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あの日、スタバで消えた君を、俺は今もベンティサイズの孤独の中で待っている  作者: ルツ


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空手女子高生の帰還と、猟犬の猛撃

万松寺のスタバの自動ドアを背にした瞬間、俺の視界は、大須商店街の極彩色から一転して「死の濃霧」へと引きずり込まれた。

 偽造パスポートが仕込まれたホワイトモカの温かいカップをマウンテンパーカーのポケットにねじ込み、俺は赤門通りの古着屋の陰、一般客の目が届かない狭い路地裏へと逃げ込んだ。

だが、背後からは確実に、あの二人のプロの掃除屋(殺し屋)たちの、磨き上げられた革靴の足音が迫っていた。

「左神豊。大人しく神楽坂の血の代償を払ってもらおうか」 

男の一人が低く笑い、衣服の袖口からスライド式に、黒く輝くタクティカルナイフを抜き放った。 

元警護員とはいえ、今の俺の身体は錆びつき、長久手の傷も癒えていない。音もなく繰り出された鋭い突きに対し、俺はトレンチコートを脱ぎ捨てた身体で必死に身をよじるのが精一杯だった。 

ザッ、とナイフの刃がナイロンのマウンテンパーカーを切り裂き、脇腹に熱い痛みが走る。

鮮血がじわりと滲み、俺はコンクリートの壁に背中を打ち付けた。 

万事休す。そう覚悟して目を瞑りかけた、まさにその刹那だった。 

――ヒュウゥゥゥッ! という、大気を真っ二つに切り裂くような凄まじい風切り音が、薄暗い路地裏に轟いた。「――おじさん、下がってぇぇぇっ!!」 

その鋭い叫び声と同時に、頭上の非常階段の踊り場から、鮮烈な「赤」の影が弾丸のように舞い降りてきた。 赤いレインコートを羽織ったその人影――左神 凛は、着地の勢いをそのままフルコンタクト空手の破壊力へと変換し、一人目の掃除屋の顔面に、目にも留まらぬ速さの上段後ろ回し蹴りを叩き込んだ。 

鈍い骨砕の音が響き、体重80キロはあろうかという大男の身体が、まるでトラックに跳ねられたように横のゴミ箱へと激突し、一撃で失神する。

「……り、凛!? お前、組織に囚われていたはずじゃ……」

「あんなボロい地下室のロープ、正拳突きの引き手の力で引きちぎってやったよ! それよりおじさん、またかっこつけてボロボロになってる!」 

凛は破れた制服の袖から覗く拳を固め、不敵に笑った。監禁の恐怖に怯えるどころか、おじさんのピンチに間に合わせた興奮で、その瞳は爛々と輝いている。 

だが、もう一人の掃除屋が、仲間を瞬殺されたことに激昂し、ナイフを凛の喉元へ向けて突き出した。

空手の達人とはいえ、刃物を持ったプロの暗殺者を相手に素手では分が悪い。

「小娘が、調子に乗るなッ!」

 掃除屋が踏み込もうとしたその瞬間、路地裏の入り口から、今度は黒い防水コートの裾を翻した男が突入してきた。千影だ。「どけ、神楽坂の犬ども。左神豊、その小娘(玲那)の情報を吐くまでは、お前を組織の雑魚どもに殺させん!」 

千影は、雨の納屋橋のときと同じ、剃刀のような速度で特殊警棒を振り抜いた。

キィン、と高い金属音が響き、掃除屋の持つナイフが鮮やかに宙へと弾き飛ばされる。

千影はそのまま流れるような格闘技術で、男の肘の関節を逆方向に叩き折り、壁へと叩きつけた。 

一瞬にして、二人のプロの掃除屋が戦闘不能に陥る。 薄暗い大須の路地裏。強くない俺の後ろに、【フルコンタクト空手の達人・凛】と、【組織の最強の猟犬・千影】という、この物語の武力を司る二人が完璧なバディとして並び立っていた。

「……手際が良いな、お嬢ちゃん」 

千影が警棒を収め、凛を鋭い眼光で見つめた。

「あんたこそ、納屋橋のへっぽこお兄さん。……おじさん、偽造パスポートは手に入った?」

「ああ。だが、のんびり話してる時間はないみたいだぜ」 

俺が指差した先、路地裏の入り口には、掃除屋が最後に無線で放った「指名手配犯の左神だ!」という叫びを聞きつけた、私服警官たちの影が次々と集まりつつあった。 

大須の混沌の街の中で、俺たちの「本当の逃亡劇」の第2ステージが、いよいよ最高潮の熱量を帯びて動き出そうとしていた。

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