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あの日、スタバで消えた君を、俺は今もベンティサイズの孤独の中で待っている  作者: ルツ


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藤が丘発、最初の騙し合い(前半)

午前二時半。

静まり返った藤が丘の街に、冷たい霧が立ち込めていた。 

ターゲットが匿われているマンションの周囲には、神楽坂グループの私設SPが三名。

夜勤の巡回を装っているが、衣服の下には確実に凶器を隠している。 

俺は事前に手を回しておいた地元のデリバリー配達員に合図を送った。 

彼が「注文間違いのスタバの紙袋」を抱えてエントランスへと突っ込んでいく。

「おい、頼んでないぞ!」

「いや、住所はここになってます!」 

SPたちの視線がトラブルに釘付けになった、わずか十秒の空白。 

俺は非常階段のロックを鮮やかに解除し、影のようにマンション内へと潜入した。 

最上階の奥の一室。ピッキングでドアを開けると、明かりの消えたリビングの真ん中に、彼女――レナがぽつんと座っていた。 

俺の姿を見るなり、少女は「おじさん……!」と声を詰まらせて駆け寄り、俺の胸に細い腕を絡めてきた。「怖かった……私を、ここから連れ出して」 

怯える少女。無垢な瞳。 

だが、彼女を抱きしめた瞬間、俺の鼻腔を突いたのは、あの高架下の死体と同じ『濃厚すぎるバニラビーンズの甘い死臭』だった。 

凛の言葉が脳裏をよぎる。

この子は、被害者なんかじゃない。

「ああ、約束通り逃がしてやる。行くぞ」 

俺はすべてを察しながらも、騙されたフリをして彼女の手を引いた。 

非常階段を駆け下り、藤が丘駅のホームへ滑り込む。 地下鉄はすでに終電を迎えているが、俺たちが向かったのは地上高架にあるリニモ(愛知高速交通東部丘陵線)のホームだ。

深夜の臨時保線作業のダイヤの隙間を突き、事前にハゲの豊と連絡を取り合って手配した、特別運行の車両が滑り込んでくる。 

だが、背後から激しい足音が響いた。 

マンションの異変に気づいた組織のSPたちが、血相を変えて改札を飛び越えてくる。

「そこまでだ、左神!」 

閉まりかけるリニモのドア。

刺客たちの手が届きそうになったその瞬間、どこからともなく、赤いレインコートを羽織った影が躍り出た。

「おじさん、早く行って!」 凛だった。帰れと言ったはずの姪が、SPの先頭の男に鮮烈な上段蹴りを叩き込み、駅のホームで盾となって追っ手を食い止める。

 ドアが閉まり、リニモが磁気浮上で静かに加速を始めた。窓の外、男たちに囲まれながらも、俺に向かって不敵に笑う凛の姿が遠ざかっていく。 

車内に残されたのは、俺と、ワンピースを汚した少女だけだった。

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