかのように、川原のベンチに座らされていた。

 異常だったのは、その死因だ。 

外傷は一切ない。だが、二人の口元からは、粘り気のある「キャラメルソース」が、まるで吐瀉物のように溢れ出し、胸元を汚していた。 

その甘ったるい死臭が、初夏の川風に乗って周囲に漂っている。 

男たちの手には、紙製のスタバのカップが握られていた。 

カップの表面には、震えるような、だがどこか楽しげな筆跡でこう記されていた。『カフェミスト、キャラメルソース追加。……多すぎたかしら?』 

ニュース映像でその文字を見た瞬間、俺の背筋に氷を押し当てられたような寒気が走った。 

入ってもいないソースを「抜け」と頼んだ彼女。

 そして、今度は致死量のソースを無理やり飲まされて死んだ男たち。 

俺は、震える手でタバコに火をつけた。 

これが玲那を追い詰めている「組織」への復讐だとしたら、あまりに独創的で、あまりに、救いようがない。 俺の隣でニュースを見ていた凛が、ふと呟いた。

「おじさん……。この犯人、キャラメルが嫌いなんじゃなくて、『甘い夢を見せること』そのものを憎んでる気がする」 俺は答えられなかった。

 星ヶ丘で感じた「街の協力」さえ、この凄惨な殺人を隠すためのカーテンだったのではないか。  

俺はベンティサイズのブラックコーヒーを、喉が焼けるような熱さで飲み干した。 

次に狙われるのが誰か、考えるまでもなかった。

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