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あの日、スタバで消えた君を、俺は今もベンティサイズの孤独の中で待っている  作者: ルツ


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金山(カナヤマ)のターミナル・トラップ2

金山総合駅の南口ロータリーは、叩きつけるような激しい雨のせいで、いつも以上の混雑と混沌を見せていた。JR、名鉄、地下鉄の三つの路線が集中するこの巨大なターミナルは、一日に数十万人もの人間を吐き出し、そして吸い込んでいく。

傘の波が駅の構内へとせわしなく流れる中、俺は灰色の軽自動車のシートに深く身を沈め、金山駅南口店のスターバックスのテラス席をじっと凝視していた。 

ガラス張りの明るい店舗。

平和にフラペチーノを啜る学生たちのすぐ近くの特等席に、あの男が座っていた。

千影だ。彼は大須から俺たちの車をピタリと追走し、金山に着くなり、獲物を待つ蜘蛛のようにテラス席の片隅に陣取っていた。

黒い防水コートは雨を弾いて濡れ光り、卓上には手付かずのアイスコーヒー。

その切れ長の目は、妹の命を握る玲那が姿を現す瞬間を、血走った執念で捉えようとしていた。

「サツの動きが早すぎるな……」 

俺はダッシュボードの下、警察無線の周波数を拾う傍受機から漏れるノイズに耳を澄ませていた。

名駅、星ヶ丘、藤が丘、長久手、そして大須。

これだけ派手に組織の人間が「スタバのコード」で処刑され、ビルまで吹き飛べば、愛知県警もメンツをかけて総力を挙げてくる。

すでに金山の構内には、機動捜査隊の私服警官が十数名、一般客のフリをして配置されているのが見えた。 十五時ちょうどに、玲那を駅のホームへと滑り込ませ、名鉄常滑線の特急『ミュースカイ』に乗せなければならない。

そこから中部国際空港セントレア、そして偽造パスポートを使った海外への高飛び。

それが彼女の描いた完璧な脱出ルートだ。だが、警察と、完全に正気を失いかけている千影の二重の包囲網を前に、指名手配犯の俺が彼女を連れて改札を突破することなど、自殺行為に等しかった。 

俺は深くため息を吐き、古いポケットベル型の端末を取り出した。

現代のデジタル捜査網が決して引っかけることのできない、完全なアナログ通信。

俺がかつて、金山駅周辺で起きた「鉄道職員を巻き込んだ大規模な裏金詐欺事件」を、警察沙汰にせず闇から闇へと葬ってやった際、命を救われた当時の若手駅員――今や名鉄金山駅の『助役』にまで昇進した、古い馴染みのマサに暗号を送る。 

 『特急、南口の特別搬入口。ワンモアの準備を頼む』 数分後、端末の液晶に『了解。臨時保線ダイヤの隙間、三分だけ開ける』と、短い返信が届いた。 

大人の階段を上がっても、この街の「お節介」の絆は死んでいなかった。

マサは職権を賭して、通常は一般客が立ち入れない、駅事務室の裏手から直接名鉄線のホームへと繋がる非常用搬入路の鍵を開けてくれるという。

これで警察の検問はパスできる。

「おじさん、準備はいい? あの女の子、スマホの画面を見ながら、さっきからずっと笑ってるよ」 

後部座席の凛が、不信感を隠そうともせずに助手席の玲那を睨みつけた。 

玲那は大きすぎるナイロンジャケットに身を包み、膝の上でスマホのアプリを何度もタップしていた。

その指先が画面をなぞるたび、金山駅南口店へのモバイルオーダーのカウンターに、一秒、また一秒と、運命の時間へのチェックインが刻まれていく。

「おじさん、見て。金山のスタバは、駅のロータリーがよく見えて特等席だね」 

玲那が、まるで無邪気な子供のように窓の外を指差した。

「千影さん、あんなに怒った顔をしてコーヒーを睨みつけてる。本当は、お妹さんのことなんかどうでもよくて、ただ私を殺したいだけなのかしら。……ねえ、おじさん。あのお兄さんが明日の三時、どんな顔をして『最後のメニュー』を受け取るか、今からすごく楽しみじゃない?」

 彼女の真っ赤な唇から、ぞっとするような愉悦の言葉が溢れ出る。

彼女にとって、千影の妹の命も、俺たちの必死の抗いも、すべては自分の退屈な復讐劇を彩るための、ただの甘いトッピングに過ぎないのだ。

 十四時四十五分。タイムリミットまで、あと十五分。 俺は野球帽を深く被り、軽自動車のドアを開けた。

「凛、お前はここで車を見張ってろ。……もし三分経っても俺たちが戻らなかったら、ハゲの豊のところへ走れ」「嫌だよ、おじさん。わたしも行く。

おじさんがその悪魔に騙されて地獄に落ちるなら、途中で回し蹴りを入れてでも引きずり戻してあげるから」 凛は破れた制服の袖から覗く拳を固め、不敵な笑みを浮かべてシートから飛び出してきた。

おじさんの無謀な約束に呆れながらも、彼女は俺の「警護人」としての役目を、決して諦めてはいなかった。 激しい雨が激しくアスファルトを叩く中、俺たちは玲那の手を挟むようにして掴み、金山駅の南口広場へと足を踏み出した。 

テラス席の千影が、こちらの手の動きを察知し、ゆっくりと立ち上がるのが見えた。

その全身から噴き出す、剃刀のような殺気が、雨のターミナル駅を完全に支配しようとしていた。

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