『制服の探偵と、ふにゃふにゃのストロー』
おじさんは、いつも肝心なところで言葉が足りない。 藤が丘の高架下、警察の黄色いテープを遠目に眺めながら、私は自分のスマホの画面をタップした。
「左神豊が犯人だなんて、笑っちゃうよね」
私は、スタバの新作『ストロベリー・ベルベット・ブラウニー・フラペチーノ』を一口啜り、ふにゃふにゃになりかけた紙ストローに悪態をついた。
おじさんが犯人なら、もっとこう、コーヒー豆をそのまま食べさせるとか、そういう渋くて地味な殺し方をするはずだ。
こんなキャラメルだのバニラビーンズだの、キラキラしたメニューを並べ立てるような真似、あの古臭いトレンチコートの男には逆立ちしたってできない。
「……じゃあ、誰が? あの『娘』様?」
私は、昼間にぶつかったあの少女の感触を思い出していた。
SPに囲まれたお嬢様。
でも、私の服にフラペチーノが飛んだとき、彼女は一瞬だけ笑った。
謝りながらも、その瞳の奥には「もっと汚して」と言わんばかりの、歪んだ期待が見えた。
私は制服のスカートを翻し、藤が丘の駅前を歩き出した。
大人たちが警察の顔色を伺っている間に、私には私にしかできない「聞き込み」がある。
私は地元の女子高生たちが集まる、少し離れたベーカリーカフェのテラス席に陣取った。
ターゲットは、あのマンションの近くのインターナショナルスクールに通う、SNS中毒の同世代たちだ。
「ねえねえ、さっきの事件、マジヤバくない? バニラビーンズとか、超スタバじゃん」
私はわざとらしく大きな声で話し、隣のテーブルの会話を盗み聞きする。
「あー、あの『箱入り娘』のレナでしょ? 彼女、学校では全然喋らないけど、スタバのモバイルオーダーだけは毎日欠かさないんだって。しかもカスタマイズが呪文みたいで有名だよ」
――ビンゴだ。 私はスマホで、インスタグラムの特定のハッシュタグを追いかけた。
藤が丘のマンション周辺で、特定の時間帯にアップされた写真。その中の一枚、映り込んだスタバのカップに、驚くべきものを見つけた。
カップのサイドに貼られた、カスタマイズのシール。 そこには、昨夜の被害者の口に詰め込まれていたものと同じ『バニラビーンズ追加×5』の文字が。
「……おじさん、残念。あの女の子、ただの被害者じゃないよ」
私はその画面をスクリーンショットし、おじさんのスマホに送ろうとして、指を止めた。
今これを送っても、あの「人情バカ」は信じないかもしれない。玲那さんの面影を追っているおじさんにとって、その娘は「絶対に救わなきゃいけない聖域」なんだから。
「仕方ない。もう少し、証拠を集めてあげますか」
私はフラペチーノの底に残った、冷たいチョコチップを噛み砕いた。
夜の藤が丘。リニモの走る音が、どこか遠い国の警笛のように聞こえた。
私は、おじさんが「逃し屋」として彼女を連れ出す前に、その怪物の化けの皮を剥いでやることに決めた。
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