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あの日、スタバで消えた君を、俺は今もベンティサイズの孤独の中で待っている  作者: ルツ


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制服のカウンターと、怪物の点火

船舶用の高濃度発煙筒が吐き出す濃密な白煙は、瞬く間に地下室のすべてを飲み込んだ。 

換気扇の止まった密閉空間は、一寸先も見えない純白の迷宮と化す。

激しく咳き込む男たちの声と、タイマーが刻む電子音だけが、不気味に室内に反響していた。

「しまっ……どこだ! 左神、どこにいやがる!」 

手首を砕かれた幹部が、視界を奪われて半狂乱の声を上げる。 

だが、その煙のノイズの真ん中で、静かに、しかし確実に牙を研いでいた影があった。

「――おじさん、遅い」 凛の声だった。 

彼女は、おじさんが投げ込んだのが本物のコーヒーではないと察した瞬間、フルコンタクト空手の修行で叩き込まれた「気配を察知する目」を開いていた。 

擦れる衣類の音、荒い呼吸。それらを脳内の三次元地図にマッピングし、椅子のガタつきを利用して、すでに拘束のロープを限界まで緩めていたのだ。 

自力で縄を解き、床を強く蹴る。 

凛は煙に巻かれて狼狽する幹部の懐へと、音もなく滑り込んだ。

「正拳――山突き!」 

鋭い気合と共に放たれた上下同時の拳が、幹部の顎と溝打ちを正確に打ち抜いた。

「ごふっ!?」 

幹部の身体がくの字に折れ曲がり、手から滑り落ちた起爆スイッチを、視界ゼロの煙の中から千影の手が完璧にキャッチする。

「よくやった、小娘。……左神、そいつを連れて早く失せろ。タイマーの残りは三十秒を切っている」 

千影は倒れた幹部の髪を掴み上げ、冷徹な声で告げた。「この男は俺が貰い受ける。妹をどこへやったか、吐き出させるまでは死なせん。……爆弾は俺が止める。行け!」

「恩に着る、千影」 

俺は満身創痍の凛の身体を抱き抱え、煙の渦巻く階段を死に物狂いで駆け上がった。

背後では、千影が幹部を巨体ごと引きずりながら、別の非常ルートへと消えていく気配がした。 

倉庫の重い大扉をこじ開け、外へ飛び出す。 

港湾の仲間たちが作ったトラックの大渋滞の向こう側で、ようやく警察の機動隊がバリケードを排除し始めるのが見えた。 

俺は凛を抱えたまま、堤防のキャットウォークに隠してあった灰色の軽自動車へと滑り込み、バックドアを開けて彼女を後部座席に横たわらせた。

「おじさん……、ごめん。証拠、掴んだのに……」

「気にするな。よく生きていてくれた」 

俺が運転席に飛び乗り、エンジンをかけたその瞬間だった。 

助手席のレナが、膝の上で静かにスマホの画面をタップした。 

彼女の真っ赤な唇が、楽しげに歌うように動く。

「ワンモア・オーダー。……ぽちっとね」 

――え? 凛が目を見開いた直後、俺たちの背後にある私設倉庫の窓という窓から、凄まじい橙色の烈火が噴き出した。 

ドゴォォォォン!! 鼓膜を破壊するような大爆発。地響きと共に、巨大なコンクリートの塊が夜空へと舞い上がる。 

レナが仕込んだ遠隔ハッキングプログラムにより、倉庫の老朽化した高圧電源系統が意図的にショートさせられ、保管されていた化学溶剤に引火したのだ。

「あはは! 綺麗! スパークリング・ラテみたい!」 フロントガラスを真っ赤に染める炎の嵐を見つめながら、レナは子供のように無邪気に手を叩いて喜んでいた。 

俺の心臓が、恐怖で凍りつく。 

彼女は最初から、俺が凛を救出するのを待っていたのだ。 

俺が街の「人情」を動かし、千影が「執念」で道を拓き、凛が「実力」で生き延びる――そのすべての善意と必死の抗いを、レナは「自分の代わりに組織の人間を地下室に集めさせ、一網打尽に焼き殺すための誘い出し」として利用していた。 

激しく燃え上がる倉庫。あの中にいた組織の人間たちは、先代社長殺害の証拠と共に、今の一撃で全て灰になった。 

バックミラーに映るレナの瞳は、燃え盛る業火を反射して、この世のどこのスタバの照明よりも冷たく、美しく輝いていた。

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