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あの日、スタバで消えた君を、俺は今もベンティサイズの孤独の中で待っている  作者: ルツ


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6/10

星ヶ丘の嘘と、三年前のキャラメルソース

朝の星ヶ丘テラスは、俺のような前時代の遺物には眩しすぎる。

 地下鉄の階段を上がると、そこには磨き上げられた石畳と、手入れされた街路樹、そして高級外車を乗り回す「星ヶ丘マダム」たちの優雅な日常が広がっていた。

 昨夜、納屋橋で浴びた雨と泥の匂いが、自分のコートから微かに漂っている気がして、俺は思わず襟を立てた。

「おじさん、浮いてるよ。指名手配犯か、公園に住み着いた哲学者にしか見えない」

 隣で凛が、制服のシワを伸ばしながら呆れたように言った。彼女はこの眩しい街に、驚くほど自然に溶け込んでいる。

「放っておけ。俺にはスタバの看板が、この世の果ての灯台に見えるんだ」

 俺たちは坂を登り、目的の店舗へと足を踏み入れた。

 洗練された内装、ガラス張りの向こうに見える東山通。都会的な静寂が満ちる店内に、俺の汚れた革靴が場違いな音を立てる。

 だが、カウンターの向こう側から飛んできたのは、マニュアル通りの挨拶ではなかった。

「……あら。左神さん、生きてたのね」

 ブラックエプロンを締めたベテランの女性店員――キョウコさんが、驚きと呆れが混ざったような顔で俺を見た。

「不気味な噂だけは名駅の方から流れてきてたけど。また死にぞこなったような顔して。……いつもの、熱いのでいい?」

「ああ。頼むよ、キョウコさん。あんたの淹れる苦いのがないと、今日一日が始まらない」

 キョウコさんは鼻で笑い、無言でドリップコーヒーを注ぎ始めた。

 彼女は三年前に名駅の店舗にいた時、悪質なクレーマーに絡まれていたところを俺が(ほんの少し強引な方法で)助けた仲だ。以来、俺がどの店舗に現れても、彼女は「最高の不機嫌」と共に、最高の状態でコーヒーを出してくれる。

「キョウコさん。……玲奈のこと、覚えてるか」

 俺が低い声で切り出すと、コーヒーを注ぐ彼女の手が一瞬だけ止まった。

 彼女は周囲に客がいないことを確認し、カップの横に「あるもの」を滑らせるように置いた。

「左神さん。あなたがここに来るのを、三年前からずっと待ってた『忘れ物』があるのよ」

 差し出されたのは、色褪せたスタバのショップカード。

 その裏側には、彼女――玲奈の筆跡で、震えるような文字が刻まれていた。

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