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二周目領主はもうだまされない!  作者: 雨傘ヒョウゴ


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36 まさかの、出会い


 私たちは『隠された道』と『鑑定』で表示された道をゆっくりと、周囲を警戒して進んだ。今のところ魔物と遭遇していないが、油断はできない。

 そもそもダンジョンとは、世界の各地に存在する物理法則がきかない場所を総括して言い表した言葉だ。ファリスのダンジョンは洞窟のような見た目は中も同じだが、入ってみれば別世界のような、信じられない状況に遭遇することもままあるらしい。


 騎士団員が先導し、ときには立ち止まり、私の『鑑定』を使用して先に進むべきか判断する。今のところは怪しい表示は出ていない。私の『鑑定』は物の状態がちょろっとわかるだけのスキルだけれど、こういった地道な作業にとても適していると今更ながらに認識した。

 とはいえ、繰り返される地道な作業に、少しずつ体力も消耗していく。


「――というわけで、休憩も重要です!」


 みんなが座って落ち着くことができそうな広い空間にたどり着き、持っていた敷布を置く。騎士団員たちの幾人かが見張りをしてくれているけれど、それ以外の人たちは食事を取って、英気を養っている。どこまで進むのか先が見えない不安というのは、人の心を蝕むものだからね。食べて元気を出さないと。


「そろそろ、戻るというのも手かな……」


 私も干し肉と野菜を挟んだパンをむしゃりと頬張りながら考える。

 まずは片っ端から調査をして、レッドドラゴンまで通じる道を探すはずが、あっさりと隠し通路を発見したので、進めるところまで進んでしまおう、と方針を変えたのだ。


 当初の予定とはまったく違う流れなので、どうするべきかと周囲を見回したが、私はともかく、騎士団員たちはそれほど疲れていないようだ。これ以上はやめた方がいいとなれば、素人の私よりもエヴァンやワズが進言してくれるだろうから、まだ不安は感じなくてもいいのかもしれない。

 それでも私がこの場での責任者なのだ。ちゃんと気を付けてみんなの様子を確認しなきゃ、とハムハムとパンをほっぺに詰めていく。

 そのとき、視界の端に見えたルーの顔色が、なぜだかあまりよくないように思えた。


(……もしかして、体調がよくないのかしら)


 薄暗いダンジョンの中だから、見間違えた可能性もあるけど。

 とにかくルーに話しかけてみようと急いでパンを呑み込み、立ち上がる。同じタイミングでルーも場所を移動する。


(……え? どこに行くつもり……?)


 騎士団員たちの目を避けるように、ルーはさっと移動して、みんなから離れていく。いやいやいや、だめでしょ。どこに行く気?

 慌てて私は近くにあったランプを持って、ルーのあとを追う。


「リッカ様!? どちらに行かれるのですか!」


 エヴァンが私の背中に問いかける。


「ルーが、いなくなったの! あなたたちも、すぐに来て!」


 こんな危ないところで、理由もなくふらふらといなくなる子じゃないとわかっている。だからこそ、胸の中に焦燥感が渦巻く。転けそうになりながら、必死で走った。手に持ったままのランプの明かりが無秩序に揺れる。その光の輪の中にルーの小さな背中がときおりかすめる。

 でも、それすらも見えなくなったとき、私はただ一人きりで洞窟の中を走っていた。

 自分の口から漏れ出る息は、とっくに荒い。


(ルー……! 一体、どこに……!)


 苦しくて、声すら出せない。どんどん辺りは暗くなっていく。ランプがあっても、少し先の足元すらよくわからないのに――。


「えっ」


 ふいに、足元の感覚がなくなった。踏み出したはずの足が、すこんっと宙に泳ぐ。

 止まることのない勢いのまま、重力がどこかに消えてしまったかのようで。


「ひ、ひゃああああああああああ!!!!」


 私は、真っ逆さまに穴の中に落ちてしまった。



 ***



 俺が自身の体に、奇妙な違和感を持ったのはダンジョンの隠し通路を通り抜けてからすぐのことだった。誰にも気づかれないように口を閉ざして、突如として襲いくる発作のような感覚を幾度も耐える。


(騎士団員も、リッカも気づいていないが……この場所は、大気中に濃密な魔力が漂っている……)


 実の母から呪いを受け、俺は子供の体に変化してしまった。

 母から呪いを受けた当初は原理すらもわからなかったが、子供の姿ではまともな魔法を使うことができないと気づいたときから、俺はある仮説を立てた。


 魔力がないから魔法を使うことができないのではない。体中の魔力が乱されているから、魔法を使えないのだ。俺の体は、魔力に引きずられ時間すらもかき乱されて、子供の姿になっているのではないかと。

 ならば、どうやってもとに戻ることができるのか。

 友人である大魔道士(メラニー)は、ファリスを特殊な地を呼んだ。この場所ならば、俺の呪いを解くことができるのではないかと。しかしいくら村中を捜索しても、どうにもならかったというのに……。


(ダンジョンもすでに調査済みだったんだがな……)


 まさか隠し通路が存在するとは。

 隠し通路から溢れ出る、通常なら考えられないほどの高濃度の魔力。それがいくつもの層を作り、積み重なり、下手をすると中の時間すら歪み始めている。

 俺の体と、ファリスのダンジョン。二つの歪み同士がぶつかり合い、正され、今、俺の体は元通りの時間を刻み始めていた。

 この程度なら、と状況を見誤った。今いる隠し通路は、リッカの『鑑定』スキルがあってこそたどり着けた場所だ。俺一人きりの再調査は難しい可能性がある。できるときに確認すべきだと、欲を持ってしまった。


 騎士団員たちと休息を取っている最中、それは起きた。

 突然心臓が熱を持ち、どくん、どくんと今にも潰れてしまうのではないかと錯覚を陥るほどの痛み。先程までの発作とは比べ物にならない。


 こんなところで、元の姿に戻るわけにはいかない。俺はそっと、その場を抜け出したつもりだった。

 リッカの呼び声を背に、必死で走り抜ける。走る度に、体の感覚が変わっていく。『ライトスパイダー』で編まれた糸が、俺の意思に応じて服の形を変化させる。自身が吐き出す息の音ばかりが、暗闇の中に響き――そして。

 足元に突如できた穴。

 避けることもできず、俺は体勢を整え、そこへ飛び込むように落ちた。

 地面にはあっけなく着地した。しかしすぐに上方の気配を察知し、自身の立ち位置を調節する。


「ひ、ひゃああああああああああ~~~! うひゃっ!」

「!」


 どすん、と腕に感じた衝撃に歯を食いしばったが、勢いがついていただけでそれほど重いわけではない。


「い、痛……くは、そんなにないけど……ここ、どこ……?」


 手に持ったまま落ちてきたランプを掲げ、リッカは苦しそうに周囲を見回し――ぴたりと俺と目を合わせた。


「え……、だ、誰……?」


 俺の腕の中で呆然とした声を出すリッカを、ただ見下ろすことしかできない。


「……黒髪に、金の目……? セルスニア国第一王子の、ルーファス・セルスニア……?」


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