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あの日、スタバで消えた君を、俺は今もベンティサイズの孤独の中で待っている  作者: ルツ


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包囲網の突破と大須のジャンク屋

大須万松寺通りの喧騒が、刻一刻と近づく正午のタイムリミットを告げていた。 マウンテンパーカーのフードを深く被り、周囲の私服警官や神楽坂グループの残党から顔を隠しながら、俺はスマートフォンの画面と腕時計を交互に睨みつけていた。 ターゲットのスターバックスコーヒー大須万松寺店は、アーケードの真ん中、人通りが最も激しいエリアに位置している。通常ならこれほど開かれた場所は安全なはずだが、今の俺たちにとっては、四方八方から狙撃される可能性のある、剥き出しの絞首台に等しかった。「左神さん、そっちの裏路地から機捜のマル被(容疑者)捜索班が二名、私服で万松寺の境内に向かった。まともに正面から近づいたら一発でパクられるぞ」 耳の奥のワイヤレスイヤホンから、ノイズ混じりの低い声が届く。大須の赤門通りで長年ジャンク電子部品の露店を営んでいる、馴染みの『シンさん』だ。 俺はかつて、シンさんが海外から仕入れた特殊な半導体チップを巡り、悪質なブローカーにハメられて店ごと潰されかけた際、夜の街のコネを使って裏で綺麗に揉み消してやったことがある。大須の裏通りを牛耳るジャンク屋のネットワークは、警察の最新鋭の無線よりも早く、街の「異物」を嗅ぎ分けていた。「助かる、シンさん。だが、十二時ちょうどに店内に滑り込まなきゃならない。あの子の『オーダー』を回収するために」「分かってるよ。旦那が人殺しなんかするわけねえってのは、大須の古い連中ならみんな知ってる。……おい、野郎ども、探偵さんのために、大須の『音』をジャックするぞ!」 十一時五十五分。 俺が万松寺店のガラス扉まであと五十メートルの位置に達した、その瞬間だった。 バリバリバリッ! という、鼓膜を激しく引き裂くような高周波のノイズが、大須のアーケード全体に響き渡った。 赤門通りから万松寺周辺に並ぶ複数のジャンクショップが、店先に並べられた骨董品の大型真空管アンプや、大出力の拡声器のスイッチを一斉にオンにしたのだ。スピーカーから流されたのは、意図的に歪まされた「偽の警察無線」の音声と、不快なハウリング音だった。『各局、マル被らしき男が大須観音の本堂裏で格闘中、応援を要請する、繰り返す――』「何だ、何が起きた!?」 路地裏に潜伏していた私服警官たちが、耳のインカムから流れる本物の無線と、街中に響き渡る偽の無線の区別がつかず、一斉に狼狽し始めた。 さらに、スタバの入り口の手前にあるケバブ屋の外国人店員たちが、大声で怒鳴り合いながら、わざとらしく生肉の塊を放り投げて大喧嘩を始めた。

「テメェ、何すんだコラ!」

「警察呼べ! 警察!」 

一瞬にして好奇心旺盛な若者たちの人集りができあがり、完全に万松寺店の正面入口への射線が肉の壁で塞がれる。

警察の統率された包囲網は、大須の雑多な住人たちの「お節介」という名の悪意によって、完璧に視界を奪われていた。

「ありがとよ、みんな……」 

俺はその混乱の隙を突き、フードの影で目を光らせながら、人混みをすり抜けてスタバの店内へと滑り込んだ。 自動ドアが開いた瞬間、外の喧騒が嘘のように消え、香ばしいエスプレッソの香りが鼻腔をくすぐる。

 時計の針は、ちょうど十二時。 

カウンターの向こうで、若い女性バリスタが、玲那が事前にアプリで通していた『死のレシピ』のカップを掲げた。

「ホワイトモカでお待ちの――『トケイヤ』様」

 偽造ブローカーのコードネームが、店内にクリアに響き渡った。

俺は歩調を早め、その温かい紙コップを受け取る。

 スリーブの隙間に指を滑り込ませると、そこには確かに、厚みのある硬いプラスチックの感触――彼女を海外へ高飛びさせるための、本物の偽造パスポートが仕込まれていた。 

だが、ブツを手に入れた安堵の瞬間、俺の背筋に、氷の刃を突き立てられたような本能的な戦慄が走った。 

ガラス窓の向こう、ケバブ屋の混乱を無視して、こちらをじっと見つめる二人の男。 

私服警官ではない。その冷徹な濁った瞳、衣服の下の不自然な肉体の厚み。 

神楽坂グループが、左神豊を「幹部連続暗殺の主犯」と確信して送り込んできた、本物のプロの殺し屋(掃除屋)たちだった。

男たちは人混みに紛れながら、懐から音もなく、黒く輝くナイフの刃を抜き放っていた。

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