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2 「不敗の敗北」


 なぜ、最強足り得るのか?



ーーーーー敗北まけないからである。



 子供のわがままのように。負けを認めないその姿勢にこそ、「最強」という肩書きは宿るのだ


 ーーー故に


 ”それ”が地に落ちる時は、その者にとって初めてのーーー



 ーーーー負けを認める瞬間となるであろう



○ ● ○ ● ○ ● ○ ●



 ・・・・剣を振るった。


 しかし、思惑と結果が結び付かない。

 夢は覚めず。その世界は在々と、呼吸し続ける。姫の首を断つこと・・・叶わず。


 その状況に困惑する体を、”騎士ミディ”は無理やり理性で押さえこむ。

 自分の意に反した状況など、この世界では当たり前に起こりうる現実であったが・・・この騎士に関しては正しくはない。


「・・・・・・・・」


 この男の肩書きはこうだ。



  ーーーーーーー『最強騎士』



 剣を振う任務は愚か、現在に至るまでに障害となり得た事象など存在せず、ままならなかったことなどは、一度たりともありはしない。

 完遂した任務は数知れず。王国の名の下に・・・その存在を脅かすものは、すべからく排除してきた。ーーそして現在。


 今まさにーーー王国の存在を脅かそうとするものの魔の手が、首筋に手をかける一歩手前という状況に陥っていた。



  ーーーーーー”ラー王国”の眠り姫



 その少女の危険性を証明するのに、目の前の惨状は十分すぎるほどの根拠を示していた。


形容するならばーーーー天変地異。


 大地の大隆起。山々を焼き尽くすマグマの洪水。絶え間なく降り注ぐ豪雷の雨ーーーー。

 遭遇した天災の数は知れないが、それら自然の現象に対して、目の前に広がる光景はーーーあまりに不自然極まりない。




  『星明かりが、地から天に向けて打ち上がる。』




 ヒュルるるるるるるーーーーーーーーーーーバァン


 上り達した光は、黒天を晴らすように生き生きと炸裂する。

 瞬間ーーー中心より飛散した星々は、流星群となりパラパラと地に向けて降り注いだ。


「・・・・・・・」


 その光景を目にする最強の騎士は・・・動かない。



 前置するが、この騎士には落雷はおろか・・・虚空の彼方より来訪する巨石すらも、命を脅かすには心許ない。しかし。不動の指すところは、それとは別にある。


ーーー害意のなさだ。


 地形こそ大規模に変動したものの、その全てが自分に仇なす動きをとっていなかったのだ。

 流動する大地は巨躯の鎧をすり抜けてゆき、天より降下する大海は、地を這うことなく虚空へと注がれていく。

 今まさに降り注がんとする光の欠片たちは、自分の周りの大地へと吸収されていった。

 そして。緑の芽が雨水を吸収して育っていくようにーーーー光は再度”地”より立ち上り、打ち上がっていく。



ヒュルるるるるるるるーーーーーーーーーーバァン

 

            ーーーーーパラパラパラーーーー




 ・・・理解は及ばない。だが、敵意ある現象ではない。

 そのことが、余計に最強騎士を困惑させる。


 降りかかる火の粉ならば、その悉くを粉々に打ち砕こう。だが・・・これは違う。

 迎え撃つ攻撃が見当たらず、解き放った自らの矛は行き場を失った。

 つまりは、初めてのーーーー


 

 ーーーー任務未達成のまま・・・剣を下ろした瞬間である。



「どうかしら?」


 最強の騎士の隣で、この空間の主人は、感想を求める。


 接近に気付けなかったことは異常事態ではあるが、やはり・・・敵意は微塵も感じない



「スモー王国の”祝砲”を参考にしてみたのだけど」



・・・・・・・・そうだ。見覚えがある。


 祭りごとの際に打ち上げられるーーーー”空華”

 遠目に確認した程度だがーーーーー鮮やかだったと記憶している。


「・・・貴方の命が、私の間合いですよ。眠り姫」



 言葉とは裏腹に、振り翳そうとする刃の矛先を見失っていることに・・・自分自身も気づいていた。

 不覚を取り、そして何よりもーーーー目の前の光景に感じ入っている、自分の発するその言葉に。どれほどの重みがあると言うのだろうか。・・・任務を差し置いてーーーーーー




 『美しい』ーーーなどと。





「よしっ!。その顔を、今の質問に対する回答と捉えてもよさそうねっ」



 こちらの事情などお構いなしに。眠り姫は、臆することなくこちらを見対してくる。



「命のあげ方はわからないけれど・・・・笑顔のあげ方なら頑張って考えるわっ!」



 どこかずれているようで、深の部分は捉えられていそうなその言葉に。

 最強の騎士は、今度こそーーーーー



 ーーーーー握りしめていた刃を、己が内に収めた。



「非礼を詫びる資格を、私は持ち得ません。故に・・・この場にて直々に処断を」



 失敗は死と同義


 それが『最強』を背負った自分の宿命である。

 鎧の騎士は膝を折り、眠り姫の前に首を差し出した。



「 ? そんなことより、お茶しましょうっ!。ミディ!」



ーーーーーーーーーーーーっーーーー?



「・・・・・・・・・お茶ぁ・・?」


 力の抜けた声を、ミディは発した。自分でも、びっくりするくらいの間抜けな声を。



「ここまでくるお客様なんて珍しいんんだもの。・・・丁重におもてなししなくちゃね!」



ーーーーーーー歯車が一致する



 出会ってからの全てが・・・・この少女からのおもてなしであったのだ、と。

 敵意など感じるわけがなかった。ーーーその全てが思いやりであったのだから。


「・・・・・・・ふっ」


 誰を・・・何を、相手取っているのか。ーーー目の前にいる少女は敵なのか。それとも・・・。

 その問いに意味はなく、あるのはただ一つの事実であり、真実ーーーー



   ーーーーーー”一人試合”である



 ひとりで勝手に盛り上がっているだけのものだったのだと・・・そう突きつけられた。

 相対さない目の前の少女・・・アムに。



「はははっ」



 あとはもう笑うしかない。その羞恥を覆い隠すための、偽りのない笑みを・・・賞賛の花束として眠り姫へ贈る。



「なっ、何かしら?私何か変なことを・・・・



「言っていないさ。・・・存分にもてなされるとするよ」


 堅苦しい敬称が、偽りの己と共に剥がれ落ちる。”最強の騎士”などーーー”眠り姫アム”の前では、何の意味も持たなかったのだ。

 ミディはその事実を、何の憂いもなく受け入れる。つまりはーーー




ーーー最強の騎士は、戦わぬ少女に対する負けを認めたのだった。

 

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