冷たい暗黒
――同日、午後四時。
名古屋市の片隅にひっそりと佇む、神楽坂グループが管理する物流倉庫の地下。
地上からの光が一筋も差し込まない、コンクリートが剥き出しになった地下倉庫。
カビの生えた古いダンボールの匂いと、錆びついた鉄格子の匂いが充満する狭い空間の真ん中で、錆びたパイプ椅子に太い麻ロープで厳重に縛り付けられた人影があった。
「……う、っ……、あ……」
左神 凛は、重い瞼をゆっくりと持ち上げた。
頭の奥が割れるように痛む。
藤が丘駅のホームで、おじさんをリニモに逃がすため、神楽坂グループの私設SPたちをフルコンタクト空手の意地で三人まで沈めた。
だが、背後から無防備な首筋にスタンガンを直接突き立てられた。
強烈な高電圧が全身の神経を駆け巡り、激しい痙攣と共に意識を失ったのが、彼女の最後の記憶だった。
全身の筋肉がまだ微かに拒絶反応を起こして震えている。
凛が頭を振り、乱れた髪の間から視界を確保しようとしたその時、正面の暗闇から一人の男が足音を響かせて歩み寄ってきた。
男は、1枚の写真を凛の目の前に乱暴に突きつけた。それは、襟の汚れたトレンチコートを着て、死んだ魚のような目でベンティサイズのコップを持つ、彼女の叔父・左神豊の写真だった。
「さあ、目を覚ましたなら教えてもらおうか、お嬢ちゃん。あんたの叔父、左神豊の居場所をな。奴は今、どこに潜んでいる」
男の声は、底知れない恐怖と、行き場のない怒りに激しく震えていた。神楽坂グループの残党たちもまた、自分たちの幹部が星ヶ丘、藤が丘、そして今日の長久手と、次々と「スタバのメニュー」を模した猟奇的な手口で確実に処刑されていく現実に、完全に正気を失いかけていた。彼らにとって、左神豊は街の人情を影から操り、組織を壊滅させようとする、恐るべきプロの暗殺者に映っていたのだ。
「言わない……。おじさんは、誰も殺してない……。あいつらは、みんな別の……あの女の子が……」
凛は口内に溜まった血混じりの唾液を床にペッと吐き出し、男を鋭く睨みつけた。彼女の瞳には、空手で培った不屈の精神がまだ死なずに燃えていた。
「白を切るな! 今さっき、長久手で我がグループの藤田弁護士が奴の手によって消されたばかりだ! 奴は我々全員をなぶり殺す気だ、あの先代の時のようにな!」
男が凛の長い黒髪を乱暴に掴み上げ、その顔を至近距離まで近づける。
男の眼孔には、次に自分が殺される番かもしれないという、狂気じみた恐怖がべっとりと宿っていた。
「手段は選ばん。吐くまでたっぷりと付き合ってもらうぞ。あんたの叔父が、次にどのスタバを戦場に選ぶのかをな。言わなければ、その可愛い顔がどうなるか、保証はできんぞ」
引き裂かれた制服の袖から、冷たい地下の湿った空気が彼女の肌を刺す。
おじさんの無実を証明するために、一人で女子高生のSNSの海を泳いで真実に近づこうとしていた凛は、今や、神楽坂グループの狂気とおじさんを正面から激突させるための、最悪の「人質」となっていた。
ガチャン、と重い鉄扉が閉まり、完全な暗黒が再び凛を包み込んだ。
彼女をこの地獄から助け出せるのは、もう、あの不器用で、優しすぎる探偵しかいなかった。




